すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
ネクとシキは死神のゲームの六日目を迎え、スクランブル交差点で目覚める。
ミッションは15時にスクランブル交差点の視界を支配する事。
サラリーマンからヒントを得て、
レッドスカルバッジを流行らせる事でミッションを達成しようとする。
しかし、その行動が後に「ある事件」を引き起こす事になるのだった……。
「あ! ちょっといいですか!」
「えっ?」
レッドスカルバッジを持ったサラリーマンが、
くすんだ金髪と褐色の肌の女性に話しかけている。
「えっと……あの……」
「ソウター! あたし、声かけられちゃった」
「えっ?」
女性はサラリーマンを無視して、ソウタという人物に知らせる。
「あーん?」
「あっ……」
「なんだよ、おまえ、ナオに何か用でもあんのか?」
くすんだ桃色の髪と、女性と同じ褐色の肌を持つ青年、ソウタが現れる。
どうやら彼は、ナオという女性と付き合っているようだ。
「あたしがカワイイんだって。ね?」
甘えたような仕草を見せるナオ。
「いや……ちがっ……」
「え? 違うの?」
「あーん?」
ソウタはナオが何か嫌な事をされると思い、サラリーマンにガンつける。
「いやいやいや! カワイイです! いや……でも……えっと……あの……」
サラリーマンは首を横に振って肯定するが、どこかおぼつかない様子で喋っている。
こういう時こそ、インプリントするチャンスだ。
「あれ? やばい! なんだっけ? セリフ忘れたぞ……あ!」
ネクは、サラリーマンに「かなりヤバイです」をインプットした。
「かなりヤバイです!」
「あーん?」
「何ていうか……その……そうだ……ウチの親父が、ヤバイんです!!」
「……」
サラリーマンはソウタとナオにレッドスカルバッジを渡そうとする。
しかし、サラリーマンは意味不明な事を言い、ソウタとナオの頭に?マークが浮かぶ。
「男手ひとつで俺をここまで育ててくれたのに……何か最近、急にふさぎこんじゃって……。
このバッジの人気がないのは自分のせいだって……。
俺……そんな親父……見てられなくて……」
サラリーマンは父親の身の上話をしながら、レッドスカルバッジを渡そうとする。
バッジとは関係なさそうだが、とにかく、こうするしか売る方法はなかった。
「そんなこんなで……もし、よかったら……このバッジ、もらってくれませんか!?」
「……当たり前だ」
「えっ?」
バッジと無関係そうな話題でありながら、ソウタは何故か感動していた。
「おまえ……名前は?」
「……えっ? ミキ……マコトです」
「マコト……おまえ、良い奴だな」
「うん! ナオも感動!」
「親父のためにスクランブルでバッジ配り……。おまえ……カッコイイぜ!」
「うん! ナオも惚れた!」
サラリーマンの身の上話は、ソウタとナオには効果的だったようだ。
やっと彼らはバッジを受け取るとマコトは思った。
「俺達でよかったらそのバッジ、受け取らせてくれ」
「は……はい!」
「がんばれよ! 俺達、いつでも力になるぜ!」
「パパリン、元気になるとイイネ!」
「あっ……ありがとう!!」
ナオに励まされたマコトは、驚きながらも、彼女にお礼を言うのだった。
「なんか、今日は調子がいいぞ! よし! 他の場所でもバッジを配ろう」
そう言って、マコトは他の場所にバッジを配りに向かった。
ネクとシキは、彼の様子を見守っていた。
「なんとかうまくいったみたいだな」
「こんなバッジ……ほんとうに人気、出るのかな?」
シキは髑髏が描かれた赤いバッジをじっと見る。
どうやら、彼女はこのバッジについて、何か不信感を抱いているようだ。
「ミッションだからやるしかない」
しかし、ミッションを達成するためには、バッジを広めなければならない。
「……うん、そうだね」
シキは空笑いしながら、ネクと共にバッジを広めるのだった。
次に、ネクとシキは、壁がある場所に向かう。
そこでは、赤いパーカーの男が何かを呟いていた。
「……突然ですが、死神クイズの時間です。それでは参りま~す」
男は陽気な調子で、ネクとシキに死神クイズを出題した。
「第1問! 104ビルにあるショップは次のうちどれ?」
「第2問! 渋谷デパート前の看板には何の絵が描いてある?」
