すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
ネクとヨシュアは目的地ルート5に向かう途中、禁断ノイズに襲われる。
彼らは他の参加者を助けようとするが間に合わず、参加者は消滅してしまう。
ネクは他人との関わりを通じて世界を広げ、今を楽しむことの大切さを理解する。
ネクとヨシュアは自分達だけがミッションをクリアできると認識し、
消えてしまった他の参加者のためにもミッションをクリアする事を誓うのだった。
禁断ノイズの襲撃によって、ソウタやナオなど、多くの参加者が消滅した。
それだけでなく、運営側の死神までも禁断ノイズの手にかかってしまった。
その事はネクのゲーム意欲を上げていた。
確かに死神はこちら側にとっての敵だが、だからといって見捨てるわけにはいかないからだ。
現在の渋谷はルート5だけが開いているようで、ネクとヨシュアはここが目的地だと知った。
ルート5とは、スクランブルから宇田川町の通りである。
ここはスクランブル、センター街、AMX、千鳥足会館、渋急ヘッズ、
宇田川町の6つのエリアに分かれており、スクランブルを0として番号を振ると、
スクランブルと宇田川町のボスを倒せばミッション達成となる。
ネクは、こんなミッションをさっさと終わらせようと意気込み、宇田川町に行こうとした。
「あっ……アイツら……」
渋急ヘッズから宇田川町に行こうとしたネクとヨシュアは、二人の下っ端死神の姿を見かけた。
「はぁ……はぁ……」
「大丈夫カ? 卯月」
案の定、禁断ノイズは死神でも苦戦するようで、二人に疲労と傷がはっきりと見えている。
「この禁断ノイズ……いったいどこから」
「どこぞの場所でゲームマスターが作ってるんダロ」
カリヤはゲームマスターが魔法陣から禁断ノイズを召喚していると呼んでいた。
それを知るや否や、ヤシロはゲームマスターの「彼」に怒りを覚えた。
「ってなに!? ゲームマスターは、あたし達死神も消す気なの?」
「卯月!! アブナイ!!」
彼女が叫んだ瞬間、禁断ノイズが襲い掛かる。
二人は何とか、禁断ノイズの攻撃をかわした。
「彼らもなかなかピンチみたいだね」
「……」
「どうする、ネク君。彼らに加勢するかい?」
無差別に襲い掛かる禁断ノイズ、アレを放っておくわけにはいかない。
襲われているのは運営側だが、もし彼らが消えればゲームに支障が出る。
そのため、ネクは少し迷ったが、禁断ノイズを消す事を選んだ。
「アイツらに加勢するぞ」
「ふぅ~、そう言うと思ったよ」
ネクとヨシュアは急いで、禁断ノイズがいる場所に向かった。
そして、ネクはバッジを取り出し、ヨシュアと共に攻撃を仕掛けた。
「大丈夫か?」
禁断ノイズを撃退した後、ネクは重傷を負った二人を心配する。
参加者が死神側に加勢してきた事に、ヤシロはまだ驚きを隠していなかった。
「アンタ達……ってか何で助けにきてんのよ。
バカじゃないの? あたし達はアンタ達の敵なのよ?
それに、アンタ達に助けてもらわなくても、自分の身ぐらい自分で守れるわ!」
ヤシロの言葉は意地を張っているように聞こえた。
ネクはそんな彼女の言葉を聞いて首を振った。
そんな思いを抱いた参加者や死神が、実際に消えてしまったからだ。
「お~、助けてくれてサンキュー。おかげで助かったヨ」
反対に、カリヤはネクとヨシュアの加勢に素直にお礼を言った。
「ちょっ……狩谷!!」
「敵でも味方でも、助けてもらったら例は言うもんダロ」
「ふん……」
たとえ敵同士であっても、利害が一致していれば協力する事はある。
それを、カリヤはヤシロに教えたかったのだ。
「あたしは助けてなんて言ってないわ。
それに、死神が参加者に助けられたなんて、恥ずかしいにもほどがあるわ! いい迷惑よ」
ヤシロのプライドを傷つけてしまったようだが、ネクとヨシュアは特に気にかけなかった。
本当に、二人はただ、利害が一致しただけで、死神を襲う禁断ノイズを撃退したのだ。
「行くわよ! 狩谷!」
「ふぅ~、素直じゃナイネ……」
撤収していくカリヤとヤシロの背中を見て、ネクは静かに呟いた。
「助けない方がよかったのか?」
「感謝の仕方は人それぞれってことさ。さあ、先を急ごう」
こうしている間にも、大勢の人々が禁断ノイズに襲われているのかもしれない。
ミッション達成も大事だが、それ以上に禁断ノイズの脅威から渋谷を救うのが大事だ。
きっと、宇田川町路地裏にもいるかもしれない。
ネクはそう思いながら、ヨシュアと共に宇田川町に向かった。
「ここか……。時間は!?」
「残り30分」
「余裕だな」
時間は既に半分が過ぎている。
この調子で宇田川町のボスを倒せば、次の場所にも間に合うだろう。
