すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
ネクはバッジを手に取ると、精神を集中する。
見えるものが全てではない……男からそう言われた通り、
彼の周囲には三つの橙色の紋章が浮かんでいた。
あれこそが、ネク達が倒すべきノイズなのだろう。
ネクが手にしたバッジは、手が描かれたバッジ、サイコキネシス。
サイキックの中で最も有名な、物を念力で動かすものだ。
襲ってきたノイズは、最も弱い蛙型のもの。
「全部、消してやる」
ネクはそう言って、ブロックを浮かせ、ノイズに向けて飛ばした。
蛙の攻撃を食らわないように、できるだけ離れて、攻撃していく。
電撃を放つバッジ、サンダーボルト。
エネルギー弾を飛ばすバッジ、バレットショット。
敵を斬りつけるバッジ、ショックウェイヴ。
周りのものを利用しながら、ネクは次々とノイズを倒していく。
結果、あまりダメージを受けずにノイズを全て撃破し、ネクは戻ってきた。
「そっか……ノイズってスキャンすると見えるんだ」
先程のノイズは、シキには見えなかったようだ。
すると、赤いパーカーの男が淡々とこう言った。
「撃破条件確認」
ノルマを達成したので、道が開かれた。
「ノイズの探し方は分かったけど……壁が……あれ!? 通れるようになってる! どうして!?」
「ノイズを倒したからだ」
「壁ってノイズを倒すと通れるようになるんだね。でも……おかしいよね」
「何が……?」
「二人じゃないとノイズは倒せないって聞いたけど……ノイズって一人でも倒せてるよね?」
「そういえば……」
先程はネク一人でノイズを倒した。
シキにノイズが見えなかったとはいえ、
パートナーがいないと死神のゲームは生き残れないはずだ。
彼女はそれに、疑問を抱いていた。
「いつも一緒に戦ってるわけでもないし……」
「契約しているからだ」
その時、後ろから声が聞こえてきた。
淡々とした声は、間違いなく「彼」のものだ。
「「(えっ)!?」」
ネクとシキが振り向くと、赤いパーカーの男が立っていた。
「ノイズはパートナーがいる事で初めて倒せる。
契約していないものはノイズにダメージを与えられない」
男は事実を淡々と伝えるとそのまま去っていった。
「ちょっ……。なんなの、あの人……さっきから」
男はやけにノイズの事情に詳しかった。
恐らくは、死神と関係があるのだろう、とネクは推測した。
「でも、ネクってスゴイよ!」
「……え?」
「ほら、持ってたバッジ、全部使えたんでしょ?」
「ああ……」
支給されたバッジは、全部で七つ。
その全てを使いこなせるというネクは、相当な才能を持っているらしい。
「ネクってサイキックの天才かも!!」
(なんだそれ……ちょっと使っていきなり天才も何もないだろ。単純すぎる……)
少し使っただけで天才ともてはやすシキは、ネクにとっては嫌だった。
今のシキの声は、ネクにとって「雑音」だろう。
だが、ネクはごく僅かだが、シキの気持ちを分かっていた。
こんな暗い場所で明るく振る舞えるなんて、心が強いんじゃないか……と。
(そういえば……なんでこんなバッジを持ってるんだ?)
「あれ? ネク、参加者バッジが二つあるよ」
「本当だ……」
今、死神のゲームに参加しているのは、ネクとシキの二人だけのはずだ。
しかも、シキの分のバッジは、当然ながら彼女が持っている。
他にもう一人、参加者がいるのだろうか。
「でも……参加者バッジって、二つ持ってても意味なくない?」
(そんなこと知るか。なんでバッジを持ってるかも分からないのに……。
でも、このバッジがなければノイズには対抗できない。
サイキックを使うことが生き残るための唯一の道ってことか……)
「大切な」記憶を取り戻すためにも、
ネクはサイキックを使いこなさなければ、と思うのであった。
「えっと……でも、二つあった方が便利だよね! きっと何か役に立つよ!」
(意味ないって言ったのはおまえだろ)
「それに私、ほんとにラッキーだって思うよ。パートナーがこんなにサイキック使えるなんてさ。
すごい才能だよ! 天才だよ、ネク! 私、ネクがいないとほんと無理だよ」
パートナー、ネクの才能を褒め続けるシキ。
シキはネクが他人との関わりを拒絶しているため、何とかして心を開こうとしていた。
ネクをとことん褒めて彼を喜ばせようとしていた。
(今度はおせじか……。バレバレだ、もういいよ。そういうの……)
だが、これもネクはお世辞と取っていて、話を聞いていないそぶりを見せていた。
「ねぇ、ネク……聞いてる?」
「……」
「人が褒めてあげてるのに、そんな態度はないでしょ?」
「……聞こえてるよ」
「聞こえてるかどうか全然分からないよ。ノーリアクションだし。
大体、そのヘッドフォンだって外した方がいいよ。話してる人に失礼だよ」
「いちいちうるさいんだよ! ヘッドフォンしようがしまいが俺の勝手だろ!
昨日今日会ったおまえにつべこべ言われる筋合いはない!」
ネクとシキの歯車は、まだ合っていない。
他人との関わりを拒絶するネク、彼の心を開こうとしているシキ。
互いにやり方は正反対で、仲は良くならない。
パートナーというよりは、ただ、連れ添っているだけのようだった。
「そんなに怒らなくてもいいじゃん……。もう……どうしたらいいの……」
いつまで経っても心を開かないネクに、シキは苛立ちながら携帯電話を取り出した。
ネク自身に何があったのはシキも分からない。
しかし、このままネクが他人を拒絶していれば、死神のゲームで生き残る事はできない。
シキはそう思っていたのだ。
(人に文句言っといて、自分はケータイいじりかよ……)
一方、ネクもシキが自己中心的な事をしていたのに気づいた。
会話の途中で携帯電話を使う事は、マナー違反であるからだ。
ネクはシキに黙って去っていった。
「あっ! 待って!!」
シキも慌てて後を追っていく。
この二人の歯車はまだずれたままだが、
いずれは、必ず一つになり、本当の信頼関係を得るだろう。
次回はもう一人、いえ、もう二人のメインキャラが登場します。