すばらしきこのせかい Shibuya Survival   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

ネクとビイトはスクランブル交差点で目覚め、ビイトの寿命が残り僅かと知る。
焦ったビイトはコニシの居場所を探すが見つからず、そこに死神が立ちはだかる。
死神は虚ろな様子で襲い掛かるが、二人は何とか彼らを撃退する。
ビイトはコンポーザーの正体がCATだと推測するが、ネクは否定するのだった。


64 暴走

数え切れない この世の不幸を 断ち切るために この救済の光を

 さすれば ここは幸福な 場所となる すなわち そこは すばらしきせかい

 渋急ヘッズ前にいた死神もまた、町の人々と同じ事を呟いていた。

 ネクとビイトは死神を退け、渋急ヘッズ前に行ったが、そこにも異様な光景が広がっていた。

だあぁぁあ!! な、何だこいつら!!」

「コイツらも……おかしいのか?」

 皆、虚ろな様子で、ぶつぶつと言葉を呟いていた。

 

数え切れない この世の不幸を 断ち切るために この救済の光を

 さすれば ここは幸福な 場所となる すなわち そこは すばらしきせかい

数え切れない この世の不幸を 断ち切るために この救済の光を

 さすれば ここは幸福な 場所となる すなわち そこは すばらしきせかい

数え切れない この世の不幸を 断ち切るために この救済の光を

 さすれば ここは幸福な 場所となる すなわち そこは すばらしきせかい

 誰に話しかけても、反応がなかった。

 ネクとビイトがあちこちを回っていると、いつの間にか操られた死神達に囲まれていた。

数え切れない この世の不幸を 断ち切るために

この救済の光を

さすれば ここは幸福な 場所となる

すなわち そこは すばらしきせかい

 皆、同じ事しか言っておらず、瞳も虚ろに赤く染まっている。

 レッドスカルバッジは彼らの胸で鈍く光っていた。

「くっ! 戦うしかねぇみてぇだな!」

 彼らにネクとビイトの声は聞こえない。

 ネクとビイトは、彼らと戦うしかなかった。

 

「はぁ……はぁ……これで……全員倒したか?」

「ああ……」

 ネクとビイトは、三人の死神を何とか退けた。

 バッジの力で想像以上にタフになったようで、ネクとビイトは苦戦してしまったようだ。

「何なんだよ、こいつら……。訳分かんねぇことブツブツ言ってよ……いったいどうしたんだよ」

 渋谷の街だけでなく、死神達もおかしかった。

 皆、レッドスカルバッジを身に着けていた事で、虚ろに言葉を呟くようになったらしい。

「おい、ネク! 考え込んでるヒマはねぇ! 鉄仮面を捜すぞ!」

「ああ……」

 

 ネクとビイトは宇田川町路地裏前に辿り着いたが、何者かに壁を破壊された痕跡があった。

 どうやら向こう側から何かが飛び出したらしい。

 LV4の壁は、幹部クラスでも難しいほど、簡単には破壊できないはずだが……。

「よしっ! 行くぞ!!」

「おい! 待て! 危ないだろ!」

 先に行こうとするビイトをネクが制止する。

「でもこの先に鉄仮面がいるかもしれねーんだぞ?」

「そうだな……。罠かもしれない、慎重にいくぞ!」

 ネクはコニシが仕掛けた罠に気を配りながら、宇田川町路地裏に行った。

「これは……」

 ネクが床を調べてみると、魔法陣が焼け焦げたような跡があった。

「鉄仮面はいねぇみてぇだな……。よしっ、次だ次!!」

「待て! ちょっと調べてみる」

 ネクはミナミモトの魔法陣の跡を調べるため、携帯電話を取り出して撮影した。

 最も古い時間……四日目に日付を合わせて。

「こ、これは……」

「おい、何が写ってたんだよ」

 魔法陣の傍には、ハネコマの姿があった。

 中央にはノイズの模様があり、ハネコマはそれを調べているようだが……。

「おっさん!? おっさんじゃねーか!!」

 ビイトもハネコマの姿を見て驚く。

「羽狛さん……」

「おいおい、おっさんがなんでここにいたんだよ? やっぱおっさん、あやしすぎるぜ!!」

 信じていたハネコマがこんな事をしていたなんて。

 ネクは、衝撃のあまり言葉を発せなかった。

 何故、ハネコマが何のためにここにいたのか、それを知るために、

 ネクはハネコマの店に行こうとした。

 ビイトは「鉄仮面捜しが先だ」と言い、ネクの提案を蹴ろうとするが、

 キャットストリートにあると言い返した。

 コニシ捜索も兼ねての事である。

 

