すばらしきこのせかい Shibuya Survival   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

ネクとヨシュアは、人気ラーメン店「暗黒拉麺」の行列を発見する。
店主のプロモーションとレッドスカルバッジが人気の秘密だと気づく。
一方、客が来ない「らあめんどん」の店主は、自分のラーメンの味に誇りを持っていた。
ネクとヨシュアは、この二つのラーメン店の謎を解く事にするのだった。


34 本当の気持ち

 暗黒拉麺に入ったネクとヨシュアは、携帯電話を持った少女と出会う。

「ちょっと……割りこみは……」

「ねぇ……ちょっと聞きたいんだけど、いいかな?」

「えっ? なに? 友達いるから手短にしてよね」

「何でこの店のラーメンがそんなに好きなの?」

 ヨシュアは単刀直入に少女に質問する。

 ネクも高評価を出すほどらあめんどんのラーメンは美味しいのに、何故こちらを選ぶのか。

 らあめんどんの店主は味で勝負すると言った。

 ならば、この店は、味以外に何か良いところでもあるのかと、ヨシュアは聞きたいのだ。

「何でって……今、渋谷で超人気じゃん! ほら、お店も楽しいじゃん!

 踊りながらラーメン作るってすごくない?」

 ネクは、それだけでこの店を好きになるとは思えなかった。

 そもそも人気というのは、人の気という名の通り、人によって決まるものだからだ。

「限定バッジももらえたし、超サービスいいじゃん! 人気出て当たり前って感じだよね~」

 少女はきゃあきゃあと騒ぎながら話す。

「でも……このお店って、最近できたばかりでしょ? それなのに、何でこんなに人気なの?」

「王子がブログでこの店を紹介してたの。この店で死ねたらこの上ない幸せだ……って。

 絶対食べなきゃ、って感じでしょ?

 ……まぁ、一杯5000円は正直、かなりイタイけど……食べたら友達に自慢できるしね!

 写メ撮って送らなきゃ!」

 どうやら暗黒拉麺が人気なのは、王子英二がブログでこの店を紹介したかららしい。

 彼がブログで紹介した店は大ヒットするらしいが、それにしても相当な高級ラーメンらしい。

「ふ~ん……そういうことか」

「この店のラーメンはおいしいのか?」

「おいしいよ!

 王子もおいしいって言ってるし、5000円もするし……ほら、写真でもおいしそうじゃん!」

 少女は携帯電話で撮影した写真を二人に見せる。

「ねぇ……この店のラーメン以外でどんなラーメンが好きなの?」

「え? 好きなラーメン?

 そうだなぁ~、ラーメンってそんなに好きじゃないから、

 食べたいラーメンって特にないかも……」

 どうやらこの少女は、人気という理由だけでこの暗黒拉麺によく入りたがるのだ。

 ラーメンの味目当てで入って来たわけではない。

「あっ! でも……デザートみたいなラーメンがあったら超ウレシイかも!」

「で、デザート?」

「そう! フルーティーなラーメン」

「うん、ありかもね」

 そんなラーメンを食べてみたいという読者は、よほどの物好きでないといないだろう。

「ありがとう、参考になったよ」

「じゃあ、私、もう行くね」

 

 少女から情報を貰った後、ネクとヨシュアは店を出ようとした。

 その時、ネクの携帯電話に「デザート」というキーワードが登録された。

 

「あのラーメン屋に勝つには……斬新なラーメンを開発しなければ……

 何か……いいアイデアはないか……。若い人が好きそうな……斬新なラーメン……」

 ネクはぶつぶつと呟いているらあめんどんの店主に「デザート」をインプリントした。

「そうだ……これだ!」

 

「おっ! ちょうどいい。試作だ、食べてみてくれ。デザートラーメンだ!」

 らあめんどんの店主は、フルーティーなラーメンを二人の前に出した。

 メロン、さくらんぼ、オレンジ、りんご、そしてウエハースが入ったラーメンだ。

 味はなかなかの高評価だったようだが、やはりまだ何かが足りないようだ。

「渋谷はしょせん、流行ばかり追いかけて、味なんかみちゃいねぇのかもしれねぇな」

「……おじさん。なんか……おかしくないか?

 オッサンのラーメンはうまいのに有名になれなくて、

 あっちの店は並ぶほど人がいるのにみんな味をみていない。

 こういうの……嫌だな」

「仕方ないさ、競争社会だからね」

 ネクは人付き合いはあまり得意ではなく、外面よりも内面を評価している。

 らあめんどんのラーメンはこんなに味が良いのに、二度と食べられなくなるしれない。

 そんな事を、ネクは考えていた。

「なんで、あっちの店にあんなに人が並ぶんだ?

