すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
ネクとビイトは、操られた死神と戦いながら渋谷を探索する。
レッドスカルバッジを身に着けた人々は、同じ言葉を繰り返し呟いていた。
ネクとビイトは操られた死神を倒すが、彼らも同じバッジを身に着けている事に気づく。
ネクはバッジが開放バッジである可能性を推測し、次の場所へと急ぐのだった。
次の日、ネクとビイトはスクランブル交差点で目覚めた。
死神のゲームは六日目、今日を入れてあと二日で全てが終わる。
一日経った事に、ネクもビイトも驚いた。
「おいっ、今日は何日目だ」
「おい、落ち着け」
「もう6日目だぜ!」
「落ち着けって、まだ時間はある」
「うあぁぁぁあ!」
こんなやり取りをするのも昨日と同じだ。
コニシが見つからないのが理由か、ビイトの焦りはさらに高まった。
「おい! パニクってるヒマないだろ?」
「落ち着いていられる方がおかしいだろ!
鉄仮面の言ってたことが本当なら、俺は今日あたりに消えちまうんだぞ!」
「……それでも、今できることをするしかない」
「何するってんだよ!?」
このまま何もしないでいるよりは、何かをして結果を残す方がマシだ。
ネクはそうビイトに言い聞かせていたが、ビイトはどうしても納得いかなかった。
コニシに繋がる手掛かりが、全く見つかっていないからだ。
しかし、ネクは昨日の事を思い出して言った。
「羽狛さんの店に行こう」
「どこだよ!? それ!! あっ! キャットストリートだ!!」
「ああ、そっちはまだ調べてない」
「よぉし! 鉄仮面はそこだ! 間違いねぇ!! 何もできずに消えてたまるか! 行くぞ!!」
そう言って、ビイトはスケボーに乗って走った。
彼の背中を見ながら、ネクはハネコマを思い出す。
(羽狛さん……)
最後の死神のゲーム初日に、ハネコマはあの魔法陣を調べていた。
頼りになる彼がそんな事をするとは思えなかった。
しかし、写真は事実を表していた。
(羽狛さんにあったら全部聞いてみよう。コンポーザーじゃないって確認しよう。
でも……なんて言えばいいんだ……)
ネクの中でそんな思いが渦巻いていた時、ビイトはスケボーに乗って戻ってきた。
「行くぞ行くぞ行くぞ行くぞ行くぞ行くぞ行くぞ行くぞ行くぞ行くぞ行くぞ行くぞ」
「分かったよ、急ごう」
何が何でも行きたがるビイトに、ネクは辟易しながらも彼についていくのだった。
「くそっ、こいつら!」
『数え切れない この世の不幸を 断ち切るために この救済の光を
さすれば ここは幸福な 場所となる すなわち そこは すばらしきせかい』
キャットストリートに行こうとすると、操られた死神がネクとビイトに襲い掛かった。
これを退けて渋谷デパート前に行くも、やはり、皆、同じ事を考えていた。
『数え切れない この世の不幸を 断ち切るために この救済の光を
さすれば ここは幸福な 場所となる すなわち そこは すばらしきせかい』
『数え切れない この世の不幸を 断ち切るために この救済の光を
さすれば ここは幸福な 場所となる すなわち そこは すばらしきせかい』
「みんな……」
「……おかしくなってる奴に何を言っても無駄だ」
さらに、センター街入口の人々も、赤い瞳で同じ事を呟いていた。
『数え切れない この世の不幸を 断ち切るために この救済の光を
さすれば ここは幸福な 場所となる すなわち そこは すばらしきせかい』
『数え切れない この世の不幸を 断ち切るために この救済の光を
さすれば ここは幸福な 場所となる すなわち そこは すばらしきせかい』
『数え切れない この世の不幸を 断ち切るために この救済の光を
さすれば ここは幸福な 場所となる すなわち そこは すばらしきせかい』
皆、口々に同じ事を言っている。
ビイトは混乱し、思わずキャットストリートとは逆の方向に行こうとした。