「羽狛さん……」

 自分が憧れている人物が、こんな事をするなんて、ネクはどうしても、理解できなかった。

 ハネコマは、渋谷を混乱させるような人ではないはずなのに……。

 

「……」

 ネクとビイトが先に進もうとすると、カリヤとヤシロが立ち塞がっていた。

 だが、二人の目も、虚ろに赤く染まっていた。

数え切れない この世の不幸を 断ち切るために この救済の光を

 さすれば ここは幸福な 場所となる すなわち そこは すばらしきせかい

数え切れない この世の不幸を 断ち切るために この救済の光を

 さすれば ここは幸福な 場所となる すなわち そこは すばらしきせかい

「おい、おめぇら! 返事しろよ!!」

 二人は死神達と同じ事を言っていた。

 胸にはレッドスカルバッジを着けていて、何かに操られている事の証明だった。

「ダメだ! コイツらも……」

「くっ、どうなってんだよ!」

「来るぞ!!」

 最早交渉の余地はなく、二人の下っ端死神はネクとビイトに襲い掛かった。

 

「まさかこんな形で戦うなんてな……」

「ネク、こいつらは頭がぶっ飛んじまってる。手ぇ抜いたらやられるぜ」

 彼らはレッドスカルバッジの影響で暴走している。

 ビイトの言う通り、手を抜いたら一瞬でやられてしまうだろう。

「俺が前に出る、おめぇは後ろから攻撃しろ!」

「すまない……少しだけ、眠っててくれ」

 ビイトがスケボーで突進した後、ネクは炎のサイキックで二人を燃やす。

ウゥ……

ウゥウゥゥゥゥ……

 二人の目には理性がなく、ただ目の前のネクとビイトを倒そうとしている。

 ネクは躊躇いかけたが、ビイトの助言によって何とか迷いを振り切った。

アアアアアアアアアア!

 ヤシロが撃った青い弾丸がネクに当たり、ネクは彼女の方に引き寄せられた。

 そこから、ヤシロは放射状に広がる弾丸を撃ち、ネクに浅くない傷を負わせていく。

「くそっ!」

「ネク、大丈夫か……っ!」

 援護しようとしたビイトにヤシロの銃弾が命中し、ビイトは後ずさってしまう。

「ってー……火事場の馬鹿力ってのは怖いぜ。それが死神だとますますな」

「こいつらは下っ端だが、幹部が着けていたら俺達は間違いなくやられていたな」

 こんなところで下っ端の死神二人にやられるわけにはいかなかった。

 ネクとビイトは、暴走する二人の死神を迎え撃つ。

 ビイトがスケボーで体当たりしてヤシロを浮かせネクが雷を落として彼女を地面に叩きつける。

アアアアアア!

 ヤシロは暴走しながらも、正確にネクを銃で撃つ。

「こいつに手ぇ出すなっ!」

 ビイトはスケボーで体当たりしてヤシロを吹っ飛ばし、続けてネクがサイキックの弾丸を放つ。

 彼女に攻撃をさせないように、こちらが連続で攻撃する。

 それが、ネクとビイトの作戦だった。

 

ウウ……ウウウウ……

 ネクとビイトの攻撃を食らい続けたヤシロは蹲る。

「おい、大丈……」

「ネク!」

アアアアアアアアアアア!!

「うわっ!?」

 ネクが彼女に声をかけようとすると、いきなりカリヤが現れて光の弾丸を放った。

 かわす事ができず、ネクは吹き飛ばされてしまう。

 さらに、カリヤとヤシロは光の弾を弾幕の如き密度でネクとビイトに放つ。

 これをかわす事は至難の業だったが、ネクとビイトは何とか全弾かわした。

「くそっ、こいつら、リミッターが外れてやがる!」

「早く決着をつけないと、やられる」

 そう言ってネクとビイトは二人の死神に突っ込む。

 すると、二人の死神は彼らの攻撃をかわし、連続パンチとキックでネクとビイトを攻撃する。

 リミッターが外れているため威力は極めて高く、ネクとビイトに深い傷を負わせていく。

 最後にヤシロが×印状の斬撃を放ち、大ダメージを与えた。

 

「な、なんて威力だ……!」

「くそ、このままじゃ、ホントに消えそうだぜ……」

 必殺技を食らったネクとビイトが瀕死状態になる。

 カリヤとヤシロはそんな彼らを赤い目で見て、とどめを刺そうと身構える。

アアアアアアアアアア!!

