すばらしきこのせかい Shibuya Survival   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

マコトがレッドスカルバッジの流行手段に悩んでいたが、
王子英二からアドバイスを受け、バッジを身に着けて街を歩く。
ネクとシキもバッジを身に着けて戦うと、バッジの人気が上昇する。
マコトはトレンドの変化を感じ、スクランブルに戻っていく。
ネクとシキはマコトを追いかけて104に行き、再びバッジを身に着けて戦い、
バッジが広がるかどうかを見守るのだった。


22 誤解を解くために

 レッドスカルバッジを広めれば、ミッションが達成できる。

 ネクとシキはスクランブル交差点に戻って来た。

 

「ネク……あの……ごめんね……ミッション中なのに足ひっぱっちゃって……。

 私のせいで……もしかしたら……」

 シキは足手まといになったと思いネクに謝罪する。

「……もう気にするな」

 ネクは今までより柔らかい表情でシキに返した。

「……調子が」

「えっ……」

「誰だって調子が悪い時はあるだろ……」

「ネク……ありがと……」

 シキの本当の気持ちが分かったネクは、もう、シキを疑わないと決めた。

 彼女も、ネクの態度が柔らかくなった事で、少しずつだが辛い気持ちが消えつつあった。

「アイツは……」

「あっ!」

 ネクは、RGにいるエリの姿をじっと見ている。

 

「そういえば……エリ……最近、服のデザインしてなくない?」

「……」

「私……もう、服のデザイン……やめようかなって……」

「えぇ!? どうして? もったいないよ!」

 

「デザインをやめる!? エリ……どうして……」

 エリは、服のデザインを作りたくなくなっていた。

「気になるならスキャンしてみたらいい」

「ええっ!? そんなこと! できないよ!!

 友達の考えてることをのぞくなんて……できるわけないよ!」

 エリの気持ちを知るためには、スキャンが必要だ。

 だが、いくら友人とはいえ、他人の気持ちを勝手に覗くのはいいのだろうか、

 とシキは不安になっていた。

「スキャンなんてさっきまで普通にやってた事だろ。簡単な事だ」

「……」

 友人の気持ちを知るためには、スキャンしかないようだ。

 ネクは精神を集中しエリの気持ちをスキャンした。

「エリ……どうしてデザインやめちゃうの?」

「……シキって子がね……」

 エリの口から、彼女がシキについて言おうとした。

「ネク……ごめん!」

 また自分に何か辛く当たろうとしているのだろう。

 そう思ったシキは、またネクの前から逃げ出した。

「おいっ! 待てよ!!」

 ネクは大急ぎでシキを追いかけた。

 

「エリの口から……私のこと……聞くの……恐くて……」

 あのバッジでエリをスキャンした時、エリはシキについて何か言おうとしていた。

 嫌な事だと思ったシキは、逃げ出してしまった。

「死んじゃう前に……エリに言われたの。デザイン……やめたらって……。

 エリに……愛想つかされちゃったの……」

 エリはシキに愛想を尽かし、デザインをやめろと言い出した。

「私……エリと比べてぜんぜん……」

「おい、いいかげんにしろよ」

 シキはまたネガティブになろうとしたが、ネクは柔らかくも鋭い声でシキを止めた。

「おまえはいったい誰なんだ?」

「えっ?」

「おまえは……おまえだろ。おまえはエリじゃない。だから、エリにもなれない。

 おまえはおまえにしかなれないだろ」

 ネクはシキを、エリの真似をする彼女ではなく「美咲四季」という一人の人間として接した。

 シキがエリを妬む気持ちを捨てるためには、シキがエリに依存しなければいい、と語った。

「だって……私……エリと比べて」

「他人なんか関係ないだろ……。おまえはおまえのまま生きかえればいい。

 おまえのままエリってヤツに負けないようにがんばればいいんじゃないのか?」

 それは、かつて自分が語っていた信条だった。

 他人の価値観なんて意味は無い。

 ネクが他人を拒否する時に語っていたのだが、

 それをこんな形で出すなんて、と内心では思っていた。

「……ネク」

「エリってヤツは嫉妬するぐらいいい目標……なんだろ?

 目標があるなら……おまえなら、どうすればいいか分かるだろ?」

 ネクはこれ以上、シキがエリを妬まないよう、彼なりに気遣ってやった。

 シキをシキらしくするために必要なのは、嫉妬ではなく、向上心。

 ネクは、シキがシキのまま、エリを追いかけられるように言ったのだ。

「……うん。ネク……ありがとう」

 自分を気遣ってくれたネクに対し、シキは精一杯の感謝の言葉を述べた。

 

「そろそろ……CMが流れるぞ」

 もう少しで、ビルでCMが流れ、レッドスカルバッジが広まる。

「き、緊張する……。みんな……見てくれるのか?」

 バッジを広めようとしたマコトは、緊張していた。

 皆がちゃんとCMを見てくれるのか、と。

「ネク……」

「大丈夫だ……。きっと、うまくいく」

 

 そして、ビルのQフロアに――CMが流れた。

 スクリーンの一面には、髑髏が描かれた真っ赤なバッジが映っていた。

「なに? あのバッジ……」

「あのバッジのデザインって、もしかして……」

「ちょっと、カッコいいかも……」

「バッジなんて着けないけど……着けてみようかな……」

「あのバッジ……どこで売ってるのかな?」

 皆、あのバッジに魅了されたらしく、次々とレッドスカルバッジを身に着けた。

 このCMの影響は、少年達にも影響が及んでいた。

「オレ、あのバッジなら持ってるぜ!」

「あっ! いいな~、僕も欲しい!!」

「私、あのバッジ知ってるよ!」

「さっすがエリ! もうチェック済みなんだ。あのバッジいいよね~、私も欲しいな~」

「エリ!?」

 シキは、バッジを知っていたエリを見て驚く。

「……ネク、ごめん、ちょっとだけ……エリのそばに行ってもいい?」

 ネクが手を見せると、タイマーは消えていた。

 ミッションをクリアした証だ。

「もうタイマーは消えてる……」

「……ありがとう」

 シキは不安になりながらエリのところに向かった。

 

