すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
ネクとヨシュアは、渋谷の壁を解放するための条件を達成していく。
その一方で、下っ端死神の狩谷と八代は、南師が召喚した禁断ノイズに対処しようとする。
狩谷はネクの秘密を見抜いているようだが、彼はそれを明らかにしなかった。
こうして、ネクとヨシュアはワイルドキャットに辿り着いた。
「おお、来たな」
そう言って二人を出迎えるハネコマ。
「どれ、ケータイよこせ」
「はい、よろしく」
ヨシュアはハネコマに携帯電話を見せる。
この携帯電話は渋谷中に反応しているようで、目的のものが見つからないようだ。
「分かった、すぐ終わるから少し待ってろや」
「それと、ネク君のケータイにカメラ機能ね」
「分かってるよ」
ハネコマはネクとヨシュアの携帯電話を受け取り、修理してもらう事にした。
修理中、ネクは自分の死因について考えていた。
何故、ヨシュアはネクを撃ったのか。
彼はネクを撃ってメリットになるのだろうか。
ヨシュアの目的は「渋谷ジャック」……つまり、渋谷を乗っ取る事。
彼はそのために、ネクを撃ったのだろうか。
ネクは渋谷ジャックと関係ないはずなのだが、契約を結んできたのはヨシュアからだった。
ヨシュアと組むためにネクを撃ったのだろうか。
そう思ったネクは、ヨシュアに話を聞こうとした。
「おい……おまえ、どうして俺と契約したんだよ」
「あれ? どうしたの、いきなり」
「契約した時におまえ言っただろ。【ずっと君を見ていたから】って。あれはどういうことだよ」
ヨシュアはネクをどこかから見ていたらしい。
ネクを撃ったのはヨシュアのはずなのに、何故か彼はネクのパートナーになった。
まずは、その理由を聞きたかったのだ。
「なるほど……そういう切り口かい」
だが、その言葉はヨシュアに簡単に流された。
「僕はね、昔からUGが見えたんだ」
「昔からって……生きてた時ってことか?」
「うん、僕は霊感が強いみたいでね。ほかの人には見えないものが僕には見えた。
だから、この渋谷で死神のゲームが開催されていることはずっと前から知ってたよ。
参加者やノイズ、死神達も見えてたからね」
どうやらヨシュアは、俗に言う霊感体質らしい。
生きながらノイズやUGが見えたりするのも、
彼が生きていながら死んでいる、そんな不思議な力を持っているからだという。
「RGでずっと俺を見てたってことか……」
ならば、何故ヨシュアはネクを撃ったのだろうか。
「だんだんUGで行われている死神のゲームに興味を持って、
自分なりに調べている時に羽狛さんと知りあったんだ」
「羽狛さんとはいつごろ知りあったんだ?」
「だいぶ前だよ。いつごろだったかは忘れちゃったかな。
それからはこの店に入り浸ってUGの話を聞いた。
羽狛さんの話を聞くたびに、UGの魅力にどんどん引き込まれていったよ」
「魅力?」
ヨシュアが抱くUGの魅力は、どんなものだろうか。
ネクはきちんとヨシュアの話を聞く事にした。
「生死をかけて必死で渋谷をかけずりまわる……こんなに刺激的なレクリエーション、
RGには存在しないよ」
やはりヨシュアは渋谷を俯瞰するように言った。
あの態度も、ヨシュアがこのように渋谷を見ているからだろうか。
「僕にとって日常は退屈以外の何物でもない。毎日、毎日同じことの繰りかえし……。
それこそ、死んでいるのと同じさ」
ヨシュアは生きながらゲームに参加している。
そんな彼がそう言うのだから、ヨシュアはよほど退屈を嫌っているのだろう。
「それで……ここに来たのか?」
「そう、僕のいるべき場所はUGだという結論に達したのさ」
「だから、俺を巻きこんだのか?」
「えっ?」
ネクの言葉にヨシュアは驚いた。
「おまえはUGに来たくてUGに来た。けど俺は……俺はおまえに……」
ネクがヨシュアに自分を撃った事を言おうとした時……。
「待たせたな、終わったぜ」
ハネコマの携帯電話の修理を終える声が聞こえた。
「本当かい!? 早く見せてよ」
ヨシュアはすぐに、携帯電話を取りに行った。
「くそっ!」
ヨシュアに言うタイミングを逃したネクは、俯きながら悪態をつく。
せっかく自分の死に際の詳細を知りたかったのに。
「よし! これで全部片付いたな」
ハネコマは用事を終えたのか、ワイルドキャットから出ている。
「あれ? 羽狛さん、出かけるのかい?」
「ああ、ちょっとヤボ用でな、今日は店じまいだ。じゃあな。2-3、2-3っと……」
ハネコマは野暮な用事があるため、ワイルドキャットは閉店する事にした。
そして、ハネコマは2-3に向かって歩いて行った。
「さて、探知機も直ったことだし、僕達も再出発しようか」
探知機の修理が終わったため、ヨシュアは何かを探す事を再開した。
「そうだ、その前に……。ねぇ、ネク君」
「なんだよ」
「今度は僕の番だよ。ネク君、さっき僕のことたくさん聞きだしたでしょ?
