すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
千鳥足会館前で、ネクとビイトは八代卯月と出会った。
彼女は彼らに対し、自分を捕まえる事をミッションとし、ネクとビイトは彼女と戦う。
ネクとビイトは八代卯月を倒すが、そこに狩谷拘輝が現れ、新たなゲームを提案するのだった。
次の日――ネクは宮下公園近くのガード下にいた。
壁にはたくさんの落書きが描かれており、その壁の傍で、ビイトが俯いていた。
「おい……」
「うおっ! おめぇ、起きてたのか!」
「ああ」
ネクに気づいたビイトが驚く。
「今日はここからスタートか……」
「……」
「どうした?」
昨日の事があって、ビイトはまだ本調子を取り戻せないでいた。
消滅したライムを取り戻すために死神になり、当のライムはバッジからノイズになり、
そしてバッジに戻ってエントリー料になった。
兄として妹を守りたいはずなのに、逆に妹に守られてばかりだった。
その事が、ビイトをやるせない気持ちにしてしまったのだ。
「あっ……いや……なんでもねぇ」
そんな不安をネクに見られたくないためか、ビイトは首を振って誤魔化した。
「うおっしゃあ!!」
「な、何だよいきなり……」
「さっさとアメ玉をぶっ倒して、ライムを取り返すぞ!」
「ああ……そうだな」
急に調子が変わったビイトに、ネクは驚きを隠せなかった。
やはり、今のビイトはどこか精神不安定である。
「あの死神……狩谷っていったな。昨日の口ぶりじゃ今日のゲームはアイツを倒すこと……だな」
四日目のミッションは、狩谷拘輝を倒す事。
どこか飄々とした態度をしているが、彼を倒す事は容易ではないのは読者でも分かる事だろう。
「おい……ヘッドフォン、覚悟しとけ。あのアメ玉……狩谷は正直ヤバいぜ?」
「ただの死神だろ? それに、俺は2回もゲームマスターを倒してる」
「いや、狩谷の実力は幹部クラスってウワサだ。ペーペーなのは本人に欲がねぇからって話だぜ」
「そういえば、昨日、そんなこと言ってたな……」
「ピンク頭ん時みてぇにカンタンにはいかねーぞ」
その事は、死神を経験した事があるビイトは理解していた。
簡単に言うと、油断大敵である。
ネクもそれを守っているのだから、今回もカリヤを倒せるという自信があった。
「俺にアドバイスしてくれてるのか?」
「なっ!?」
「キャラ違うだろ? 熱でもあるのか?」
ネクはそれに自分でも気づかず、ビイトが助言したのかと思った。
そもそも、今日はビイトの様子がおかしい。
「ちげーよ! 気ぃ抜くなって言いたかったんだ!
それに、俺の敵は狩谷じゃねぇ……コンポーザーだ」
死神になっても、妹のライムは取り戻せなかった。
ならば、コンポーザーになれば、ライムを取り戻せるに違いない。
ビイトはそう思いながら、渋谷のコンポーザーになろうとしている。
「コンポーザーって強いのか?」
「くせものだらけの幹部連中を手なずけてんだ。
つまり、俺が言いてぇのは、狩谷は本番前の肩慣らしにもってこいってことだ。
狩谷を倒してライムを取り返したら、そのまま渋谷川につっこむぞ!」
そういえば、ビイトは渋谷川に行きたかったんだな……とネクは思い出す。
何度も邪魔されたが、今度こそ、ビイトは渋谷川に行こうとしているのだ。
「道は険しそうだな」
「ビビってるヒマなんてねぇ! さっさとアメ玉捜すぞ。まずはスクランブルに行ってみようぜ」
まずは、人が多くいる場所に行こう。
特徴的な容姿をしているのですぐ見つかるはずだ。
ネクとビイトは、彼を捜すため、渋谷スクランブル交差点に走り出した。
ゲームマスターが言っていたビイトの命は、今日も入れて残り三日。
ビイトは、それまでに間に合うのか、ネクは心配していた。
「……っつう! 痛ってぇ! っち……壁かよ」
しかし、渋谷スクランブル交差点に行こうとして、ビイトは壁に阻まれてしまう。
「キーバッジ……キーバッジっと……うおっ!? な、無い! キーバッジがねえ!!」
ビイトはキーバッジを取り出そうとするが、何故かキーバッジがなくなっていた。
誰かに盗まれたのか、それとも落としたのか。
「なんだって!? ってことは……ここに閉じ込められてるのか!?」
ネクも、ビイトがキーバッジを紛失した事をここまで知らなかったようだ。
「……っち……よりにもよってここかよ……」
「どうした?」
「な、何でもねぇ」
ビイトは宮下公園近くのガード下には、あまり良い思い出はないようだ。
ネクはガード下で何があったのか、ビイトに聞こうとするが、彼は首を横に振った。
参加者は皆、渋谷で死んだ人なので、きっとビイトの死に際に関係あるのだろう。
「くそ……メンドウなことになったな……」
ビイトがキーバッジをなくしたため、二人はガード下から出られなくなった。
「キーバッジなしで壁を開ける方法は……何か……何かないか……」
