すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
ネクは自分を殺したヨシュアとの因縁が絡む中、最終ミッションが下される。
渋谷の情念が集うポークシティで、二人はゲームマスター打倒を目指して挑む。
メールに記された「ネズミ」と「ウシ」が手がかりとなり、不思議な空間で戦う。
混沌の中、ネクは敵と交錯しながら仲間との絆を深め、失われたものを取り戻そうとする。
ゲームに秘められた謎と運命が彼を待ち受けるのだった。
ポークシティ2階に着いたネクとヨシュア。
この場所は特殊な結界が施されており、D+B以外のブランドのバッジは使用できない。
「確か、このブランドで合ってるよな」
「うん」
ネクはバッジを確認した後、二人の死神に声をかける。
「おい」
「参加者!? なぜここに……」
死神は参加者がここに来る事を想定していなかったようだ。
「僕達、ミッションでここに来たんだけど」
「……ミッション、出てたのか……」
「そうみたいだな。下の連中も通してるしな」
ヨシュアは簡潔に死神にそう伝えると、死神はそう呟いた。
彼らもまた、ポークシティでずっと見張り、という名で待機していたようだ。
「よし、ここの階の条件クリアをしたら通してやる。しかし、1階ほど甘くないぞ。
……この階を突破したければ、この階のノイズを全て撃破しろ」
条件は1階と同じだった。
ネクは精神を集中し、ポークシティにいるオレンジのノイズをスキャンした。
「はっ!」
ネクはバッジを使って素早く接近し、ペンギン型ノイズを連続攻撃して倒す。
ヨシュアは光の柱をペンギン型ノイズに放ち、ノイズが攻撃してくる前に攻撃する。
ペンギン型ノイズの攻撃を食らいつつも、ネクとヨシュアはサイキックでノイズを倒した。
三体のカエル型ノイズは特に苦戦せずに倒したため、
残る狼型ノイズとカエル型ノイズとの戦いに移る。
「動きが速い!」
「危ないよ、ネク君」
ネクは狼型ノイズの攻撃をかわし、
サイキックで反撃しようとするが三体のカエル型ノイズに阻まれる。
そのノイズの攻撃もかわして、パイロキネシスで二体のカエル型ノイズを燃やした。
「ぐっ!」
ヨシュアは狼型ノイズを光の力で倒すも、ネクはカエル型ノイズの体当たりで転倒する。
「油断はダメだよ。この先のゲームマスターに勝てないからね」
最終日のミッションはゲームマスターを倒す事。
そのため、こんなノイズに手間取っていては、ゲームマスターに勝つ事はまず不可能だ。
「……そうだな!」
ネクは気を引き締め、残ったカエル型ノイズと狼型ノイズをサイキックで攻撃した。
その表情に、焦りは全く見られなかった。
「頑張ってるね、ネク君。よし、僕もその気持ちに答えよう!」
ヨシュアも、ネクのパートナーとして、光の力を使ってノイズを攻撃した。
その連携はかなりのもので、たった1分で全てのノイズを撃退する事ができた。
「これで条件達成だな」
全てのノイズを撃退し、ネク達は3階に上がる準備をした。
ゲームマスターはこの先にいるようで、ネクは気を引き締めている。
「シキ……待ってろよ……!」
もう一度バッジを確認したネクは、シキが戻ってくるのを信じて、
ヨシュアと共にエレベーターを上がった。
「なあ……俺がゲームに勝ったら……エントリー料は……シキは……本当に戻ってくるのか?」
エレベーターはゆっくりと3階に上がっている。
しかし、ヨシュアと話しているネクは不安な表情をしていた。
何故なら、記憶が戻って蘇生するはずなのに、完全に記憶を取り戻しておらず、
蘇生できたのはシキだけで、しかも今回のゲームのエントリー料になったのだ。
実質的にネクは何も得ていないという事になり、
今回も前回のような結果になるのではないかと不安だった。
「信じていればきっとシキって子は戻るよ」
「……」
やはりヨシュアの言葉は信用できない。
だが、信じていれば戻ってくる、という言葉だけは少し信じる事ができた。
「シキが戻ってきても、俺が生き返れなかったらどうする? また、シキが悲しむんだぞ……!」
自分だけ戻ってネクがまたゲームに参加しても、シキは絶対に喜ぶわけがない。
お互いに信頼し合っていたのに、また別れるなんてネクもシキも悲しかった。
ネクはこれ以上シキの悲しむ姿を見たくなかった。
そんな彼の姿を見たヨシュアは、ぽつりと呟いた。
「……そんなにその子が大事なら、どうして他の参加者も助けたの?
