すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
死神のゲームの最終日、ネクとシキは蘇生をかけてゲームマスターを倒すミッションに挑む。
ネクとシキはノイズを撃退しながら壁を解放し、死神のゲームに全力で挑む。
死神が現れ、ネクとシキにノイズをけしかけるが、二人は決して諦めずに戦う。
ゲームの時間は残り僅か、生き残るのはネク達か、死神か。
「ゲームマスターはこの先にいるのか……」
「これで……」
そして、ネクとシキはついに、渋谷駅ガード下に行った。
この先に、今回のゲームマスター、東沢洋大がいるのだ。
彼に勝てば、ネクとシキは蘇生する事ができる。
「これで、ほんとに終わりなんだよね……。大変だったよね……毎日必死で……」
シキは今までの出来事を思い出す。
訳も分からないまま死神のゲームに参加させられたネクに、
同じく訳も分からないまま契約したシキ。
「UGに来てから……今までの自分がいかに幸せだったか分かった」
ネク達は現実世界の渋谷で命を落とし、このUGの渋谷で死神のゲームに挑んだ。
エントリー料と呼ばれる、自分が最も大切にしているものを払って。
「私ね……毎日……何の心配もなく、当たり前のように過ごしてきた。
朝、起きて……学校に行って、エリと話して、家に帰ってごはんを食べて、
テレビを見て……寝る。
当たり前すぎて、生きてるって考えたこともなかった。
だから……ここに来て、気づけたこと……たくさんあった。
今までで一番生きてるって感じがした。死んでるのにね」
前述の通り、死神のゲームの参加者は皆、現実世界の渋谷で命を落とした者。
生き残りではなく、生き返りをかけて、死神のゲームに挑んでいる。
シキには生前の記憶があったため、“生きている”という実感が今になって沸いた。
「……」
だが、ネクは記憶をエントリー料として徴収されてしまった。
そのため、生前の記憶は、ネクにはなかった。
「これからだ……。俺達はゲームに勝って生き返る」
「うん!」
だから、ネクは今を大事にしているのだろう。
この時も、これからの時も。
「ネク……7日間、ありがとう。ここまでこれたのはネクのおかげ」
「バカ……早いぞ……」
ちょっぴり冷めた態度をとるネクだったが、内心ではそんなに冷たくなかった。
むしろ、ずっと一緒にいてほしいと思っていたが、ネクはそれを表に出さなかった。
「この先でまだやることがある」
「そうだね……」
二人のやるべき事は、ゲームマスター・東沢洋大の撃破。
彼を倒し、蘇生する事が、二人の目的なのだ。
「ねぇ! 私達、生きかえったらまた会えるよね? 私と……ネクと……ビイト……。
私は……多分……この姿じゃないから……目印に……」
そう言ってシキがネクに見せたのは、黒猫のぬいぐるみ・にゃんタンだった。
「にゃんタンを持っていくから、みんなで……また会おう」
「……考えておく」
「うん! じゃあ、行きましょう」
そして、ネクとシキは、蘇生を目指して、ゲームマスターのところに急ぐのだった。
ネクは、今回のゲームを通して、シキの事を大事に思うようになった。
最初は友や仲間なんてどうでもいいと思っていた彼だったが、ノイズと戦い、
ミッションを達成する事で、絆が生まれた。
それが、後に大きな影響を及ぼす事になるとは、ネクはまだ、知る由もなかった……。
「遅かったな……」
羊の飾りつきのベルトを身に着けた大柄な青年は、奥でネクとシキを待ち構えていた。
彼こそが、今回のゲームマスター・東沢洋大だ。
「待ち草臥れたぞ。これでやっと料理が始められる」
「フン! あなたになんか負けないわ! 勝つのは私達よ!」
「こんにちは、おじょうちゃん。今日を楽しみにしてたよ」
シキのコンプレックスを知っているヒガシザワは、彼女を動揺させようと穏やかに話す。
が、シキは毅然とした表情でヒガシザワを睨む。
溢れ出る闘争心は互いに全く隠していない証だ。
「おいおい……おじょうちゃんが腹に抱えてたイカ墨みたいな情念、どこへやった?
……あとかたもなく消えてるぞ」
「さぁ? なんのこと?」
シキはネクときちんと話した事で、エリに対する嫉妬心を捨て去り、
「美咲四季」のまま蘇生する事を決めた。
なので、ヒガシザワに対しても余裕で話している。
「赤黒くたぎる嫉妬、友人に抱く嫉妬、実にうまそうな逸材だ……」
「そうよ! エリはね、私が嫉妬するぐらいすごい親友なの!