「キャットストリートはこっちじゃないだろ」
「えーっと、確かキャットストリートは……」
「宮下公園の近くにある」
ネクに言われた通り、ビイトは宮下公園に行き、キャットストリートに行こうとした。
だが、そこには誰かが壁を破壊した痕跡があった。
「これは……」
「うわっ……ここも派手に壊れてんな」
「キャットストリートに向かってるのか……」
ネクが痕跡を調べると、宇田川町路地裏前の痕跡とほとんど同じである事が分かった。
つまり、この壁を破壊したのは同一人物らしい。
「これって……やっぱ、おっさんがやったんだよな。自分のアジトに戻ってんじゃねーか?」
「本人に聞けば全部分かる。くだらない想像すんな、時間のムダだ」
「わーかったよ、行くぞ」
ネクとビイトはハネコマに真相を聞くため、
キャットストリートのカフェ、ワイルドキャットに入った。
「こ、これは……」
「なんだこれ……ここも派手に壊れてんな……」
しかし、店の中はかなり荒らされていた。
壁は汚れ、地面には紙が落ち、ガラスの破片も散らばっている。
ハネコマがそんな事をするはずがなかった。
「これもおっさんがやったのか……?」
「何のために自分で自分の店を壊すんだ? もしかしたら……襲われたのかも……」
「どうなってんだよ!? 俺もうワケ分かんねぇ! どういうことだよ!?」
事情が分からず、ビイトは混乱する。
この店にはハネコマどころか、人一人いなかった。
ネクは店の中を少し調べた後、ビイトに説明する。
「壁を壊したヤツが羽狛さんを襲いにきたんだ」
「鉄仮面か? 鉄仮面がやって逃げたのか!?」
「いや、アイツは6日間同じ場所から動かないって言ってた。
ここにずっといたなら壁は壊せないはずだ」
コニシは安全な場所で待っているため、それはないとネクは首を横に振る。
「じゃあ、誰だよ!?」
「分からない。誰なんだ……」
壁を破壊した人物とこの店を襲った人物は同一人物である事は分かったが、
それが誰なのかネクも分からない。
証拠があれば、犯人が見つかるのだが……。
「何か手がかりはないのかよ」
「……そうだ……カメラ機能だ!」
手がかり、と聞いたネクは何かを閃き、携帯電話を取り出した。
「あ? カメラ機能って昨日使ってたやつか? あれって何なんだよ」
「過去の写真が撮れるんだ」
「うおっ!? 何だその機能、すげぇな」
一昨日宮下公園に来た時は壁は壊れていなかった。
宮下公園の壁が壊されここで何か起きたのは、とネクが思っていると、
ビイトが携帯電話を見ていた。
「おい、俺に撮らせてくれよ」
「あっ……おい!」
ビイトはネクから携帯電話を取ると、いきなり現場を撮影した。
「ちょっ……待て! やめろ!」
「あれ? おいネク、撮れねぇぞ。故障か?」
「……その機能は1日3回しか使えないんだ」
無闇に撮影したせいで、機能を使い切ってしまったようだ。
「だあぁぁぁあ! そういうことは早く言えよ!」
「言うヒマなんてなかっただろ」
「う~、ダメだ……何も映って……うおっ!? おい、ネク! これ見ろ!」
途方に暮れるビイトだったが、彼が撮影した写真の中に、何かが写っていた。
それは何かを持っているハネコマの後ろ姿だった。
「羽狛さん……」
「おっさん……何やってんだ? ここに何か隠してるのか……?」
「この場所を捜してみよう」
そう言って、ネクはビイトが撮影した現場に着く。
そこには、金色のキーバッジが落ちていて、ビイトも見た事がないキーバッジだという。
行けるところは全て捜したため、まだ調べていないところは……渋谷川だ。
渋谷川にはゲームマスターがいるに違いない、そう思ったビイトはやる気になった。
「ん? 封筒の中に手紙が……」
よく見ると、キーバッジの傍に封筒が落ちていた。
どうやらハネコマからの手紙のようだ。
ネクは手紙を開き、文章を読んでみる。
この渋谷を生き抜く
どんな状況でも全力で今を楽しめ!
