すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
死神のゲームの五日目に突入し、スペイン坂をノイズから解放するミッションを受け取る。
しかし、ノイズが絶えず現れ、二人は困惑する。
その原因は、喧嘩している二人の少女が抱く負の感情だった。
ネクとシキは少女達の仲を修復し、ノイズを消す事に成功する。
結果、ミッションは達成され、タイマーは消えた。
そして、ミッション終了後。
「チケットのお礼に私、なんかオゴるよ」
「えっ! マジ? じゃあ、パフェがいい」
「いいよ! じゃあ、ファミレスでいい?」
「うん、行こう! 行こう!」
仲直りしたアイとミナは、一緒にファミリーレストランに行った。
シキは微笑んで、そんな二人を見ていた。
「友達か……。なんか……いいよね」
(メンドウなだけだ)
「ぶつかっちゃう時もあるけど……いてくれるとやっぱり楽しい……」
(ぶつかって妥協して……結局なんの進歩もない。
他人といる限り他人に引きずられ続けるんだ……。
それのどこが楽しいんだ? 時間のムダだ……)
ネクとシキは、ここでも「友達」に関する考え方が対照的だった。
友達と一緒にいた事があるシキと、一緒にいた事がないネクが、違う考えになるのは当然だ。
「仲良くするために平気でウソをつく、そんな関係、どこがいいんだ?」
ネクはシキに対し、友達とはこういう関係だと言ったが、シキは首を横に振った。
「ちがうよ、ネク。仲良くするためにウソをつくんじゃないよ。
たしかにウソをつくことはよくないことだよ。
でも、仲がいいからウソが必要な時もあるんだよ。
親友だから隠しておきたいこともあるんだよ」
友達は、時に嘘も方便である事もある。
シキは仲の良い友達を持っており、かつ、自分の秘密を隠しているからこそ、
ネクにそれを伝えたのだ。
彼女は携帯電話に映っている自分と同じ姿の少女と丸眼鏡の少女をじっと見ていた。
「また、写真か……」
「……あのね、ネク……。昨日、仲間なんて意味がないって言ってたよね。
ほんとにそうかな?」
「……」
携帯電話の待ち受け画面に映っていたのは、シキと同じ姿の少女と、丸眼鏡の少女。
「私も……いつもエリに助けられてた……。エリってすごいんだ。
明るくて友達も多いし……クラスでも人気があるし……かわいい服もデザインできるし、
私に服作りを始めるキッカケをつくってくれたのもエリなの」
シキは、友人であるエリについてネクに語る。
「あのブタがキッカケじゃないのか?」
「もう! ネコだってば!
作りかけのにゃんタンを見て声をかけてくれたの……裁縫上手いね、って。
それから少しずつ話すようになって……一緒に服を作り始めたの。
エリがいたから今の私がいるの……。私……エリがいなかったら、夢、持てなかった」
友人について語っている最中のシキは、どこか寂しそうな様子だった。
まるで、エリに依存しているかのようだった。
「エリと会って、仲良くなって、いっぱい話して、
エリにちょっとあこがれて……私も負けられない、がんばりたいな、ってそう思ったんだ。
ライムは夢が分からないって言ってた……。夢を見つける前に消えちゃったんだよ、ライム。
私……悔しくて。ライム……可哀想だよ……」
夢をエントリー料として徴収され、さらに取られたまま消滅したライム。
彼女は兄に会えないまま(実際は……)消えてしまったため、さぞ、無念だろう。
「ライムのことは……残念だと思う……。だから……アイツの分まで俺達が生きる」
「うん……そうだね……。生きかえって、ライムの分まで頑張んなきゃね!」
「……生きかえる……? それって……」
シキがネクに「生き返る」という重大事項を話す。
生き返る、それは死んだ人がこの世に戻ってくるという意味である。
つまり、ネクとシキは……。
「こんにちは、おじょうちゃん」
「だ、誰!?」
「死神か!!」
その時、二人の後ろから青年の声が聞こえてきた。
ネクが身構えると、ゆっくりと青年が歩いてくる。
「そうだ。だが、ただの死神ではない。ゲームマスター代行、東沢洋大だ」
ドレッドへアーとオッドアイを持ち、髑髏のペンダントを首にかけ、
羊の飾りがついたベルトを身に着けた大柄な青年の名は――東沢洋大。
「ゲームマスター……。ってことは、このゲームを仕切っているのは……」
「そのとおり、この俺だ……」
正確に言うと彼は今回のゲームマスターの代わりだが、そんな事はどうでもよかった。
