すばらしきこのせかい Shibuya Survival   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

死神のゲームも四日目になり、ネクとヨシュアがマーブルスラッシュで勝負する。
一方、死神の女性幹部、虚西充妃が北虹寵に報告し、
ミッションが出されていないにも関わらず、参加者が減少している事を伝える。
その後、ヨシュアはネクに何を探しているのか尋ね、
ネクは自分が宇田川町に行くと決めるのだった。


37 ネクは名探偵?

 宇田川町に自分の手がかりがあると思ったネクは、壁を解放しながら宇田川町に向かう。

「あれ? あそこに死神達がいるよ」

 千鳥足会館前に着いたネクとヨシュアは、死神がいる事に気づく。

 

「もう警察に頼んじゃおうぜ」

「バカ! 俺達ロックな死神なんだぜ? そんなカッコわりぃことできるか!」

「ってか、そもそもおまえがしっかりしてねーから」

 下っ端の死神と、『デスマーチ』のボーカル、777が何かを話しているようだ。

「メンドウにまきこまれたくない。無視していこう」

 何やら揉め事があるようだが、ネクは自分には関係ないと思ってスルーした。

 

 トウワレコード前には、カリヤとヤシロがいた。

「……ったく、何かてがかりはないのかしら……」

「まぁまぁ、そう焦りなサンナ……。ゆっくり探しまショウ」

「何、言ってんの! 虚西さんから直々の命令よ。これはなんとしても……」

 どうやら二人は、虚西充妃の命令で、何らかの手掛かりを探しているようだ。

「って……何よ……またアンタ達?」

「やぁ、今日は忙しそうだね」

 ヨシュアは気軽に二人に声をかける。

 やはり、ヨシュアは死神と何か関係があるようだ。

「フン……そうよ。アンタ達にかまってるヒマないのよ。行くわよ、狩谷!」

「アイヨ……」

 そう言って、二人の死神は去っていった。

 この辺に反応は薄いので、ネクとヨシュアは再び千鳥足会館前に戻った。

 

「おっ! おまえはこの前の……」

「あっ……アンタは……」

「ちょうどいい、おまえら今、ヒマだろ? ちょっと頼まれてくれないか?」

 確かに今はミッションが出ていないため、ネクとヨシュアに用事はない事になる。

 ヨシュアは「宇田川町に行く」と言い出したが、

 どうしても進めない場所があるため、ここで頼みを聞く事にした。

「……で、問題ってなんだよ?」

「じつはな……俺達バンドのマイクが無くなったんだ!」

 777はマイクをなくしてしまったらしい。

 ボーカルにとってマイクは命と並ぶ大切なもの、それをなくしてしまっては生きられない。

「事件が起きたのは昨日の午後2時頃だ。

 昨日はモルコでちょっとしたイベントがあってな、問題のマイクで一曲披露したんだ。

 んで、無事イベントが終わって解散した時、ちょっと荷物から目を離したんだ。

 そしたら、マイクが無くなってたんだ!」

「ってか、それってほんとなのか?」

 ネクは最後まで777の話を聞いていたが、その途中で、彼の後ろで死神が言った。

「おまえがどっかに置き忘れただけじゃねーのか?」

「違う!! あのマイクは俺達のバンド、デスマーチの魂!

 そんな大事なモンを置き忘れるなんて、絶対ありえない!! 誰かに盗まれたんだ!」

「はっ! 誰が盗むんだよ、あんな羽根が生えたマイク」

 777の語気が強くなっている。

 余程、マイクに対するこだわりが強いようだ。

「……」

「なっ……なんだよ……無くしたのはお前だろ!?」

「……っち、まぁいい」

 777は鋭い目で死神を睨みつける。

 マイクは置き忘れたのではないとでもいうように。

 反論する死神に対し、777は舌打ちした。

「そういうわけで、みんなで手分けして捜そう」

「俺はやだね、やってらんねーよ。無くしたおまえがひとりで捜せよな。俺は行くぜ……」

 去ろうとした死神が、何かを言うため立ち止まる。

「あっ……そうそう、テンホー。このケータイ、おまえのだろ?」

「あっ……」

「落ちてたから拾っといたぜ」

 そう言って、黒いパーカーの死神は、赤いパーカーの死神に携帯電話を返した。

「ありがとう。どっかで落としたみたいで困ってたんだ。どこに落ちてた?」

「……ん!? えっと……ほら、あれだ、スペイン坂だ!」

 黒いパーカーの死神は慌ててそう言った。

 どうやら、マイクの居場所を知っているようだが。

「と、とにかく俺は、先にA-EASTに戻ってるからな」

「俺はモルコ方面をもう一度探してみる」

「おう! 頼んだぜ」

 二人の死神が去ったところで、ネクとヨシュアも彼らを手伝う事にした。

 777が前払いしたため、というのが理由だが。

 

