すばらしきこのせかい Shibuya Survival   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

ネクは再び死神のゲームに参加し、シキを取り戻すために戦う決意をする。
104に向かうミッションが与えられ、ネクはパートナーを探す。
一方、八代卯月は仕事にやる気が出ず、狩谷拘輝があるゲームを提案する。
今回のゲームのルールに疑問を持つ八代だが、狩谷は彼女を励ますのだった。


50 一番大切なもの

 そして、ネクは忠犬ハチ公像の前に辿り着いた。

「おーい! 誰か!! まだ契約してないヤツはいるか!? おーい!!」

 いつもなら、ここにパートナーがいるはずなので、ネクはパートナーに向かって叫ぶ。

 しかし、声が返ってくる事はない。

「なんだよ……ここには誰もいないのか?」

 パートナーがいなければミッションをこなせず、ノイズと戦う事もできない。

 だが、途方に暮れていたネクの携帯電話がいきなり、容赦なく鳴る。

「ん? なんだ? またメール?」

 ネクは再び、携帯電話のメールを確認する。

 

 追伸 今回の参加者数は1名です 健闘を祈ります

 

「なっ! バカな、俺だけ!? これじゃ、契約できない! ノイズも倒せないぞ!」

 参加者は一名……つまり、ネクのみという事だ。

 このままではパートナー契約すらできない。

 衝撃を受けるネクだったが、昨日、ヨシュアが言っていた事を思い出す。

 

―もし、ゲームの参加者が君だけになっても……君は、自分を見失わずにいられるかい?

 

「ゲームの参加者が俺だけになっても……」

 参加者がネクだけという事は、自分を励ましてくれる参加者がいないという事だ。

 自分を見失ってしまえば、またネクはあの時のように逆戻りしてしまう。

 そんな事は絶対にしない、とネクは首を振る。

「いや、自分を見失っちゃダメだ。絶対に……俺のパートナーになる人はいる」

 ネクは胸に手を当て、目を閉じる。

 しかし、いくら願ってもパートナーは来なかった。

 何故なら、既にグラサン――北虹寵は、ネクからエントリー料を徴収していたからだ。

 エントリー料は他の参加者、つまり今の彼にとって最も大切なものである。

 もしかしたら、最初から勝てないように仕組まれていたのだろうか。

 七日間逃げ切るとしても、無事でいられるのだろうか。

 そんな思いがネクの中で渦を巻いていた時……。

 

「くっ……ノイズか」

 ネク目掛けて、三体のカエル型ノイズが襲い掛かってきた。

 パートナー契約をしていないネクは丸腰同然で、ノイズからただ逃げるしかなかった。

 

「はぁ……はぁ……。くそっ……こんなの……ゲームに……なってない……」

 ゲームどころか、一方的な戦いだとネクは思った。

 もちろん、ネク側が圧倒的に不利という意味で。

 ノイズから逃げ続けるネクだったが、さらに大量のノイズがネクに襲い掛かる。

「しまった! 囲まれた……」

 囲まれたとなれば、ノイズから逃走する事もできない。

 サイキックを使えないため、このままではネクはノイズの餌になる。

「み~つけた!」

「死神!!」

 そして、ネクの背後から少女の声が聞こえてくる。

 少女――八代卯月と彼女の先輩の狩谷拘輝がいた。

「いたいた! 残ってた! あたしのためによく生きのこっててくれたわね☆」

 二人はルールの穴を突いた作戦で、ネクを追い詰めている。

 前述した通り、ゲームの参加者はネクのみ。

 彼が敗れれば……文字通りの結果と言う事になる。

「それじゃ、さっそく感動のエンディングまでカウントダウン~スタートッ☆」

 ヤシロはネクが消えるまでのカウントダウンを始める。

「10!」

「くっ、死神……まで」

「9! 狩谷~今度こそアンタのおごりでラーメンだからね。8!」

「ハイハイ、気ィ抜きなサンナ。仕事はまだ終わってないダロ?」

「7! ……分かってるわよ、じゃ0!」

「なっ!?」

 いきなりカウントダウンを終わらせたヤシロに、ネクは驚きを隠せなかった。

 つまり、ここでネクを“終わらせる”と死神達は宣言しているのだ。

「それじゃ、バイバ~イ☆」

 二人の死神が撤退しようとし、ネクの目の前にはたくさんのノイズがいる。

 残酷な結果が、ネクに襲い掛かろうとしていた。

 

(シキ……ヨシュア……ゴメン、俺は……)

