すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
ビイトとネクは宮下公園で謎解きに挑戦し、月と太陽の模様が描かれた箱を開ける。
その中には赤いキーバッジが入っており、トワレコに行けるようになった。
しかし、ビイトは公園で自分とライムが事故死した場所を見つけ、悲しみに暮れる。
ビイトはライムを守れなかった事、彼女の未来を奪った事を悔い、涙を流す。
それでも、ビイトはライムを取り戻すために戦う決意をし、目的地に向かうのだった。
ネクとビイトは箱の暗号を解いてキーバッジで壁を開けた後、トワレコ前に辿り着いた。
「どこだ! 出てきやがれ!」
ビイトはカリヤに向かって大声で叫ぶが、彼の姿どころか声も聞こえなかった。
「いない……のか?」
「ちっ……どこかに隠れてやがるのか?」
しかし、カリヤの姿はどこにもなく、どこかに身を隠しているのだろう。
「おい……スキャンで何か分からねぇのか?」
「死神はスキャンできないだろ……」
「何か手がかりがつかめるかもしれねーだろ!」
「……やってみるか……」
とりあえず、ネクはバッジを取り出して、トワレコ前をスキャンした。
すると、ネクは人だかりに赤い光を発見したが、それ以外の情報は何も得られなかった。
「……おかしい」
「おい、どうした」
「スキャンできない!?」
「んなバカな、もういっぺんやってみろ」
ネクはもう一度スキャンしようとするが、やはり、スキャンできなかった。
まるで、人々が何も考えていないように。
「スキャンできねぇってことは、みんな、死神になっちまったか?」
「それはないだろう。羽がないし、それに……みんな俺達に気づいてない」
町の人々はネクとビイトに気づいていない。
一見すると当たり前のように思えるが、
スキャンできなかったという事は、何かの影響を受けている可能性が高い。
「う~ん、ってことは……」
ネクがあちこちを見渡してみると、信じられない光景を目撃した。
人々が赤い髑髏のバッジを身に着けていたのだ。
「レッドスカルバッジ」
「たしかにみんな持ってんな」
「これ……まさか……参加者バッジと同じ?」
ネクは持っている参加者バッジと照らし合わせる。
レッドスカルバッジは、参加者バッジと色以外は全く同じ模様をしていた。
「だからスキャンができないのか?」
「たしか、ライムも言ってたよな……。参加者どうしはスキャンできねぇって」
「正確に言うと参加者バッジを持っている者同士だ。
参加者バッジを持っているとスキャンされない」
「ってことは、こいつら全員参加者か!? バッジ持ってるし……」
ネクはビイトの言葉に対し首を振った。
このゲームの参加者はネクとビイトだけなのだ。
それなのに何故スキャンできなくなっているのか、ネクにはまだ分からなかった。
「もしかして……RGの参加者バッジ……?」
「RGでゲームができるわけねぇだろ。よく考えろよ」
「……おまえに言われたくない」
ネクは溜息をついた。
どうにかして人々の様子を見るために、ネクが渋谷を観察していると、
人々にはどこか生気が見られなかった。
「おい、レッドスカルバッジって、CATがデザインしたんだろ?」
「詳しいな」
「バカにすんな。渋谷にいてCATのこと知らねぇヤツなんていねぇよ」
あのレッドスカルバッジを身に着けていると、何故かスキャンできなくなる。
参加者バッジと、どのような関係があるのか。
「それにしても、参加者バッジに似てるな……」
「……ああ、そうだな……」
「UGとRGのバッジが偶然似てるなんてあるか? これ、同じヤツが作ったんじゃねーのか?」
ビイトはもしかしたら、参加者バッジもハネコマがデザインしたのかも、と勘繰っていた。
「えっと、つまりだな。ああなって……同じだから……えーっと……お~……」
「そんなことより、今はライムだろ?」
「ああ、そうだった! アメ玉を捜すぞ!」
ネクはハネコマがレッドスカルバッジをデザインしたと知り、複雑な気分になる。
自分の憧れの人物がこんなものを作るなんて、彼は、良い奴ではなかったのか、と。
「……大丈夫……そんなわけないよな……」
「おっ? もう着いてたノカ?」
ネクが自分にそう言い聞かせると、どこかから青年の声が聞こえてきた。
特徴的な口調で話す、その青年こそ――
「思ったより早かったナ……」
ネクとビイトが探していた、狩谷拘輝だった。
「うっせぇ! 首洗って待ってたか!」
ビイトが早速カリヤに啖呵を切る。
宮下公園で暗号により足止めを食らったため、ようやく彼と会えるためだ。
「相変わらず元気いっぱいダネ~。んじゃ、俺がいっちょ遊んでやるヨ」
気だるげな口調のカリヤだが、勝負にかける情熱は本物だった。
「来るっ!」
「おいっ、気をつけろ。あいつは――」
「……もしかして俺、おまえに心配されてる?」
「なっ!?」
「キャラ……」
「キャラちげーし、バリバリ平熱だぜ! 俺の足ひっぱんなって言いたかったんだっ!」
コロコロと気分が変わるビイトは、見ていて飽きないものである。
もっとも、彼にはある事情があるのだが……。
「ドシタ~? 仲間割れカ~?
