すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
ネクとヨシュアは禁断ノイズに襲われる参加者を助けようとするが、間に合わず消滅してしまう。
ネクは他人との関わりを通じて世界を広げる事の大切さを理解し、
最終日に向けて決意を新たにする。
しかし、ゲームマスターの南師猩は彼らを消滅させると宣言し、緊張が高まるのだった。
二度目の死神のゲームはいよいよ最終日を迎えた。
だが、結局渋谷川への入り方は調べられず、ネクはかなり苛立っていた。
「……おまえ……どうして俺を殺したんだよ?」
ネクはヨシュアが撃った理由を聞こうとした。
自分の命を奪ったのはヨシュアのはずなのに、当の本人は頑なに隠している。
それがどうしても、許せなかったのだ。
「僕がネク君を殺した?」
「とぼけるなよ。おまえ、自分で言ってただろ」
ネクはいつもより冷たい声でヨシュアに言う。
何としてでも彼から事情を聴くために、ネクは感情をわざと凍らせた。
「僕が言ったのはもし、そうならってことだよ」
「じゃあ……おまえは……」
本当にネクを撃っていないのだろうか。
ネクがそれを聞こうとした瞬間、携帯電話にメールが届いた。
「今日のミッションが終わったら全部話してもらうからな」
「フフフ……はいはい」
携帯電話を開くと、こんなメールが届いていた。
ゲーム7
ポークシティのゲームマスターを倒せ
制限時間は600分 未達成は消滅
メールの内容を見た瞬間、ネクの手にタイマーが走った。
最後のミッションは、ゲームマスターとの対決。
これは最初の死神のゲームと同じだった。
ネクがミッションの内容をヨシュアに伝えると、ヨシュアは顎に手を当てて何かを考えた。
「……今日のミッション……ちょっと気になるね。まぁ……いいや。
悩んでてもしょうがないし、ポークシティへ行こうか」
「ポークシティは道玄坂の先だったな……行くぞ」
「はいはい」
ちなみに豚は、別の国では十二支で猪の代わりに選ばれる事もある。
二人が104ビル前に行くと、携帯電話にメールが入った。
追伸 ネズミとウシを用意しておけ
二通目のメールは、初めてだった。
「……やっぱり、今日のミッションはちょっと気になるね」
「確かに……いつもと違う気がする」
ゲームマスターを倒すだけなら、こんなメールを送るはずがない。
やはり、何か良からぬ事を考えているのだろう。
彼が仕掛けた罠なのだろうか、それとも……。
「ふ~ん……なるほどね」
メールを見たヨシュアは、すぐに内容を理解したようだ。
「フフフ……仕方ないね、ミッションに従おう。それしか勝ちのこる方法はないからね」
「そうだな……」
「う~ん……ネズミとウシ……ね」
「どういう意味だ?」
十二支の伝説では、牛の背中にこっそり乗った鼠が真っ先にゴールしたという。
それとこれとはメールの内容に関係あるだろうか。
ともかく、ネズミとウシは、確実にミッションのヒントなのは間違いなかった。
こうして二人は道玄坂を通り、ポークシティに辿り着いた。
たくさんのエレベーターがあり、外では死神達が会話している。
ポークシティというのは町ではなく、建物全体を指していたのだ。
「ここにアイツがいるのか……」
「拠点にするにはいい場所だね」
「どうしてだ?」
建物はそれなりに大きく、いかにも大物が住んでいそうだった。
それなら拠点にするにもいいかもしれない、とネクは思ったが、ヨシュアはネクに解説する。
「ここは渋谷中の情念が集まってポークシティにぶつかり、上空に吹きあがってる場所なのさ。
吹きあがった情念は逆流してまたここに戻ってくる。
情念は減ることなくたまりつづけているのさ」
要するに、この建物には渋谷の思いが集まっているらしい。
良い思いもあれば、悪い思いもあるため、色々な意味で混沌としているだろう。
「その様子を高いところから見おろして満足してる、ってわけか……」
「自己顕示欲が強い人ほど上にのぼりたがるのさ」
「まんまアイツだな」
彼は自分に絶対の自信を持っている。
だとすれば、彼は間違いなく、この建物の最上階でネク達を待っている。
(アイツさえ倒せば全てが終わる。待ってろ、シキ)
ネクはエントリー料となったシキを取り戻すべく、ポークシティの建物に入ろうとした。
だが、彼はまだ気づいていなかった。
死神のゲームに隠された「真実」に。
「おまえ、ミッションの件、何か聞いてるか?」
「いいや、何も……。
南師さんにここを見張ってろって言われて、6日間待機したまま連絡なしだ……」
どうやらこの死神は、ミナミモトに置き去りにされたようだ。
「……どうする?」
「コイツら、ミッションで来たんだから、条件クリアで通しても平気なんじゃないか?」
「だよな……。ミッションで来たってことは、南師さんが呼んだってことだもんな」
そう言うと、死神はネク達の方を向いて言った。
「よし、条件をクリアしたら通してやる」
条件突破の条件は、この階のノイズを全て倒す事。
ネクは精神を集中し、死神二人にとりついたオレンジ色のノイズに攻撃を仕掛けた。
「……バッジが使えない!?」
いつも使おうとしたバッジの一部が使えなくなっている事に驚くネク。
「そうか、ネズミとウシっていうのは……!」
「ムース・ラットゥスと
「このバッジしか使えないのか」
そのブランドのバッジは、いくつか持っている。
ネクはそれらを取り出すと、ノイズに攻撃した。
「よし……ちゃんと攻撃は通るみたいだ」
「僕も攻撃するからね」
ネクとヨシュアは、襲い来るノイズを、正当防衛のような形で攻撃した。
ノイズもかなり好戦的だったが、攻撃をかわしつつ、サイキックで反撃する。
「やるな……でも、ここって……」
「ん? どうしたの、ネク君」
「いや、何でもない」
ネクの呟きを、ヨシュアは何故か気になっていた。
そんな事は、今の戦いにはどうでもいいかもしれないが。
条件を達成したが、ネクは違和感を抱いていた。
建物の中でノイズと戦ったのに、風景は白黒の外になっている。
しかも、ノイズは赤でも黒でもなく、オレンジ。
「おい……ここで戦うと、なんかおかしくないか? どうして白黒の違う場所になるんだ?」
「正確には分からないけど、
もしかしたら……前に羽狛さんが言ってた虚数空間ってやつかもしれない」
「虚数空間?」
「ノイズがいる世界に限りなく近い平行世界……僕達はそこで戦ってるのかもしれないね……」
ヨシュアが言った「虚数空間」とは、あり得ない空間、ノイズが住む空間の事。
虚数は数学用語でもあり、ミナミモトらしいといえばらしいかもしれない。
「あのオブジェ死神の仕業か?」
「多分ね……。もともとポークシティは、渋谷中の情念が集まる特殊な場所だからね……。
そのエネルギーを彼が利用してるのかもしれない」
その情念を用いたエネルギーで空間が歪んで、
虚数空間が現れたのかもしれない、とヨシュアは推理した。
人の思いは良いものも悪いものもある。
良い方向に使えば事態は良い方向に向かい、逆もまた然りである。
「なかなかやっかいそうだな」
「フフフ……彼の根城だからね」
「なおさら油断は禁物だな」
あのミナミモトが考える事だから、確実に「悪い」方向である事は間違いなかった。
だとしたら、ネクが取る行動は、ただ一つだけだった。
「よし、上の階に行くぞ」
ネクはボタンを押してエレベーターに乗った。
ゲームマスターとの決着をつけるために。