 ネクは大切なものを取り戻せずに散ろうとする自分に謝罪していた。

 走馬灯のようにこれまでの出来事を思い出す。

 訳も分からないままだったのに、自分を導き、悩みも明かしてくれた美咲四季。

 自分を撃った犯人だと思っていたのに、そうではなく、最期に身を挺して守った桐生義弥。

 彼らには――もう二度と出会えないかもしれない。

 そんな恐ろしい事を、今のネクは考えていた。

 そして――無数のノイズの群れが、ネクを消そうとした瞬間。

 

「待て待て待て待てぇ~!」

 少年の声が、ネクの耳に届いた。

 間違いなく、その声は……死神になり、ネクを裏切ったはずの……。

 

「おいおいおい、いくらなんでもこりゃねえだろ!」

 尾藤大輔之丞――ビイトだった。

汚すぎんぞ! おめぇら! 参加者がひとりなんてこんなひでぇゲームありえねえ!!

 コンポーザーが認めよーが、俺は絶対に認めねぇ!!」

 ビイトはこの現状に怒りを覚えている。

 厳密には完全にネク一人というわけではなく、

 他の参加者がエントリー料になったためにネク一人になっているという事だった。

「ちょ、新人!? 何しに来たのよ! ……って、アンタもしかして……裏切る気!?」

「特命だとかなんとかで昔の仲間を始末しろなんて言われたと思ったら、

 その次は参加者がたったひとりだぁ!? なんだそりゃ!? 汚すぎるぜ!!」

 やはり死神になっても、ビイトはビイトだった。

 最初に出会った頃と、全く変わっていない……その事に、誰も驚かないはずがない。

「俺はもうガマンの限界だ!! だから、おめえら全員ぶっつぶす!!」

 そう言って、ビイトはスケボーに乗り、ノイズに向かって突っ込んでいった。

 

「お~お~、若さがまぶしいねぇ、シンジン! でもよ、よく考えてミ?

 おまえさん、明らかに負け戦ダヨ? こんなドロ舟乗らないよ、フツー」

 ビイトの行動は、死神の目には明らかに無謀に見えていた。

 死神を裏切るなんて、効率的ではないからだ。

「そうよ、死神やめて参加者と契約するバカ、どこにもいないわ!」

「へっ! バカだな……俺はドロ舟なんて乗ってねぇ!」

「えっ!?」

「そもそも、ドロで舟なんか作れねぇだろ!! アホか!?」

 死神に何を言われようと、ビイトは自分の意志を一切曲げなかった。

 彼は一方的な戦いなど、望んでいないからだ。

 泥で船を作っていいのは、老婆を殺した狸に復讐を果たす兎だけだ。

 

「……は?」

「おい! ヘッドフォン!」

「え!?」

「俺と契約だ! 文句ねえよな!」

 訳も分からずぽかんとしているネクに、ビイトがパートナー契約を申し込む。

 確かに、パートナー契約をすれば、ノイズと戦う事はできるのだが……。

「……ああ、分かった!!」

 ネクはほんの少しだけ迷った後、ビイトとパートナー契約をした。

 

「行くぞ、ヘッドフォン!」

「ああ」

 そしてネクとビイトはノイズの群れに突っ込んだ。

 ビイトはスケボーに乗りながら、カエル型ノイズに体当たりする。

 

「いっちょあがりぃ! へっ、たいしたことねーなっ!」

 ネクとビイトは、余裕でノイズを撃退した。

 他のノイズは既に撤退しており、これ以上ネク達を襲う事はなかった。

「ちょーしづきやがって! 次はこれよ!!」

 怒ったヤシロはさらに二体のノイズを召喚する。

「おい! ヘッドフォン!」

「えっ!?」

「とりあえず逃げんぞ、こっちだ!!」

 これ以上ノイズと戦えば無事では済まないため、ビイトはスケボーに乗って撤退した。

「あっ! あぁ!? ちょっと待てよ!!」

 ネクも慌てて、ビイトの後を追うのだった。

 

「ちょっ……何逃げてんのよ! 待ちなさぁぁい!」

「卯月! ストップ、スト~ップ!」

 二人を追いかけようとするヤシロを、カリヤが落ち着いて制止する。

「なんでよ!」

「まずは上に報告ダ。コレお仕事の基本デショ~?」

「でも……」

「そのほうがもっと楽しい仕事ができるッテ」

「そ……それもそうね」

 そう言って、ヤシロは携帯電話を取り出した。

「ルート3担当の八代です。緊急事態が発生しました。死神の……」

「さぁて……どんな祭りが始まることヤラ……」

 カリヤはお菓子を口に咥えながら、ゲームの様子を見守るのだった。

 

「よしっ、なんとか逃げきったな」

「はぁ……はぁ……」

 ネクとビイトは何とかノイズの群れから逃げ切る。

 スケボーに乗るビイトは速かったため、ネクはなかなか追いつけなかった。

「はぁ……はぁ……とりあえず……助かった……のか?」

「おいおいおい! なんだなんだ?

