すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
ネクとヨシュアは死神のゲームに挑み、ノイズと戦い、壁を解放する。
ゲームマスターの南師猩は「参加者には存在価値がない」と宣言する。
ネクとヨシュアは彼が召喚したサイ型ノイズを撃退し、一日目を無事に終える。
ネクはヨシュアを信用できないが、生き抜くためには彼を信頼するしかなかった。
二回目の死神のゲーム、二日目。
「だめだ、ここも開かない」
「ご協力ありがとサン、帰ってイイゾ~」
カリヤは、赤いパーカーの男と共に壁を開けようとしていたが、上手くいかなかったようだ。
「ルート1が封鎖ネェ……やれやれ……」
「狩谷!」
「そっちはどうダッタ?」
「ルート2も5も6も封鎖ずみ」
ヤシロが合流し、カリヤに状況を報告する。
どうやら、あちこちのルートが封鎖されているようだ。
「ふ~ん……さすがは奇才、仕事がハヤイネ~」
「開放エリアすら連絡よこさないなんて……どういうつもりよ、まったく……。
現場の死神はマジで眼中ナシってこと? ほんとアッタマくるわ……」
ミナミモトに協調性は無い。
だから、下っ端に対しても、全く連絡しないのだ。
「いいじゃないの~、ボス自ら働いてクレテサ。
俺達はボスのお手並みじっくり拝見ってコトデ……」
「ったく……あたしは仕事がしたいの。
参加者が目の前にいるのに手出し禁止なんて……おあずけを食らった犬よ!」
「まあ、まあ、キャンキャン吠えなサンナ」
カリヤは先輩として、洒落を聞かせながらヤシロを宥めた。
「こうなったらRGに行って、コレで参加者を連れてこようかしら……」
「おいおい、死神がRGの人間を殺すのはルール違反ダロ?」
「じょ、冗談に決まってるじゃない……」
ヤシロは銃を構えるが、ルール違反だとカリヤは指摘した。
こういうところは、やはり先輩らしい。
ヤシロは首を横に振ると、すぐに銃をしまった。
「そうでもしないとポイント稼ぎができないってたとえの話よ」
「そんなに仕事、仕事、って言ってルト……この気配ハ!?」
「このままじゃ、今回は出番ナシ……
せっかくポイント稼げるチャンスなのに……これじゃ働いてる意味が……」
「卯月! アブナイッ!!」
カリヤがヤシロを宥めようとすると、何かに気付いて身構える。
一方、ヤシロはそれに気づいていなかったため、カリヤが大声を出して気付かせた。
「ううっ……ここは……」
ネクは、スクランブル交差点で目覚めていた。
パートナーのヨシュアは、携帯電話で誰かと話していた。
「で、アノ件はどうなったの? え!? もう来たの!?
スクランブル……エリア……封鎖……それなら……制限時間は……それで? ほかには……」
ヨシュアは死神に報告しているらしい。
ネクはますます彼に不信感を抱き、ヨシュアをスキャンしてみた。
すると、ネクの中にまたあの町が浮かび上がった。
倒れたネクの胸に、バッジが落ちた。
「はぁ……はぁ……今のは……俺……? なんで宇田川町で俺が倒れてるんだ……。
しかも……アイツの思考の中で」
ネクは前回のゲームで記憶を取り戻したはずだが、
この時の光景は、憶えていなかったようだ。
読者もご存じのようだが、このUGの渋谷はRGの渋谷で死んだ者が来る場所だ。
つまり、この光景は聡明な読者なら分かるだろう。
ネクもあの光景の事をヨシュアに聞きたかったが、
それではこじれてミッションに影響が出ると思い、やめた。
携帯電話が鳴り、ミッションを通達するメールが届く。
「今日のミッションは……」
「ねぇ、ネク君。ひとつ提案があるんだけど」
「な、なんだよ」
「ミッション、ムシしちゃおうよ」
「はぁ!? 何言ってんだよ!? ミッションを解かなきゃ、俺達、消滅するんだぞ!」
ヨシュアはミッションを放棄しろと言うが、当然、ネクは首を横に振った。
ミッションを達成できなければ、本当の死を迎えるからだ。
「僕、どうしても行きたいところがあるからさ。ミッションはほかの人に任せておけばいいよ。
