すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
ネクとヨシュアはゲームマスターのミナミモトに出会う。
ミナミモトは彼らを罵倒し、ゲームの参加者が生き残る確率を「無い」と言い切る。
一方、ビイトは死神になり、ネクを殺す任務を受ける。
ビイトはライムを復活させるために死神になったらしいが、
ネクはかつての仲間であるビイトに挑む事ができるのだろうか。
死神のゲーム、三日目。
「ここは……今日もスクランブル交差点か」
ネクはスクランブル交差点で目を覚ました。
「うん……今日は行くよ……」
ヨシュアは相変わらず、携帯電話で誰かと話をしていた。
そろそろ今日のミッションが来る時間だ。
ミッションに備える必要がある。
だが、いつまで経っても、ミッションを通達するメールは来なかった。
「ねぇ、ネク君」
「な、なんだよ……」
ヨシュアは微笑みを浮かべていたが、どう考えても本心ではなさそうだ。
「今日は僕の用事につきあってくれるよね? 僕、行きたいところがあるんだ。
昨日は結局、僕の頼みは聞いてくれなかったでしょ? だから、今日はいいよね。
ちょうど、まだミッションも出てないし。今から先に用事を済ませに行こう」
ヨシュアはどうしても行きたい場所があるらしい。
昨日、ミッションが終わったら、ネクはヨシュアに付き合うと口約束した。
「ダメだ! 昨日も言っただろ。自由時間はミッションが終わってからだ」
しかし、もちろん、口約束に過ぎなかった。
ミッションもそうだが、ネクはヨシュアを信じられないのだ。
「それに……そろそろミッションが……」
ネクがそう言うと、携帯電話に着信音が鳴る。
ミッションを通達するメールが届いた証だ。
「ほんとだ……。ネク君、ミッションだよ! えっと……」
メールには、こんな文章が書かれていた。
キャットストリートに向かえ 制限時間は15分
60分、300分と来て、15分とは、過去最短の制限時間だった。
短時間で遠い場所に行くとは、無理ゲーだ。
「今日のミッションは、ちょっと急いだほうがよさそうだね」
「話してる暇はない、早く行くぞ!!」
「はいはい」
ネクは大急ぎで、ヨシュアはマイペースに、キャットストリートに向かった。
すぐに向かわなければ、ネクは消えてしまうかもしれないからだ。
お分かりいただけただろうか。
実は、このメールの文章には、最後に「未達成なら破壊」と書いていなかった。
しかも、ミッションが通達した時、ネクの手に痛みは走らなかった。
これが何を意味するかは、読み進めれば分かる。
カドイに行ったネクとヨシュアだったが、赤いパーカーを着た男――死神が立ち塞がる。
「……アイツは!?」
「どうやら壁があるみたいだね」
「くそっ! 急いでるのに」
15分以内にキャットストリートに向かうのが、三日目のミッションだ。
壁が立ち塞がれば、間に合わないかもしれない。
壁を解除するためには、特定のノイズを倒す事。
蛇型ノイズ、ペンギン型ノイズ、カニ型ノイズ、カンガルー型ノイズが二人を襲ってくる。
「特定のノイズって、こいつらの事だろうな」
ネクがそう言いながらノイズを倒す中、何故かヨシュアは平然としていた。
まだ彼には事情が分からなかったが、ヨシュアはやはり、何かを考えているようだ。
「これでいいか?」
「条件達成を確認」
こうしてノイズを撃退し、壁は解除された。
宮下公園ガード下に行くと、そこにも壁があった。
解放条件は、ポップペンデュラムというバッジを持ってくる事。
キャンサンプリというカニ型ノイズが持っている。
突起をブーメランのように飛ばしてくるのが特徴。
ノイズを撃退したネクとヨシュアは、宮下公園を進んでいく。
(ヨシュア……おまえは一体何を考えているんだ)
スキャンできないヨシュアの考えを、ネクはどうしても見たいようだ。