 なっさけねーなー、もしかしてビビッて泣きべそかいてたんじゃねーだろうな?」

「……なんだそれ、かいてるわけないだろ……」

 お前が速すぎるんだよ、とネクは心の中で悪態をつく。

「って……おまえ、どうして俺と契約を……?」

 前回のゲームでは、ビイトは死神になったはずだ。

 何故今頃パートナーになったんだ、と質問すると、ビイトはあっけらかんとした様子で言った。

「だってよ、おめぇがあまりにも情けなさすぎだったから、アレ見たらしょうがねえだろ?

 助けてやんねぇとよ!」

「……そうか……」

 ビイトは完全に変わったわけではない、とネクは一安心する。

 彼の肩にはまたネズミ型ノイズが載っているが、ネクはそんな事は気に留めなかった。

「とにかく、助かったよ……」

「おう! ……って勘違いすんじゃねーぞ! あれだよあれ! おめぇには借りがあったからだ」

「……借り?」

「ライムのペンダントだ」

 ビイトはネクがライムの形見のペンダントを返してもらった事をネクに伝える。

「……別に、拾ったのをただ返しただけだろ……もしかして、それだけの理由で俺を助けたのか?

 それにおまえ、死神だろ? それなのに参加者と契約してまずくないのか?」

「だあぁぁあ! ごちゃごちゃうるせぇ!! 契約できたんだからどうでもいいだろ!?」

 ビイトは友達を助けるのに理由なんていらないとでも言いたいのだろうか、とネクは思った。

 しかし、ネクがビイトをよく観察すると、彼の背中にあった黒い翼がなくなっていた。

「ああん? ……たしかにねぇな……」

「大丈夫なのか?」

 ネクのパートナーになる時、死神の力を失ったのだろうか。

 それを問おうとすると、ビイトは首を横に振った。

「死神なんざなんの未練もねぇ!

 どのみち、あいつらのやり方にもいいかげんガマンできなくなったしな」

 ビイトはある目的のために一度は死神になった。

 死神になれば、大切なものを取り戻せると思っていた。

 だが、死神として活動するにつれて、ビイトの中に疑問が芽生え始め、とうとう死神をやめた。

「俺はこっちのほうが性に合ってるわ。

 ってか……おめぇこそ……おぼっちゃまみてぇなヤツと組んでたのに、

 どうしてまたゲームに参加してんだよ?」

「……俺は……」

 ネクは、ビイトにこれまでの事情を話した。

 

『ゲーム終了!? どうなったんだ?』

 前回の死神のゲームが終わり、

 ネクは今度こそ蘇生を果たし、エントリー料を取り戻せるはずだった。

 だが、ネクの周りには誰もいなかった。

『アイツは……おい、ヨシュア!! どこだ!?』

『静粛に』

 ヨシュアを探そうとしたネクに、男の声がかかる。

『おまえは……』

『おめでとう、ゲームの勝者』

 死神の指揮者、北虹寵である。

 今回のゲームで生き残ったのは桜庭音操のみ、それを知らせに来たのだろうか。

『俺……ひとり?』

『今回もよく勝ちのこった。君の功績をたたえよう。そして我々への協力に感謝する』

 ヨシュアと共にゲームに参加した事が、死神に協力したという事になるとは、

 ネクには全く理解できなかった。

『協力? アンタらに協力したおぼえはない』

『反逆者、南師猩の始末だよ』

 ミナミモトは死神のルールに何度も違反した。

 死神達も手を焼くほどだったので、倒す事ができてよかったという。

『反逆者? あの死神が? ってことは、あのミッションは……』

『俺から出題させてもらった』

 確かに、最後のミッションの文章にはミナミモトが言うような数学用語はなく、

 数字もローマ数字ではなく、「未達成なら破壊」ではなく「未達成は消滅」とあった。

 あのミッションは、ミナミモトが出したものではなかったのだ。

『くそっ! 俺達を利用したのか。ヨシュアは……? アイツはどうなった!?』

 生き残るためとはいえ、利用されているような気がして怒るネク。

 ネクは犠牲になったヨシュアの居場所をキタニジに聞くと、彼は静かに言った。

『消えたよ』

『えっ……!?』

『君をかばい、南師の大技をまともにくらった。南師と共に消息不明……おそらく消滅だろうな』

『アイツが……俺を……かばった……? どうして……』

 やはりヨシュアはネクの代わりに身を挺して消滅してしまったらしい。

 自分を散々利用して、煙に巻くような発言をして、どう考えても信用できなかったのに、

 最期に自分を庇うなんて……と、ネクは衝撃を隠せなかった。

『パートナーとして君が大事だったんだろう。

 しかし……パートナーとはいえ、まさか、かばうとは……馬鹿げてるとしか思えないが』

 ここまで読めば、渋谷のコンポーザーが「彼」である事は、間違いないだろう。

 