そんなんじゃ俺は倒せないゾ~。ほら、さっさとかかってきなさいナ」
そんな彼らを見たカリヤがからかうように言い、下がった眼鏡を片手で上げる。
「うっしゃあ! いくぞ、ヘッドフォン!」
「ああ」
ネクとビイトはそれぞれの攻撃でカリヤを攻撃したが、彼はまだ余裕な表情だ。
「お~っと、それで本気カ?」
「その余裕が油断にならなきゃいいけどな!」
そう言って、ビイトはスケボーで体当たりする。
ネクは攻撃が届かない位置から、炎や光を放つサイキックで攻撃した。
「ケリつけちゃうヨ?」
そう言ってカリヤは光の弾丸をネクに撃つ。
この銃はヤシロが持っていた銃と同じく、相手を怯ませずにダメージを与えるものだ。
「痛く……いや、少しずつ怪我してる?」
「だろ? 気を付けろよ!」
ネクは遠距離から、ビイトは近距離からカリヤを攻撃、対しカリヤは光で反撃する。
「厄介なヤツから倒すのが得策だヨ」
「こいつ……」
「俺があいつの動きを止める、お前はその間に攻撃してくれ」
「ああ!」
ネクが光のサイキックでカリヤの動きを止めている最中に、ビイトがスケボーで連続攻撃する。
相手に反撃の隙を与えないようにするのが、今のネクとビイトの作戦だ。
「やられる前にやる、カ。じゃあ、ちょっと本気を出そうカナ……!」
そう言ってカリヤはネクの拘束から逃れ、光の弾をネクに投げつけた。
集中していたネクは攻撃に対応できず、弾は爆発して吹き飛ばされる。
「くっ!」
「油断大敵は、そっちもだヨ」
カリヤは飄々としながらも、鋭い目で二人を見ていた。
やはり、彼は油断できない存在だ。
「結構やるネェ……」
「おら! どうした! これで終わりか!」
カリヤは追い詰められているにも関わらず、余裕の笑みを崩さなかった。
「おまえ達の実力は分かったヨ。よし……それじゃバッジヲ……」
「何やってんのよ」
約束通りにバッジを返そうとすると、彼の後ろからヤシロが声をかける。
「狩谷、ダラケすぎよ! 仕事はまだ終わってないでしょ? 気をぬくとイタイ目みるわよ☆」
そう、彼はまだ本気を出していなかったのだ。
「アララ? 卯月、何しに来たのサ」
「狩谷がマジメに仕事してるか見にきたのよ。
目を離すとすぐサボるんだから……やぁっぱり見にきてよかったわ☆」
「ヤレヤレ……相変わらず仕事熱心だコト」
「どんな仕事でも心をこめてやればやりがい出るってもんなんでしょ?