 みんな、味はたいしたことないって思ってるのに……」

「みんな、話のネタとして並ぶんだよ。人は常に他人と話すために話題を探してるものさ。

 『有名店に並んで食べた』っていう話題が欲しいんだよ」

 渋谷の人は、そういう考えの人が多いらしい。

 分かっていても、ネクは認められなかった。

「ははは……ありがとうな、ボウズ達。

 まあ、あきらめるわけじゃないが、残った期間、悔いのないようにラーメンを作るさ。

 アイディアがあったら教えてくれ」

 らあめんどんを救うには、もっとたくさんのアイデアが必要なようだ。

 ネクとヨシュアは情報収集をするのだった。

 

 二人は王子が行ったというA-EASTに辿り着く。

「王子……それじゃ困るんだよね~」

「ミッキー……」

「ちゃんと契約は守ってもらわないと」

「だけど……」

 何やら王子とミッキーは、契約に関する話をしているようだ。

 ネクは、二人の話を聞いてみる事にする。

「んで、何でブログ変えちゃったのよ、王子」

「だから言ってるじゃないか。自分のブログは自分で書くって」

「うん、分かる、分かるよ~、王子。でもね、これはビジネスの話なんだよ。

 あんたの人気はホンモノさ。それは俺も認めてるよ。

 でもね、あんたが書いた文章じゃ、ウチのラーメンは売れないんだよ。

 契約の時に言ったでしょ? 文章はこっちが用意するって」

 暗黒拉麺の店主――ミッキーは、王子を金儲けに使おうとしていた。

 王子は首を横に振ってこう言った。

「ミッキー……それじゃ……僕のブログじゃない。

 それにあのラーメン、そこまでおいしくないよ。

 僕がおいしいって言ったのは、試作の時のラーメンだよ。

 僕はこれ以上嘘を言いたくないし、ブログにも載せたくない。ファンの子達に……」

「ノン、ノン、ノン。大丈夫だよ、王子。客は誰ひとり、味なんてみちゃいない。

 分かるかい? これはビジネスなんだ。ようするに売ったもの勝ちなんだよ」

「ミッキー……」

 彼は目に見えるものを金儲けとしか思っていない。

 流石の王子も、これには反発せざるを得ない。

「今日の夜までに原稿と写真を送っとくよ。必ずブログに載せてよね。……んじゃ」

 そう言って、ミッキーは店に戻っていった。

 

「……そういうカラクリだったんだな」

 暗黒拉麺が人気の理由が、ネクにも分かった。

 ミッキーが王子に原稿と写真を渡し、あらかじめこのように投稿するよう促す。

 王子は人気ブロガーなのでミッキーは彼を利用し自分のラーメン屋を人気にしようとしたのだ。

 しかし、王子はこれ以上、暗黒拉麺に関わりたくないようで、

 その隙を突いて彼にノイズがとりつく。

 まずは、彼からノイズを払う必要があるようだ。

 ネクとヨシュアは身構え、ノイズに戦いを挑んだ。

 相手はカンガルー型ノイズとクラゲ型ノイズ、ネクが前に出てヨシュアが後ろから攻撃する。

 この基本的な戦略によって、ノイズは撃退された。

 

「やっぱり、このままじゃいけない。ファンの子達には嘘はつけない。

 ミッキーにもう一度言おう。僕のブログは僕が書くって」

 ノイズを撃退し、正気に戻った王子は、ミッキーの提案を蹴る事を決意した。

「僕のブログ……本当の感想……僕が本当に載せたいラーメンか……。

 昔食べた……あの懐かしいラーメン……。

 セバスチャンが作ってくれたラーメン、スープがあって……メンが浮いてる」

 王子は自分が載せたいラーメンを思い出す。

 セバスチャンが作ってくれた、昔懐かしのあのラーメンの味、それは……。

「素朴であたたかいラーメン。あぁ……もう一度、あの頃のラーメンが食べたい……」

 それは、家で出される素朴であたたかいラーメン。

 都会とはまた違う、おふくろの味のような素朴さ。

 王子が本当に食べたがっていたラーメンは、「素朴な味のラーメン」だったのだ。

 

「人気もあるし、なに不自由なさそうなのに……悩みって、人それぞれだね」

「でも、ラーメンにこだわりすぎじゃないか?」

「フフ、こだわりも人それぞれさ」

「ついてけない……」

 渋谷の事情をよく知っているヨシュアに、ネクは何一つついていけなかった。

「当然だよ」

「え?」

「人はそれぞれ、心の中に自分の世界……

 誰も入ることを許さない、自分だけの世界を持っているのさ。

 その世界はその人物の個性という法則で成り立っている。

 そこでは、ほかの世界の法則は成り立たない。だから、他人を理解できないのは当たり前だよ」

 確かに、ネクが他人を理解できないのは、持っている世界が違うからかもしれない。

 ネクはハネコマの言っていた事を思い出す。

 

―世界ってのは自分に見えてるとこまでしかない。

 だから、楽しむためには自分が見える世界をガンガンひろげなきゃならない。

 

 いつの間にか、王子が言っていた「素朴」という言葉が携帯電話にインプリントされたようだ。

 ネクにとって、他人は覗く事すらしたくなかった。

 だが、ハネコマの言葉によって、

 ネクは自分の世界から一歩踏み出す事を考えた……のかもしれない。

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