すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
ネクとヨシュアはルート3に行く途中で見えない壁に阻まれ、ノイズに取りつかれた人を助ける。
マブスラ選手は『マーブルスラッシュ』大会に出場し、英雄バッジを目指している。
一方、カリヤとヤシロは死神を襲う禁断ノイズと戦い、その存在を報告する。
ネクとヨシュアはその黒いノイズ――禁断ノイズと戦うのだった。
モルコ前にはマーブルスラッシュの会場があった。
ここが、ミッションの目的地らしい。
「マーブルスラッシュ。この大会で優勝すればいいんだな」
「そうだね」
マーブルスラッシュの会場の近くには、羽が描かれた髑髏のマークがある。
ここは、死人であるネクに干渉できる場所らしい。
「死神ステッカーも貼ってあるから、安心して大会に参加できるよ」
「あれがある店では姿が実体化されるんだよな」
「そのとおり、死神が買い物を許可している店ではあれが貼られている」
ヨシュアはこのマーク……死神ステッカーについても知っている。
ますますヨシュアの素性を怪しく思うネク。
「でも……どうしてヤツらは買い物を許可してるんだ? 死神は俺達を消したいんだろ?
だったら買い物させなきゃいいんじゃないのか?」
「う~ん……別にいいんじゃない? それに、買い物できた方が楽しいし」
(そういう問題じゃないだろ……)
ヨシュアはあっさりと理由を考えるのをやめる。
読者なら想像がつくだろうが、それは読者にしか分からないだろう。
「ほら、ネク君。急がないと受付が終わっちゃうよ」
「わ、分かったよ」
ネクとヨシュアは会場に行こうとした。
しかし、ネクはマーブルスラッシュを一度もやった事がなかった。
本当に優勝できるのか、ネクは不安だったが、
ミッションをクリアできなければ、エントリー料のシキを取り戻せない。
ネクは、この大会で優勝するしかないようだ。
「おまえ……マーブルスラッシュできるのか?」
「えっ? 僕? 僕はできないし、大会参加もしないよ」
「はぁ!?」
ヨシュアは大会の参加を断った。
「だって、ミッションはネク君がクリアしてくれるんだよね」
「……」
やはり、ヨシュアは頼りにならないようだ。
一刻も早くミッションをクリアして、シキに戻ってきてほしかった。
その時、後ろから誰かがぶつかってきた。
「うわっ! な、なんだ!?」
「ゴメン! よそ見してたらぶつかっちゃった」
ネクにぶつかってきたのは、赤い鉢巻を身に着けた少年だった。
以前、あの赤い髑髏のバッジを広めるために協力してもらった人物だった。
「あれ? 兄ちゃん達もバッジ持ってるんだ」
「あ、ああ」
「ってことは、大会に出場するんだよな?」
「うん。どうしても優勝しなきゃならないのさ……ネク君がね」
(おまえもだろ!!)
ミッションをクリアするためには、マーブルスラッシュで優勝する必要がある。
しかし、少年はネクのバッジを見て驚く。
「ゆうしょう!? え~~!? そんなバッジじゃぜぇ~ったいムリだぜ!!」
「う……そうなのか……」
「兄ちゃん達、シロウトだろ? そんなんじゃ、優勝どころか誰にも勝てないよ!」
「君は参加するのかい? えっと……」
「オレは
マブスラはオレの親友、誰にも負けないぜ!」
少年、シュウトはネク達にマブスラッシャー、
つまりマーブルスラッシュのプレイヤーである事を明かす。
シュウトはネクより年下に見えるが、マーブルスラッシュは一流のようだ。
だからだろう、ネクにはっきり言ってくるのは。
「へ~そうなんだ。君、詳しそうだね。教えてくれないかな? ……ネク君に。
ほら、ネク君もお願いして」
「うっ……」
どこまでもミッションはネク任せのようだ。
相手はどう見ても自分より年下の子供だが、ネク達はマーブルスラッシュをよく知らない。
「よ……よろしく」
「しょうがないな……。えーとね……」
仕方なく、ネクはシュウトに、マーブルスラッシュを教わるのだった。
「マブスラはね、魂の戦いなんだ!」
「た……魂の戦い?」
「お互いの熱い魂が激しくぶつかりあうんだ!!」
つまりマーブルスラッシュとはそういうゲームだ、とネクに教えるシュウト。
読者に先に説明すると、バッジをぶつけ合って落ちた方が負け、というゲームだ。
「フフフ……それはすごそうだね」
「……」
「で……具体的にどうやればいいんだ?」
「ちょっと待ってて! 分かりやすく紙に書いて説明するから!」
そう言って、シュウトは紙と筆記用具を取り出し、マーブルスラッシュのルールを書いた。
……が、子供らしいといえばらしい、書き殴ったような絵と字があった。
「これがマブスラだよ!」
「へぇ~。これはなかなか奥が深いゲームだね」
「だろ? ここのタイミングが一番重要なんだ!」
「これを見れば勝ったも同然だよね? ネク君」
ネクにはシュウトの紙の内容が理解できなかった。
当然と言えば、当然である。
「あれ? ネク君、もしかして分からないの?」
「えぇ!? これでも分からないの? もう、しょうがないな~。
じゃあ、実際にやってみようぜ」
「いきなりかっ!?」
考えるより先に体で動くのが、子供というものだ。
「うおっ!? 兄ちゃん……や、やるね……」
相手のバッジを落とせば、勝利となる。
ネクはとりあえず、身体でマーブルスラッシュを覚えた。
「へへっ! 兄ちゃん、なかなか上手くなったよ!
