すばらしきこのせかい Shibuya Survival   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

あまりにハイセンスなミナミモトのスクラップの塔は、虚西充妃の命令で死神が撤去した。
二人はマーブルスラッシュのプレイヤーとすれ違いつつ、ネクとヨシュアは探知機を探す。
その後、ナチュラル・パピィを1位にして、探知機を探し出すのだった。


33 ラーメンの誇り

「ん?」

「なんだ? 反応か?」

 道玄坂に辿り着いたネクとヨシュア。

 ヨシュアは何かを発見したようで、ネクは反応かとヨシュアに聞いた。

「うん……あれ」

 ヨシュアが見ていたのは、行列だった。

 相当、人数が多く、何か人気のあるものがそこにあるのだろう。

「なんだ、あの人だかりは……」

「なにかあるのかな……行ってみよう」

 そう言って、ヨシュアは行列の中に潜った。

 

「おいっ! 待てよ! ったく……何を探してるんだ?」

「はぁ……」

 ネクが慌ててヨシュアを追いかける時、らあめんどんの店主が溜息をついた。

 何を考えているのか、ネクはスキャンしてみる。

 

―どうしてあんなに人気があるんだ? 味はたいしたことないのに……。

 

 らあめんどんの店主は、自分のラーメンの味に誇りを持っているようだ。

 しかし、相変わらず客は来ないし、他のところに客が集まっている。

 何か別のラーメン屋があるのだろうか。

 二人が行列のいる場所に行くと、そこは「暗黒拉麺」という店だった。

 

「ここは……ラーメン屋か?」

「最近できたお店みたいだね」

 渋谷の人は新しいもの好きだ。

 ここに集まるのも無理はない、とヨシュアは思っている。

 携帯電話は、ここに反応しているようだ。

 

「ちょっと~! 割りこみしないでよ~」

 いきなり割り込んできた二人を止めようとしたのは店主らしき黄土色のスーツの男だった。

「困りますよ~お客さん。外の列にお並びください」

「仕方ない……外に出て並ぶか」

「困ったね……」

 ネクとヨシュアは一度外に出て、暗黒拉麺に行こうとする人の行列に並ぶ。

 しかし、ネクは店の外では一般人に見えず、行列に並ぶ事はできない。

「困ったね……行列がぜんぜん途切れない。ケータイはこの店に反応してるし……」

 行列は途切れず、携帯電話の反応も強い。

 ネクは、ヨシュアの考えが、相変わらず理解できなかった。

「なんだ!? この気配は!?」

 すると、ネクは何かの気配を感じる。

 振り向くと、そこにはらあめんどんの店主がいた。

「気配の正体はあのオッサンか……。ネガティブになってるな」

「行列の店を見てるね」

「この店に何かあるのか?」

「ケータイ反応と関係があるのかもしれないね」

「オッサンのノイズを払ってみるか」

 ノイズにとりつかれているならば、まずはそれを払う必要がある。

 ネクは店主をスキャンし、ノイズを見た。

「やっぱり……」

 予想通り店主には橙色のノイズがとりついていた。

 ネクとヨシュアはサイキックを使い、橙色のノイズを撃退した。

 

「はっ、いかんいかん。こんなことしてても時間のムダだ。新メニューを考えよう!!」

 ノイズから解放された店主は正気に戻る。

 あの暗黒拉麺に負けないようなメニューを考えるため、店の中に入った。

 行列はまだまだ続きそうなので、店主に事情を聴く必要があるようだ。

 

 しかし、いつまで経ってもミッションは来なかった。

 本当に、ゲームマスターの「彼」にやる気はあるのだろうか。

 