だから、あたしも手伝ってあげるわ☆」
ヤシロはカリヤを手伝ってくれるという。
二人がかりで攻めてくるため、こちらは少し不利になった。
「上等だ! アメ玉もピンク頭もまとめて相手してやる! かかってきやがれ!!」
しかし、逆にビイトの闘志に火が付いたようだ。
「じゃあ卯月、一緒にやりますカ」
「仕方ないわね。そのかわり、あとでラーメンおごってよね」
下っ端死神との戦いが、始まった。
「あたし達は、アンタ達には」
「負けないヨ」
下っ端とはいえ、死神はゲームを運営する側だ。
二人の宣誓の瞬間から、彼らは参加者を消そうとしているのだ。
「まずは厄介なお前からだ!」
「きゃ!」
「おっと、卯月、危ないネ~」
ネクがヤシロ目掛けて攻撃すると、
カリヤは彼女の身体に力を送り込み、瞬間的に防御力を高めた。
「か、狩谷……助けてくれたの?」
「先輩だからサ。ほれほれ」
「だったらもう一度だ!」
そう言ってビイトはヤシロに体当たりするも、再びカリヤがヤシロに力を送って守る。
「負けられないのは俺達も同じだ! 覚悟しろ!」
「手ごたえないネェ」
「受けなさい!」
カリヤはネクの攻撃を難なくかわし、ヤシロが銃を構えてネクを撃つ。
ネクは攻撃をかわせずに、ダメージを受けた。
「そうはいかねぇぞ」
「きゃぁっ!」
ビイトはヤシロをスケボーで吹き飛ばし、彼女の手から銃を落とす事に成功した。
「あたしの銃が……!」
「後はお前だけだ!」
「いくぞ!!」
ネクはバッジを掲げ、ビイトと連携の準備に入る。
カードを次々に連鎖しながら消していき、二人の力はどんどん高まっていった。
死神のゲームで大事なのは、パートナーを信頼する事。
ネクはそれを守りながら、どんどんカードを消していった。
「きったー!」
「発動!」
無数の鎖が現れてカリヤとヤシロを拘束し、ネクとビイトが共に体当たりをしていく。
拘束している以上、攻撃から逃れる事はできなかった。
「「とどめだ!!」」
ネクとビイトの必殺の一撃が炸裂し、二人の下っ端死神は戦闘不能になった。
「アッパレ。マイッタ、マイッタ。さっすがのふたりダナ」
カリヤは自身を倒したネクとビイトを認める。
敵であっても、相手に敬意を払う姿勢は、あっぱれといったところだろう。
「約束どおり、返してヤルヨ。ホレ」
そう言って、カリヤはバッジをビイトに渡した。
ビイトはネズミのバッジを見て口を開いた。
「ライム、ごめんな。もうすぐ元に……」
ビイトがバッジを確認しようとすると、何故か途中で手を止めた。
「おい……どういうこった……。これ、ライムじゃねぇ!」
「えっ!?」
「これ、ニセモノだぞ!」
なんと、カリヤが渡したバッジは偽物だった。
確かに彼は「バッジを返す」とは言ったが、偽物にすり替わっていたとは思わず、驚く。
「またダマしたのか!」
「クソッ!」
ビイトがカリヤに叫ぶと、カリヤの表情から微笑みが消える。
「……信じた俺がバカダッタ……。鉄仮面……やっぱり一枚上手カ……」
どうやらカリヤは、バッジが偽物とすり替わっていた事は知らなかったようだ。
バッジをすり替えたのは鉄仮面、つまりコニシだ。
「狩谷、どういうことよ?」
「ハナからニセモンつかまされてましたトサ」
「なっ!? じゃあ、本物はどこ?」
「もちろん鉄仮面ダロ」
「あたし達もダマされたってこと!? じゃあ……昇進の話も……ウソ……なの……」
下っ端死神も騙すほどの高い知能に、ヤシロは驚きを隠せなかった。
やはり、そう簡単にライムは取り戻せないようだ。
「ビイト、申し訳ないことをシタ……」
「し、仕方ねぇ。ダマされたんだろ、アンタらも。
どうせアンタら、本物のバッジは見たことないだろ」
「いや、だとしてももっと早く気づけたハズダ……。代わりにはならないが、これを……」
カリヤも騙されていたという事で、お詫びとして銀のキーバッジを渡した。
「LV4キーバッジ……なんで……?」
「ワビだヨ。おまえさんがたが持ってるほうがUGにとっても幸せダロ」
カリヤが言う「UGの幸せ」とは、一体何だろうか。
「分かった! 後は任せろ。行くぞ、ヘッドフォン。っと……ひとつだけ言っておくぜ」
「ドシタ?」
「鉄仮面には気をつけろ」
ビイトは指を振ってカリヤに警告した。
自分達もコニシの罠に嵌められてしまったからだ。
「……ソレ、どういうことカナ?」
「前にキーバッジを渡してくれた死神が消された。多分、ゲームマスターの仕業だ」
コニシは冷酷な性格をしており、参加者にも死神にも容赦がない。
彼女の毒牙にかかった者はそれなりにいるだろう。
「もしかしたら、アンタらも……」
「なるほど~。ご忠告アリガトサン。自分の身は自分で守るサ。なぁ、卯月」
