すばらしきこのせかい Shibuya Survival   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

生前の記憶を求めるべく、ネクとヨシュアは宇田川町へ向かう。
途中、死神と出会い、バンドのマイクがなくなったとという。
彼らはマイクを探すために協力し、ボーカルの777から詳細を聞く。
ネクとヨシュアはマイクを探すためにモルコの電話ボックスに向かい、
ソウタとナオに出会い、彼らから黄金のバッジをもらう。
ネクはこれからもっと周りを大切にしようと思うのだった。


38 マイクはどこにある

 ネクとヨシュアは、紛失したマイクの行方を探るため、モルコ前の公衆電話を調べた。

 公衆電話の周りに、マイクはなかったようだ。

 777は公衆電話から怪しい電話がかかったと言っていたので、

 改造した携帯電話を使う必要がありそうだ。

 ヨシュアは携帯電話のカメラ機能を使い、撮影時間を昨日に合わせ、公衆電話を撮影した。

 

 公衆電話には、何もなかった。

 だがその右下に、「13:45」という日付がある。

 特に何もなかったため、ヨシュアはもう少し時間をずらしてみた。

 

 10分、時間を進めた後の公衆電話には、黒い携帯電話とマイクが映っていた。

 昨日の午後1時55分には、マイクが公衆電話にあった。

 これと証言を合わせてみると、マイク紛失の真相が分かる事になる。

 

 ハネコマが携帯電話に細工した後のカメラ機能は、過去の時間に遡って撮影できる機能である。

 まあ、某漫画で言うと、タイムカメラだ。

 

「また時間をずらして撮れば、犯人が分かるんじゃないのか?」

「そうだね、もう1回撮ってみよう」

 

 ヨシュアは「14:02」という時間で撮影した。

 公衆電話の右横にはミナミモトのメガホンがあり、携帯電話を持つ黒いパーカーの男が映った。

 この写真には、マイクは映っていなかった。

 

 ……ちなみに、この機能を使えるのは、1日3回だけだという事をお忘れなく。

 

「とにかく、情報は集まった。あいつにつきつけてこよう」

「そうだね、白黒はっきりさせよう」

 ネクとヨシュアは、スクランブル交差点にいる黒いパーカーの男のところに戻った。

「ねぇ!」

「なっ……なんだよ!」

「ちょっと、この写真を見てもらえるかな」

 そう言って、ヨシュアは「14:02」という時間で撮影した写真を突きつけた。

「こ、これはっ!? どうしてお前らがこれを!?」

「モルコの電話ボックス……通称【恋の電話ボックス】……だよね?」

「なっ……!」

 恋の電話ボックスから電話をかけると、必ず想いが通じるという都市伝説がある。

 恐らく男はある人物に好意を抱いているのだろう。

「誰に電話したかは知らないけど……君は昨日、この電話ボックスにいた」

「ちがっ……」

「君は道玄坂のラーメン屋には行ってない。モルコで愛の告白をしていたんだ」

「やめてくれぇ!!」

 だが、男の嘘を証拠品で見抜く事ができた。

 ヨシュアは他人を追い詰める事だけは天才的だ。

「……頼む!! あいつらには黙っててくれ。

 俺は確かに機能、電話ボックスに行った。これで満足か?」

「ありがとう、参考になったよ」

「……ったく、俺は777の所に戻るぜ。そろそろマイクが見つかってるかもしれねーし。

 おまえら、今の話、絶対に言うんじゃねーぞ!」

 情報を聞き出した後、男は去っていった。

 

