すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
死神のゲームも四日目になり、ネクとヨシュアがマーブルスラッシュで勝負する。
一方、死神の女性幹部、虚西充妃が北虹寵に報告し、
ミッションが出されていないにも関わらず、参加者が減少している事を伝える。
その後、ヨシュアはネクに何を探しているのか尋ね、
ネクは自分が宇田川町に行くと決めるのだった。
宇田川町に自分の手がかりがあると思ったネクは、壁を解放しながら宇田川町に向かう。
「あれ? あそこに死神達がいるよ」
千鳥足会館前に着いたネクとヨシュアは、死神がいる事に気づく。
「もう警察に頼んじゃおうぜ」
「バカ! 俺達ロックな死神なんだぜ? そんなカッコわりぃことできるか!」
「ってか、そもそもおまえがしっかりしてねーから」
下っ端の死神と、『デスマーチ』のボーカル、777が何かを話しているようだ。
「メンドウにまきこまれたくない。無視していこう」
何やら揉め事があるようだが、ネクは自分には関係ないと思ってスルーした。
トウワレコード前には、カリヤとヤシロがいた。
「……ったく、何かてがかりはないのかしら……」
「まぁまぁ、そう焦りなサンナ……。ゆっくり探しまショウ」
「何、言ってんの! 虚西さんから直々の命令よ。これはなんとしても……」
どうやら二人は、虚西充妃の命令で、何らかの手掛かりを探しているようだ。
「って……何よ……またアンタ達?」
「やぁ、今日は忙しそうだね」
ヨシュアは気軽に二人に声をかける。
やはり、ヨシュアは死神と何か関係があるようだ。
「フン……そうよ。アンタ達にかまってるヒマないのよ。行くわよ、狩谷!」
「アイヨ……」
そう言って、二人の死神は去っていった。
この辺に反応は薄いので、ネクとヨシュアは再び千鳥足会館前に戻った。
「おっ! おまえはこの前の……」
「あっ……アンタは……」
「ちょうどいい、おまえら今、ヒマだろ? ちょっと頼まれてくれないか?」
確かに今はミッションが出ていないため、ネクとヨシュアに用事はない事になる。
ヨシュアは「宇田川町に行く」と言い出したが、
どうしても進めない場所があるため、ここで頼みを聞く事にした。
「……で、問題ってなんだよ?」
「じつはな……俺達バンドのマイクが無くなったんだ!」
777はマイクをなくしてしまったらしい。
ボーカルにとってマイクは命と並ぶ大切なもの、それをなくしてしまっては生きられない。
「事件が起きたのは昨日の午後2時頃だ。
昨日はモルコでちょっとしたイベントがあってな、問題のマイクで一曲披露したんだ。
んで、無事イベントが終わって解散した時、ちょっと荷物から目を離したんだ。
そしたら、マイクが無くなってたんだ!」
「ってか、それってほんとなのか?」
ネクは最後まで777の話を聞いていたが、その途中で、彼の後ろで死神が言った。
「おまえがどっかに置き忘れただけじゃねーのか?」
「違う!! あのマイクは俺達のバンド、デスマーチの魂!
そんな大事なモンを置き忘れるなんて、絶対ありえない!! 誰かに盗まれたんだ!」
「はっ! 誰が盗むんだよ、あんな羽根が生えたマイク」
777の語気が強くなっている。
余程、マイクに対するこだわりが強いようだ。
「……」
「なっ……なんだよ……無くしたのはお前だろ!?」
「……っち、まぁいい」
777は鋭い目で死神を睨みつける。
マイクは置き忘れたのではないとでもいうように。
反論する死神に対し、777は舌打ちした。
「そういうわけで、みんなで手分けして捜そう」
「俺はやだね、やってらんねーよ。無くしたおまえがひとりで捜せよな。俺は行くぜ……」
去ろうとした死神が、何かを言うため立ち止まる。
「あっ……そうそう、テンホー。このケータイ、おまえのだろ?」
「あっ……」
「落ちてたから拾っといたぜ」
そう言って、黒いパーカーの死神は、赤いパーカーの死神に携帯電話を返した。
「ありがとう。どっかで落としたみたいで困ってたんだ。どこに落ちてた?」
「……ん!? えっと……ほら、あれだ、スペイン坂だ!」
黒いパーカーの死神は慌ててそう言った。
どうやら、マイクの居場所を知っているようだが。