「フン……まったく、大きなお世話よ。あたし達のことはいいから、さっさと行きなさいよ。
あと……昨日は……悪かったわね……」
「ああ!? 昨日、何かあったか? きれーさっぱり忘れちまったぜ!」
相変わらず、ヤシロは素直ではなかったが、きちんと謝る事はできるようだ。
ビイトもまた、そんなヤシロを許した。
「よし! 行こうぜ、ヘッドフォン」
「ああ、ゲームマスターを捜そう」
そう言って、ネクとビイトはゲームマスターのコニシを捜索しに向かった。
「結局、俺らは時間稼ぎに使われたってことカ……。
ま、どっちにしても昇進はパァってコトデ……」
一方、その頃の下っ端死神である。
まんまとコニシに使い捨てられた下っ端死神は、昇進できない事に少し残念がった。
もっとも、カリヤは昇進する気などないのだが。
「パァじゃないわ」
「オヤ?」
「あたし、諦めない。やっぱりこんなのおかしい。現場は使い捨ての道具じゃないのよ。
こんな環境……やりにくくってしょうがないわ」
「そうだナ、昔と比べルト……やりやすくはないかもナ」
いつから、渋谷のこの環境が変わってしまったのだろうか。
ヤシロは、今のこの環境に不満を抱いていた。
「狩谷、この渋谷……あたしだって好きよ。
だから、死神全員がやりがいを持って仕事できるような、そんな渋谷にあたしが変える。
現場が楽しく仕事できないようじゃ、これからの渋谷はダメなのよ!」
誰も苦しまず、仕事を楽しいと思えるような空間。
それはまさしく、渋谷に生きる人々にとって理想郷といえるものだった。
「アララ……すんごいこと思いついちゃったネ……。まっ……がんばんなさいナ……」
「なに他人ヅラしてんのよ。狩谷にも手伝ってもらうからね」
「ゲッ!! そうナノ!?」
「ふたりで昇進して、渋谷を変えるのよ!」
なんだかんだで、この下っ端も良いコンビだ。
先輩・後輩という関係以上の仲だと言え、敵だが思わず応援したくなるだろう。
「死神みんなが満足する渋谷カ……。そういうのもおもしろいかもナ……」
「でも……今日は完敗ね……。こっちは開放バッジまでつけてたのに……」
「開放バッジってこれのコトカ?」
そう言ってカリヤは、ヤシロにレッドスカルバッジを見せた。
「これはオモチャダ。つけても無意味サ」
「うそ……不良品……?」
「どうダカネ~」
カリヤはこのバッジについて少しだけ知っているようだが、ヤシロには言わなかった。
何故なら、このバッジは……。
「さぁて、ラーメン行くカ? 俺のおごりデ……」
「あの子達……いったいなんなの?
エマージェンシーコールまで出されるおたずね者……
そんなのにキーバッジまで渡しちゃってよかったの?
ゲームマスターに知れたら減給どころじゃ済まないわよ」
死神のゲームを生き残り続けたネク、一度は死神になったが離反したビイト。
明らかな要注意人物にキーバッジを渡すとは、「狩谷もお人好しね」と言いたいヤシロ。
しかし、カリヤは真剣な表情で言った。
「……卯月、気づかないカ?」
「何によ?」
「渋谷の異変ニサ……」
どうやら渋谷ではある異変が起こっているらしい。
ネクがスキャンできなくなったり、人々がレッドスカルバッジを身に着けていたりと、
確かにおかしいところはあったが……。
「渋谷の異変? どうしたのよ、急に……」
「渋谷がシンプルになってきテル……」
「そういわれれば……いつも、うるさいぐらいの思考があまり聞こえないわね」
「ああ」
渋谷は雑多な人々の思考が混ざり合っている町だ。
しかし、今の渋谷は、怖いほどに思考が統一されている。
この異変は、人々が身に着けているレッドスカルバッジと関係があるのだろうか。
「渋谷の雑多な思考がゆっくりだが確実に1点に収束シテル」
「それって、悪い前兆……?」
「どうダカネ~。この点が終止符じゃないことを祈るノミ……」
カリヤがそう呟いた瞬間、ヤシロが頭痛に襲われ、うずくまる。
「くっ……あああ……」
「卯月?」
「あぁぁぁあ!!」
叫ぶヤシロの目から徐々に光が消えていき、瞳の色も、赤く染まっていった。
「おいっ! ドシタ!? ……うがっ」
カリヤは急いでヤシロに駆け寄るが、彼もヤシロと同じように頭痛に襲われた。
「あ……頭が……」
そして、カリヤの意識は闇に落ちようとしていた。
「想定よりも……時間がかかったな……」
その頃、ミナミモトはとある場所で目覚めていた。
服は胸元が破れており、身体には不気味な模様が刻まれている。
「ちっ! この体……ゼタしっくりこねぇ……。まっ、そのうちなれるか。さぁて、計算再開だ」
そう言って、ミナミモトは不敵な笑みを浮かべた。