すばらしきこのせかい Shibuya Survival   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

ネクは再び死神のゲームに参加し、一人での参加という過酷な状況に直面する。
しかし、ビイトが現れ、彼とパートナー契約を結ぶ。
二人はノイズの群れに立ち向かい、逃げ切る事に成功する。
しかし、ネクにとって最後の死神のゲームは、まだ始まったばかりだった。


51 彼が探すもの

 渋谷駅ガード下に向かったビイトを、ネクは急いで追いかけた。

 しばらく進んでいくと、ビイトが壁にぶつかっていた。

 しかも、赤いパーカーの死神の姿がない。

「今日はこの先に行けないみたいだな。目的地の104に……」

「うぉぉぉお、うざってぇ!! 時間がねぇんだ! 俺をさえぎるモンは全てぶっ壊す!!」

 ネクは目的地に行こうとしたが、ビイトは壁を力ずくで壊そうとしていた。

 そんな事をしたら間違いなく返り討ちに遭うと思いネクはビイトを止めようとしたが、

 そのままビイトは壁を破壊した。

「壁……壊した!? むちゃくちゃだ……」

 条件を達成せずに壁を破壊したのは、初めてだ。

「俺が進む道は俺が作る! 時間がねぇ、急ぐぞ」

 このパートナーは今までと違ってかなり行動的だ。

 逆に言えば、時間をかけずにミッションを達成できるという事でもある。

 まあ、悪く言ってしまえば「猪」だが……。

 

 渋谷駅ガード下、渋谷川。

 ここにビイトが探しているものがあるのだろうか。

 川の奥にはノイズのマークと、文字の鎖があり、ヨシュアが行きたがっていた場所だ。

「おい! ここにも壁が……」

「うぉぉぉお!! ……いってぇぇ!!」

 もしかして、ビイトはこれを壊すつもりだろうか。

 ネクは止めようとするが、ビイトは再び突っ込んでいき――弾き返された。

「おい! 無理するなよ」

「くっ、なんでだぁ!? キーバッジ持ってんのに、なんで壊せねぇんだ!!」

 ビイトが言った「キーバッジ」とは、UG内で閉ざされた壁を開く鍵のバッジだ。

 死神が担当エリアごとに持っており、これを使えば壁を開けて先に進む事ができるが、

 何故かこの壁は開かなかった。

「さっきは壁を壊しただろ?」

「めんどくせぇんだよ! 通れれば開けるも壊すも同じだろ!」

 物事を深く考えないビイトは、解錠と破壊の区別がつかないようだ。

「普通に開けろよな……」

「壊しちまうほうがスッキリすんだろ?」

「めちゃくちゃだな……。そんなことしてたらクリアする前にバテるぞ」

 この二人は、ある意味で相性が良いかもしれない。

 物事をよく考えるネクと、何も考えずに突っ込んでいくビイト。

 お互いの足りないものを補っているようだ。

「うっせ! そんなことはいいんだよ!」

 そう言ってビイトは再び壁を破壊しようとする。

 しかし、渋谷川の壁はビイトの攻撃を受けてもうんともすんとも言わなかった。

「あぁぁぁ! なんでだ! なんで入れねぇ!」

「……カギが違うんじゃないのか?」

「……あ」

 鍵が違う事に気づいたビイトは、壁から離れる。

「くっ……なんだ……そういうことかよ……」

「ひとまずここは諦めろ。それに、ここは104とは逆方向だ。時間がない、今は104へ急ぐぞ」

「ちっ、分かったよ!」

 ビイトは舌打ちし、スケボーに乗って高速でネクの前から去っていった。

 

「ちょっ! 待てよ!!」

 ビイトのペースに追いつけないネクだったが、はぐれないように彼を追いかけるのだった。

 