「と、とにかく俺は、先にA-EASTに戻ってるからな」
「俺はモルコ方面をもう一度探してみる」
「おう! 頼んだぜ」
二人の死神が去ったところで、ネクとヨシュアも彼らを手伝う事にした。
777が前払いしたため、というのが理由だが。
ネクとヨシュアはまず、777に情報を聞く。
無くしたマイクは黒い羽根が生えたもので、黒いパーカーのBJが欲しがっているという。
どうやら彼はボーカルになりたいらしく、昨日もその事で少し揉めた。
マイクを無くしたのはその後の事で、直前に呼び出しの電話があった。
「今からカドイ前に来い、大事な話がある」という今でも怪しい電話だった。
発信は公衆電話で、声色も変えているような話し方だった。
777はカドイに行ったが誰もおらず、モルコに戻ったらマイクが無くなったという。
ヨシュア曰く、この呼び出し電話をかけたのは、ボーカル希望のBJだというが……。
「おい……これからどうする?」
「どうするって……決まってるでしょ? 現場の調査と関係者の聞きこみは基本だよ」
「何の基本だよ……」
「現場はモルコ、関係者はあのふたりだね。さっそく調べに行こう」
こうして、探偵になったネクとヨシュアは、
千鳥足会館前を後にして、スクランブル交差点に着いた。
「あれ……? あそこにいるのは……」
ヨシュアはスクランブル交差点で誰かを見つける。
スクランブル交差点にいたのは、黒いパーカーを身に纏った男だった。
「はぁ……。うまくいくと思ったのに……」
話を聞けば、マイクの行方が分かるかもしれない。
ネクとヨシュアは男に駆け寄り、声をかけた。
「はぁ……」
「ねぇ!」
「なっ……なんだよ!」
後ろから声をかけられた男は驚き、振り返る。
「A-EASTに戻ったんじゃなかったの?」
「……人ごみの中でひとりでいたい……そんな時もあるだろ?」
男の様子は少しおかしかった。
ヨシュアはそれが気になって、質問をする。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「なんだよ……」
「盗まれたマイクについてなんだけど……」
「盗まれた? 777のヤツがそう勝手にわめいてるだけだろ?
きっと、どこかに置き忘れたとかで無くしたんだ。どうであれ、アイツの不注意だよ」
あくまでBJは、マイクは「無くした」と言い張る。
「君がマイクを欲しがってるって聞いたけど……」
「……まぁな。でももういいんだ。俺には必要ない」
マイクを欲しがっていたのは確かだが、BJは犯人ではないと言い張っていた。
別のアプローチから聞き出す必要があるようだ。
「昨日の2時頃、どこにいたの?」
「あっ……えっと……」
時間の事を聞くと、BJが慌てふためく。
どうやら、何があったのか知っているようだ。
「あれだよ……。そう! 道玄坂のラーメン屋! あのラーメン屋に並んでたな。
モ、モルコの電話ボックスなんて行ってねぇぞ! そんなとこ行く理由もねぇしな!」
BJはあからさまに嘘をついているようだ。
だとするとやはり、マイク紛失事件は彼と関係があるようだ。
「ふ~ん」
「な、なんだよ、おまえら……。お、俺はひとりになりたいんだ。ほっといてくれ」
そう言って、BJは去っていった。
BJに白状させるには、決定的な証拠が必要だ。
そこでまず、二人はモルコの電話ボックスに行く。
「ねぇ、君達」
証拠を探そうとすると、誰かに声を掛けられる。
二人に声をかけたのは、ソウタとナオだった。
「君達も参加者でしょ?」
「あっ……たしか……マーブルスラッシュ大会で優勝してたペアだね」
「あっ! おぼえててくれた? 超うれしぃ~☆」
「何か用か?」
「ずっとぉ~、この人と一緒だからぁ、ちがう人と話したかったの!
ほら、街にいる人達って気づいてくれないじゃん!」
そんな目的で話しかけたのか、とネクは思うが、よく考えたら参加者は一般人からは見えない。
そのため、きちんと話だけでも聞く事にした。
「おまえ達、名前は?」
「僕はヨシュア、こっちはネク君だよ」
「ヨシュアとネクか、ヨロシク! 俺はソウタ、こっちはナオだ」
「ナオりんって呼んでね☆」
改めて、ソウタとナオは二人に自己紹介した。
「そうそう、おまえ達、知ってるか?