バッジはそれぞれ性能が違うから、いろいろ試してみるといいよ!」
「バッジが無いとゲームに参加できないのか」
「大丈夫だよ!
ゲーム用に予備バッジを貸してくれるから、バッジが無くてもゲームに参加できるんだ!」
「そうなのか……」
「おっと……そろそろ時間だね。じゃあ、お互いがんばろうぜ!」
そう言って、シュウトは会場に向かった。
ネクは、戦闘だけでなく、マーブルスラッシュも「楽しもう」と思った。
「さぁ、会場の熱気も加速してるぜ。次のバトルはコイツらだーっ。
青コーナー、ヘッドフォンがトレードマーク。初エントリーの桜庭音操!!
赤コーナー、常連選手、カレーも大好き
会場には、ネクとよこやんが立っている。
これから、マーブルスラッシュの対決が行われ、会場は既に盛り上がっていた。
「フフフ、僕が企画設計したバッジの力……見せてあげるよ」
「両者準備はいいか? レディィィィィゴゥ!!!」
「やった!」
「すげーよ! 兄ちゃん、初出場なのにすげーよ!」
シュウトが教えたセンスはよかったらしく、ネクはよこやんを圧倒した。
「さすがはネク君、小学生相手でも容赦ないね」
ヨシュアはネクを褒めているのか貶しているのか、ネクにはいまいち分からなかった。
「でも、兄ちゃんは次で負けるよ」
「え……」
「だって、次の相手はユーショーコーホだもん。めちゃくちゃ強いぜ~。
次はまぐれで勝ち、なんて絶対期待できないよ」
優勝候補とは、一体誰なのだろうか。
シュウトが言っているのだから、かなり強いのは間違いないと思うが……。
「フフフ……。じゃあ、僕は客席で真心こめて応援しているよ。ネク君、がんばってね」
そう言って、ヨシュアは会場に向かった。
「さぁ~、会場のボルテージは振りきれ寸前!! 次は注目の対戦だ! 青コーナー桜庭音操!
対する赤コーナーは優勝候補ナンバー1、シード参戦の……弾修斗!!」
「なっ!」
なんと、対戦相手はシュウトだった。
つまり、この戦いは、マーブルスラッシュの卒業試験という意味でもある。
「兄ちゃん、初めてでここまで来るなんて流石だね!
だけど、勝たせるわけにはいかないよ。優勝は、絶対オレだ!!」
マーブルスラッシュで優勝しない限り、目的のバッジを手に入れる事はできない。
ネクは気を引き締めて、シュウトと勝負した。
「ほえろ!! オレのレッドカイザー! いっくぜ~~!! 完全燃焼ッ!!」
シュウトが叫ぶと、ネクのバッジが一瞬にして燃えた。
いや、あまりにスピードが速すぎて、ネクのバッジが吹き飛ばされたのだ。
「あっ!! 一瞬で……ま……け……た……?」
「兄ちゃん、なかなか強そうだったから、オレも本気を出させてもらったよ!」
シュウトは何度もマーブルスラッシュをやった。
だから、そのプライドもあるのだろう、負けを譲るわけにはいかなかったのだ。
「注目の対戦は、赤コーナー、弾修斗の勝利だ!! 優勝候補は決勝戦に進出だ!」
「本気のオレに勝てるヤツなんて、この渋谷にはどこにもいないッ!
それじゃオレ、決勝戦だからそろそろ行くね! また次の大会で勝負しようぜっ!!」
シュウトはネクの事情を知らない。
今、大会で優勝しなければ、目的のバッジを手に入れる事はできず、
ミッション失敗で消滅してしまうのだ。
「ざ~んねん、やっぱり負けちゃったか。まぁ、初めてじゃしょうがないよね」
「おまえっ!! どうしてそんなに平然としてられるんだよ!