君は、その子だけが大切じゃなかったの?」
「忘れたのか! 他の参加者も俺と同じで、生き返るために命がけで戦ってるんだ。
そいつらもシキと同じくらい大事だ。だから……俺は……」
ネクの目には涙は浮かんでいなかったが、
彼が歯をきつく食いしばっている事はヨシュアにも分かった。
すると、ヨシュアはふむ、と顎に手を当てる。
「なるほど……君にとって大切なもののスケールが、どんどん大きくなっている事は分かった」
「なんだと?」
「もし、ゲームの参加者が君だけになっても……君は、自分を見失わずにいられるかい?」
ヨシュアのこの言葉は、後のネクに大きく響く事になるとは、ネク自身は気づいていなかった。
そして、エレベーターは音を立てて、ポークシティの3階に辿り着いた。
「くっ!! おまえら!? どうしてココに!?」
最上階である3階には、今回のゲームマスター、南師猩が待ち構えていた。
たくさんの罠を潜り抜けてきてやってきた事に、彼は驚きを隠していない様子だ。
「ボケたつもりか!?」
「ミッションメールが来たのさ。ポークシティのゲームマスターを倒せってね」
「なんだと!? 逆行列かっ!!」
死神のゲームの最終日は、ゲームマスターとの直接対決。
相当な自信を持つミナミモトが、ここまで動揺するのを見たのは初めてだ。
「……まぁいい。出向く時間が省けた。むしろ好都合ってヤツだ。
本当はあの場所であの時と同じシチュエーションを用意してたんだがな」
一体彼は何を言おうとしているのだろう、とネクが訪ねようとした瞬間、ネクを頭痛が襲う。
「ネク君!? どうしたの?」
「うぁぁぁ!!!」
ネクの頭痛はますます激しくなり、自分を保てなくなってしまう。
すると突然、ネクの中にあの光景が広がった。
渋谷、CATの落書きが描かれてあるあの場所に、ネクは無邪気な表情をしながら立っていた。
夢中になりながら壁を見ていると、拳銃を持ったヨシュアが自分を追いかけていた。
ヨシュアの目に、ネクの全身が映り――ネクの胸に、鋭い痛みが走……らなかった。
不敵な笑みを浮かべながら拳銃を握るヨシュア。
「しくじった……」
「何!?」
しかし、ヨシュアが狙っていたのは、ネクではなく――ミナミモトだった。
「しくじった」と言うに、誰かを仕留める事に失敗したのだろう。
ネクは何が起こったのか分からず、ただただ困惑するしかなかった。
そして、拳銃を握り締めたミナミモトが、困惑するネクの胸部目掛けて――発砲した。
「アンタ……だったのか」
「ネク君……?」
ネクを撃った真犯人、それはミナミモトだった。
その光景はヨシュアには見えていないようで、ヨシュアはきょとんとしている。
「おまえが……俺を殺したのか……。おまえが俺から全てを奪ったのか!!」
ようやく真犯人が分かり、ネクはミナミモトに対し怒りを露わにする。
ヨシュアを疑った事に対しては謝罪しなかった。
何故なら、自分を撃ったという疑いが晴れても、どうにも信用ならない人柄だからだ。
「フン、そんなことはどうでもいい」
「なんだと!?」
しかしミナミモトは平然と話を続ける。
まるで誰かを撃った事はどうでもいいかのように。
「さて、オシャベリは終わりだ。かかってきな。
今度こそ俺の空間座標から追放してやるぜ!! 虚数の大海におぼれろぉぉっ!」
最早ミナミモトに話し合いは通用しない。
彼を倒して、死神のゲームをクリアするしかない。
ネクとヨシュアは、ミナミモトとの対決に臨んだ。
「逆行列だ!」
ミナミモトは宙に浮いて黒い塊を取り出し、それを放り投げると熊型禁断ノイズになった。
ネクは雷のサイキックで熊型禁断ノイズを攻撃し、
ヨシュアは光の力で熊型禁断ノイズを打ち据えた。
やはりパートナーと連携しないと攻撃が通らない。
ネクはヨシュアとの誤解が解けたのもあって、改めて、パートナーが大切な存在だと認識した。
「そこだ!」
鎖を呼び出すサイキックで熊型禁断ノイズの動きを止めた後、
ヨシュアが光の力でとどめを刺した。
「ふんっ、なかなか計算通りだな」
「何だと?」
「逆行列だ!」
ミナミモトは笑いながらカニ型禁断ノイズとカンガルー型禁断ノイズを召喚する。
「燃やしてやる……ぐぅっ!?」
炎のサイキックで燃やそうとしたネクだったが、
カンガルー型禁断ノイズの急降下攻撃を受けて吹っ飛ばされる。
「ここは、動きを止めてからやるか!」
ネクは振動を起こすサイキックで禁断ノイズの動きを止めた後、
ヨシュアが光の力を広範囲に放って攻撃する。
カンガルー型禁断ノイズの急降下攻撃をかわしつつネクは弾を飛ばすサイキックを使う。
カニ型禁断ノイズが防御していない隙に、雷を落とすサイキックで攻撃していく。