「第3問! ノイズレポート ナンバー2のビックバフログ。
青い体色が特徴のノイズですが、このノイズの攻撃手段として正しいものはどれ?」
ネクとシキは、エドガ・ザ・ショップ、ハイヒール、泡吐きと答えた。
「結果発表~! 第1回死神クイズ、あなたの結果は……大正解!! この壁を開放します」
クイズに全問正解したため、壁は消えた。
「忘れた頃にやってくる、それが死神クイズです。では、また会う日までさようなら~」
赤いパーカーの男はそう言うと、オリハルコンと5000YENバッジを残して去っていった。
そして、ネクとシキはセンター街入口まで行く。
「よし、ここでも配るぞ!」
「よし、また、やるぞ」
「……」
マコトはセンター街入口で、バッジを配ろうとしていた。
ネクもインプリントをしようとしたが、シキはぼんやりと様子を見ていた。
次に彼がバッジを配るのは、赤い鉢巻をした茶髪の少年だ。
「おっ! あの子なら簡単にもらってくれそうだ。ねえ、キミキミ」
「あー!」
「えっ?」
「兄ちゃん! あれでしょ!? 僕を仲間にしてください! ってやつでしょ?」
「えっ……いや……」
マコトが少年に近付くと、少年はマコトをあるゲームの参加者だと思って声をかけた。
当然、マコトは訳が分からず、混乱している。
「いいよ! 一緒に戦おうぜ!」
「いや……ちが……」
「特技は!?」
「えと……」
「ランクは!?」
「いや……そうじゃなく……」
少年は焦るマコトの話も聞かず、必死に彼のゲーム能力を聞いている。
このままでは、バッジを受け取る事ができない。
「な……なんだ、この子……。このままじゃ押し切られる……。何か……何か言わなきゃ!
あり……あり……」
ネクは精神を集中し、マコトに「ありえないです」をインプリントした。
「ありえないです!」
「あー!!」
「えっ?」
「何? そのバッジ!?」
マコトがあり得ない、と言った途端、少年がバッジを見て目をキラキラする。
「あっ……これ?」
「ねぇ! それどこでゲットした?」
「えっと……」
「攻撃力は?」
「あ、ありえないです?」
「マジで!」
「防御力は?」
「あ、ありえないです!」
「マジかー!!」
少年はバッジをゲームに使うものだと思っていた。
攻撃力と防御力があり得ないほど○○だ、という意味で捉えたらしく、
それはゲームをしている少年にとって素晴らしい言葉だった。
「兄ちゃん! そのバッジでオレと勝負だ!!」
「……えっ?」
「行くぜ! レディ……GO!!」
少年は、マコトにバッジで勝負を仕掛けた。
完全に勧誘を、ゲームだと思い込んでいるようだ。
「やっ……たぁぁぁ!!!」
結果は少年の圧勝だった。
マコトはバッジを広める事を目的としていて、そんなゲームなんて、全くしなかったからだ。
「兄ちゃん! もっと腕みがきなよ! バッジに頼ってるウチはまだまだ半人前だぜ!
じゃあ、これもらってくね!」
「えっ……あぁ……うん。えっと……うまくいったな!」
少年はマコトからバッジを受け取ると、どこかに去っていった。
そして、ネクとシキが先に進もうとすると、赤いパーカーの男が立ちふさがっていた。
レアメタルというバッジを3枚手に入れれば、壁を通り抜ける事ができるらしい。
ネクは精神を集中し、レアメタルを手に入れるため、ノイズに戦いを挑んだ。
「これで溜まったな」
カラス型ノイズ・デカダンレイブンを倒し、ネク達はレアメタルを3枚手に入れた。
「……条件達成を確認した。この壁を開放する」
赤いパーカーの男は、しなやかな絹と10000YENのバッジを残して去っていった。
愛情いっぱいに育てられた蚕で作った糸を、
伝統を守り抜いた職人が命を削って編み上げた絹。
その輝きは神々しく触れるだけで癒されるという。
「アイツ……ホントにプロなのか……? 調子に乗ってセンター街の向こうに走っていったぞ」
「……どうせ、ムダなのに……」
ネクとシキはスペイン坂にやってきた。
マコトは、そこでもバッジを配ろうとしていた。
今回、彼が配ろうとしている相手は、以前にネクとシキが助けたスタッフだ。
「あの……もしもし……すみませーん!」
大声を出すマコトだが、スタッフの耳には入らなかった。
「……もしかして聞こえてない? どうしよう? 考えろ! マコト!