「彼から聞きだせることはこれで全部みたいだね。さて、僕達も行こうか」

 二人が777のところに戻ろうとした時、どこかから歌が聞こえてくる。

「Over the Edge ~境界をこえろ~ Get the Badge」

 歌が聞こえてきたのは、ビルのスクリーンからだった。

 どうやら、これはバッジのCMのようだ。

「あっ! あのCMだ!!」

「カッコいいよね、CATバッジ」

「あれ、人気でどこにも売ってないよね」

 渋谷の人々は、あの赤いバッジを身に着けていた。

 帽子、服、鞄、スカート……ありとあらゆる場所に、一つずつある。

「あのバッジ……本格的に流行ってるな。CATに興味なさそうなヤツまで持ってる。

 本当に価値が分かってるのか……?」

「昨日、ラーメン屋で配ってたよね。CATデザインの『レッドスカルバッジ』でしょ?」

「昨日も言ったけど、前のミッションであのバッジを流行らせたんだ」

 以前、シキと共にバッジを広めるミッションをした事がある。

 このミッションが、今の渋谷に影響を与えている。

 すると、ヨシュアは顎に手を置き、バッジの正体について考える。

「あのバッジ……参加者バッジに似ていると思わない?」

 確かに、あのレッドスカルバッジは参加者が持っている髑髏のバッジと似ている。

 それを一般人に配るという事は、一般人にも参加者と同じ権限を与えるのだろうか。

 何にしろ、ろくでもないバッジである事は間違いない、とヨシュアは思っていた。

「参加者バッジは死神が作ってるのか?」

「違うよ。コンポーザーが作って管理しているのさ。参加者バッジはコンポーザーの領分だよ」

 コンポーザーはハネコマ曰く機密事項で、死神より階級が上の、渋谷を取り仕切る者だ。

 簡単に言うとコンポーザーは社長のようなもので、死神は社員……と言った方がいいだろうか。

 死神のゲームは死者が蘇るためのゲームだが、当然ながら、それは過酷なものだった。

「こんなくだらないゲームを考えるなんて……悪趣味なサイテーヤロウだな……」

「フフフ……そうだね」

 ネクはヨシュアの目をじっと見ており、ヨシュアは彼の目線を軽く受け流した。

「コンポーザーや死神達は、RGへ行けるのか?」

「RGとUGは同一空間だよ。RGの人達がUGの参加者や死神を視認できないだけさ。

 空気は見えない、でも確実に存在する。それと同じだよ。

 参加者はステッカーが貼ってあるお店でしか実体化できないけど死神達は任意で実体化できる。

 その時はRGの人が視認できるから、羽は消えるみたいだけどね」

 つまり、RGはこの世、UGはあの世というわけだ。

 ネクなどの参加者がノイズや死神と戦えるのも、ノイズそのものが「見えないもの」だからだ。

「死神はUGだと羽が出てて、RGだと羽が無いってことか……」

 死神の力の源はあの羽根であり、UGでないと力を発揮できないという。

 ネクは、参加者バッジをじっと見つめている。

 UGにしかないコンポーザー製の参加者バッジと、RGの人が身に着けたレッドスカルバッジ。

 色以外はあまりにもデザインが似すぎている、というより絵柄に1ミリもズレがなく、

 まるでコピーされているようだ。

 ネクによれば、この二つのバッジを作ったのは、同一人物であるという事だが……。

 

「どうしたんだい? また具合が悪いのかい?」

「いや……なんでもない」

 ネクは、あの人物がコンポーザーである可能性を、信じる事ができないでいた。

 それもそのはず、渋谷のコンポーザーは……ヒントだけ言おう、「彼」だからだ。

 

 スペイン坂に行ったネクとヨシュア。

「あれ……あそこにいるのは……」

 店の傍には、赤いパーカーの男がいた。

 777のマイクのついての情報を聞くため、ネクとヨシュアは彼に話を聞いてみる事にした。

「どう? マイクは見つかった?」

「……」

「ちょっと話を聞きたいんだけど、いいかな?」

「……ああ」

 

 テンホーからの情報は、以下のようなものだった。

 バンドがまだ無名で路上ライヴをやっていた頃、三人でお金を出し合ってあのマイクを買った。

 そのマイクに友情と成功を願い、羽根を付けた。

 そのため、バンドの絆の象徴であるこのマイクはソウル、つまり魂そのものだ。

 しかし、最近では777とBJがボーカル争いをしており、

 どちらがあのマイクを握るかで揉めている。

 