「全力で今を楽しめ……」
そう言い残して、ハネコマは失踪したらしい。
彼が無事でないとしたら……ネクは絶望しかけた。
「ここにキーバッジが置いてあって手紙があったってことは、
俺らに渋谷川へ行けって言ってんだよな?」
「……」
「よぉぉぉっし! 渋谷川に行くぜ!! 鉄仮面もぜってぇそこにいる!!
ヤツからライムを取り返して、そのままコンポーザーに殴りこみだ!!」
こんな時でも熱いビイトに、ネクは何も言えなかった。
渋谷川に行く事は、それほど簡単な話ではない。
大体、何故そんな鍵がここにあるのか。
ネクを渋谷川に行かせたいのだろうか。
それとも、誰かがネクを呼んでいるのだろうか。
その先で、何をさせるつもりだろうか。
ネクの頭の中で、そんな思いがぐるぐると渦を巻いていた。
カドイ前に着いたネクとビイトを待っていたのは様々なものが積まれた奇妙なオブジェだった。
「何だアレ? ゴミ山か?」
ゴミ山――否、スクラップの塔は、ネクには見覚えがあった。
前回のゲームマスターの「彼」が作ったものだ。
「おいおい、俺様を無視かよ、ヘクトパスカルが!」
それを無視して先に進もうとすると、青年が背後から声をかけてくる。
「オブジェ死神!?」
前回のゲームで自爆したはずの、南師猩だった。
何故彼が生きているのか、ネクは驚きを隠せない。
「ヘ、ヘク……? な、何言ってんだこいつ……?」
「おまえ……生きてたのか……」
「ゼタ当然。全ては俺の計算どおり。あれはもとからああいう技だ」
「そ、その体……」
ネクはミナミモトのコートが破れ、帽子もなくなっている事に気づく。
ミナミモトは鼻で笑うと、ネクとビイトに言った。
「フン……これか……。これが俺の新しい作品……俺自身だ!!」
「こいつ、自分の体を禁断化してやがる!」
ミナミモトはレベル虚数フレアに巻き込まれる前、自らの身体を禁断化し、生き残ったのだ。
「俺はあの技で一度消滅した。そしてこの体と力を手に入れ、精製陣からよみがえったんだよ。
禁断のサイキック、リザレクションでな……」
「宇田川町のあれ……おまえだったのか……」
あちこちの壁を破壊し、ワイルドキャットを襲撃したのは、禁断化したミナミモトだった。
どこまでもネク達を嘲る彼に、怒りを隠せない。
「さぁ、計算再開だ。これでコンポーザーと互角に戦えるぜ」
「まじかよ……そのために自分の体を禁断化したのかよ。ありえねぇぜ……」
禁断の力を躊躇う事なく使うミナミモトに、ビイトは気分が悪くなる。
ネクも鋭い目で、ミナミモトを睨みつけた。
「ジョーシキなんてただのゴミ! クラッシュ!
俺がまとめて捨ててやる! 価値があるのは俺の美学だけ!
精製陣で生きかえるのは俺の計算内、だが肉体が禁断化したのは計算外だったな……。
けど、これも悪くない。次のコンポーザー、俺にふさわしい!」
常識は捨てるもの、彼らしい言葉である。
ネクはミナミモトの姿を見て、ぐっと拳を握る。
「おまえ……あの店に行ったのか……?」
「ああ……だが誰もいなかった。どこだ? どこに逃げやがった!?
おまえらなら知ってんだろ!? ヤツの居場所を」
「知るか!」
「そうか……だったらもう用なしだ」
そう言ってミナミモトはネクとビイトの前に出た。
コンポーザーの居場所を知らない彼らを、自分自身の手で消すために。
「ロクデナシのおまえらに告ぐ。おまえらに栄光の
俺のウォーミングアップの相手にしてやる!」
禁断化したミナミモトが、ネクとビイトに襲い掛かってきた。
「速い……!」
「これが禁断化したアイツかよ……」
禁断化の影響で、ミナミモトのスピードは以前より格段に上がっていた。
ネクとビイトは彼に攻撃しようとするが、あまりに速すぎて攻撃が当たらない。
「ベクトルが違うぜ! サイン!」
「「ぐあっ!!」」
そう言って、ミナミモトは光の刃を光速で放つ。
攻撃を放つ間もなく、二人に攻撃が命中し、ネクとビイトはよろめいてしまう。
ネクは炎を出してミナミモトを攻撃するが、すぐにミナミモトは別の方に瞬間移動した。
「そんなのはもう読んでるぜ!」
ビイトはミナミモトが移動した方向にスケボーで攻撃し、さらに連続攻撃する。
そこからネクは弾丸を放つサイキックでミナミモトを攻撃し、彼の体力を削っていった。
「おまえらも予想以上に抵抗しているな。だが絶対に、俺には勝てない!