 ネクとヨシュアはまず、777に情報を聞く。

 無くしたマイクは黒い羽根が生えたもので、黒いパーカーのBJが欲しがっているという。

 どうやら彼はボーカルになりたいらしく、昨日もその事で少し揉めた。

 マイクを無くしたのはその後の事で、直前に呼び出しの電話があった。

 「今からカドイ前に来い、大事な話がある」という今でも怪しい電話だった。

 発信は公衆電話で、声色も変えているような話し方だった。

 777はカドイに行ったが誰もおらず、モルコに戻ったらマイクが無くなったという。

 ヨシュア曰く、この呼び出し電話をかけたのは、ボーカル希望のBJだというが……。

 

「おい……これからどうする?」

「どうするって……決まってるでしょ? 現場の調査と関係者の聞きこみは基本だよ」

「何の基本だよ……」

「現場はモルコ、関係者はあのふたりだね。さっそく調べに行こう」

 

 こうして、探偵になったネクとヨシュアは、

 千鳥足会館前を後にして、スクランブル交差点に着いた。

「あれ……? あそこにいるのは……」

 ヨシュアはスクランブル交差点で誰かを見つける。

 スクランブル交差点にいたのは、黒いパーカーを身に纏った男だった。

「はぁ……。うまくいくと思ったのに……」

 話を聞けば、マイクの行方が分かるかもしれない。

 ネクとヨシュアは男に駆け寄り、声をかけた。

「はぁ……」

「ねぇ!」

「なっ……なんだよ!」

 後ろから声をかけられた男は驚き、振り返る。

「A-EASTに戻ったんじゃなかったの?」

「……人ごみの中でひとりでいたい……そんな時もあるだろ?」

 男の様子は少しおかしかった。

 ヨシュアはそれが気になって、質問をする。

「ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「なんだよ……」

「盗まれたマイクについてなんだけど……」

「盗まれた? 777のヤツがそう勝手にわめいてるだけだろ?

 きっと、どこかに置き忘れたとかで無くしたんだ。どうであれ、アイツの不注意だよ」

 あくまでBJは、マイクは「無くした」と言い張る。

「君がマイクを欲しがってるって聞いたけど……」

「……まぁな。でももういいんだ。俺には必要ない」

 マイクを欲しがっていたのは確かだが、BJは犯人ではないと言い張っていた。

 別のアプローチから聞き出す必要があるようだ。

「昨日の2時頃、どこにいたの?」

「あっ……えっと……」

 時間の事を聞くと、BJが慌てふためく。

 どうやら、何があったのか知っているようだ。

「あれだよ……。そう! 道玄坂のラーメン屋! あのラーメン屋に並んでたな。

 モ、モルコの電話ボックスなんて行ってねぇぞ! そんなとこ行く理由もねぇしな!」

 BJはあからさまに嘘をついているようだ。

 だとするとやはり、マイク紛失事件は彼と関係があるようだ。

「ふ~ん」

「な、なんだよ、おまえら……。お、俺はひとりになりたいんだ。ほっといてくれ」

 そう言って、BJは去っていった。

 

 BJに白状させるには、決定的な証拠が必要だ。

 そこでまず、二人はモルコの電話ボックスに行く。

「ねぇ、君達」

 証拠を探そうとすると、誰かに声を掛けられる。

 二人に声をかけたのは、ソウタとナオだった。

「君達も参加者でしょ?」

「あっ……たしか……マーブルスラッシュ大会で優勝してたペアだね」

「あっ! おぼえててくれた? 超うれしぃ~☆」

「何か用か?」

「ずっとぉ~、この人と一緒だからぁ、ちがう人と話したかったの!

 ほら、街にいる人達って気づいてくれないじゃん!」

 そんな目的で話しかけたのか、とネクは思うが、よく考えたら参加者は一般人からは見えない。

 そのため、きちんと話だけでも聞く事にした。

「おまえ達、名前は?」

「僕はヨシュア、こっちはネク君だよ」

「ヨシュアとネクか、ヨロシク! 俺はソウタ、こっちはナオだ」

「ナオりんって呼んでね☆」

 改めて、ソウタとナオは二人に自己紹介した。

「そうそう、おまえ達、知ってるか?