僕達がクリアしなくても平気だしね」
確かに、ミッションは他の人がクリアしてもいいとはある。
だが、無視してヨシュアについていく必要があるのだろうか。
「ダメだ! 俺はゲームに勝たなきゃいけないんだ! 俺は負けられないんだよ」
もちろん、ネクはヨシュアの提案を蹴るが、ヨシュアは平然としていた。
「どうしてそんなに必死なんだい? まだ2日目なんだし、気楽にいこうよ」
「今回のゲームは俺だけじゃないんだ。……アイツの命もかかってるんだ」
アイツとは、最初のパートナー、美咲四季だった。
【さて、ここで君達に、美咲四季の章をもう一度読んでもらおう。】
『ここはどこだ……?』
『まぶしくて……よく見えない……』
ネクとシキは、見知らぬ場所に立っていた。
光に包まれていて、周りが見えない。
『おい……』
『ビイト!! 無事だったのね!』
『ああ……おめぇらもな……』
すると、ビイトがネクとシキの前に姿を現す。
どうやら、ビイトは最後まで消滅せずに生き残る事ができたようだ。
『ひとりでどこいってたの!? みんな心配してたのよ!』
もう少しで消えるところだったのよ、とシキは激しくビイトを叱責する。
『ん……ああ、まぁ……すまねぇ、ちょっと……な』
『ねぇ……私達、生きかえった……のかな?』
死神のゲームに七日間生き残った事で、ようやく蘇生できるはずだ。
だが、いつまで経っても三人は蘇生しなかった。
『いや……まだだ、残念ながらな』
『誰だっ!?』
三人が身構えると、彼らの目の前に、サングラスをかけた黒髪の男が姿を現す。
彼こそが、死神を率いる指揮者、北虹寵だ。
『やぁ、おめでとう。ゲームの勝者達。今回のゲームは楽しめたかな?』
『おめぇは……』
『俺はコンポーザーの忠実なるしもべ、ゲーム運営の指揮者、北虹だ。
さて、勝者である諸君の今後だが……コンポーザーの採択によって決められる。
まず、今回のゲームで生きかえれる人数は……1名だ』
『え!?』
『なんだって!?』
『そんな……ひどい……。全員生きかえれるんじゃないの!?』
死神のゲームによって蘇生できるのは、一人だけ。
すなわち、ここにいる残りの二人は、またUGに残って死神のゲームをするという事。
もちろん、エントリー料を払って。
シキはキタニジに文句を言うが、彼は冷静だった。
『これはコンポーザーによって決定された事項。いかなる状況でも覆ることはありえない』
『みんな生きかえるためにゲームを勝ちのこったのよ! 全員生きかえ……』
『待ってくれ! 違うんだ……』
そんなシキの前にビイトが立ち、首を横に振った。
『違うって? 何が?』
『俺は……生きかえらない』
『ええっ!?』
『俺を……俺を死神にしてくれ!! あんた達の仲間に……頼む!!』
ビイトは蘇生を拒否し、死神になろうとしていた。
ライムを失った以上、一人だけ蘇生するのは彼女にとって申し訳ないと思ったからだ。
それに、死神になれば、失ったライムを取り戻せるかもしれない。
その可能性に、ビイトは賭けたのだ。
『ちょっ……ビイト! どうして!?』
『……いいだろう。君の希望は承諾可能だ、かなえてやろう。君を死神として歓迎する』
キタニジは、ビイトを新たな死神として迎えた。
『……おまえ! どうして!?』
『待って! ビイト!!』
ネクとシキはビイトを止めようとするが、ビイトの決意は固かった。
『どうして……ビイトは死神に……』
『……』
ネクとシキは、ビイトの真意を知らないまま、彼が死神になった事を悲しんだ。
『さて、そろそろ審判の時だ。此度の審査で生きかえるのは……美咲四季』
『わ……私!? そ……そんな……』
シキのみが生き返って現世に戻る、それはネクやビイトとの別れの証。
生き返るのは彼女の望みだったが、シキは少し寂しそうな表情だった。
『私だけ生きかえるなんて……そんなのムリ。っていうか、どうして私なの?』
『我々は君達参加者をミッションによって採点している。
君が最も点数が高かった……ということだ』
『それっておかしいよ!