「くっ……ここで終わりか……!?」

「すまねぇ……ライム……」

 ネクとビイトは消滅を覚悟しようと、目を閉じた。

 

 その時だった。

 

「!?」

 突然、ネクが持っていたバッジの一枚が光り輝き、

 その光がネクとビイトを包むと二人が負っていた傷が癒されていく。

 そのバッジは、瀕死になると自動的に体力を回復するものだった。

 恐らくは死神のゲームで手に入れたものだろうが、

 こんなところで助けてくれるとは思っていなかったようだ。

 

「おっし、元気になった!」

 体力を取り戻したビイトは、スケボーで二人に向かって体当たりする。

 カリヤとヤシロは吹き飛び、ネクは遠くから炎のサイキックで燃やしていく。

「言っておくけどよ、俺達は負けられねぇんだ」

「みんながかかってるんだ。だから、俺達はお前を倒す!」

ウウウ……

グゥゥゥゥ……

 カリヤとヤシロは悔しそうに歯を食いしばる。

 暴走しているため、彼らの目には、ネクとビイトの姿は映っていなかったが、

 二人の声には闘志が溢れていた。

 それが、カリヤとヤシロを悔しがらせているのだろう。

「手加減なしだ!」

「全力で行くぜ!」

 そう言ってネクとビイトは、カリヤとヤシロに連携攻撃でダメージを与える。

 彼らの思いが通じたのか、白いバッジも淡く光り輝いていた。

「バッジが光っている。もしかして、もう少しで倒せるのか?」

「そうみたいだな。気を抜くなよ、ネク」

「それはこっちも同じだ、ビイト」

アアアアアア……

 次第に追い詰められていくカリヤとヤシロは、なおもネクとビイトを攻撃し続けるが、

 彼らはそれを受けつつもそれ以上に攻撃する。

 そしてバッジの光が強くなり、大きく包み込んだ。

「これで……あいつらを倒せる!」

「いくぞ!」

 ネクがバッジを発動させると、四つのマークがついたカードが現れる。

 それを連続で消していくと、二人の力は高まった。

 カードは連鎖するように消えていき、ネクとビイトの力は最高潮に達した。

「乗り遅れるなよ!」

「ノリノリだぜ!」

 ビイトが波を起こすと、ネクはサーフボード、ビイトはスケボーに乗って波に乗る。

 大きな波が嵐のように荒れ狂い、カリヤとヤシロを飲み込んでいく。

「「アアアアアアアアアアアアア!!」」

 そして、レッドスカルバッジが砕け散ると、カリヤとヤシロは意識を失った。

 

「はぁ……はぁ……なんとか……止まったな……」

 ネクとビイトはカリヤとヤシロを何とか戦闘不能にした。

 暴走していたため、パワーもスピードも、以前と比べてかなり上がっていた。

 それでも辛勝したのは、連携があってこそだ。

「ビイト、今のうちだ」

「ちょ……ちょっと待ってくれ」

 今度こそとどめを刺そうとするネクだったが、ビイトが二人の前に出て歩みを止める。

「ネク……頼む。こいつら、許してやってくれ!」

「許すも何も……また襲ってくるかもしれないぞ」

「分かってる! 分かってる……けどよ……こいつら、悪いヤツらじゃねぇ気がするんだ」

 彼らはただの下っ端で、もしとどめを刺しても、上層部には痛くも痒くもない。

 とどめを刺すのは無意味だとビイトは思ったのだ。

「それに、何かおかしくなかったか?」

「確かにこの二人……昨日と様子が違ったな……」

 軽口を叩いていた二人が、赤い目で襲い掛かるのはどう考えてもおかしい。

 二人は、明らかに何かに操られている、とネクとビイトは推測した。

「また襲ってきたら、その時は……俺がなんとかするから」

「……」

 ビイトの考えには賛同できなかったが、

 こうも心の中から必死に頼み込むならば、断るわけにはいかない。

 そう思ったネクは、少し考えた後に頷いた。

「分かった……そうしよう」

 そう言って、ネクは倒れている二人の下っ端死神を見逃した。

 彼らにも、彼らなりの事情があったのだ。

 

「……ん? これは……」

 ネクがその場を立ち去ろうとすると、砕け散った赤いバッジが目に入った。

 それは、渋谷の人々が身に着けていたレッドスカルバッジと全く同じだった。

「なんでこいつらもつけてるんだ?」

「たしかに……なんで死神が……?」

「あれ? でも死神がつけてるのは、開放バッジってやつだよな?

 もしかして、このバッジが開放バッジ? なのか?」

「……どうだろうな」

 レッドスカルバッジと開放バッジ、どこからどう見ても全く同じだった。

 しかも、これを身に着けた死神も、操られてネク達に襲い掛かった。

 これを同じでないと見るのは、明らかにおかしい。

「とにかく、コイツらが目を覚ます前に行こう」

「ああ、そうだな。急ごう」

 また目を付けられる前に、ミッションクリアを優先しよう。

 ネクとビイトは、急いで宇田川町路地裏を後にするのだった。

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