すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
ネクとビイトは宮下公園近くのガード下で目覚める。
二人は狩谷拘輝を倒してミッションをクリアしようとした。
しかし、ビイトがキーバッジを紛失し、二人はガード下から出られなくなる。
彼らは紙切れのヒントを元にノイズを倒し、箱のロックを解除し、キーバッジを取り戻した。
「どこだぁ! アメ玉、出てきやがれ!」
宮下公園に来たビイトは、カリヤを大声で呼びかけた。
しかし、彼の返事は当然、返ってこなかった。
「な、なんだよいきなり……。あの死神はトワレコにいるってメールにあっただろ」
「大声出せば声が届くかもしれねぇだろ! こんな所でグズグズしてらんねぇんだよ!」
「お、落ち着けって」
自分の命は残り僅かなので、ビイトはミッション達成に必死だった。
だからといって、焦る必要があるのだろうか、とネクはビイトを落ち着かせた。
「おい! ヘッドフォン! あそこに何かあるぜ!」
「ああ……行ってみよう」
宮下公園の橋の上には、月の模様が描かれた箱があった。
キーバッジが入っていたあの箱と、模様以外は全く同じ形だった。
ネクは紙切れと照らし合わせて、スキャンした。
(紙切れに描かれていたノイズの模様は……)
ネクとビイトは指定のノイズを撃退し、月の模様が描かれた箱を取り出した。
ビイトがボタンを押し、成否を待つ。
―正解。ロックが解除されました。
星の箱の時と同じ解き方をすればいいらしい。
ロックを解除した箱を開けようとすると……。
「だあぁぁぁあ!」
「どうした!?」
「また箱が出てきやがった!」
マトリョーシカのように、太陽の模様が描かれた箱が出てきた。
どうやら、一筋縄ではいかない仕掛けらしい。
「もう頭を使うのはウンザリだぜ……」
こういう頭脳労働はネクに任せる、とビイトは間接的に言っているらしい。
「じゃあ、がんばれよ。ヘッドフォン! 箱は俺が持っててやる」
(紙切れに描かれていたノイズの模様は……でも、今度は暗い場所と明るい場所がある……。
足りないところを補えばいいんだが……でも、なんで逆さまなんだ……?)
ネクがスキャンすると、四つのノイズが浮かんだ。
足りない部分は中央なので、ネクは中央の二つのノイズを調べ、撃退した。
(暗い場所……つまり、ガード下か? ガード下で足りないところは……)
「これでいけるはずだ」
ネクとビイトは指定のノイズを撃退し、太陽の模様が描かれた箱を取り出した。
再びビイトがボタンを押し、成否を待つ。
―正解。ロックが解除されました。
箱の中には、赤いキーバッジが入っていた。
これでようやく、ネクとビイトはトワレコに行く事ができるようになった。
「でも……あの死神……こんなに手の込んだことをして……
なんで俺達をガード下に閉じ込めたんだ? 時間かせぎか?」
「……」
カリヤの真意はネクには分からなかった。
本人に昇進の意志がないとはいえ、下っ端にしてはやる事が入念すぎる。
だがビイトは、何故か気分が乗らなかった。
「よし、キーバッジで開けてくれ」
ネクがビイトにキーバッジを出すよう促すが、ビイトの姿はどこにもなかった。
「……おい……壁を……あれ? いない……」
壁の方をよく見るとビイトが頭に手を置いていた。
その表情には、いつもの明るさが全くなかった。
ネクはビイトらしくないと思い彼の後を追ってみると、そこは献花されたガードレールだった。
「おい……どうした?」
「ここは……」
「花? ここで事故があったのか……」
花束を見ていたビイトの目に涙が浮かび、さらに無念そうに歯を食いしばっている。
ネクは心配になって、ビイトに急いで声をかける。
「おい! どうした!? お前、キャラ違うだろ!