 昨日と今日はミッション出てないのに、ほかの参加者が減ってるって」

「参加者が減ってる?」

 ミッション以外で参加者が消える条件として、ノイズに襲われて戦闘不能になる事が挙がる。

 つまり、ゲームマスターは、強力なノイズをけしかけて参加者を襲わせたのだろう。

「ネクちゃん達も気を付けた方がいいよ」

「ね、ネク……ちゃん?」

「あたし達、変なノイズ見つけたの! ヤバそうだったからソッコウ逃げたの。

 ネクちゃん達も見かけたらマジで逃げた方がいいよ!」

 案の定、参加者の減少は強いノイズのせいだった。

 恐らく、あの黒いノイズだと思っていいだろう。

「お互い気を付けて、最後まで勝ちのころうぜ!」

「あ、ああ」

「あれ? 知らないの?」

「おい……」

「ゲームに何人勝ちのころうが、全員、生きかえれるとは限らないよ」

「え……なにそれ……」

 ヨシュアの言葉にナオは驚きを隠せなかった。

「参加者は仲間じゃない。生きかえりの座をめぐるライバルなのさ。

 もちろん、パートナーでさえもね」

 ヨシュアにとって、参加者は大切な存在ではない。

 全員が蘇生できるとは限らないというのは、

 最初の死神のゲームであったように、それが事実だからだ。

「そんな……。もし、ふたりで勝ちのこって……ひとりしか生きかえれなかったら……

 残されたパートナーはどうなるの?」

「もう一度参加するだけさ、ネク君みたいにね」

 ナオの言葉は、ネクの胸に重く突き刺さる。

 最初の死神のゲームで蘇生したのはシキだけ、という事実があるからだ。

(……シキ……)

「もしかして……ネクちゃん、2回目なの?」

「……ああ」

「そうか……パートナーが生きかえったのか」

 ソウタの言葉に、ネクは首を横に振った。

 本当は蘇生したのだが、すぐにエントリー料にされたからだ。

「いや……パートナーは生きかえれなかった……」

「えっ? どういうこと?」

「パートナーをエントリー料にされたんだ」

「なにそれ……超ヒドイ……」

「俺がゲームに再参加したから……。結局、俺のせいで生きかえれなかったんだ」

 シキを失って自暴自棄になりかけるネクに、ソウタは口角を上げてこう言った。

「そんなの気にすることねーよ」

「え……」

「エントリー料にされたってことは、

 おまえがそれだけパートナーのことを大切にしてたってことだろ?

 それって、悪いことじゃねーだろ?」

「そうだよ! ネクちゃんは悪くないよ!!

 私もソウタが生きかえれるなら、喜んでエントリー料になるし!」

「俺だって、ナオのためなら何度でも参加してやる。

 ふたりで一緒にRGへ帰るまで参加しつづけるぜ」

 繰り返すが、エントリー料というのは自分が最も大切にしているもの。

 しかし、それは参加者に罰を与えるためではない。

 むしろ、大切だったものを一時的に無くす事で、

 それを大切に思う気持ちを強めたい、という死神なりの試練なのだ。

 ネクがシキをますます大切に思い、死神のゲームに積極的になったのは、

 良い変化と言えるだろう。

「……俺を……責めないのか?」

「なんでだよ、そんなの責めねーって!

 それに、たとえひとりだけしか生きかえれなくても、俺は参加者どうしで争いはしたくない」

「そうそう! ケンカはよくないって! 生きかえりたい理由に大小とかないじゃん!

 でも、ネクちゃんにはがんばってほしいから、イイモノあげるね☆」

 そう言って、ナオは黄金のバッジをネクに渡した。

「これは……バッジ?」

「そう! マブスラ大会でゲットしたやつ。これ、アゲル☆」

 ミッションを失敗したかと思ったが、今になってその景品が手に入るとは、

 ネクにとって予想外だったようだ。

「いい……のか?」

「俺達、使えなかったし……っていうと、使えなかったから渡してるみたいだけど……

 とにかく、おまえ、使えるか試してみろよ」

「あ、ありがとう……」

 ネクはバッジをくれたソウタとナオに感謝した。

 他の参加者がネクを励ましてくれている……その事実は、

シキがエントリー料になった時より強く印象に残るようになった。

 

「じゃあ、俺達そろそろ行くわ」

「じゃあね、ネクちゃんとヨシュアちゃん。また会おうね☆」

 ネクとヨシュアは、去っていくソウタとナオを見送った。

 ナオは満面の笑みを浮かべて、手を振った。

 

「にぎやかなふたりだったね」

「生きかえりたい理由に大小はない……」

「どうしたの? ネク君」

 この渋谷では、様々な人が、様々な事情や想いを抱えて生きている。

 その一つ一つに、同じぐらいの価値がある。

 その事実を、ネクは改めて知り、他人との繋がりを少しずつ大切にした。

「渋谷って……いろんなヤツが集まるんだな」

「フフフ……どうしたの、急に?」

「いや……何でもない。ほら、公衆電話を調べるぞ」

 

 これからはもっと周りを大事にしよう。

 ネクはそう思うようになった。

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