すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
千鳥足会館前で、サラリーマンとしての社長とマコトが再会する。
社長はマコトに対し、自分の道を見つけるよう助言し、自分自身の言葉で助言した。
その結果、マコトは自分の道を見つける決意を新たにした。
彼らの話を聞いたネクとビイトはピンク頭の少女、八代卯月を探す事を決めるのだった。
「ちょっと、アンタ達!」
千鳥足会館前からスペイン坂に行こうとすると、後ろから少女の声が聞こえてきた。
振り向くと、そこにいたのはヤシロだった。
「何やってんのよ! ヤル気あんの?
さっきからダラダラ寄り道ばっかでこのバッジ取り返す気あんの?
鬼が追いかけてこなきゃゲームにならないでしょ!」
なかなかミッションに気づいてくれないため、ヤシロはかなりイライラしていた。
バッジを持っている手も、怒りから震えている。
「はぁ? 鬼? 『死神あそび』の04って……」
「鬼ごっこに決まってるでしょ! アンタ、バカじゃないの? そんなことも知らないの?
まったく……これのどこが期待の……」
「はい」
ヤシロがヒステリックに叫んでいる隙に、ネクがヤシロを「捕まえた」。
鬼ごっこのルールは、いたってシンプルだからだ。
「え?」
「おまえを触れば俺達の勝ちってことだろ」
「……なっ!」
「はっはっは! わざわざ捕まりに出てくるなんて、バカだな~、ピンク頭!」
ビイトは逆にヤシロを馬鹿にするが、そもそも覚えていなかった自分も悪い。
つまり、一言で言うと「お互い様」だ。
「ちょっ……い、今のは無効よ! ……ってアンタ今、バカって言ったわね!」
「鬼の前にのこのこ出てくるヤツはバカだろ!」
「うっさいわね!! アンタだけには言われたくないわよ!」
「ほら、ミッションクリアしたぞ。さっさとバッジを返しやがれ!」
ヤシロが出したミッションは、『死神あそび』04――鬼ごっこ。
要するにヤシロを捕まえればミッションクリアだ。
それを知っているビイトは、ヤシロにバッジを返してもらうように言った。
しかし、ヤシロは首を横に振って叫んだ。
「つ、次のミッションよ! ミッションは『あたしを倒す』こと」
「なっ……卑怯な」
いくらミッションを出したとしても、結局、最後は勝負で決着をつける。
それが死神のやり方だとネクは知っての上で、ヤシロに「卑怯」と言ったのだ。
「あたしは、このゲームだけは勝たなきゃなんないのよ! さあ、かかってきなさい!!」
「言われなくても分かってるぜ!」
「お前を倒して、ミッションをクリアする!」
ネクとビイトは、ムキになるヤシロを返り討ちにするべく、身構えた。
「このゲームに勝つのはあたしよ!」
そう言ってヤシロは自らを鼓舞する。
攻撃をかわす事を考えず、ネクとビイトを力ずくで排除しようとした。
「ムキになるのは負けを認める証だ」
「そうはいかないわよ」
ヤシロは銃を構え、弾丸を連続で放つ。
「痛くない……?」
彼女が持つ銃は、痛覚を刺激しないものだった。
ネクが痛みを感じないのは、そのためだ。
「ピンク頭! おめぇに絶対勝つからな!」
そう言ってビイトはスケボーに乗り、ヤシロに体当たりを続けていく。
ネクは精神を集中し、炎や雷でビイトの後ろから攻撃した。
「やられる前にやるのが俺のやり方だ」
「お前らしいな」
死神のゲームで生き残るには、パートナーを信頼する事。
ビイトの猪突猛進ぶりは相変わらずながら、ネクは彼と共にヤシロと戦った。
「くぅぅぅっ……負けないんだから!」
ヤシロは銃弾を放射状に放って攻撃する。