だから、今度はネク君のこと、教えてよ」
「……なんだよ」
「ネク君は、なんで死んじゃったの?」
「なっ……原因はおま……」
ヨシュアがネクの死について話すと、ネクは驚いてヨシュアに掴もうとする。
だが、ここで反論したら全てが無駄になると思い、ネクは俯きながらこう言った。
「……分からないんだ」
ネクは記憶こそ取り戻す事はできたが、まだ記憶が完全に戻っていない。
ネクは自分の事を出し渋っていた。
「分からないって……そんなことあるの?」
「前回のゲームで記憶を懸けたんだ。だいたいの記憶はもう戻ってる。
けど、まだイロイロと思い出せないことが多い。そういうおまえは? なんで死んだんだよ?」
「フフフ……それはヒ・ミ・ツ」
「なっ……」
「僕はUGに興味があるから来た、ただそれだけさ」
ネクはヨシュアが生きている事を知らない。
読者にしか分からない事は、役者であるネクには届かないのだ。
「じゃあ、行こうか」
いつも質問を上手くかわすヨシュア。
揉めずに彼から聞き出すには時間がかかるとネクは考える。
「……ほら、ネク君。出発するよ」
そんなぐずぐずしているネクにヨシュアは声をかける。
「反応はスクランブルの方から出てるみたいだよ」
どうやら目的地はスクランブル交差点のようだ。
ネクとヨシュアはすぐに、スクランブル交差点に向かった。
「見つけたぜ、ヘッドフォン野郎」
スクランブル交差点に行くため、宮下公園を通るネクとヨシュアの前に、
金髪の死神――ビイトが現れる。
「ビイト……」
「ちっとは強くなったか? どっちにしろ、今日は決着つけてやる」
ビイトはネクを倒すためにやってきたようだ。
ネクはまだ信じられないと言った表情で、ビイトに強く呼びかける。
「おまえ……なんでこんなことするんだ!?」
「決まってんだろ! 死神だからだよ!」
やはり彼は死神のまま、何も変わっていなかった。
だがヨシュアは宣戦布告するビイトを睨みつける。
「でも、それはおかしいね。死神は……」
「うるせー! だまれ! 俺は死神だ、だからおめぇらを消す! いくぞ!!」
ルールに従わないのか、それとも完全に死神になっていないのか。
ビイトがネクに攻撃しようとした、その時。
「なにやってんのよ!!」
ビイトの後ろから、少女の声が聞こえてきた。
「アンタらは!!」
ネクとヨシュアの前、ビイトの後ろには、下っ端死神のカリヤとヤシロがいた。
二人はビイトのルール違反を指摘しに来たのだ。
「ムカつくからってルール違反はヨクナイナ~。参加者に直接手を出せるのは7日目。
しかも、ゲームマスターだけダゾ」
ゲームマスター以外の死神は、どんな時があっても決して参加者に直接手を出してはいけない。
それが、死神のゲームにおける死神側のルール。
つまり、ビイトはルールを何回か違反している、という事になるのだ。
「さらに、今回は仕事は全て禁止。
参加者に一切手を出すなっていうお達しがゲームマスターから出てるの、知らないの?