「昨日の2時頃、どこにいたの?」

 ヨシュアがテンホーに聞き出すと、彼は動揺した。

「……す、スペイン坂」

「そういえば、そこでケータイを落としたって言ってたもんね」

「ああ……スペイン坂で落としたんだ。……ここにはマイクは無いみたいだ……。

 俺は一度、777の所に戻るよ……」

「ありがとう、いろいろ参考になったよ」

 

 テンホーから情報を聞き、千鳥足会館前に戻る。

 だが、マイクはまだ戻ってきておらず、777は不愉快な表情をしていた。

「どうやら、見つからないようだな……。

 っち……しょうがねぇ……もう国家権力に頼るしかねぇな……」

「まぁ、待ちなよ」

「ん? なんだよ?」

「僕、犯人がなんとなく分かっちゃったな」

 ヨシュアは顎に手を当てて、犯人を推測する。

「なにっ!?」

「どういうことだよ」

「フフフ……ちょっと状況を整理してみようか」

 これまでの情報をきちんと聞いていれば、マイク紛失事件の犯人が分かるだろう。

 そう思ったヨシュアは、情報を777に話した。

「事の起こりは昨日の2時頃。777君に怪しい電話がかかってきた」

「怪しい電話だと!?」

「そう、大事な話があるからカドイに来いって呼び出されたんだ。

 そして彼はそれに従い、その隙にマイクが盗まれた。

 その電話なんだけど……公衆電話からかかってきたんだって。

 そして、僕達は公衆電話から電話をしている人物の決定的証拠をつかんだ」

 ヨシュアは頭の中で推理しながら、情報を話す。

 電話をかけて、隙を見てマイクを盗んだのは、恐らく「彼」なのではないかと睨んだ。

「ま……まさか、おまえら!!」

「その写真は、これだよ」

 そう言って、ヨシュアは「14:02」と書かれた写真を777に見せた。

「こ……これは……BJじゃねーか!」

「お、おまえら、黙ってろって言っただろうが!」

「やっぱり、おまえが俺に呼び出し電話を」

「ちょっと待って、777君」

 まだBJが犯人と決まったわけではないという。

 確かに、BJはただ、公衆電話で電話をかけただけなのかもしれないから。

「その呼び出し電話なんだけど……かかってきたのは、正確には何時かな?」

「ああ……ちょっと待て、着信履歴は……13時40分だな」

「ほら、写真をよく見てよ。これは昨日の14時02分の電話ボックスなんだ。

 BJ君はたしかに公衆電話を使った。けれど、かけた先は777君のところじゃないんだよね。

 BJ君はある女性に電話をかけていた。とても甘酸っぱい電話をね……」

「やめてくれぇぇえ!」

 恋の電話ボックスを使った事をばらされたBJは、フードの中で顔が赤くなった。

「……ああ……そうだよ。昨日、その電話から告白したよ。フラれたさ、見事にな!!