「この死神が……ライムの仇……」
「昨日で参加者を全員料理するはずだったが……おまえ達は生きのこった。
なぜだか分かるか? おまえ達が強者だからだ。
この世は弱肉強食。食物連鎖のごとく合理的な階層構造を持つ。
強者はゲームに勝ちのこり、弱者はゲームから脱落していく。ただ、それだけのことだ」
「なんですって!? ビイトをかばったライムが弱者だというの? ゆるせない!!」
ヒガシザワは物事を料理に例えて言う。
その言葉はシキの逆鱗に触れたようだが、ヒガシザワはいたって落ち着いていた。
「勇敢で仲間想いだな、おじょうちゃん。いいだろう。
おまえ達もノイズに食われる存在かどうか、俺がテイスティングしてやろう!!」
ヒガシザワはそう言うと、黄色い熊型ノイズを召喚した。
彼は、ネクとシキという食材を調理して、美味しい料理にするつもりのようだ。
ネクとシキは身構えて、ノイズを迎え撃った。
「はっ、ふっ!」
ネクは黄色い熊型ノイズに素早く突っ込み、強化された打撃攻撃を行う。
シキは相手と距離を取りつつ、黒猫のぬいぐるみで攻撃する。
「食らえっ!」
ネクが雷を落として黄色い熊型ノイズを攻撃する。
熊型ノイズはゆっくりと二人に近付き、薙ぎ払う。
吹き飛ばされたネクとシキは体勢を整え、それぞれのサイキックで熊型ノイズを狙う。
シキの攻撃はかわされたが、ネクの炎がクリーンヒット。
黄色い熊型ノイズは、黒い塊になって消滅した。
「やはりな……。わざわざ出向いたかいがある」
ノイズを撃退したネクとシキを、ヒガシザワはある程度評価する。
彼はネクとシキを食材としか思っていないようだ。
「私達はアンタなんかに負けないわ。……ライムの仇を取ってやるわ!」
「これ以上戦う気はない。
俺がここに来たのは……おじょうちゃん……キミに会いに来たんだよ」
「ど、どういうこと?」
どうやらヒガシザワは、シキの心の闇を見抜き、それを伝えるためにやって来たらしい。
分からなかった人は、二日目の終わり頃を見よう。
「近くで見てみたかった。その内にそっと潜んでいるドス黒い情念……」
「な、なんのことよ」
「とぼけても無駄だ。自分でも分かっているんだろ?
分かっているからこそ、心の奥にしまいこむ。
仲間想い……友情……夢……願望……そこに潜むは赤黒くたぎる嫉妬」
「!?」
「相当……自分が嫌いみたいだな……。せっかく手に入れたんだろ?
それなのに満たされない。まわりから愛されない。自分を好きになれない。
嫉妬ばかりが積もっていく」
シキがエリについて話をしていた時、やけに調子がおかしかったのは、
彼女がエリを密かに妬んでいたからだ。
ヒガシザワは、それもお見通しだったようだ。
「やめてっ!!」
思わずヒガシザワを拒絶するシキだったが、ヒガシザワは落ち着いた態度を崩さない。
「仲間想いでシュガーコーティングしているが……中は赤黒くたぎる嫉妬。
結局、自分がいちばん大切なんだろう? だから嫉妬する」
「ち、ちがっ……」
「違わない。キミも分かっているはずだ。徴収されたエントリー料の意味……」
「やめてっ!!」
そう、シキのエントリー料は「自分自身」。
自分を最も大切に思っているからこそ、死神が徴収するに至ったのだ。
今のシキの姿は、彼女自身の姿ではなかった。
シキが携帯電話の待ち受け画面を見ていたのは、自分の本当の姿が映っていたからだ。
「おじょうちゃん……キミは醜いコンプレックスの塊なんだよ」
「わ……私は……」
「生きかえったらまた元どおり、今までと同じ嫉妬にかられて生きていくんだ」
「ちがう……やめて……」
ヒガシザワに追い詰められたシキは、苦しそうに去っていった。
「生き……かえる……? ど、どういうことだ!!」
「自分が死んだことも知らないのか?」
「俺が……死んだ?」
「参加者は死者の集まり。
『死神のゲーム』は生きかえりの座を狙う参加者達を選別する審査だ」
死神のゲームに参加するのは、渋谷で命を落とした者達。
つまり、ネクも、シキも、ビイトも、四日目に消えてしまったライムも、
現実では既に亡くなっているのである。
七日間を生き残る事によって、晴れて死者は蘇生し、この世に戻ってくるのだ。
「今日はこれにて失礼するよ。7日目まで生きのこれよ。さようなら、おじょうちゃん」
そう言って、ヒガシザワは去っていった。
「俺が……死んでる? どういうことだ……。俺は本当に……死んでるのか!?」
ネクは、自分が死者である事を知らされ、ただ、茫然としていた。