すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
死神のゲームも六日目を迎える。
ヨシュアはネクを撃ったが、ネクはその理由を知らず、彼を警戒していた。
戦いの中、ネクはヨシュアが何者なのか、何故天使の力を使えるのかを知りたいと思っていた。
その後、センター街入口に向かった二人は強力なノイズに襲われる。
ネクはヨシュアを許していないが、シキと自分自身のためにゲームを続けるのだった。
目的地のルート5に行くため、ネクとヨシュアはAMX前に行った。
「うわぁぁぁあ!!」
「あ、あれは!?」
突然、AMX前で悲鳴が聞こえた。
ネクが目を見開くと、禁断ノイズが赤いパーカーの男を襲っていた。
「な、なんだよ、このノイズ」
赤いパーカーの男は禁断ノイズから逃げている。
禁断ノイズは無差別に人を襲う、というのは事実のようだ。
「死神が……ノイズに襲われてる!?」
「ネク君、どうする?」
「……俺は……」
禁断ノイズを放っておいては、他の参加者も襲われる危険性がある。
ここは自分が率先して禁断ノイズを倒すしかない。
「アイツを助けるぞ!」
「はいはい」
ネクとヨシュアが禁断ノイズを倒そうとした瞬間、また禁断ノイズが現れた。
「どうやら、彼を助ける前にこっちのノイズを倒す必要があるみたいだね」
「くそっ!! このノイズから片づけるぞ!」
ネクは三体のノイズに突っ込んでいく。
ヨシュアは光の柱でイタチ型ノイズを攻撃し、
ネクはその隙に連続でイタチ型ノイズを殴って倒した。
さらにカニ型ノイズも殴ろうとしたがカニ型ノイズは盾を構えていたため反撃を受けてしまう。
もう一体のカニ型ノイズもハサミでネクを殴った。
ヨシュアは光の力でカニ型ノイズを打ち据え、ネクの打撃攻撃でカニ型ノイズは倒れた。
「やっぱり、全然攻撃が通らないな……」
「言ったでしょ、僕と一緒に攻撃しないとあの黒いノイズに攻撃が届かないって」
「……」
ネクはカニ型ノイズの攻撃をかわし、
盾を構えていない隙を見計らってヨシュアと共にサイキックで攻撃する。
彼が生み出した光の中には相変わらず天使がいた。
攻撃を少し食らいながらも、ネクは何とかヨシュアと共にカニ型ノイズを倒した。
「あの死神は!?」
「いない……みたいだね」
ネクとヨシュアは三体の禁断ノイズを撃退したが、赤いパーカーの男の姿はなかった。
恐らく、禁断ノイズに襲われてしまったのだろう。
結局、あの死神に襲い掛かる禁断ノイズに、ネクとヨシュアは手を出せなかった。
「……助けられなかった」
死神を助ける事ができず、落ち込むネク。
「ネク君が気にすることじゃないよ」
ヨシュアはネクを励まそうとするが、今までの事を覚えているネクは首を振った。
もしも、これが他の参加者だったら……と思うと、ネクは無力感を隠せなかった。
「それにしても……あのノイズ……死神を襲うなんて……」
「死神がつくったノイズは死神を襲わないのか?」
「そう聞いたけど……」
「どうなってるんだ?」
禁断ノイズは無差別に人を襲う。
それは、死神が作ったとしても、例外ではない。
その事実に、参加者のネクとヨシュアはまだ気が付いていなかった。
「あ、あれは!?」
ネクとヨシュアが千鳥足会館前に行くと、ソウタとナオが禁断ノイズに襲われていた。
二人の身体はボロボロになっており、今にも存在が消滅しそうだった。
「くっ!! くそ……またノイズか……」
「ごめん……ソウタ……私……」
致命傷を負ったナオの身体は光に包まれている。
彼女はソウタに最後の言葉を残そうと、必死で口を動かしている。
「あきらめるな!! 最後までのこって生きかえるんだ!」
「そう……したいけど……もう、ダメみたい。ごめん……ね……」
「ナオ!!」
ソウタの叫びも空しく、ナオはソウタの目の前で光となって消滅した。
「ちくしょう……ちくしょう!!」
ソウタはナオが消えた方を見て悔しそうに叫んだ。
彼の目には、たくさんの涙が浮かんでいた。
「パートナーが消滅……もう彼はどのみち消滅する……」
死神のゲームはルール上、パートナーを失った参加者は消える。
自分を励ましてくれた参加者が消えるという事に、ネクは衝撃を隠せなかった。
「ネク君、どうするの? 助けに行くの?」
「助ける!! 行くぞ!!」
ネクはいてもたってもいられず、ソウタを禁断ノイズから助けようとした。
ナオを失ったソウタは、大粒の涙を流していた。
そんな彼の姿を見たネクは、エントリー料になったシキを思い出す。
(……シキも、ナオのようになるのだろうか。いや……ナオの二の舞にはならない。
シキは絶対に、俺の手で取り戻す)
何としてでも、シキを死神から取り戻す。
ネクはそう誓って、ソウタのところに向かった。
「ちくしょう!! ……ナオ、俺も……ここまでか……」
禁断ノイズに襲われ、ソウタの命もこれまでかと思ったその時。
「おい!!」
「おまえ達……」
ソウタの目の前に、ネクとヨシュアが現れた。
「ここは俺達が戦う! いくぞ!」
「うん」
今度こそ、目の前の命を救いたいとネクは真剣に挑んだ。