ネクはヤシロの攻撃をかわし、傍に置いてあったコーンを動かしてぶつける。
ビイトはヤシロが攻撃できないように、彼女に連続で体当たりを仕掛けた。
「これならどう?」
「ぐあっ!」
ヤシロが放った銃弾を食らったネクは、彼女の方に引き寄せられる。
そこからヤシロは連続で銃弾を放った。
この弾丸は痛覚を刺激しないので、ネクの体力はどんどん削られていった。
「なんで……身体が重くなってるんだ……」
「おい、大丈夫か!?」
「……ビイト……」
「多分、あいつの銃は知らない間におめぇを追い詰めてるんだ」
ビイトは何とか無い知恵を振り絞ってネクにヤシロの銃について伝えた。
「そっか、じゃあ早めに決着をつけなくちゃな……」
「感傷に浸ってる場合じゃないわよ!」
そう言ってヤシロはネクを撃とうとしたが、ビイトがネクの手を引っ張って攻撃をかわす。
「あ゛あ゛あ゛、なんで当たらないのよ!」
「俺達は一人じゃねぇ! ……ネク、少し休め」
「ああ」
ビイトはネクを安全な場所でしばらく休ませ、その間にヤシロにスケボーで突っ込んだ。
「俺達には負けられねぇ理由があるんだ!」
「それはあたしだって同じ!」
お互いの思いがぶつかり合う戦いは、往々にして激しくなる傾向がある。
ビイトとヤシロの一騎打ちをネクは見守っていた。
体力が限界に近いネクはまだ休んでいたが、
ビイトがこんなに頑張っているようでは、ただ休んでいるだけなのは御免だった。
ネクはゆっくりと、ビイトの方に歩み寄る。
「ビイト……俺も……」
「何やってるんだヘッドフォン! 無茶すんじゃねぇ!」
「違う……お前が頑張ってるから、申し訳ないと思って……」
「……」
このままではネクは消滅してしまうのに、ネクの闘志はまだ消えていない。
パートナーを信頼しろとは言ったが、
だからといってパートナーに任せるだけではよくないとネクは思ったのだろう。
そんな彼の思いを汲み取ったビイトは、へっ、と口角を上げた。
「そんなにおめぇが無茶するってなら、俺だって、無茶してやるぜ?」
「お前は元から無茶をしてるだろ」
「それもそうだな! んじゃ、行くぜ!」
「ああ!」
そう言って、ネクは白いバッジを掲げる。
ビイトと共鳴したネクは、パズルの要領でカードを消していく。
次々に連鎖していくカードで、二人の気はどんどん高まっていった。
「な、なんなのこいつら……!?」
ヤシロはネクとビイトの姿を見て絶句する。
自分は昇進のために二人を消したくて戦った。
だが、ネクとビイトの思いは、自分の昇進の思いを遥かに上回っていた。
それを、ヤシロは認めたくなかったのだ。
「ぼやぼやすんなよ!」
「お前もな!」
ネクのサイキックと、ビイトのスケボーが、無防備なヤシロにクリーンヒットした。
「きゃあああああああ!!」
必殺技をまともに食らったヤシロは、大きく吹き飛ばされ、ガードレールに叩きつけられた。
その衝撃で、ガードレールが少し歪み、ヤシロはついに戦意を喪失した。
「さぁ! 次の一撃でおめぇは終わりだぜ!? イヤならバッジを返しやがれ!!」
ネクとビイトの連携があって、ヤシロは既にボロボロになっていた。
あと一撃を食らえば、ヤシロは戦闘不能になるが、彼女はゆっくりと立ち上がった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
思い通りにならない事にイライラしたヤシロは、ヒステリックに叫んでしまう。
「フン! 情けをかけたつもり!? 甘いわね! 次のミッションよ」
「くっ! おまえ……」
どこまでもしつこいヤシロにネクも流石に苛立つ。