「エリ……やっぱりデザインやめちゃうのもったいないよ」

「だから……さっきも話したじゃん……。

 シキって子がね……私には、シキって子がいないとダメなの」

 実は、エリはシキを突き放したわけではなかった。

 シキの事を、友人らしく大事に思っていたのだ。

「それはさっきも聞いたけど……その子と……ケンカ別れでもしたの?」

「ケンカか……ケンカ別れだったらよかったのにね……。

 シキ……この間……事故で死んじゃったの」

「……そう……なんだ……」

 エリはシキが事故死した事を少女に話す。

 少し暗い調子で、しかも死んでしまったため、少女の顔色は悪くなっていた。

「私のデザインした服はシキしか作れないの。シキが作ってくれて初めてこの世に生まれるの」

「シキって子……エリにすごい信頼されてたんだね」

「そうなの! シキはね、すごい子なの!

 人に気づかいできるし……細かいところに気がつくの!

 私がデザイン段階で気付かない所も縫いながらフォローしといてくれたりとか……

 服だけじゃなくて、ぬいぐるみとかも作れるんだよ!

 器用で繊細で……がんばり屋で……私がほしくても手に入らないもの、

 たくさん持ってた……」

 エリは、自分が持っていないものをたくさん持っているシキを褒めていた。

 シキがエリを妬んでいたのは、彼女の一方的な感情に過ぎなかったのだ。

「エリがそこまでほめるって……シキって子、スゴイね」

「……私、シキが事故にあう前日に……シキに余計なこと言っちゃったみたいなの……」

「余計なこと?」

「シキ……デザインがうまくできないってすごくヘコんでて……

 私……元気づけようと思って……。

 シキはデザインより裁縫の方が向いてる、デザインやめたら、って言っちゃったんだ……。

 私……シキをすごく傷つけちゃったみたいで……

 次の日……あやまろうって思ってたのに……シキには会えなかった」

 シキはエリの気遣いを誤解と捉えてしまった。

 そして、誤解が解けないまま、シキは事故死してしまったのだ。

「シキは今でも私の大切な親友よ。だから……できることなら、帰ってきてほしい。

 ごめんなさいってあやまって……もう一度、ふたりで一緒に服を作りたい」

 エリは、シキに蘇生してほしかったのだ。

 あの世からこの世に戻ってきて、謝罪して、また寄りを戻したい……それが、

 エリの本当の願いだったのだ。

 

「知らなかった……エリが私のこと、そんなふうに思ってくれてたなんて……」

「必要みたいだな……おたがいに」

 シキもエリも、互いに互いを必要としていた。

 誤解を解きたいところだが、UGにいるシキではRGにいるエリには干渉できない。

 シキは、そのせいで歯がゆい思いをしてしまった。

「ネク……私……私のままでいいのかな?」

「渋谷って……いろんなヤツがいるんだろ……。でも、そのブタを作れるのはおまえだけだ」

「もう……ブタじゃないよ……ネコだよ!」

 ネクはシキの黒猫のぬいぐるみを「ブタ」と呼び、シキは「笑顔で」それを訂正する。

 離れていた二人の心は、通じ合いつつあった。

「ネク……私、もう一度エリに会いたい。そして、一緒に服を作りたい!

 私、生きかえりたい!」

 シキはネクの言葉で、一度は諦めかけていた蘇生の夢を復活させた。

 ネクと共に死神のゲームを生き残り、蘇る。

 そしてエリとの誤解を解いて、日常を取り戻そう。

 シキの決意は、もう固まっていた。

「ああ、そうだな。あと1日……ぜったいに勝って、生き残ろう!」

 死神のゲームも残り1日。

 ネクとシキは蘇生をかけて、最後のミッションに臨んだ。

 

 その頃、酒場では、ヒガシザワとキタニジが会話をしていた。

「順調のようだな」

「はっ! 残参加者は3名。明日、最終日にまとめて料理いたします」

「期待している」

 現在、このゲームで生き残っているのは、ネク、シキ、ビイトの三人のみ。

 代行とはいえゲームマスターをしている彼は、相当な実力者のようだった。

「今回のゲームが終了すれば、君も晴れてゲームマスターだ」

「北虹様の代行を必ずや果たしてみせましょう」

「代行とはいえ、今もゲームマスターとなんら変わりはない。

 そうだな……君には我々と同じゲームマスターの特権を与えよう」

「はっ! ありがたき幸せ。明日のご報告をご期待ください」

 

 その頃、ライムを失ったビイトは、喫茶店でバッジをじっと見ていた。

「今の俺には……コイツが使えねぇ……」

 ビイトが持っているのは、鼠型ノイズのバッジ。

 恐らくは、ライムが消えた時に持っていたものだろう。

「コイツを使うためには……。アイツらなら……アイツらなら知ってるはずだ。

 迷ってるヒマはねぇ!!」

 そう言って、ビイトはどこかに向かった。

 このバッジの秘密を知るために。

 

「そろそろ……色々と動き出してもいい頃……だな。アイツら……うまくやるといいがな」

 そして、ハネコマは微笑みながらゲームの様子を見守っていた。

「……さて、そろそろ店にもどるとするかな。ビイトも腹すかせてるだろう」

 そう言って、ハネコマは喫茶店に戻った。

 

 死神のゲームは、終わりを迎えようとしていた。

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