どうにかして、状況を打破しなければならない。
ネクはじっと、自身の知恵を絞った。
すると、ビイトが何かを思い出して口を開いた。
「そういえば……俺が起きた時……」
ビイトはそう言って、側面に星が描かれた、ボタンのついた黒い箱を取り出した。
「近くにこれが落ちてたんだけどよぉ……」
「そういうことは先に言えよ……」
ネクは呆れつつも、箱が気になっていた。
「なんだこれ? 箱か?」
ネクはカシャカシャと箱を振る。
箱の中から音が出ており、中に何かが入っているようだ。
「でも、その箱、どうやっても開かなかったぞ。
上についてるボタンみてぇなの押しても開かねぇし……」
「無闇に押すなよ……ワナだったらどうするんだよ」
「ぼ、ボタンがあったら押したくなるだろ!?」
押すなと言われたら押したくなるのが、人間の
「だから無闇に押すなって言ってるんだ」
「う、うるせぇ!」
もし、箱のボタンを押して、中身が爆発したらどうなっていたのか。
幸い、何も起こらなかったものの、もう少し慎重に行動すべきだ、とネクはビイトに言った。
「とにかく、ボタンを押しても箱は開かねぇぞ。代わりに変な声が流れるだけだ」
「変な声?」
―不正解。状況はリセットされました。
箱の中から聞こえてきたのは、女性の声だった。
恐らくはゲームマスターの声だろう。
「なんだ? どういう意味だ?」
ネクが唸っていると、携帯電話にメールが届いた。
俺はトワレコで待ってルゾ
キーバッジは箱の中に入れてオイタ
メールは、明らかに「彼」が送ったものであり、ビイトは顔をしかめている。
どうやらキーバッジは箱の中に入っているようだ。
「この箱……どうやって開けりゃいいんだ?」
ただボタンを押すだけでは何も起こらないし、ビイトが何をやっても開かなかった。
つまり、何かの謎を解かなければならないらしい。
ネクが問題の手がかりを探そうとすると、床に落ちていた紙切れを見つけた。
「そういえば、変な紙切れがいっぱい落ちてたぞ」
「よし……調べてみるか」
「箱は俺が持っててやる。ボタンを押したくなったら言ってくれ」
一枚目の紙切れには、このような図柄が描かれていた。
オレンジの星 白いノイズ オレンジのノイズ
オレンジのノイズ 白いノイズ
「左上と右下だけ色がないな……」
「しかも、箱には星のマークが描かれている」
紙切れが何を表しているのかは分からない。
しかしきっと、ノイズを倒せばいいのだろう、とネクは推理した。
ヒントが描かれた紙切れを探そうとすると、ガードレールの下に、献花されていた。
花束の近くには、飲み物が二つ置いてある。
「これは……」
「……」
「花……ここで事故があったのか?」
ネクは花束を見て、ここで事故があった事を知る。
死神のゲームの参加者は死者であり、ビイトは宮下公園ガード下に良い思い出がない。
しかも、これを見たビイトが沈痛な面持ちになる。
これがどういう意味かは、今のネクにはよく分からなかった。
次にネクとビイトが見つけた二枚目の紙切れには、このような図柄が描かれていた。
オレンジの月 口を開いた白いノイズ
最後、三枚目の紙切れには、このような図柄が描かれていた。
紙切れは半分が白く、半分が黒くなっている。
白い部分には、このように描かれてある。
オレンジの太陽
オレンジノイズ 白いノイズ×2 オレンジノイズ
黒い部分には、このように描かれてある。
オレンジのノイズ 白いノイズ オレンジのノイズ
「分かったぞ」
「ネク、どうした?」
「ちょっと待ってくれ」
ネクがガード下でスキャンすると、斜め四方に四つのノイズが浮かんだ。
そのうちの、左上と右下のノイズに触れる。
戦闘が始まり、ネクとビイトは次々とノイズを撃退していった。
ノイズを倒した後、ネクはビイトに言った。
「これでいいはずだ。ビイト、ボタンを押してくれ」
「お、押すのか……。気ぃつけろよ!」
そう言ってボタンを押すと、箱の中から女性の声が聞こえてきた。
―正解。ロックが解除されました。
「おぉ! やったぜ! な、ヘッドフォン!」
つまり、紙切れに描かれているものに「足りないもの」を補えばいいのだ。
あの紙切れに描かれていたもので色がないのは、左上と右下。
つまり、その位置のノイズを倒せばよかったのだ。
箱のロックが解除され、中からキーバッジが出る。
「よし! トワレコに行こう!」
「ちっ……ダメだ……こりゃLV1のキーバッジだ」
トワレコに行こうとしたネクだが、ビイトは首を横に振った。
これはLV1のキーバッジで、開くのは宮下公園側の壁だ。
「ここにいてもしょうがないな。進める方に行こう」
「おう! 行くぜっ!」
そう言って、ビイトはスケボーに乗っていった。
あんなに落ち込んでいたのにすぐに立ち直るのは、ビイトらしい証である。
「……ったく……」
ネクは呆れながらもビイトを追いかけるのだった。