私よりネクのほうがサイキックうまいし、謎だって……解いたのはほとんどネクだし、
生きかえるのは私じゃなくてネクのほうよ!』
シキの言う通りならば、ネクが蘇るはずだった。
だが、死神はシキを蘇生させると審判した。
ネクは俯いたまま、キタニジにこう言った。
『ひとりしか生きかえれないなら……残ったほうはどうなるんだ?』
『生に執着するならばまたゲームに参加すればいい。
破壊を好むのならば、彼と同じように死神にもなれる。
全てに絶望したならば、ここで消滅するという選択肢もある』
『……シキ……おまえはかえれ』
ネクは、今まで「おい」「おまえ」としか呼ばなかったシキを、初めて名前で呼んだ。
「かえれ」というのは、この世に還れ、エリのところに帰れ、
元の日常に返れ、という意味なのだろう。
せっかくの蘇生のチャンスを捨てるなんて、そんな事、ネクは認めたくなかったのだ。
『イヤよ!』
『いいからかえれ!』
『絶対にイヤ!』
シキは蘇生を只管に拒否した。
せっかく初めてのパートナー同士になり、信頼関係を結んだ彼と別れるのは、
シキにとってとても辛い事だからだ。
嫉妬心から脱却させ、裁縫の技術でサポートし、
名実共にパートナー同士となった者と別れるのは……お互いに嫌なのだ。
『私、もう一度ゲームに参加する。だからネクが』
『それはできない。先ほども言ったが、これはコンポーザーによって決定された事項だ。
いかなる状況でも覆ることはありえない』
このゲームにおいてはコンポーザーの決定は絶対。
誰が何と言おうと、現世に戻れるのはシキなのだ。
『そんな……』
『シキ……俺のことは気にしなくていい』
『でも……』
『生きかえってエリに会うんじゃないのか?』
『……』
『俺はなんで死んだかまだ分からない。だから、生きかえりたいかも正直よく分からない。
でも、シキにはかえる理由がある』
現世でエリと仲直りするのが、シキの目的だ。
一方、ネクには生前の記憶がない。
だから、シキの願いを叶えるために、ネクはシキの蘇生を望んだのだろう。
『ネク……』
『また逆戻りする気か?』
『え……?』
『昔のシキに』
『ネク……』
初めてのパートナーとゲームを生き残った事で、
シキはエリへの嫉妬心を捨て、彼女のまま蘇ろうと望んだ。
それをまた拾うなんてとんでもない、とネクはシキに言ったのだろう。
『ごめん……ネク。ありがとう……。私、本当の自分に戻るね……』
『ああ』
『私……待ってるから。ネクが戻ってくるの。ハチ公前で、ずっと待ってるから』
『ああ……分かった』
ネクとシキは、忠犬ハチ公像の前で待ち合わせする事を、互いに約束し合った。
次のゲームで蘇った時に、また会えると信じて。
『さて、別れのあいさつは済んだかな』
『ネク!』
シキの身体を、眩い光が包み込む。
もうすぐ彼女は、UGからRGへ戻ろうとしていた。
『本当の私に会っても、友達でいてくれる?』
今のシキは、友人のエリの姿をしている。
本当の彼女は眼鏡をかけた地味な姿だが、ネクが信じる事を彼女は願っていた。
『ああ、シキはシキだ』
そして、シキの身体は光に包まれ、天に昇ろうとしていた。
ネクとシキはお互いに手を伸ばそうとしたが、シキの手はネクに触れる前に消えてしまった。
『シキ……』
『さて、残った君だが、希望は聞くまでもないようだな』
『ああ。俺はもう一度、ゲームに参加する』
『いいだろう。君はなかなかみどころがあるな。
では、次のゲームを始める前に、君から徴収したエントリー料を返却しよう』
そう言って、キタニジはネクのエントリー料である「記憶」を彼に引き渡す。
一度に大量の情報が流れ込んできたため、ネクは頭痛がして、頭を抱えた。
『はぁ……はぁ……おいっ!! 俺に何をした!?』
『ルールどおりに返却しただけだ。君のエントリー料をな』
『そうか……そういうことか……。俺が……取られてたものは……記憶!』
『そのとおり。記憶とは人物のアイデンティティを構築するための最も重要な要素だ。
エントリー料として実にふさわしい、そう思わないか?』
『おい……』
ようやく記憶を取り戻したネク。
だが、ネクに返却した記憶は、全てではなかったようだ。
『ちょっと待て……全部返せよ!!』
『何のことかな?』
『足りないぞ、俺の死に際!! なんで死んだのか思い出せない!