「いらっしゃい!」

 らあめんどんに入ったネクとヨシュアに襲い掛かったのは、強烈なにおいだった。

 相変わらず、ネクとヨシュア以外の客はいない。

「何にするかい? 今なら超オススメ、期間限定の大漁ラーメンあるよ」

 一体どんなラーメンが出てくるのか、ネクには分からなかった。

 「大漁」という事は、魚が出てきそうだが……。

「俺はふつうのしょうゆラ……」

「おもしろそうだね。じゃあそれ、お願い。あっ、2つね」

 ヨシュアは自分とネクの分に、大漁ラーメンを注文した。

 店主は笑みを浮かべて、二人にラーメンを出す。

「ヘイ! お待ち」

 出されたラーメンは、予想通り、大量の魚介類が使われていた。

 鯛が丸々一匹入っているし、刺身もある。

 それでいて葱は忘れないという、なんとも大味なラーメンだ。

「ん♪ すごい。おじさん、おいしいよ!」

「おっ! そうか? さっすが育ちがよさそうなだけはあるな!!」

「どうしたの? ネク君も早く食べなよ」

「……ああ」

 ネクはヨシュアに促され、大漁ラーメンを一口。

「……お? そんなにまずくない……っていうか、ちょっとうまいかも……」

 魚を使ったラーメンは、意外にも好評なようだ。

 隠し味のチーズがスープにコクと深みを与え、さらに、豪快に鯛を一匹使う事によって、

 全体に凛とした表情も生まれている、とヨシュア。

「渋谷にも、まだ味が分かるヤツがいたのか……」

「……」

 確かにこのラーメンは悪くない味だ。

 だが、いくら中身が良くても、第一印象が良くなければ誰も注文しない。

 

「おや~? 今日もお休みですか~?」

 すると、後ろから声がかかってくる。

「誰だ?」

「やってるよ。お客さんだっているだろ。仕事の邪魔だ、帰ってくれ」

「あぁ~、すいません。お客が少なすぎて気づきませんでした」

 らあめんどんの店主に声をかけてきたのは、暗黒拉麺の店主だった。

 どうやら、ここの店主に嫌味を言いに来たらしい。

「ところで……例の件、考えてくれましたか?」

「あんたとは話したくない、帰ってくれ」

 らあめんどんの店主は、暗黒拉麺の店主を嫌っているようだ。

 彼の態度が悪いから、当然なのだが。

「困るんですよね~。そろそろ決めませんか? 素直に我々の傘下へ入りましょう?

 モウケ倍増ですよ。渋谷の人がラーメンに求めるのは味ではありません。非日常です。

 渋谷でラーメンを食べるという行為は、お客様にとって祭りなのです。

 行列に並ぶところからすでに祭りは始まっているのです。

 つまり重要なのは『売り方』なんですよ。味なんて分かるわけがない」

 暗黒拉麺の店主の言葉は、らあめんどんの店主には嫌味にしか聞こえなかった。

 自分はラーメンの味に誇りを持っているのに、傘下に入るのは誇りを穢すものだからだ。

 しかし、最後の言葉「売り方」は、らあめんどんの店主に閃きを思いついたようだ。

「では、傘下の件、考えてくださいね。あと1ヶ月の期限です」

 そう言って、暗黒拉麺の店主は店を出ていった。

 

「ははは……。みっともないとこ見せちまったな」

「トラブルかい?」

「はは……子供にまで心配されるとはな。聞いてくれる……ってのかい?」

 事情を聴こうとしたネクだが、そうしたところでネクには何もできなかった。

 ラーメンの売り方なんて、ネクには分からないからだ。

 すると、ネクは最初の死神のゲームを思い出す。

 

―ちょ……おまえ!!

―聞くだけ!

 

「……聞くだけ……聞くだけしか……できないけど」

「ははっ、ありがとな。それで十分だよ」

 シキの言葉を思い出したネクは、聞くだけでもいいと思った。

 らあめんどんの店主は、こほん、と咳き込む。

「ご覧のとおり、客が全然入らなくてな。

 今月中にモウケの見込みが立たないと、この店をたたまなきゃならないんだ」

 一ヶ月以内に客が入らなければ、らあめんどんは閉店してしまう。

 自分が経営する店を失いたくない、ラーメンの味を失いたくない。

 その誇りが、今のらあめんどんの店主を動かしているのだ。

「おいしいのに……やめちゃうの?」

「ヤツらに買収されれば続けられるんだが……」

「いやなのか?」

「あの店の味は悪くないが……味に対して愛がない。

 ラーメンを金儲けの道具くらいにしか思ってないんだ。

 それに、ラーメン以外の小細工で客をひくのが許せない。

 俺はラーメンの味だけで勝負したいんだ」

 らあめんどんの店主が誇りに思っているのは、自分が作るラーメンの味だ。

 そんな前時代的な考えは、現代的な渋谷の人には合わないのだろう。

キャァァア!!