(俺のせいだ。

 俺はおまえのせいで死んだって……おまえに殺されたってアイツに言ったからだ……。

 一方的にアイツを犯人って決めつけて、当り散らして……。

 アイツのせいじゃなかったのに……それを気にして……アイツは……パートナーなのに……

 俺、アイツのこと、信じてやれなかった……最低だ……。

 俺……まだあやまってない……。アイツに……ヨシュアにあやまってない)

 しかし、ネクはヨシュアの最期の行動を思い出し、自責の念に駆られる。

 つかみどころがないヨシュアのあの表情は、嘘偽りなど全くなく、

 純粋にネクをパートナーとして認めたものだった。

『パートナーを失い悲しんでいるのかな? でも、その必要はない。

 彼はもともとエントリーすらしていなかった。UGに存在していなかったということだ。

 存在していなかった者が消えたとしても、消えたことにはならないだろう?』

『な、なんだと?』

 そんな事情を知っているか知っていないか、

 キタニジは淡々とネクにヨシュアの素性をある程度説明する。

 エントリーしていない、つまり彼はUGに存在していないという事だが、

 ネクは怒りを隠せなかった。

『それに彼は重大な違反を起こした。生きながらUGへ紛れこみ、死神のゲームに参加した。

 生き人の参加……これはあってはならない事態だ』

 死神のゲームに参加できるのは死者だけ。

 生きた者が死神のゲームに参加しては、秩序が乱れるという事になる。

『よって、違反者と契約した君にも連帯責任で処罰が下される』

『なっ……処罰!?』

『君はここで消滅してもらう』

『な!?』

 このまま消滅してしまうのか、と思ったネクだったが、キタニジは首を振る。

『……本来ならな』

『えっ!?』

『今回、君が我々に協力した功績は大きい。コンポーザーの寛大なはからいで、

 君にはペナルティ付きでゲームに再参加してもらうことになった。もちろん、拒否権はない』

 キタニジはネクに執行猶予を言い渡した。

 再参加という事に、ネクは訳が分からなかった。

『ちょっと待て、シキは? シキはどうなるんだ!』

『今回のゲームは無効だ。エントリー料は持ち越しのまま、次のゲームに参加してもらう』

『そんな……それがペナルティか』

『いいや、君のペナルティは今後一切、再参加を認めないということだ』

 つまり、これがネクにとっての最後の死神のゲームである。

 もし彼が負ければ、ネクは本当に全てを失ってしまうのだ。

『さて、次回のエントリー料を徴収する』

『なっ……卑怯な……』

『卑怯ではない。参加者は参加ごとに新規エントリー料を払う決まりがある。

 これはコンポーザーが制定されたルールだ。俺の権力では変更できない、残念ながらな』

『くそ……今度は何を取るつもりだ!?』

『心配いらない、すでに取ってある』

『なにっ!?』

 エントリー料は参加者にとって最も大切なもの。

 つまり、今のネクが最も大切にしているものは――

 

「そうだったのか……」

 事情を知ったビイトは深く頷いた。

 今回が最後のゲームなので、ネクは絶対に勝つと意気込んでいた。

「っち! グラサンめ……汚ねぇやろうだ! 参加者をエントリー料に取りやがるなんて……」

「けど、どのみち俺はゲームに参加するしかなかった。

 シキもエントリー料として取られたままだ。だから……俺は負けられない。

 俺をかばってくれたヨシュアの命もムダにはできない。俺は絶対に勝ちのこる」

 全てを失ったネクだからこそ、あらゆるものが大切である事を知った。

 勝たなければ、全てを取り戻す事はできない。

「よし! 分かった!」

「えっ……」

 事情を聴いたビイトは、微笑みを浮かべながらネクに手を差し出す。

「ヘッドフォン、今から俺につきあえ!」

「は?」

「俺は行かなきゃなんねぇ場所がある」

「いや、だから俺は勝ちのこるためにミッショ……」

「渋谷駅ガード下だ!! 行くぞ!!」

 そう言って、ビイトはスケボーに乗って去った。

 

「ムシかよ!? おっ……おい待て!!」

 渋谷駅ガード下に、ビイトが探したいものでもあるのだろうか。

 ネクは大急ぎで、ビイトを追いかけるのだった。

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