こうして三体の禁断ノイズを倒すと、
ミナミモトは「美しくないんだよ!」と言いながら禁断ノイズを召喚し、自ら攻撃に出る。
「このラジアンが!」
「うあっ!」
ミナミモトはネクを怯ませた隙に、先程召喚した禁断ノイズを自身に吸収し、
ライオンのような姿になった。
「禁断ノイズを吸収した……!?」
「まるでライオンみたいだ……」
「ゼタ
ネクとヨシュアが呆然としている隙に、変身したミナミモトはネクを蹴り飛ばす。
「うぐぁっ!」
「ネク君っ!」
「伊達に光速を語ってないな……速すぎる」
「今は逃げるしかないみたいだね」
あの速さでは、サイキックはまともに当たらない。
ネクとヨシュアは変身したミナミモトから、ただ、逃げるしかなかった。
「ゼタ
ミナミモトはネクとヨシュアを翻弄しながら、彼らを徐々に追い詰めていく。
ネクとヨシュアは変身が解けるまで何とかミナミモトから逃げた。
「はぁ、はぁ……」
「ネク君、休んでる暇はないみたいだよ」
「そ……う、だな」
「ベクトルが違うぜ!」
そして、ようやくミナミモトの変身が解けると、ミナミモトは次々に禁断ノイズを召喚した。
ネクとヨシュアは禁断ノイズとミナミモトを攻撃しつつ、彼らの攻撃をかわしていく。
禁断ノイズを吸収して変身したら逃げて、
変身が解けたらまた禁断ノイズを攻撃する……その繰り返しが続いていた。
「くそ……やっぱり、勝てないのか……?」
ネクとヨシュアの顔には疲労が浮かんでおり、それに対しミナミモトは余裕を崩さなかった。
「おまえら、ヨクトグラムの割にはよくここまで生き残ったじゃないか。
だが、おまえらはここで全てが零になる。他ならぬ俺自身の手でな!」
そう言ってミナミモトは禁断ノイズを吸収し、ライオンの姿に変身してネク達に襲い掛かる。
攻撃を避ける余裕はなくなっていき、ネクとヨシュアの体力は残り僅かになった。
「くそ……このままじゃ、あいつの言う通り、俺達は虚数の大海に……」
「……あのバッジを使わないのかい?」
「あのバッジ……そうか!!」
ネクは他のバッジを使って、すっかり忘れていた。
パートナーと共に攻撃する、あのバッジを。
「ん? 何を思いついたのか分からないが……零に何を掛けようと零には変わらないんだぜ?」
ミナミモトが首を傾げている中、ネクはあるバッジを取り出した。
「俺に……力を貸してくれ!」
バッジが光り出すと、ネクとヨシュアの身体が淡い光に包まれる。
「別世界へ!」
「
ネクとヨシュアがさらに光で繋がれ宇宙が広がり天空から巨大な隕石がゆっくりと落ちてくる。
それが地面に直撃すると巨大な爆発が起こる。
多くを一夜にして葬り去ったその威力は凄まじく、
しかも隕石はミナミモトにクリーンヒットした。
光を浴びたミナミモトの身体が解けていき……やがて、人間の姿に戻った。
「はぁはぁ、ゼタしぶといぜ、おまえら……」
瀕死の状態のミナミモトが悔しそうに呟く。
服も帽子もボロボロで、既に戦闘を実行できる状態ではなかった。
「どうしたの? 光の速さで倒してくれるんじゃなかったの?」
「フフフフフ……フハハハハハハ!!
3.14159265358979323846264338327950288419
7169399375105820974944592307816406286208
9986280348253421170679821480865132823066
4709384」
ヨシュアが挑発するとミナミモトが大きく笑った。
そして、円周率を実に小数点以下125桁まで高速で呟き、二人に向かって高らかに叫んだ。
「知ってるか? 世界は数字でできてんだ。俺は求める解のために今日まで逆算しつづけた。
そして、これが答えだ!」
そう言うと、ミナミモトの身体から凄まじいエネルギーが溢れ出る。
自らが消える直前、ネクとヨシュアを道連れにするつもりのようだ。
「まずい! このサイキックはレベル虚数フレア!」
レベル虚数フレアは、巨大な爆発を起こして木っ端微塵にする禁断のサイキックだ。
まともに食らえば、ネクとヨシュアの命はない。
しかも、二人は連戦によって疲労が蓄積している。
これを避ける余裕は……なかった。
「勝つのは俺だぁぁぁ!!」
「ダメだ!! 間にあわない!」
ミナミモトは勝利を確信した笑みを浮かべた。
その時だった。
「何言ってるの、ネク君は負けられないんでしょ?」
ヨシュアはネクを突き飛ばし、微笑みを浮かべながら両手を広げる。
まるで、世界を「広げる」かのように。
「自分を諦めたら、世界を諦めるのと同じだよ」
「――ヨシュア!」
ネクは、最後にヨシュアの名を叫びながら――彼に向かって、手を伸ばす。
次の瞬間、目を開けないほどの大爆発が起こった。