 すると突然、店の外で、女性の叫び声が聞こえてくる。

「なんだ?」

「小細工が始まったのさ。外に行けば分かるよ」

 

キャァァア!!

王子、カッコいい!

 ネクとヨシュアが外に出ると、人々が叫び声を上げていた。

 あの人気タレントの王子英二が、暗黒拉麺に入っていったのだ。

 二人は急いで王子を追いかけていく。

 

「うまい……今、ここで死ねたら……この上ないしあわせだ!」

「出た! 王子のキメゼリフ!」

「王子、この店気に入ったのね」

「私も食べなきゃ!」

 人々は王子に熱狂しているようだ。

 彼がブログで紹介した店には、必ず行列ができるという。

 暗黒拉麺に客が多いのはそのためだろう。

「たしかに、この店のラーメン、うまそ……」

「そうだね」

 二人はじっと暗黒拉麺のラーメンを見つめる。

 ステーキ、もやし、ネギが入っていて、スープも黒いと、まさしく暗黒拉麺だ。

「ぜいたくのかぎりをつくしたラーメンだね」

「なんだ!? 店員が踊りながらラーメン作ってる!?」

 この店は、ラーメンを作る時に店員がパフォーマンスをするようだ。

 まるで遊園地のようだ、とネクは呟く。

 どうやら、これが渋谷の人々にとっての「非日常」のようだ。

 

「ここのラーメンはおいしいし、お店も楽しいから、僕のブログでも紹介させてもらったよ。

 これからも通わせてもらうよ」

「ありがとうございます!! 今月は開店記念です!

 ご来店いただいたお客様には、プレゼントをご用意しております!

 現在入手困難なこのバッジです!!」

 そう言って、店主は赤い髑髏のバッジを見せた。

「あのバッジ、今、激レアのやつじゃん!」

「マジでアレ、もらえるの!?」

 赤い髑髏のバッジ――レッドスカルバッジに客が群がっている。

 このバッジは、ネクには見覚えがあるようだ。

 シキと共にバッジの人気を上げるミッションで、このバッジを使った事があったのだ。

 つまり、このスーツの男は、あの時のプロモーターだという。

 人はちょっとしたキッカケで、ガラッと変わるものだとヨシュアは語る。

 

「よし、ネク君。店をでようか」

「えっ!?」

「ここにいるとまた割りこみだって怒られちゃうよ」

「……あ、あぁ。出よう」

 

 こうして、ネクとヨシュアは店を出た。

 ネクは王子と店主と彼らの行動を見て、らあめんどんの店主が愚痴る理由が分かった。

 王子英二という人気タレントを盾にしていると。

 

「ネク君、これは大変な事件だよ」

「はぁ?」

「すい星のごとく現れた人気ラーメン店……豹変したプロモーター、

 そしてあの赤いバッジ……ケータイが反応してたのはこれかもしれない」

 ヨシュアは現状をネクに語る。

 この状況を引き起こしたのは、レッドスカルバッジかもしれないと推測する。

「あのバッジから高エネルギーが出てるのか?」

「そうだ! あと……おいしいのに売れない。おじさんのラーメンも重要な謎だね」

 らあめんどんの店主は、味を誇りにしている。

 しかし、肝心の客が来ないために、らあめんどんは閉店の危機に陥った。

 何故美味しいのに売れないのか、ヨシュアは疑問に思っているのだ。

「決めたよ。今日はこの事件を追うことにしよう」

「おい! 勝手に決めるなよ!! 俺はミッションを……」

「でも……ミッションは出てないよ」

 ゲームマスターからミッションはまだ来ていない。

 その証拠に、手にタイマーも現れていないし、メールも届いていない。

 

「じゃあ、このラーメン屋の人気の秘密を探ってみようか」

「……分かったよ」

 ネクは渋々、ヨシュアと共に、この事件を解決する事にした。

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