俺達……ミッション失敗したんだぞ!」
「うん、そうだね」
ミッションをクリアするためには、マーブルスラッシュで優勝する必要がある。
それなのに、ヨシュアはまるで渋谷を俯瞰しているような態度を取っている。
とてもパートナーには相応しくない性格だった。
「でも大丈夫だよ」
「えっ!?」
ネクとヨシュアが会場を見ると……。
「おーっと!? まさかのトラブル発生だ!!」
「なんだ……?」
どうやら決勝戦の最中に、トラブルが起こったらしい。
「さぁね、ハプニング発生みたいだよ」
「行ってみよう」
何が起こったのか事情を調査しなければならない。
ネクとヨシュアは、会場に向かった。
決勝戦は、シュウトVSソウタ。
シュウトはレッドカイザーを使おうとしたが、レッドカイザーが故障してしまっていた。
その間にソウタがバッジを使い、シュウトのバッジを全て落とした。
「まさかのアクシデントで、優勝候補が決勝で敗退だ!! 優勝は初参加の
この大会で優勝したのは、バッジを配る手伝いをした事があった、ソウタという青年だった。
「シュウト君、負けちゃったみたいだね」
だが、ソウタが優勝すると同時に、ネクの手のタイマーが消えた。
つまり、ミッションを達成したという事になる。
自分は優勝していないのに、何故……? とネクは首を捻った。
「優勝した彼も、死神のゲームの参加者だよ」
「え?」
ルール上、参加者がミッションを達成すれば、他の参加者もミッション達成という事になる。
つまり、ソウタもネクと同じ、死者だったのだ。
「タイマー、消えたよ!」
「ミッションクリアだな」
ソウタと付き合っているナオも、参加者だった。
「ネク君も知ってるでしょ? ミッションは参加者のうちの誰かがクリアすればいいのさ。
僕達ががんばる必要なんてないんだよ」
「ともかく……助かった……」
ソウタのおかげで何とかミッションを達成できた。
ネクは表に出さなかったが、内心ではソウタに感謝していた。
「なんとかクリアできたね」
「明日もこのチョーシでがんばろうぜ」
「まって! 兄ちゃん。もう一度オレと勝負……あれ? いない……。
どこ行っちゃったんだろう……」
去っていくソウタに、シュウトはリベンジマッチを誓った。
だが、その声は、ソウタには届かなかった。
「ミッションなんて誰かがクリアしてくれる。僕達は、とにかく生きのこればいいのさ。
あらゆる手段を使ってね」
「でも、誰もクリアできなかったら?
今日だって、もし、あの時トラブルが起きてなかったら……俺達、終わりだったんだぞ!」
ネクは他人を大事にしないヨシュアに怒っていた。
それは、今までの自分から脱却した証だった。
他人の価値観は無意味と思っていたネクが、
他人を大事にするようになったのは、良い成長だと言っておこう。
「フフフ……もちろん最低限の努力はするよ。それに、あのトラブルは僕がやったのさ」
「なっ!?」
「ネク君が戦ったふたりのバッジをちょっと拝借して……かわりに僕のをあげたんだ。
ちょっとだけ細工をしてあるバッジをね。だから、拝借したバッジはネク君にあげるよ」
「なんだよ、それ……」
「僕達が勝つ必要はない。シュウト君が負ければいいだけでしょ?」
ヨシュアのやっている事は、明らかに人道に反していた。
ネクはますます、彼に不信感を抱くようになった。
「おまえ……なんてひきょうな……」
「いいじゃない、ミッションはクリアできたんだし。
そもそも、それが目的で大会に参加したんだからね」
「だとしても、どうしてそれをだまってたんだ!?」
「フフフ……味方をあざむかないと敵はあざむけないでしょ?」
ネクの言葉に対し、含み笑いを崩さないヨシュア。
「あざむくって……誰をだよ」
「それに、ネク君が勝ったら勝ったでミッションクリアなんだから、
それはそれでおもしろいでしょ」
「フザケルな……俺をもてあそんでるのか!? 俺はおまえのオモチャじゃない!」
ヨシュアにとって参加者は駒のような存在らしい。
参加者は皆、死者であるため、ヨシュアは死者を冒涜しているという事になる。
当然、今のネクとしては怒りを隠しきれなかった。
「さぁネク君、ここからは僕の時間だよ」
「何!?」
「今度は僕の用事につきあってよ」
ヨシュアはネクを軽く受け流し、用事に付き合ってほしいと言い出した。
こんな奴の用事なんか、誰が聞くかと思った。
「だから俺はおまえの……」
「ほら、ネク君が言ったでしょ? ミッションが終わったら僕の自由時間って」
「くっ……分かったよ」
「じゃあ、スクランブル交差点に戻ろう」
ネクは渋々、ヨシュアと共にスクランブル交差点に戻るのだった。