だから、私も負けてられないの。生きかえって、エリと一緒に服を作るんだから!」
「おまえ……」
「RGでエリが待ってるもん。あなたなんかに……絶対負けないんだから!」
友人への嫉妬ではなく、向上心こそが、今のシキを奮い立たせる原動力になっていた。
ゲームマスターを倒して蘇生し、また、エリと共に服を作る。
それが……今のシキの願いなのだ。
「……どうやら……鮮度が落ちてしまったようだな」
一方、ヒガシザワは立ち直ったシキを冷たい目で見下ろしていた。
そして、ネクとシキを消そうと、身構える。
「しかし……粗悪な素材すら極上の料理に仕上げるのが腕のいい料理人というもの。
北虹様のために……腕によりをかけて料理してやろう。
今ここで……スパイシーツナロールにしてやるっ!!」
ヒガシザワの背中の翼が変形すると、雷が落ち、大雨が降り、
ただでさえ大きなヒガシザワの身体がさらに大きく膨れ上がる。
巨大な角を生やし、体にはたくさんの毛が生える。
腕には、ノイズのような鋭い爪が生えた。
オウィスカンタス――羊の歌の名を冠するノイズとなったヒガシザワが、
ネクとシキに襲い掛かった。
ヒガシザワはネクとシキを食材にした、極上の料理を作るために。
ネクとシキは、ゲームに勝って蘇生するために。
参加者とゲームマスターの戦いが、始まる。
「じっくり料理してやろう……」
「先手必勝!」
ネクは光の弾を飛ばし、オウィスカンタスを撃つ。
「気を抜いちゃダメだからね、ネク!」
「ああ、分かってる!」
巨大ノイズになったヒガシザワは、今までのどのノイズよりも非常に強かった。
伊達にゲームマスターを名乗らないだけはある。
ネクはオウィスカンタスの懐に潜り込み、アッパーを連続で食らわせ、
シキはにゃんタンで追撃する。
「味見の時間だ……」
オウィスカンタスは口を大きく開けると、ブラックホールのような穴を生み出す。
「吸い込んでる時は攻撃が効かないから逃げて!」
シキのアドバイスで、二人はオウィスカンタスから離れ、攻撃が終わるまで避け続ける。
吸い込み攻撃が終わった後、ネクとシキはアッパーを繰り出しオウィスカンタスを攻撃する。
「デカブツめ、こっちが食ってやる!」
「食材は食材なりに抵抗しているな。だが……それもここまでだ。丸こげにしてやる!」
オウィスカンタスが両腕を合わせると、周囲から電撃の玉が放たれる。
あれに当たれば致命傷は避けられない。
「攻撃が届かない場所に移動するぞ!」
ネクとシキはオウィスカンタスの懐に潜り込み、電撃の玉を全てかわした。
オウィスカンタスは動かないので、攻撃のチャンスはたくさんある。
「味見の時間だ……」
再び、オウィスカンタスが吸い込んだので、ネクとシキはオウィスカンタスから離れる。
シキのにゃんタンと、ネクのサイキック。
二人の攻撃が、オウィスカンタスの体力を徐々に減らしていく。
「煮えたぎったぞ!」
二人に追い詰められたオウィスカンタスは、両腕をナックルウォークのようにする。
「こいつ、本気を出してきたぞ」
「油断禁物ね……」
「ぶっ潰す!」
オウィスカンタスが大きな腕を連続で振り下ろす。
大きな腕による攻撃は、見た目に違わず強力だ。
だが、攻撃が届かない場所にいれば、当たらない。
「ぶった切ってやる!」
「のあっ!」
「きゃっ!」
オウィスカンタスが腕でネクとシキを薙ぎ払い、二人は吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。
なおもオウィスカンタスの容赦ない攻撃は続き、逆に二人は追い詰められていった。
「凄く痛い……。まるで、私が事故に遭った時みたいな……。
エリと、仲直りしたかったのに……」
シキはオウィスカンタスの攻撃を受けた時、自分が死んだ瞬間を思い出す。
エリと喧嘩して、仲直りできないまま死に、その時の痛みを味わっている……
彼女の悲痛な姿を見たネクは、ぎっと歯を食いしばった。
「俺には生きてた時の記憶も、痛みだって分からない。
だが、こいつ……シキの痛みと苦しみは、こっちに届くくらいに分かった。
ゲームマスター、おまえは絶対に俺達が倒す!!」
生きていても死んでいても、痛みに苦しみ続けるのは、あまりにも非道だ。
だから、ゲームマスターを倒して、痛みから解放されたい……。
ネクはありったけの怒りを、オウィスカンタスにぶつけた。
(こんなにネクが怒ってるなんて、初めて。でも、それだけ私を大事にしてるんだね)