「そこだ!」
ネクはカニ型ノイズに突っ込んで殴るが、攻撃中に盾を構えて反撃を受ける。
カニ型ノイズはネクに群がるが、
ネクはノイズの攻撃をかわして炎のサイキックでノイズを倒した。
ヨシュアは光の力でカニ型ノイズを攻撃し、カニ型ノイズはネクをハサミで殴った。
「身を守っていたら、逃げる事に専念しよう」
カニ型ノイズが盾を構える。
盾を構えている間は攻撃すると反撃を受けるため、
ネクは盾を収めるまでカニ型ノイズから逃げた。
幸い、カニ型ノイズの動きは速くないため、ネクとヨシュアは的確にサイキックで攻撃する。
「あと少しだ!」
ネクがサイキックでカニ型ノイズを撃破し、続けてもう一体も攻撃しようとする……直前で、
カニ型ノイズが盾を構えている事に気づき攻撃の手を止める。
盾を収めた後、ネクとヨシュアはノイズを攻撃、もう一体のノイズも何とか撃破した。
「大丈夫か?」
「……ああ、助かったぜ……」
禁断ノイズを全て撃退したネクは、ボロボロのソウタを気遣う。
だが、パートナーがいないソウタは、もう長くない命になっていた。
「……って言ってもナオが消えちまったからな……。俺も……もうじき……」
そう言ったソウタの身体も、光に包まれている。
シキがエントリー料になって呆然とするネクを、ソウタとナオは力強く励ましてくれた。
彼らがいてくれなかったら、きっとネクは自暴自棄になっていたかもしれない。
ソウタを助けたいと思ったネクは、彼が消えるという結果を受けてショックを受けた。
「俺達が……もう少し早く来てれば……」
「おまえ達のせいじゃねーよ……。俺がナオを守りきれなかった、それだけだ……」
光に包まれているにも関わらず、ソウタは笑みを浮かべてネクに言う。
その様子が、ネクにはどこか切なく見える。
「ネクとヨシュアって言ったよな……」
「ああ……」
「おまえ達は最後まで残れよ。
エントリー料にされたパートナー取り返して、必ず三人で生きかえれよ」
そう言って、ソウタは光になって消滅した。
自分が真の死を迎えるにも関わらず、彼の表情は、最後まで笑顔を崩していなかった。
「くそっ!! 間にあわなかった! また、目の前で……助けられなかった……」
ネクは涙こそ浮かべていなかったものの、その表情は無力感でいっぱいだった。
助けようとした命を、助けられなかったからだ。
「生き残りはもう……僕達だけなのかもしれないね」
「くっ、また死神の思うツボか……」
ゲームマスターは禁断ノイズを召喚し、ここにいるものを片っ端から消しているのだろう。
ネクはヨシュアと共に阻止しようとしたが、あと一歩及ばず、消えてしまった。
彼は当然、ショックを受けている。
「頭にくる?」
「当たり前だ。俺達は死神のオモチャじゃない」
「でも、僕達は生きのこってる。それで十分さ」
「生きのこれなかったヤツらはどうなる……?
死神達のせいで、たくさんの参加者が消されたんだぞ!」
「そんなの関係ないでしょ、ネク君には。ほかの参加者がどうなったって……」
「……ちがう」
どこまでも淡々としたヨシュアに、ネクは呆れて首を振った。
参加者は蘇生のために死神のゲームに挑んでいる。
なのに、死神やヨシュアは、参加者の誇りや願いを踏みにじっている。
ネクはそれが我慢できなかったのだ。
「え?」
「確かに参加者は他人どうしだ。参加者だけじゃない、道行く人達もみんな他人だ。
お互いの立場も境遇も価値観も考え方がちがう。
けど……この渋谷で出会って、少しだけだけど話をして……少しだけだけど、感じたんだ。
俺の世界が……俺の世界がほんの少しだけひろがるのを……」
世界を知るためには自分自身で広げる必要がある。
ハネコマが言っていた事を、ネクは思い出した。
「だから……そんな人達を全く関係ないって、そんな簡単に割りきりたくない」
「どうしたの? ネク君らしくないよ。
周りに期待するだけムダ、人と人は分かりあえっこない……でしょ?」
ネクの考えが変わった事にヨシュアは疑問を抱く。
そんな彼の言葉にネクは再び首を振り、憧れの人物の言葉をヨシュアに言った。
「全力で今を楽しめ」
「えっ?」
「今を楽しむってことは世界をひろげること。
羽狛さんが言ってた意味がやっと分かった気がする……。
自分ひとりだけじゃいつまでたってもひろがらない。
だから……人と関わって世界をひろげていくんだ」
「フフフ……そういう考え方もあるかもね。
他人とふれあうからこそ、今までとは違う自分を発見できる……そんなところかな……」
世界が広がれば、その分だけ自分の世界も広がる。
結果的に今を楽しむという事に繋がるのだ、とハネコマはネクに伝えたのだろう。
ヨシュアはネクの考えを理解していないようだが、その事はネクには伝わっていなかった。
「さぁ、急ごう。ミッションは僕達がクリアするしかなさそうだしね」
他の参加者は、もう禁断ノイズに襲われているのだろう。
だとしたら、ネクとヨシュアが行くしかない。
ネクは消えてしまった参加者のためにも、
自分がミッションをクリアしなければ、と固く心に誓った。