他人と関わるのを拒んでいたネクだったが、前回のゲームから成長していると言える。
そして、ネクはキャットストリートに到着した。
「着いた!! ミッションクリアか!?」
メールには、そうとしか書いていなかった。
ここに着けば、ミッションクリアのはずだが、何故かネクの手にはタイマーがなかった。
しかも、携帯電話が通じておらず、ミッションも届いていなかった。
「ふぅ……やっと着いたね」
遅れてヨシュアも、含み笑いを浮かべながらキャットストリートに到着する。
「まさか……おまえ……俺をダマしたな!」
ここまで読んできた人なら、もう気付いただろう。
ネクに偽のミッションを送ったのは、紛れもなくヨシュアなのだ。
「未達成なら破壊」と書いていなかったのは、ゲームマスターが送ったものではないからだ。
「うん、こんなにうまくいくとは思わなかったよ」
「おまえ……ふざけるな!!」
「まあまあ……べつにいいじゃない。
ミッションはまだ出てないんだし、せっかくだから、ちょっとつきあってよ」
ゲームマスターはとても気まぐれなので、いつミッションを送るのかは分からない。
だから、ヨシュアはネクを遊ばせるために、こんな事をしたという。
「……」
ネクは渋々、ヨシュアと共にワイルドキャットに行くのだった。
「羽狛さ~ん」
「お~!! 待ってたぞ、ヨシュア」
ワイルドキャットにいたのは、以前の死神のゲームでもネク達を手助けした男、ハネコマ。
どうやらハネコマとヨシュアは知り合いらしい。
「羽狛さん!?」
「おっ!? ヘッドフォン! なんだ、おまえ、またゲームに参加してんのか!?」
「はい……。でも、そのせいで、シキが……俺のエントリー料に……」
しつこいようだが、エントリー料とは、自分が最も大切にしているものである。
「そうか……じょーちゃんが……。まあ……あれだ、こうなっちまった以上、もう気にすんな! それに、じょーちゃんだってきっと、おまえのこと、悪く思ってないぜ」
「羽狛さん……」
シキがエントリー料になり、落ち込むネクをハネコマは優しく励ました。
「ネク君も、羽狛さんと知りあいだったんだね」
「ああ。前回、いろいろ助けてもらったんだ」
「それは奇遇だね。僕も羽狛さんには昔からお世話になってるよ。
羽狛さん、さっそくだけどアレ、お願いするよ」
「よし、じゃあケータイ出せ」
「ほら、ネク君も出して」
ヨシュアは携帯電話のバージョンアップをさせ、使える機能をさらに増やしたいらしい。
「よし、ちょっと待ってろや」
ハネコマはネクとヨシュアの携帯電話を預かった。
ヨシュアによれば、前もって連絡を入れておいたため、すぐに終わるとか。
つまり、ヨシュアの電話相手は彼だったのだ。
「待たせたな、ほらよ」
「ありがとう。これでやっと探しに行けるよ」
ハネコマはネクとヨシュアの携帯電話を返した。
これで、特定の場所でも通じるようになるとか。
「探す……って何を?」
「見つけてからのお楽しみ。じゃあ、表で探知機を起動してみよう」
ヨシュアは携帯電話を開いて、探知機を起動する。
画面に照準が浮かぶが、反応はない。
「じゃあ行こうか、ネク君。渋谷中をめぐって、反応が強いところを探すよ」
そう言って、ヨシュアはどこかに向かった。
「おう! どうした、ヘッドフォン。何か俺に聞きたいことでもあるのか?」
去っていくヨシュアを見るネクに、ハネコマが声をかけてきた。
ネクは聞きたい事をハネコマに聞き出した。
・ハネコマはワイルドキャットで働いている。
・ワイルドキャットはおしゃれだが、誰も来ない。
・ハネコマは無類の豆好きなのでカフェを始めた。
・ヨシュアはあるものが“視える”特殊体質。
・死んでいないが、霊的なものを感知できる。
・探知機は高エネルギーに反応する。
「暇つぶしにヨシュアと散歩してこいよ。今日はまだミッションが出てねぇだろ?