昨日と今日はミッション出てないのに、ほかの参加者が減ってるって」
「参加者が減ってる?」
ミッション以外で参加者が消える条件として、ノイズに襲われて戦闘不能になる事が挙がる。
つまり、ゲームマスターは、強力なノイズをけしかけて参加者を襲わせたのだろう。
「ネクちゃん達も気を付けた方がいいよ」
「ね、ネク……ちゃん?」
「あたし達、変なノイズ見つけたの! ヤバそうだったからソッコウ逃げたの。
ネクちゃん達も見かけたらマジで逃げた方がいいよ!」
案の定、参加者の減少は強いノイズのせいだった。
恐らく、あの黒いノイズだと思っていいだろう。
「お互い気を付けて、最後まで勝ちのころうぜ!」
「あ、ああ」
「あれ? 知らないの?」
「おい……」
「ゲームに何人勝ちのころうが、全員、生きかえれるとは限らないよ」
「え……なにそれ……」
ヨシュアの言葉にナオは驚きを隠せなかった。
「参加者は仲間じゃない。生きかえりの座をめぐるライバルなのさ。
もちろん、パートナーでさえもね」
ヨシュアにとって、参加者は大切な存在ではない。
全員が蘇生できるとは限らないというのは、
最初の死神のゲームであったように、それが事実だからだ。
「そんな……。もし、ふたりで勝ちのこって……ひとりしか生きかえれなかったら……
残されたパートナーはどうなるの?」
「もう一度参加するだけさ、ネク君みたいにね」
ナオの言葉は、ネクの胸に重く突き刺さる。
最初の死神のゲームで蘇生したのはシキだけ、という事実があるからだ。
(……シキ……)
「もしかして……ネクちゃん、2回目なの?」
「……ああ」
「そうか……パートナーが生きかえったのか」
ソウタの言葉に、ネクは首を横に振った。
本当は蘇生したのだが、すぐにエントリー料にされたからだ。
「いや……パートナーは生きかえれなかった……」
「えっ? どういうこと?」
「パートナーをエントリー料にされたんだ」
「なにそれ……超ヒドイ……」
「俺がゲームに再参加したから……。結局、俺のせいで生きかえれなかったんだ」
シキを失って自暴自棄になりかけるネクに、ソウタは口角を上げてこう言った。
「そんなの気にすることねーよ」
「え……」
「エントリー料にされたってことは、
おまえがそれだけパートナーのことを大切にしてたってことだろ?
それって、悪いことじゃねーだろ?」
「そうだよ! ネクちゃんは悪くないよ!!
私もソウタが生きかえれるなら、喜んでエントリー料になるし!」
「俺だって、ナオのためなら何度でも参加してやる。
ふたりで一緒にRGへ帰るまで参加しつづけるぜ」
繰り返すが、エントリー料というのは自分が最も大切にしているもの。
しかし、それは参加者に罰を与えるためではない。
むしろ、大切だったものを一時的に無くす事で、
それを大切に思う気持ちを強めたい、という死神なりの試練なのだ。
ネクがシキをますます大切に思い、死神のゲームに積極的になったのは、
良い変化と言えるだろう。
「……俺を……責めないのか?」
「なんでだよ、そんなの責めねーって!
それに、たとえひとりだけしか生きかえれなくても、俺は参加者どうしで争いはしたくない」
「そうそう! ケンカはよくないって! 生きかえりたい理由に大小とかないじゃん!
でも、ネクちゃんにはがんばってほしいから、イイモノあげるね☆」
そう言って、ナオは黄金のバッジをネクに渡した。
「これは……バッジ?」
「そう! マブスラ大会でゲットしたやつ。これ、アゲル☆」
ミッションを失敗したかと思ったが、今になってその景品が手に入るとは、
ネクにとって予想外だったようだ。
「いい……のか?」
「俺達、使えなかったし……っていうと、使えなかったから渡してるみたいだけど……
とにかく、おまえ、使えるか試してみろよ」
「あ、ありがとう……」
ネクはバッジをくれたソウタとナオに感謝した。
他の参加者がネクを励ましてくれている……その事実は、
シキがエントリー料になった時より強く印象に残るようになった。
「じゃあ、俺達そろそろ行くわ」
「じゃあね、ネクちゃんとヨシュアちゃん。また会おうね☆」
ネクとヨシュアは、去っていくソウタとナオを見送った。
ナオは満面の笑みを浮かべて、手を振った。
「にぎやかなふたりだったね」
「生きかえりたい理由に大小はない……」
「どうしたの? ネク君」
この渋谷では、様々な人が、様々な事情や想いを抱えて生きている。
その一つ一つに、同じぐらいの価値がある。
その事実を、ネクは改めて知り、他人との繋がりを少しずつ大切にした。
「渋谷って……いろんなヤツが集まるんだな」
「フフフ……どうしたの、急に?」
「いや……何でもない。ほら、公衆電話を調べるぞ」
これからはもっと周りを大事にしよう。
ネクはそう思うようになった。