 笑えよ! こんな俺を笑えよ!!」

 モルコの公衆電話の都市伝説を知っていれば、何故かけたのかは分かるだろう。

 ともかく、着信履歴と写真の日付を照らし合わせ、BJが777に公衆電話をかけてはいない。

 BJがマイクを盗んだという疑いはひとまず晴れた。

「……まぁ、落ち着いて、BJ君。この写真で見てほしいのは、じつは……BJ君の左手なんだ」

 あの写真に写っていたのは、携帯電話だった。

 しかし、ヨシュア曰く、BJのものではないという。

「BJ君はケータイの持ち主を知っていたんだよね。だから、拾って届けた」

「テンホー……まさか、おまえ……。でも、あの時、BJはスペイン坂で拾ったって……」

「そう、BJ君は電話ボックスにいたことを知られたくなかった。

 だから、拾った場所を偽った。その証拠はこれさ」

 ヨシュアは「13:55」と書かれた写真を見せた。

 電話機の上には、あの黒い携帯電話があり、BJが来る前からあり、持ち去ったという。

 もちろん、この携帯電話は、BJのものではない。

「テンホー君は電話ボックスでケータイを落とした。

 じゃあ、どうしてあんな場所で落としたのかな?」

 ヨシュアはBJとテンホーに問い詰める。

「……すまん。全部……俺がやったんだ」

「おまえ……どうして!!」

 流石にばつが悪いと思ったのかテンホーは謝った。

 777は驚愕するが、テンホーは淡々と事情を話す。

「おまえ達の争いのタネをなくしたかった……。バンドを解散したくなかったんだ……」

 争いの種をなくしたいからと言って、マイクを紛失させてもまた問題が起こる。

 テンホーはそれが、分かっているのだろうか。

「だから……」

「……わりぃ……。俺達がおまえに余計な心配をかけたみたいだな」

「ああ、俺も悪かった……。急にボーカルがやりたいなんて……」

「……よしっ、また三人で仲良くやっていこうぜ!」

 777とBJも謝罪し、三人はようやく和解した。

「へへっ……そうだな……さぁ、テンホー、マイクを……」

「そ、それが……。マイク……盗まれたんだ……」

「はぁ!?」

 やはり、マイクは何者かに盗まれてしまったのだ。

 テンホーの口ぶりからするに彼は被害者だという。

「昨日……あの公衆電話から777に呼び出し電話をかけて、

 マイクから目が離れた隙にマイクを盗んだ。

 盗んだマイクを持って立ち去ろうとした時……カドイから戻ってくる777に気づいた。

 俺はあわてて電話ボックスに隠れた。完全にやり過ごしてから立ち去ろうとした。

 その時、777から電話がかかってきた。

 『マイクが盗まれた! モルコ前に来てくれ』ってな……。

 とりあえず、マイクはボックスに置いたまま、モルコに行った。

 ケータイは、その時一緒に置き忘れたみたいだな。

 モルコにいる777に言い訳してもう一度ボックスに戻ってきた時には、

 もう……マイクはなかったんだ……」

「マイクがなかった?」

「そう……。なくなったマイクの代わりに……これが置いてあった……」

 そう言って、テンホーは青いメガホンを見せた。

「メガホン……?」

「変な声が録音されてるみたいなんだ……」

 テンホーがスイッチを付けると、メガホンから青年の声が聞こえてきた。

サイン! コサイン! タンジェントォ!

 スピーカーから数学用語が流れ出した。

 あまりに奇妙な掛け声に、三人は一瞬固まった。

 このメガホンを誰が使っていたかは、ここまで読んだ者ならご存じだろう。

 つまり、マイクを盗んだ真犯人は……。

「すまん! 俺、バンドを解散したくなかっただけなのに……俺のせいで……」

「フフフ……なるほどね……。この事件には真犯人がいたようだね」

 ネクとヨシュアは推理を結論付ける。

 電話ボックスのマイクを持ち去り、青いメガホンを置いた人物は……「彼」だ。

 

 13時55分までは推理通りなので、省略する。

 そして、13時57分、帽子を被った青年が、公衆電話の前に来ていた。

 青年はマイクを「ゼタイカすマイク」と言い、

 そのままマイクを盗んでいき、青いメガホンを残していったのだ。

 すなわち、777のマイクを盗んだ犯人は、南師猩だったのだ。

 

「で……結局、俺達のマイクはどこにあるんだよ」

「う~ん……彼が持っていったってことは、

 多分……あそこにあるオブジェの中……じゃないのかな?」

 ヨシュアはミナミモトが作ったスクラップの塔を見る。

「なんだって!?」

「あのゴミ山の中かよっ!」

「おいっ! 捜すぞっ!!」

 大事なマイクを塔の一部にされて、777が怒らないはずがなかった。

 メンバーは、大急ぎでマイクを探した。

「……巻きこんで悪かったな……。壁は解除しておいた。後は俺達で何とかするよ」

「うん、がんばってね」

 ヨシュアはマイクを探す三人に手を振った。

 

「じゃあネク君、宇田川町に行こうか」

「とんだ寄り道だったな……」

 

 とはいえ、人助けをした事に変わりはなかった。

 ネクは内心では、ちょっぴりほっこりしたとか。

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