すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
(ううっ……)
死神のゲームは二日目を迎える。
ネクは相変わらず、何故渋谷に閉じ込められたのか分からないままでいた。
(! ここは……どこだ……)
気が付くと、ネクは知らない場所にいた。
自転車が置かれていて壁には落書きがされてある。
「……うまくいくかな……」
一方、携帯電話を持っていたシキは、何かをぶつぶつと呟いていた。
「おい!」
「うわっ! ビックリした!」
ネクに呼び止められたシキは、ネクが煩わしいと思うほど驚く。
(いちいち五月蠅い奴だな。そんなに騒ぐ必要ないだろ……)
「えっと……何? どうしたの?」
「ここ……ドコだよ」
ネクは名前以外の記憶がない。
自分がどこにいるのかも、今は分かっていない。
「ああ、ココ? ここは駅近くのガード下だと思う。電車の音、聞こえるし……」
シキがこの場所について分かりやすく話す。
だが、記憶がないネクは、まだ混乱している。
―ピリリリリ
その時、シキの携帯電話が鳴った。
新たなミッションが始まったという知らせだ。
「像を呪いから解き放て 制限時間は60分 失敗したら消滅 死神より」
今度は忠犬ハチ公像にかかった呪いを解くという。
ミッション通達と同時に、二人の手に制限時間を示す文字が浮き上がる。
あの時のミッションと同じで、カウントが0になれば消えてしまう。
だがその事を、ネクは知らなかったため、シキから教えてもらった。
消えていく人達を実際にネクは見ているため、おかしいとはもう思わなかった。
「……って、アレ? この日付……なんで日付が変わってるんだ?」
ネクが自分の携帯電話を確認すると、日付が1日過ぎていた。
ミッションをクリアした後、ネクとシキは寝ていたからだ。
「今日もミッション頑張ろう!」
「……」
そんな都合のいい事が本当にあるのか、ネクは腕を組んで考えていた。
104でノイズを倒し、それからずっと寝ていた。
こんな事は、現実ではあり得ないはずだった。
「えーっと……像を呪いから……って、像ってやっぱりハチ公のことだよね?」
意識を失っている間の事は、ネクは覚えていない。
どうしてこうなったのか、彼には分からなかった。
誰かにここまで運ばれたのか、それとも、勝手に移動したのか……。
「でも呪いって何のことだろうね……ネク?」
考え事をしているネクにシキが声をかけたが、ネクは全く反応していなかった。
そんな彼に苛立ったのか、シキはネクに叫んだ。
「ちょっとネク、聞いてるの!?」
「……」
「ちょっと! 返事くらいしてよ! パートナーでしょ!?
協力しないとミッション解けないよ!?」
「……」
ネクはやはり、シキの言う事を聞いていなかった。
シキは彼に無視されて、ちょっと呆れ気味だった。
「はぁ……どうしてうまくいかないんだろう……」
なかなかネクが自分を信頼してくれない事に困り、携帯電話を取り出すシキ。
1日目にノイズと戦った時もそうだったが、ネクはシキと「渋々」協力した。
あまり嬉しくない事に、シキはやきもきしていた。
それは彼の性格を考えれば当たり前の事だが……。
「よし! ここにいても始まらないし、とにかくハチ公のところまで行こう!」
このまま何もしなければ消えてしまう。
ネクとシキは、忠犬ハチ公の像に向かって走った。
途中、赤いパーカーを着た男とすれ違ったが、それでも二人は歩みを止めなかった。
その時。
「っつぅ!!」
「嘘! 進めないの!?」
再び見えない壁に阻まれて、先に進めなかった。
(今日はここに閉じ込められてるのか……)
「どうしよう……このままじゃ、クリアできないわ」
「……なんでだよ」
「だってハチ公はこの先にあるんだもん……」
この障壁を何とかしなければ、ハチ公の元には辿り着けない。
昨日も壁があったが、通れるようにはなった。
あの時は、赤いパーカーの男が何かを言っていたが……。
「ねぇ……どうする?」
「……」
「ぼーっとしてないでネクも考えてよ!」
(今、考えてるだろ。いちいち話しかけるな)
ネクとシキの歯車は、合っていない。
形式上はパートナー同士となったものの、性格的にはまだパートナーではない。
まだ2日目だが、このままではミッションをクリアできずに二人とも消滅するだろう。
(集中できな……あれ?)
「ネク? どうしたの?」
シキが声をかけると、ネクの目線の先に、あの赤いパーカーを着た男がいた。
昨日、交差点で足止めされた時に見かけた男だ。
「ネク? 何見てるの? あの人……誰? ネクの知り合い?」
(何者なんだアイツ……。ヤツの思考を見てみるか)
ネクはテレパシーで男の心を読もうとしたが、何故か邪魔されて読めなかった。
昨日はスキャンできたのに今日はできないらしい。
彼だけが特別なのかそれともバッジが壊れたのか。
二人には、全く分からなかった。
「ねえ! ネク!」
「うるさいな……なんだよ!」
「ちょっと、あの人、こっちに来るよ!」
シキがそう言うと、男が二人の前にやってきて、淡々とミッション内容を話した。
「スキャンを使ってこのエリアのノイズを全て倒せ」
「えっ!? 何いきなり! ノイズを倒せって……どこにもいないじゃない!」
「この世界は目に見えるものが全てじゃない」
淡々と放した後、男は去っていった。
「行っちゃった……。何、あの人、感じ悪い……なんなの?」
(アイツの素性は分からない……けど、このゲームの関係者って事は確かだ。
……という事は、ヤツがまさか……。だからスキャンできなかったのか?)
スキャンをすると、普段は見えないものが見える。
ネクに他人の心が読めたのも、このスキャン能力によるものらしい。
「おい、ノイズを倒すぞ」
「え……でもノイズはどこにいるの? ノイズなんてどこにもいないじゃん?」
「スキャンすれば分かる」
「う~ん……ほんとかな?
よし! それじゃ早速……って……そういえば、昨日からちょっと気になってたんだけど……」
シキはネクに、炎が描かれたバッジを見せる。
ノイズと戦った時に使った、あのバッジだ。
「ネク、ずっとそれだけで戦う気? 他にもバッジ持ってるでしょ?」
確かにノイズと戦った時、炎を操るサイキックは役に立った。
だが、サイキックの能力はこれだけだ。
他にも強力なノイズはこれから現れるのに、
サイキックが一つだけでは負ける可能性もある、とシキは判断したのだ。
「バッジ?」
「ほら! 最初に何個か渡されたでしょ?」
シキに言われてネクがポケットの中を調べると、たくさんのバッジが入っていた。
髑髏や炎が描かれたバッジだけでなく、手や雷が描かれたバッジもある。
「本当だ……ポケットの中に……」
「そのバッジ使えるか試してみたら?」
「試す?」
「昨日、ネクに炎のバッジあげたじゃない? これさ、私には使えなかったんだよね……」
どうやら人によって、使えるバッジが違うようだ。
多彩なサイキックを使えれば、ノイズとの戦いにも勝てるかもしれない。
ネクはバッジを握り締めて、ノイズに戦いを挑もうとしていた。
次回は、シキと信頼関係を築けるかどうか……のお話です。