「あたしは昇進しなきゃならないの! なりふりかまってらんないのよ!」
ヤシロはゲームマスターから「結果が出せれば昇進は間違いない」と言われたため、
何としてでも昇進しようとしていた。
しかし、頭に血が上るあまり、ヤシロは気づいていなかった。
ゲームマスターの彼女が「感情のコントロールに気をつけろ」と言っていた事を。
それが原因だったのだろう、ヤシロはネクとビイトに敗北したのだ。
「よくナイナ~」
そんな彼女の後ろから先輩のカリヤが声をかける。
「ちゃんと現実見つめなサイナ。卯月の負けは明らかダロ?」
「うっさいわね!! ダラケ死神はひっこんでて! あたしは昇進したいの!」
「昇進、昇進って、偉くなってなにスンダ?」
「それは……」
ヤシロは昇進したいあまり、その先を見ていなかった。
幹部になったらきっと忙しくなるだろう。
ゲームマスターも、きちんとゲームの責任を取らなければならない。
昇進するという事は、それに伴う責任も大きくなるという事なのだ。
「答えられねぇのにむちゃな目標たてなサンナ。目的がなきゃなる意味ないデショ」
「じゃあ、狩谷は……? なんで昇進断ったのよ!」
カリヤはまだ下っ端から出ておらず、本人も現状に満足しているようだ。
しかし、彼はその理由を黙して語らなかった。
「あたし、知ってんのよ。アンタに幹部入りの話があったこと。
そして、それを蹴ったってことをね。
なにそれ? どういうこと? あたしに気でも使ったつもり!?
あたしはアンタのお荷物なんかになりたくないのよ! だから……!!」
実力があるのに幹部にならないカリヤに、ヤシロは苛立っていた。
だが、カリヤは気だるげに首を横に振る。
「幹部なんてメンドクセ~。偉くなってふんぞりかえって何もシナイ……。
そんなのちっとも楽しくないデショ? 俺は現場が好きナンサ~。
雑多な思考がぶつかりあって人も街も変化スル。
俺はその移ろいを眺めつづけるスターゲイザー……ってコトデ」
前述した通り、幹部になったらほとんど現場に出なくなる。
元々退屈が嫌いなカリヤは、幹部になるのも面倒くさがっているのだ。
この下っ端死神は、ある意味でとても似ていた。
「それに……幹部になっちゃ、卯月と賭けラーメンもできないダロ?」
「……バカ」
下っ端には下っ端の良いところもある。
カリヤは、幹部に昇進してしまって、後輩にして同格のヤシロと別れたくないのだ。
そんな彼を見たヤシロの顔が、少し赤くなった。
「あたしも……もうしばらく渋谷を……観察してようかな……」
「そうそう、俺らのペースで行けばイイ」
ヤシロは幹部昇進を保留し、渋谷を回って、人々の様子をもう少し見る事にした。
「さぁ~、わりぃ。待たせちまっタナ。ほら、ワビのシルシだ、持ってケ」
そう言って、カリヤは赤いキーバッジを渡した。
「LV3キーバッジ? こんなんいいからさっさとバッジ返せよ!」
「それはムリダナ。今度は俺のゲームの時間ダ」
「ふざけんな、ひきょうだぞ!」
ビイトはカリヤに殴りかかろうとするが、ネクが「やめろ」とビイトを制止する。
「ひきょうは悪役の特権ダヨ。だけど、ヒキョウはこれっキリ……。
俺とのゲームに勝ったら、このバッジは返してヤルヨ」
そう言って、カリヤはネズミ型バッジをビイトに見せる。
「勝てば今度こそ返してくれるんだろうな?」
「そ~ぅ! 約束しまショー。ただし、手加減はしないヨ~」
「くっ、仕方ねぇ……。で、何するんだ?」
「さ~すが期待のシンジン、まぶしいナ。俺のゲームは……」
カリヤは眼鏡を上げた後、鋭い声でこう言った。
「『俺を倒すこと』ダヨ」