すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
ネクはパートナーになったビイトと共に、最後の死神のゲームに挑戦した。
ビイトはコンポーザーになると宣言し、ネクは彼を信頼するようになる。
一方、死神の北虹と虚西はビイトの造反について話し合い、彼を死神から解任する事を決定。
虚西はこの状況に疑問を抱くのだった。
最後の死神のゲーム、二日目。
早速、ネクの携帯電話にミッションメールが届く。
「おい! 分かってんな」
「ああ、昨日話したとおりだろ。ミッションはムシ、渋谷川へ行く」
ビイトは渋谷川へ行こうとしていたが、壁が張られていて通れなかった。
そのため、今度こそ渋谷川に向かおうとした。
「俺がコンポーザーになれば、こんなアホらしいゲームはすぐ終了だ! それに……」
ビイトは頭上にいるネズミ型ノイズを見つめる。
ネクは恐らく、これが誰かの形見だと思っていた。
「よし! じゃあ行くぜ!」
「どこへ行くつもりですか? ミッションも確認せずに」
ビイトが渋谷川へ行こうとした時、彼の後ろから女性の声が聞こえてきた。
「誰だ!?」
二人が振り向くと、黒いワンピースを着て、眼鏡をかけた金髪の女性が立っている。
その表情は、ネクとビイトを嘲るかのようだった。
「ごきげんよう。私が今回のゲームマスター、
「くっ……こいつがウワサの鉄仮面か……」
鉄仮面と呼ばれるその女性こそ、ゲームマスターの虚西充妃だ。
彼女は何事に対しても冷たく接するという。
ビイトは拳を握り締めると、コニシに立ち向かおうとした。
「じゃまだ! どきやがれ!」
しかしコニシは表情を崩さないまま、ビイトに冷たい声で言う。
「単純明快なあなたの行動などお見通しです。
おおかたミッションを無視して、何かやらかそうとしていたのでしょ?」
「ったりめーだろ、俺は死神だ。ミッションなんてカンケーねぇぜ」
「やはり、予想どおりでしたね」
ビイトは自分は死神だとコニシに主張するが、彼女は調子を崩さないままビイトに言った。
「通達です。あなたは昨日をもって死神職を解任されました。本日より参加者として扱われます」
「ケッ! せーせーしたぜ。そんなもん、こっちからやめてやるよ!」
死神の力を剥奪されたビイトは、落ち込むどころかむしろ喜んでいた。
彼は元から死神になるつもりなど、微塵もなかったのだ。
「負け惜しみはおよしなさい。みっともないですよ」
「へっ! 死神なんてもう興味ねぇ!」
「あなたの行動原理は時に理解に苦しみます」
「へへ、まぁな!」
「……おい、おまえ……今、バカにされてたんだぞ」
「なにー!?」
明らかにコニシはビイトを見下していたため、ネクはさらりとビイトに指摘する。
それを知ったビイトは、コニシへの怒りを隠せなかった。
騒がしいビイトを見たコニシは、ずれた眼鏡を直した後、微笑みながらも目は笑わずに言った。
「まったく……あなたのような下等な方との会話は時間のムダですね。話を先に進めます。
死神から参加者になったとはいえ、死神のルールには従ってもらいます。
いわば、ペナルティといったところでしょうか」
あくまでコニシはビイトを参加者でありながら参加者として扱わないように接するらしい。
「死神はポイントと引き換えに寿命が与えられるのは知っていますね」
「それがなんだってんだ!」
「あなたが今まで獲得したポイントは0ポイント。
前回のゲームではほとんど仕事をしていなかったようですね」
つまり、ビイトに寿命は与えられないのだ。
ネクとヨシュアを消そうとして、失敗してしまったのもあるのだが、
とにかく、ビイトは死神としては失格だった。
「参加者をノイズに襲わせるなんて、そんなことできるか!