 その頃の死神である。

 バーの中で、一組の男女の死神が会話をしていた。

 男性は指揮者の北虹寵、女性はゲームマスターの虚西充妃だ。

「北虹指揮者、死神の造反が発生しました」

 コニシはビイトの裏切りをキタニジに報告する。

「尾藤大輔之丞、在職期間8日。北虹様の特命を受けていた新人死神です」

「……そうか」

「この件につきましては、ゲームマスターである私が対処します。問題ありませんね?」

 コニシが出撃しようとすると、キタニジは首を横に振った。

「いや虚西、君は待機だ」

「……と、おっしゃいますと?」

「彼の対応についてはコンポーザーと協議する」

 キタニジの言葉にコニシは首を横に振った。

「お言葉ですが北虹様、問題の死神は在職期間たった8日の新人でポイントも0。

 消えさるのも時間の問題かと……。コンポーザーのお手を煩わすまでもないのでは?」

「虚西が口ごたえか? 珍しいこともあるものだな。

 罪はひとしく罪、誰が犯そうと全て平等に罰する。違うか?」

「了解……いたしました。協議終了まで待機いたします」

 実際のところ、コニシは己を一番に考えている。

 内心ではキタニジの指示に従いたくないだろうが、とりあえず形だけ従う事にした。

 

 キタニジが去った後、コニシは一人呟く。

「あの新人死神、サルでも分かる負け戦に加担……?

 常識で考えると、そんな選択ありえません……。

 初日でゲームを終わらせる私の計画が台なしです。

 今後起こりうる全事象の確率を考慮して戦略を再構築しなくては。

 私の分析に誤りなど存在しないのですから……」

 

 104に行こうとすると、壁が張られていた。

 解放条件は、ノイズを倒す事だった。

「ケッ! ノイズなんざ蹴散らしてやる!

 いいか、ヘッドフォン。俺の足、ひっぱるんじゃねーぞ!」

「って言われてもどうやって合わせればいいんだ?」

「俺のやり方は……えっとぉ~、なんだぁ……」

 ビイトがやり方を説明しようとするが、

 お世辞にも頭が良くない彼は、返答に困ってしまったようだ。

 ない知恵を絞った後、ビイトはネクに言った。

「あれだ! ポーカーの“フラッシュ”みてぇなモンだ!」

「分かったような、分からないような……」

「あとは戦ってつかむ方が()ぇえ! いくぞっ!」

 読者に説明すると、不要なマークを消して、同じマークを二つ並べて消す……

 要するに、某パズルゲームのようなものだ。

 とはいえ、ビイトは考えるより行動するタイプなので、習うより慣れろとネクに言った。

「いきなりか? まあ、いい」

「よし、一気に行くぜっ!」

 

 カエル型ノイズとの戦いはあっけなく終わった。

「どうだ! 分かっただろ。

 いらないカードをとばしてならべて、運と気合いで連鎖をつなげて、まとめてドカー!!

 ってかんじだ!」

「……って、全く分からないぞ……」

「うるせぇ!! 分かれよ!! 俺もよく分からねぇんだよ!」

「は? おまえ、自分の技だろ!?」

 ネクもビイトも大雑把な説明を理解できなかったようだが、読者なら理解できるだろう。

 同じマークを並べて消して連鎖する……本人の性格とは裏腹にパズル的な必殺技だ。

 だが、ビイトは何故か説明の際にどもっていた。

「ライムが……俺の技はそうだって言ってたんだ」

 思い出すのは、ノイズからビイトを庇って消滅したライム。

 彼女の姿は、今もなおネクとビイトの脳裏に鮮明に焼き付いていた。

「ライム、すまねえ……。おに……俺を許してくれ……」

「おに?」

 ビイトの独り言を聞いたネクは首を傾げるが、彼は「なんでもねえよ」と言って首を振った。

 何にしろ、条件を達成したので壁は開放された。

 

 そして、二人は目的地の104ビルに辿り着いた。

「よしっ、着いたぞ!」

 ミッションを達成したため、ネクの手からタイマーが消えた。

「あと6日、俺の足ひっぱんなよヘッドフォン!!」

 かつてネクがシキに言った言葉を、ビイトはそのままネクに言い返した。

 ネクはまだ聞きたい事があるようで、こほん、と息をついている。

「その前に……聞かなきゃならないことがある」

「なんだよ? まだなんかあるのか? 契約できたし、ゲームができりゃいいだろ?」

 ビイトは良くも悪くも細かい事を気にしない。

 些細な事だろうと思ったが、ネクは、はっきりとした声でこう言った。

 

「パートナーを信頼しろ」

 