熱でもあるのか? それとも、どこか痛いのか?」
「ここで……死んだんだ……俺とライム」
「ここで……?」
それもそのはず、ビイトとライムはここで落命したからだ。
自分が死んだ場所を見るのは、とても無念だろう。
「あの日、俺……いつもどおり親とケンカして、いつもどおり家を飛び出して、
いつもどおりライムが追いかけてきた。でも、ひとつだけいつもと違った。
暴走車がライムめがけて突っ込んできた」
「……」
ビイトの言葉を聞いたネクが、最初の死神のゲームを思い出す。
―危ない!!
ノイズに消されようとしたビイトを、ライムが庇って彼女が代わりに消えた。
あの時、ノイズが車の幻影を見せていたのは、ビイトとライムの生前の光景だったからだ。
「俺、すぐにライムをかばった。……けど、間にあわなかった。ふたりでUG行きだ」
「そう……だったのか」
ネクは、ビイトが宮下公園ガード下に良い思い出がない理由を知った。
自分が死んだ時の光景を見るのは、誰であっても辛いものである。
「俺のせいだ。俺がライムを殺した。俺がライムの未来を奪っちまった」
ライムを助ける事も、自身の命を守る事もできず、ビイトは無念のあまり大粒の涙がこぼれる。
普段、ビイトが明るく振る舞っていたのは、自分の脆い本心を隠すためとネクは知った。
さらに、ライムはビイトを庇って消えた後、
バッジになり、ノイズになり、ビイトのエントリー料になった。
彼がどれだけライムを大切にしていたのか他の参加者を大切にしているネクは痛いほど知った。
「ライムには俺と違ってやりたいことも夢もあった。それを俺が……ダメにしてしまった。
俺があの時、もう一瞬早く飛び出せてれば……俺があの時間に家を飛び出さなかったら……
俺があの日、親とケンカしなかったら……ライムは死なずに済んだのに」
家族であるライムを大切に思う気持ちは分かるが、
それに執着しすぎて何もできないビイトを、ネクは可哀想でたまらなかった。
「でも……ライムは……おまえのこと、うらんでないだろ?」
「さぁな」
「さぁなって……仲良くやってたじゃないか」
「たしかにアイツは俺を責めなかった」
「……ほら見ろ」
「違うんだ!」
ネクはライムの気持ちを伝えようとするが、ビイトは涙を浮かべながら首を振った。
「アイツの記憶が……変わってたんだ」
「……記憶が変わってた?」
記憶が変わったとは、どういう事だろうか。
ライムは夢が分からないと言っていたが、もしかしてそれが「記憶が変わった」だろうか。
「UGで俺がライムを見つけた時、アイツ、俺になんて言ったと思う!?」
「えっと……」
「『はじめまして』だぜ」
そう、ライムはUGに来てから、ビイトが実の兄である事を忘れてしまったのだ。
「冗談キツイぜ……マジで落ちた……。ライムから俺の記憶がなくなってたんだ」
「俺と同じで、記憶がエントリー料だったのか……」
「多分な……」
普通に考えれば、妹から兄の記憶が消えた、と取っていいのだろう。
しかし、この話には裏がある事を、ネクとビイトはまだ知らなかった。
ライムには夢があるのに、ゲームに来た時はライムは「夢がない」と言っていた。
つまり、最初の死神のゲームで、ビイトとライムが払ったエントリー料は……。
「でも、あいつはゲームに生きのこれなかった。
だから、俺がコンポーザーになってライムを元に戻してやっても、
もう、ずっと俺のこと、分からねぇかも……」
「そんな……」
「けど、それでもいい。俺はやる! ライムを元に戻して生きかえらせる!
俺があいつにしてやれることはこれくらいしかねぇ!」
今のビイトにできる事は、ライムを復活させる事だけだった。
兄として妹を救う事、それがビイトの目的だった。
「ライム……絶対に取り返そうな」
「ああ……」
ビイトに共感したネクは、そっと彼に手を伸ばす。
消えてしまったライムを、取り戻すために。
「わりぃ……時間取らせたな……。よし! トワレコに行こうぜ!」
ようやく立ち直ったビイトは、ネクと共に目的地に行こうとするのだった。