「よし! ノイズを倒すぞ!」
ネクとヨシュアは、熊型の禁断ノイズを攻撃した。
「……これで全部だな」
全てのノイズを倒した瞬間、二人の手からタイマーが消えた。
どうやら、ミッションは無事に達成したようだ。
(あと1日……シキ……待ってろ……)
残りの日をヨシュアと共に生き残れば、エントリー料のシキを取り戻す事ができる。
ネクがそう思っていた時だった。
「クックックッ……ゼタ愉快だぜ」
ヨシュアの背後から、青年の不敵な笑い声が聞こえてきた。
青年が数学用語を口にした瞬間、ネクは再び頭痛を患った。
「フフフ……また来たのかい。そんなに僕達にかまってほしいの? さびしがりやさん……」
ヨシュアは青年を「寂しがり屋」とからかった。
そう、彼こそがゲームマスター、南師猩だ。
「おまえらに消滅されちゃ、計算くるうんだよ。創作活動にも身が入らねぇってもんだ。
生きのこってくれてよかったぜ」
ミナミモトは二人を最高の芸術作品にするつもりのようだ。
「なるほどね。最初のボス戦で助けてくれたのは君だったんだね。とりあえず感謝はしておくよ」
敵でも味方でも、助けてもらったら例は言う。
ゲームマスターであってもそれは例外ではなく、ヨシュアとミナミモトは互いに顔を合わせた。
「あんなザコごときでやられるようじゃただのゴミ。クラッシュ!」
ネクは、ミナミモトが自分達を「助けた」とは到底思えなかった。
何しろ協調性は全くなく、奇妙なオブジェや奇妙な口調で話し、
参加者を生かすつもりは全くない。
そんな彼が参加者を助けるのは、
空から雨が降ったのではないかと疑ってしまうのも無理はなかった。
「知ってるか? 明日は7日目……俺がおまえらに手を下せるスペシャルデーだ」
死神のゲームの最終日は、ゲームマスターが参加者に直接手を出せる。
つまり、過酷な戦いになる事は避けられない。
禁断ノイズが大量発生し、さらにそれを召喚している彼となれば、
このゲームの七日目は確実に苦戦するだろう。
「さぁて、問題の時間だぜ。俺がおまえらを消滅させる速さは?」
ミナミモトがネクとヨシュアに出題するが、その答えは読者ならば「すぐに」分かるだろう。
参加者を消す事に絶対の自信を持っている彼は、当然、そういう答えを出すのだから。
「さぁね」
「299,792,458m/s」
ミナミモトが出した答えは「光速」。
彼は文字通り、光のように速く参加者を消すと断言したのだ。
「なんだよそれ……」
「光の速さってことかな?」
ミナミモトはヨシュアの言葉を肯定する。
「あの日、この場所でミスった計算の答えを出す。今度こそ確実に仕留めてやる」
そう言って、ミナミモトは撤収し、同時にネクの頭痛も治まった。
ネクと彼に、何か因縁はあるのだろうか。
確実に仕留めると言ったのは、ヨシュアだろうか。
あの日、この場所でミスったと言ったのは、ヨシュアを消すのに失敗したからだろうか。
ネクはますます、困惑するのだった。
そして――
「以上が八代からの報告です」
虚西充妃は、北虹寵に今回の出来事を報告した。
「禁断ノイズは南師の仕業だったか」
「これは重大な反逆行為です。至急対処いたします」
死神は禁断ノイズを作る事を固く禁じられている。
それを行ったのだから、上位の死神は黙っていられないのは当然。
コニシはミナミモトの処遇を考えようとするが、キタニジは「いや待て」と彼女を止める。
「南師の処罰についてはコンポーザーと協議する」
「……了解いたしました。ですが事態は緊急を要しています。早急な決議をお願いいたします」
ミナミモトが命令に従わないのは承知していたが、ここまで事態を悪化させるとは。
最早彼を止められる者はほとんどいないだろう。
だから、コニシは早めにミナミモトの処遇をキタニジに決めてほしかったのだ。
「次に、不正参加者の件です。こちらは私が対応を進めておきます。よろしいですね?」
「ああ頼む、ルール通りだ」
「了解いたしました」
コニシは生きたまま死神のゲームに参加したヨシュアの処遇を考えるようだ。
「最後に、残参加者についての件です。いちじるしく生存率の高い参加者がおります」
著しく生存率の高い参加者……ネクの事だ。
読者ならもう分かっているが、彼は二度も死神のゲームに参加していながら、
ここまで生き残っているのだ。
理由を話したいところだが、メタなので語らない。
「……桜庭音操、どう思われますが?」
コニシがネクの名前を口に出した瞬間、キタニジは不敵な笑みを浮かべた。
「……ふふ……そういうことか。コンポーザーもお人が悪い」
果たして、渋谷を取り仕切るコンポーザーとは、一体何者なのだろうか。
そして、ネクは二回目の死神のゲームも、生き残る事ができるのだろうか。
全ては、最終日に明かされる――