 昨日、ネクはそれを痛いほど思い知らされた。

 ヨシュアを怪しんで、距離を取っていて、

 自分を撃ったと思っていたのに……大きな誤解をしてしまった事。

 ゲームマスターを倒すために、彼が犠牲になってしまった事。

 失ってからこそ大切である事を知る、ネクの胸はぎゅっと締め付けられた。

 

「生きのこるために必要なことだ。そのためにおまえに聞いておきたいことがある。

 今回のゲームは絶対に失敗できないんだ」

 参加者はネク一人、エントリー料も持ち越し、しかもこれが最後の死神のゲームである。

 実質、ネクは全てを背負って挑んでいるのだ。

 ビイトはネクの言いたい事があまり分からず、ただ、相槌を返すだけだった。

「分かったよ。で? なんだよ」

「借りを返すために俺を助けたって言ったよな。

 俺と契約した理由……本当にそれだけなのか? リスクが見合わなすぎる……」

 ビイトはかつて死神としてネクとヨシュアを消そうとしていた。

 それが、今になってネクと契約するなんて、ネクには考えられなかったのだ。

「リスク? なんだ、リスクって?」

「は?」

「むずかしいことは分かんねぇけどよ、俺にはやんなきゃなんねぇことがあるんだ」

「やらなきゃならないこと?」

「俺は……」

 一息ついた後、ビイトはネクに向かって叫んだ。

 

コンポーザーになる!

 ビイトは渋谷の支配者、すなわちコンポーザーになろうとしていた。

 彼はただ一つの目的――ライムを助けるために、様々な事をしているのだ。

 死神になったのもその一環であり、今度は渋谷の支配者を目指しているという。

 

 そして、場面はバーに戻る。

「待たせたな、虚西」

 そう言ってキタニジはコニシの下に戻ってくる。

「北虹指揮者、対応策が決定したのですか?」

「造反者の死神職を解く!」

 キタニジは、造反者ことビイトを、死神から外すと決めたのだ。

 確かにビイトは、不本意で死神になっただけだが。

「今後は参加者として対処だ」

「了解しました」

 頷くコニシに、キタニジはさらに指示を出す。

「虚西……君はゲームマスターとして、確実にふたりを消去すること。できるかな?」

「当然です」

 渋谷に残っている参加者は、ネクとビイトのみだ。

 コニシは確実に、妨害を仕掛けてくるだろう。

「ならばいい。……念のため、全死神に開放バッジの装備を義務付ける」

「開放バッジをですか? 開放バッジは戦力増強には効果的です。

 しかし、深刻な副作用をともないます。

 たかだか新人死神の造反対策にしてはリスクが大きすぎるのでは?」

 キタニジが言った「開放バッジ」は、死神達に悪影響を及ぼすらしい。

 流石にそれは危険だとコニシは止めようとするが、キタニジは首を振って話を続ける。

「全てはコンポーザーのご意向だ。これ以上殉職者を出すまいとする。

 コンポーザーのお心づかいだろう」

 死神が殉職する前に、開放バッジで束縛するつもりだろうか。

 そもそも、開放バッジとは一体何なのだろうか。

 コニシはまだキタニジの真意が分からなかったが、顎に手を当てると、静かに頷いた。

「……了解しました」

「さらにUGにエマージェンシーコールを発令する!」

「!」

 エマージェンシーコール――それを聞いた瞬間、コニシは驚いて少し眼鏡がずれる。

 すぐに眼鏡をかけ直し何とか落ち着きを取り戻す。

「後の手配は任せる」

「……了解しました」

 去り行くキタニジの背中を見て、コニシはぽつりとそう呟いた。

 

「おかしい……新人の造反程度でここまで問題視するはずがありません。

 これは何かあるはずです……」

 計算高いコニシはキタニジの真意を推理していた。

 ビイトは確かに新人の死神で、手柄もあまり取っていないので、

 離反しても大して問題はないはずだ。

 しかし、キタニジは、ビイトを死神から解任し、

 さらにエマージェンシーコールと開放バッジを出した。

 明らかに割に合っていないと思ったコニシは、何とかこの状況を打破したいと思っていた。

「私もこうしてはいられませんね……。正確に状況を把握するためにも情報が必要です。

 私の計画に必要な情報が……」

 推理と計画にはまず情報が必要だ。

 コニシは知恵を振り絞って、これからの作戦を考えるのだった。

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