普段はあまり感情を表に出さないネクが、ここまで怒ったのは初めてだった。
きっと、シキが味わった痛みを、直接ではないが感じているのだろう。
「いいぞ……食材が燃え上がっている……。参加者のフライが出来上がりそうだ!」
それがオウィスカンタスを刺激したのか、オウィスカンタスは笑っていた。
ネクとシキは構え直し、オウィスカンタスを睨みつける。
「ぶっ潰す!」
「おっと!」
オウィスカンタスの腕攻撃をネクはかわし、シキがにゃんタンでオウィスカンタスを攻撃。
「味見の時間だ……」
オウィスカンタスが吸い込み攻撃をしている間は、できる限りオウィスカンタスから離れる。
そして吸い込みが終わった後、サイキックで攻撃する。
「丸こげにしてやる!」
再び電撃の玉が現れ、広範囲に放たれる。
「ネク、危ない!」
シキがネクを庇って代わりに電撃を受け膝をつく。
さらに雷が連続で落ち、シキは痛みを受け続ける。
「痛いよ……ネク……」
「ぶっ潰す!」
「危ない!!」
ネクはシキを突き飛ばすように突っ込み、二人とも攻撃範囲から逃れる。
二人は勢い余って、転んでしまい、体勢を整え直すのに時間がかかった。
「ありがとう、痛みを与えてくれて。その痛み、そっくりそのまま返すから」
シキは鋭い目でオウィスカンタスを睨みつける。
そして、にゃんタンをけしかけ、ネクも雷のサイキックで追撃した。
二人の連携により、白いバッジが光り輝く。
「とどめを刺すなら、今ね」
「ああ」
ネクとシキは頷き、バッジの力を解放する。
同じマークのカードを選び続け、攻撃力が高まる。
二人は今、オウィスカンタスを倒そうとしていた。
「俺達は、おまえを倒して」
「生き返る!!」
ネクのサイキックと、シキのにゃんタンの波状攻撃が、オウィスカンタスに炸裂する。
分身したにゃんタンが連続で攻撃し、
巨大化したにゃんタンに乗ったネクとシキが体当たりした。
次の瞬間、オウィスカンタスの身体が砂嵐になり、眩い光に包まれていく。
「北虹……様……」
断末魔と共に、オウィスカンタスは消滅した。
これにより、ネクとシキの勝利が決まったのだ。
「……俺が……負けるとは……な」
敗北したヒガシザワだったが、その表情はネクとシキを称えているかのようだった。
最後まで彼は、ゲームマスターとして、参加者に敬意を払い続けていた。
もちろん、食材としてもだが。
「見事だ……おじょう……さん……」
ノイズになっていた時に、身体に負担がかかり過ぎていたのだろう。
ヒガシザワは、ゆっくりと溶けるように消えた。
「やった……」
「終わったの……?」
ゲームマスターの撃破、それはすなわち、ミッションのクリアという証。
ネクとシキは、ついに蘇生の権利を得て、UGからRGに戻る事ができる。
「俺達の勝ちだ!!」
「やった! これで私達、生きかえれる!!」
蘇生が決まって喜ぶネクとシキ。
これで、普段通りの日常を取り戻す事ができる。
朝、起きて、学校に行って、家に帰って食事をして、テレビを見て寝る。
今まで実感していなかったその「当たり前」を、ようやく取り戻す事ができる。
「なっ、何これ!!」
「シキ!?」
突然、ネクとシキを眩い光が包み込む。
ミッションはクリアしたはずなのに、また消されるのか……と思った時。
「……あれ? この光……悪い感じがしない」
「ホントだ……光に祝福されてるみたいだ……」
「うん! 私達が生きかえる祝福ね……」
その光は、二人を優しく包む、温かい光だった。
死神のゲームをクリアし、魂があの世からこの世へと戻るように。
「それから! 名前! ネク……初めて名前で呼んでくれたね」
「……」
そんな覚えはあるのか、とネクはそっぽを向く。
最初はシキに対して冷たい態度を取っていた彼だったが、
共に死神のゲームを攻略していくうちに、シキを「パートナー」だと思うようになった。
ネクの初めてのパートナーであるシキは、今、彼にとって最も大切な人物となったのだ。
「ねぇ! ネク、待ちあわせしよう。場所は……ハチ公前!!」
蘇生が決まったとあれば、待ち合わせをすると決めたシキ。
彼女が言った「ハチ公前」は、ネクとシキが最初に出会った、運命の場所。
そこを待ち合わせの場所として決めたのは、余程、彼女にとって思い出深い場所なのだろう。
「ああ……分かった」
そして、ネクもまた、シキとの約束を守る事を決めたのだった。