そんなことするために死神になったんじゃねぇ!」
「おまえ……」
繰り返すが、ビイトが死神になったのは不本意だ。
参加者を消す事は、彼は元からできなかったのだ。
「まったくもって……意味不明です」
コニシはあくまでルールに従っているため、ビイト個人の考えは理解しなかった。
その点が、鉄仮面と呼ばれる理由なのだろう。
「そもそも人は犠牲の上に成り立っているのですよ。
それに……私が推測したところ、あなたが死神になった動機はそのノイズ……。
そんなノイズのためだけに死神になるなんて……」
やはり、コニシにはビイトが死神になった理由はお見通しのようだった。
個人的な考えなど、コニシには全く不要なのだ。
「うるせぇ! 大きなお世話だぜ!」
そんな冷酷な彼女に対し、ビイトが怒りをぶつけるのも当然だ。
コニシは一息ついた後、冷たい声で二人に言う。
「まあ、いいでしょう。
0ポイント、これはつまり、あなたの残り寿命は今日を入れてあと5日前後ということです」
5日前後、つまりいずれビイトは真の死を迎え、今度こそネク一人になってしまう。
パートナーがいなければノイズは倒せない……つまり、ネクの負けが決まってしまう。
「死神になったからといって、いつまでも傍若無人に振る舞えるわけがありません。
消滅をもって自覚するのですね」
くすり、とコニシは微笑む。
しかし、彼女の目が笑っていない事は、ネクにもビイトにも明らかだった。
「では、参加者に落ちぶれた哀れなあなたから、
ミッション開始前にルールどおり、エントリー料を徴収します」
ゲームのエントリー料は、参加者が最も大切にしているもの。
ビイトが最も大切にしているもの……それは、コニシの手に握られた、ネズミ型ノイズだ。
「なっ!? しまった!」
「あなたのもっとも大切なもの……それは……このノイズ。これが大切なのでしょう?」
「返しやがれ!! 鉄仮面!!」
ビイトはコニシに突っ込んでいったが、彼女はビイトを冷たく押し返す。
「ふん……このノイズ……このままでは邪魔ですね……」
そう言ってコニシは、ノイズを強く握り締める。
「なっ!? 何する気だ!!」
ビイトはもう一度、コニシの手に握られたネズミ型ノイズを取り返そうとした。
だが、コニシは微笑みを全く崩さず、ノイズを握る手の力を強める。
そして、彼女が強く握り締めた瞬間、ネズミ型ノイズは跡形もなく消滅した。
コトン、とネズミが描かれた黒いバッジが、コニシの手の中に落ちる。
「ノイズをバッジにして差し上げました。これでミッションに集中できるようになりましたね」
「くっ……てめぇ……なんてことしやがんだ! 返せよ!」
コニシにノイズを奪われたビイトは、悔しそうに拳を握り締めて突っ込もうとした。
しかし、コニシはビイトを無視して話を続けた。
「では、今回のミッションを出題します。
ミッションは『この私を倒すこと 制限時間は6日間』です」
ビイトの寿命は5日前後、制限時間は6日間。
ミナミモトと同じく幹部の地位にいるコニシは、ゲームに相当な自信を持っているだろう。
「まあ、6日後には既にあなたは消滅しているでしょうが……」
「へっ、そんなにいらねーよ! 今すぐここでケリつけてやる」
「見た目通り短気な方ですね。説明はまだ続きます。考えなしに行動すると失敗しますよ?
このバッジがどうなってもいいのですか?」
「くそっ!! 汚ねぇ……」
相変わらず、コニシはビイトを見下していた。
そして、ネズミが描かれたバッジをビイトに見せ、ビイトの戦意を削ぎ落とす。
「私は今からある場所へ移動します。そして6日間、そこから動きません。
あなたがたは私を見つけ出す必要があります」
コニシが出したミッションは、通称『死神あそび』02『かくれんぼ』だ。
彼女はビイトを単純だと見下しており、どう見ても慇懃無礼な人物だった。
「それと……はい、これを渡しておきます」
そして、コニシは参加者バッジをビイトに渡す。
「参加者バッジ……」
「私を発見できない焦りと迫り来る寿命。その不安に押しつぶされるといいでしょう。
その時のあなたがたの表情が楽しみですね。では、ごきげんよう」
コニシは笑っていない目で微笑みながら、ネクとビイトの前から姿を消した。
「おいっ! 待て! コノヤロー!!」
コニシを追おうとしたビイトだったが、
次の瞬間、彼らの手にタイマーが現れ、足止めされてしまった。
「クソ! 鉄仮面に逃げられた」
「あっちは104の方向だな」
「クソッ! 渋谷川は後だ、鉄仮面を追いかけるぞ!
ヤツからバッジを取り返す! でないとコンポーザーになる意味がねぇ」
せっかくの自分の目的をコニシに邪魔され、
彼女には頭が悪いと見下され、ビイトは腹が立ってたまらなかった。
そんな中、ネクはあのバッジが気になっていた。
「ちょっと待てよ、バッジに変えられたあのノイズ……あれは……」
「おい、ヘッドフォン! あれはノイズじゃねえ!」
「えっ……」
「行くぞ!!」
ネクの問いにビイトは答えなかったが、ネズミ型ノイズの正体は、読者には想像がつくだろう。
ビイトに引っ張られる形で、ネクは104方面へ逃げたコニシを追うのだった。