宇田川町で壁グラを見て……その後は……
スクランブル交差点で倒れているところしか思い出せない』
自分の死因を返さなかったという事は、彼にとってよほど重要な記憶なのだろう。
『ほぅ……それは興味深いな……』
『ふざけるな……おまえが取ったん……』
『が、しかしゲームとは無関係だ』
『なに!?』
『我々が預かっていた記憶はすべて返却した。
それでもまだ足りない記憶があるならば……もともとなかった、ということだな』
『もとからなかった……?』
つまり、ネクも死神も、ネクの生前の記憶はほとんど知らない、という意味だ。
ヨシュアをスキャンすると見えた、という事は……もう聡明な読者ならば、分かるだろう。
『君の死に際の記憶を奪っても私には何のメリットもない。違うかな?』
確かに、自分が死んだ時の記憶など、ほとんど覚えていないだろう。
それが悲惨なものならば、なおさらだ。
『さて、次に……君の新しいエントリー料だが……』
『また記憶をとるのか!?』
『最も大切なものをエントリー料として徴収する。それがこのゲームのルール。
君のエントリー料はすでに徴収しておいた』
『なに!?』
『それは……』
死神のゲームに参加する者は、最も大切なものがエントリー料となる。
つまり、今回のネクのエントリー料は――
『美咲四季』
『なっ! そんなバカな! やめろぉぉぉぉぉ!!』
そう、死神のゲームで蘇った、美咲四季なのだ。
せっかく蘇ったのに、エントリー料になるなんて信じられないと思ったネクだったが、
読者ならば、今のネクにとってシキが最も大切だと分かるだろう。
「俺が……シキを巻きこんだ。
シキを生きかえらせるためにも、絶対に勝ちのこらなきゃならない。
だからミッションは他人任せにできない」
もしネクが負ければ、シキの蘇生が無意味になる。
そのため、ネクは今まで以上に死神のゲームに必死になった。
「ふ~ん」
「って、なんだよ! おまえ、ちゃんと聞いてたのか!?」
「トイレに行って手を洗ってないところまでは聞いた」
「おまえ……ふざける……」
「よくある話さ。参加者は全員、大切なものを懸けているんだからね。犠牲はつきものだよ」
ヨシュアは、ネクの必死さなど眼中にないようだ。
彼の話しぶりからするに、エントリー料を持っていないようだが……。
「犠牲って、おまえ……」
ネクは思わずヨシュアに叫ぼうとしたが、ここで怒ったらますますこじれるため、
一旦、深呼吸する事にした。
「……じゃあこうしよう。まず、ミッションをやる。その後はおまえの自由時間……どうだ?」
「……仕方ないね……それじゃ、ひとつ貸しってことで」
「……分かった」
「晴れて交渉成立だね。で? 今日のミッションは?」
ネクは携帯電話を開いた。
そこには、こんなメールが届いていた。
ゲームⅡ √3のAuバッジ入手
制限時間は300分 未達成なら破壊
理系のミナミモトらしいメールの内容だ。
メールが届くと同時に、ネクの手にタイマーが浮かび上がる。
「っつぅ……タイマー……ミッション開始だな。……なんだこのミッション。意味不明だ……」
「バッジをどうにかするだろうね。ネク君はどう思う~?」
「Au……金の元素記号か……? 純金製のバッジとか?」
「なるほど……いい予想だね。現段階ではそう仮定しておこう。じゃあ√3は?」
「√3……√3は1.7320508……何かの入力コードか?」
金のバッジを入手する事は分かったが、√3の意味が分からなかった。
3の平方根は、1.7320508というが……。
「さすがはネク君、斬新な切り口だよ!
でも、僕はこれは渋谷のストリートを指しているとみたね」
「ストリート?」
「死神達は渋谷のストリートをナンバーで呼ぶのさ。ルート1、ルート2といった具合にね。
というわけで、ルート3に行ってみよう」
「どこだよ、それ」
「カドイからモルコに抜ける通りのことだよ。さぁ、行こう」
そう言って、ヨシュアはルート3に向かった。
平方根は「
ミッションの目的地は「
ヨシュアはあまりにも死神のゲームに詳しすぎる。
ハネコマと同じ理由ならいいのだが、それにしては怪しい言動が目立っていた。
しつこいようだが、まるで、渋谷を俯瞰しているかのように。
しかも、ヨシュアはネクの死に際に関わっているかもしれない。
ネクはとりあえずヨシュアの様子を見るのだった。