あとちょっとで終わりなんだ。まだ使ってない言葉があるはず。なんだっけ……」
ネクは、残った言葉「マジ、カッコいいです」をマコトにインプリントした。
「マジカッコイイです!」
その言葉を聞いたスタッフが、ようやく反応する。
スタッフにとって誉め言葉のようだったが、まだスタッフは振り向いていなかった。
「……ダメか? マジカッコイイです!」
二度目の言葉に、スタッフが少しだけ反応する。
「……かすかな手応えがあるぞ。もう一度やってみよう! 感じろ! マコト!
あとちょっとで終わりなんだ。今の手応え……間違いじゃない! マジ……」
ネクは、もう一度「マジ、カッコいいです」をマコトにインプリントした。
「おっ! カッコイイ! おぉっ! カッコイイ! カッコイイよ!
お兄さん! もう一声!」
スタッフはどんどんマコトに近付いていく。
これは、バッジを広めるチャンスだ。
「……もらっとく」
「あっ……ありがとう!!」
そして、スタッフはマコトからバッジを貰い、どこかに去っていった。
マコトは、スタッフの背中を見て、笑顔でお礼を言った。
「やっと配り終わった! これで流行間違いなしだな!
スクランブルに戻って反応を見てみよう」
マコトはやっと、全てのバッジを配り終わった。
マコトの様子を見るべく、ネクとシキもスクランブル交差点に向かおうとした。
しかし、シキはバッジの危険性を、薄々ながら感じ取っていた。
「さて、どのくらい流行してるかな? 思った以上に大流行してたりして。
ここらへんを歩いて観察してみるか」
マコトはバッジがどれほど広まっているか、スクランブル交差点を歩いて行った。
「アイツ……数人に配っただけでそんな上手くいくわけないだろ……。
おい、アイツを追いかけるぞ」
「……」
マコトの様子を見ようとするネクだが、何故かシキはついていきたがらなかった。
「……もう……無理だよ」
「えっ?」
「ミッションをクリアしたって……どうせ……どうせ……私は……」
エリを妬み続けるに違いない。
そう思ったシキはネクの目の前から去っていった。
「おい! どうしたんだよ!」
ネクは急いでシキを追いかけるが、シキは上の空状態だった。
「……」
「おまえ……今日……様子がおかしいぞ」
「……」
他人に興味を持たないネクは珍しく、上の空のシキを心配していた。
「15時まであと少ししかない。今、動かないとミッションクリアできないぞ」
「……クリアしても意味ないもん……」
ミッションをクリアしようとするネクだったが、シキは首を横に振った。
「えっ……」
「がんばったって変わらないんだよ……。
あの死神が言ったとおり……ミッションクリアしてゲームに勝ちのこって、
生きかえっても……私は……どうすれば……いいの?」
「どうすればいいのって……」
シキは昨日、ゲームマスター代行のヒガシザワに、友人・エリへの強い嫉妬心を見抜かれた。
だから、死神のゲームに勝って蘇生したとしても、嫉妬心が残ったままになるだろう。
シキはそれを、心配していたのだ。
「……変わったはずだったのに……変われないの。どんどんつらくなってくの」
「ど……どういうことだ?」
「……私……顔もかわいくないし……頭もよくないし……とりえだって何もない……。
そんな自分がキライで……変わりたかった。エリに……」
シキは取り立てて目立つところがない、丸眼鏡をかけた茶髪の地味な少女だった。
エリはそんなシキとは正反対に、何でもできて、明るくて、友人も多かった。
シキの中にはエリに対する嫉妬の炎が燻っていた。
「……エリになりたかった」
「……」
「でも……何も変わってないの」
自分自身がエントリー料になった事でエリの姿を手に入れたものの、
シキは満足していなかった。
彼女はあくまでエリを「演じている」だけであり、本当のシキは地味な少女に過ぎないのだ。
「えっ!? おい! 今、おまえと同じヤツが……」
「あっ!」
すると、ネクはシキと全く同じ姿をした少女がRGで歩いているのを目撃した。
シキも彼女の姿に釘付けになっていた。
「この前ね、マルシーでかわいい服見つけたの!」
「マジで!? じゃあ、今からマルシー行かない? エリ、まだ時間大丈夫でしょ?」