ボーっとしてたらもったいねぇぞ」
「でも……」
ヨシュアはなかなか信用できない人物なので、そう簡単についていくわけにはいかない。
「ナットクいってねぇみてぇだな。
忘れたか? 渋谷を生き抜く
「分かってる……でも……」
「変わってねえなおまえは。頭で分かってても、実行しなきゃ意味ないだろ。全力で今を楽しめ」
「え!? ……その言葉……」
未だ過去に縛られているネクを、ハネコマは激しく叱責した。
蘇生したシキはエントリー料になったが、死神のゲームに勝って、取り戻せばいいだけなのだ。
ハネコマの言葉はネクには聞き覚えがあるようだ。
聡明な読者なら誰が言ったかは推測できるだろう。
「あ? 俺、今、変なこと言ったか?」
「全力で今を楽しめ、俺が唯一尊敬する人の言葉なんだ。だから、それが俺のスタイルだ」
「その割には行動がともなってねぇな」
「今はそれどころじゃないから……」
「そうか……やっぱ、おまえはまだまだだな」
ハネコマはネクを未熟者だと言った。
しかし、逆に言えば、成長の余地があるという意味でもある。
「いいか、ヘッドフォン! 世界ってのは自分に見えてるとこまでしかない。
だから、楽しむためには自分が見える世界をガンガンひろげなきゃならない」
世界は広いようで狭い。
自分自身の手で、世界を切り開けば、成長する……と、ハネコマはネクに言ったのだ。
「……世界を広げる……。でも、今は……死神のゲームに参加させられてる。
渋谷に閉じこめられてるのにどうやって?」
「んなもん、自分で考えろ。ほら、行ってこい!!」
全力で今を楽しめ……それが、今のネクの原動力なのだ。
「見つけたぞ!!」
「だ、誰だ?」
キャットストリートを後にしたネクとヨシュアの背後から、何者かが声をかけてくる。
「覚悟しやがれ! ヘッドフォン! 今すぐここでぶっツブしてやる!!」
二人の背後にいたのは……黒い翼を生やした、ビイトだった。
「おまえ……無事だったのか!!」
「おう、見てのとおり、ぴんぴんしてるぜ!」
かつて共に戦ったビイトが死神側に回るなんて、信じられないと思ったネク。
だが、同時に生きていたのか、という嬉しさも湧き上がってきた。
「おまえ……その羽……」
「へっ、似合うだろ? 死神の印だ」
「死神……おまえ……本当に死神に……」
ビイトの肩には、オレンジ色の鼠型ノイズが乗っている。
読者なら、ビイトが死神になった理由は分かるはずだが、ネクはまだ知らなかった。
「あれ? ネク君、死神とも友達なのかい? 意外と交友関係広いんだね」
「こんなヤツ、友達でもなんでもねぇ。俺はおめぇらを消しにきたんだ」
死神になったビイトは、ネクを消す任務を受けた。
個人的な感情は捨てなければ、という考えのもと、ビイトはネクに戦いを挑もうとしていた。
「おまえ……本気か……」
「ったりめーだ! いくぜっ!!」
ビイトはスケボーに乗って、いきなり二人に襲い掛かってきた。
「おい、ビイト! おまえ、本当にあいつらの味方なのか!?」
ネクは叫びながらビイトに攻撃を繰り出す。
ビイトはスケボーに乗りながら、ネクの攻撃をかわしていく。
「俺は死神だ……もう、おめぇらの味方じゃねぇ」
「ビイト……」
「あの死神、ビイトっていうのかい?」
「ああ、かつては一緒にゲームを攻略したけど……」
「油断大敵だぜ!!」
ネクとヨシュアが話しているうちに、ビイトは思い切りスケボーで急降下する。
攻撃も、スケボーを盾代わりにして防いだ。
「ネク君、どうしたの? なんだか攻撃が緩いね」
「……あいつは死神だ、倒さなきゃいけない……。けど、あいつはビイトなんだ……!」
ネクは死神のゲームを攻略するにつれて、仲間を大切に思うようになった。
だが、最初のパートナーのシキは二回目のゲームのエントリー料になり、
仲間のビイトは死神になった。
この事が、ネクに攻撃を躊躇わせているのだろう。
「どうした! 早く攻撃を当てろよ!」
「ビイト……俺は……」
「来ないから、こっちから行くぜ!」
そう言って、ビイトはスケボーでネクに体当たりを繰り出した。
「つ……つよい……」
死神になったビイトの攻撃は強力だった。
ネクとヨシュアは彼から撤退せざるを得なかった。
「けっ! なんだよ。おめぇのサイキック激ヨワだぜ!
手ごたえなくてがっかりだ……つまんねぇ!」
しばらくして、ビイトは、ふぅ、と息をつく。
「今日はここまでにしといてやる。フン……命拾いしたな」
「おい、待て!」
撤収しようとするビイトに、ネクは傷つきながらも叫ぶ。
しかし、ビイトの耳には入らなかった。
(ビイト……)
「まったく……とんだ不良死神だねぇ……。
死神から攻撃してくるなんて、ルール違反もはなはだしいよ……」
事情を知らないヨシュアが、ビイトの背中を見て言う。
ヨシュアは死神のルールについて知っており、ノイズをけしかけないビイトに呆れていた。
「アイツはもう、俺の敵なのか……」
「そうだろうね。彼、本気で僕らを消そうとしてたよ。ネク君は人望も薄いねぇ。
今後は少し警戒が必要かな。くわばら……くわばら……」
呪文を唱えながら、死神ビイトを「警戒」するヨシュア。
やはり、彼は何かを知っているようだが……。
「さぁ、先を急ごう」
(……なんで、おまえが死神になったんだ……)
かつて共に戦った仲間が、自分達を裏切って死神になるなんて。
ネクには、とても信じられないようだ。