新人だから知らなかったじゃ済まないわよ」
つまり、何もしなくていいのだが、逆にヤシロはそれで退屈しているという。
だが、ビイトはヤシロの言葉に首を振った。
「俺は特別だ! 俺の仕事は指揮者からの特命だ!」
「特命!?」
「おっスゲェ! 期待の新人ってヤツカ?」
ビイトはキタニジから、ネクを倒せと命じられたという。
「フンッ」
「なんで……なんで、アンタがっ!?」
ヤシロはビイトを見て悔しそうな顔をする。
自分達は仕事ができない、なのにビイトはネクを倒そうとする。
その立場の違いに、彼女は嫉妬してしまったのだ。
「そんなの、俺が知るか! 仕事のジャマだから消えてくれねぇか、セ! ン! パ! イ!」
「ちぃぃぃ、調子にのりやがって!」
挑発するビイトにヤシロは激昂するが、カリヤは彼女の肩に手を置く。
「ハイハイ、そんなにカッカしなサンナ。後は若いモンに任せて、俺達はテッシューってコトデ。
んじゃ~、健闘を祈るぜ~、シンジン」
そう言って、カリヤとヤシロは撤退した。
「フン……やっとジャマが消えたぜ。さぁ、覚悟しやがれ!」
ネクとビイトの決闘が、再び始まろうとしていた。
「いい加減にしろ、ビイト! 自分が何をやっているのか、分からないのか!?」
「うるせぇ! とにかく、おめぇを倒す!!」
ネクはビイトに呼びかけ、彼との戦いを止めようとする。
しかし、ビイトは迷う事なく、スケボーに乗ってネクに突っ込んでいく。
「そんなものかよ!」
「そんなものって……俺は、おまえと戦うつもりなんて……」
「ないって言うのか?」
「!」
ビイトはネクの腑抜けた態度を指摘する。
そんな甘い態度だと、この死神のゲームで生き残る事ができないという。
ネクは「そんな事ない」と首を振るが、ビイトは容赦なくスケボーでネクを攻撃する。
逆に、ネクは防戦一方で、ビイトに対し自衛以外でサイキックを使っていなかった。
「そんなんだからおめぇは甘いんだよ。だったらこれで、とどめを刺してやる!!」
「やめろ、ビイト!!」
そう言って、ビイトはネクに体当たりした。
ネクはすぐに攻撃をかわして、ビイトにサイキックで反撃した。
「ちっ!! 今回はさすがに……」
「待てよ!! おまえに……」
「うるせぇ! いくぞぉ!!」
「待てって!」
攻撃しようとするビイトを呼び止めるネク。
だがビイトは聞く耳持たず、ネクに攻撃を仕掛けてきた。
その時、ネクは鈴がついたペンダントを持っている事に気づき、
そのペンダントをビイトに見せる。
「このペンダント、おまえのだろ!?」
「!? そ、それは! どうしておめぇが持ってんだ!?」
ペンダントを見たビイトの動きが止まる。
ネクは前回、ビイトとの戦いで彼がペンダントを落とした事を話した。
「昨日、おまえが落としたんだ」
「くそっ! 返せ!! それで俺を脅そうったってそうはいかねぇぞ!
力ずくで奪い返してやる!!」
「そんなことしない! ほら、返すよ」
ネクはいつもより穏やかにビイトにペンダントを返した。
ペンダントを受け取ったビイトの表情が変わり、ネクに対する戦意が失われつつあった。
「どうして返した? 俺はおめぇらの敵だぞ……」
信じられないといった表情のビイトだが、ネクはビイトが死神になった理由が分かっていた。
ビイトはライムを人質に取られており、彼の本意ではないという事を。
だから、これ以上ビイトが攻撃しないように、
できればビイトにこちら側に戻ってきてほしくて、ライムの形見のペンダントを返したのだ。
「おまえの大事なものなんだろ?」
「……礼は言わねぇ。でも、ひとつ借りだ」
そう言って、ビイトはネク達の前から姿を消した。
その手に、しっかりとペンダントを握りながら。
「不良死神は行ったのかい? それにしても……特命ねぇ……」
「なんだよ?」
「なんでもないよ、さぁ行こう」
ヨシュアは、ビイトに命令を下した死神が誰かを知っているようだ。
もちろん、これは読者も知っているが、ネクはまだ分かっていなかった。