「あれってまさか……」
そこにいた少女こそ、シキの友人のエリだった。
シキはエリの姿を見ると、嫉妬心に押し潰されそうになって逃げ出した。
「おいっ! 待てよ!!」
ネクは急いでシキを追いかけた。
「さっきので……分かったでしょ?」
「分かったって……?」
「……私のエントリー料」
「えっ……」
「私のエントリー料は容姿……私の姿……」
「容……姿……? まさか……!?」
ネクはようやく、シキのエントリー料を知り、今の彼女がエリの姿をしていると知った。
ちなみにシキは「容姿」と言っているが、厳密に言うと「自分自身」である。
「今の私は……エリの姿なの……。本当の私の姿じゃないの」
「そう……だったのか……」
「UGで……はじめて……自分を見たときはびっくりした……。エリの顔だったから」
「……当然だな」
「でもね……本音を言うと、ちょっとうれしかった」
「うれしい? どうして?」
「願いが叶ったって。これで変われるって思ったの。
私……自分が嫌いだったから……変わりたかった……
自分に自信が持てるようになりたかった……。
エリに……かわいくて、なんでもできるエリになりたかった」
シキの姿がエントリー料になった事で、彼女は友人のエリの姿になった。
自分ではなく友人の姿を手に入れたため、嫌いな自分とおさらばできると思っていた。
「じゃあ……なんで容姿が取られたんだ? おまえ……自分が嫌いだったんだろ?
エントリー料って、いちばん大切なものが取られるって……」
だが、シキはエントリー料の真相を知らなかった。
死神のゲームでエントリー料となるものは、自分が最も大切にしているもの。
つまり、シキにとって最も大切なものは、ヒガシザワの言う通り「自分」だったのだ。
「私も……どうして自分の姿が取られたのか、はじめは分からなかった……。
だから、これでエリになれるって思って……浮かれて、エリみたいに振る舞った……。
でも……結局ダメだった……。変われなかった。
外見が変わっても、中身はダメな私のままだから。そして、分かったの。
私はエリになれない。エリになりたいんじゃない。エリに嫉妬してただけなんだって」
エリの仮面を被ったとしても、所詮シキはエリの真似をしているに過ぎない。
シキはエリへの妬みを隠し切れず、ゲームに対し自暴自棄になっていた。
「あの死神が言うとおり、自分がいちばん大切だから嫉妬してたんだって。
エリは私と違ってかわいいし……頭もよくて……服のデザインもすごくて……
いつもみんなの中心にいた。うらやましかった……。
この姿でいると嫌でも分かるの……。私と私にはないものをたくさん持ってるエリとの差を」
(コイツ……無理してたのか……)
友人の姿になったからこそ、エントリー料がどれほど大切だったかを知ったシキ。
ネクもシキの本音を聞いて、心が少しだけ揺らぐ。
「私……ほんとは怖いんだ。
ライムの分まで夢を叶えるなんてかっこいいこと言っちゃったけど……
生きかえるのが怖いの!!
死神に言われたみたいに、生きかえってもエリに嫉妬して生きてく自分が嫌なの。
こんな私……好きになれないよ」
たとえ生き残って蘇生したとしても、エリを妬む気持ちは残るままになってしまう。
だから、シキは死神のゲームに勝ち、蘇生するのを拒んでいたのだ。
そんなシキの本当の気持ちを知ったネクは、いつもと違う、優しい調子の声で言った。
「……おまえは……おまえのままじゃダメなのか?」
「えっ……」
ネクが、嫉妬心に押し潰されそうな自分を気にかけてくれている。
変わったのか、とシキが手を伸ばした、その時。
「あれー!?」
「な、なんだ!?」
後ろからマコトの声が聞こえてきた。
何だろうと様子を見てみると、マコトは唖然としていた。
「だ、誰も……バッジ着けてない……な、何で!?」
何人かに広めたのに、誰もあのバッジを身に着けていなかったのだ。
このままでは、ミッションに間に合わず、ネクもシキも本当の意味で死んでしまう。
「まだ、ゆっくりできないな。いいか、ミッションはクリアする。
だから今、できることをする」
「……うん」
シキのまま、蘇生しよう。
そう思ったシキは、ネクと共にミッションクリアに臨むのだった。