零に何を掛けても零のままだ! コサイン!」
ミナミモトはそう言って、光の刃をゆっくりと放って分裂させる。
さらに、ネクとビイトの攻撃も、光速で動いてかわしていく。
「あいつの動きは確かに速いけど、ワンパターンだ。パターンさえ見切れば、怖くない!」
「ああ!」
ネクとビイトはミナミモトの攻撃のパターンを見ながら、彼の攻撃をかわし、反撃する。
広範囲に飛んできた光の刃を、ネクとビイトは避け続ける。
「お前の攻撃は見切った。あの言葉で、どんな攻撃が来るか分かったからな」
「な、なんだと!? 定義したのか!? タンジェント!」
ミナミモトは光の刃を扇状に放った。
だが、ネクは冷静に攻撃をかわし、ビイトがその隙にミナミモトを攻撃する。
「お前が何を言えばどんな攻撃が届くのか分かった」
そう、ミナミモトは攻撃する前に三角関数を言ったのだ。
サイン、と言えば光速で刃が飛び、コサイン、と言えば一つの刃が分裂し、
タンジェント、と言えば扇状に光の刃が飛ぶのだ。
「頭が固いと見破られるぜ!」
ビイトはスケボーでミナミモトに攻撃し続けた。
相手に攻撃をさせないために、只管、ビイトはミナミモトを攻撃した。
「チッ、底辺が……虚数にしてやる!」
ミナミモトは舌打ちしながら光の刃を大量に放つ。
このスピードと密度では、避ける事が難しかった。
それでも、ネクとビイトは必死にミナミモトの攻撃を避け続けた。
しかし。
攻撃を避け続けていたネクとビイトは疲労が溜まり無数の光の刃を避ける事ができなかった。
ネクとビイトは覚悟を決めて、目を閉じた。
そして――ネクとビイトの身体を、無数の光の刃が貫いた。
ネクとビイトは、叫び声を上げながら倒れた。
二人が戦闘不能になったのを見たミナミモトは、ニヤリと口角を上げた。
「くっ……まじかよ……こいつ、
「俺達だと、歯が立たない……」
禁断化したミナミモトは予想以上に強く、ネクとビイトはなすすべなく敗れた。
二人の身体は、ボロボロになっていて、今は立ち上がる事すらできなかった。
「よぉし……フジサンロクニオームナクってな。
さぁて……調整は終わりだ……。コンポーザー……今度こそ……」
「待ちやがれ!」
ミナミモトは戦闘不能の二人を見て興味をなくしたのか、√5の覚え方を呟きながら撤退した。
ネクとビイトは、何とか命拾いするのだった。
数分後、二人の傷は何とか癒えたが、ミナミモトを取り逃がしてしまった。
「おい! 早く追いかけるぞ。奴に先を越される!」
「大丈夫だ。奴はコンポーザーの居場所を知らないはずだ」
ミナミモトはワイルドキャットを襲った時「誰もいなかった」と言った。
きっと、コンポーザーを狙っているのだろう、とネクは読んでいたので、
ミナミモトは追わなくてもいいと思った。
「それに、渋谷川のカギはこっちにある。どっちみち、先には進めないだろう」
「そ、そうか……」
壁でも破壊しない限り、ミナミモトは渋谷川には行けないはずだ。
「それにしても……アイツ……強すぎだぜ」
自分達を圧倒したミナミモトに、ビイトは悔しげな表情になる。
しかし、ネクは顎に手を当てて冷静に言った。
「でも、アイツは……『これでコンポーザーと互角に戦えそう』って言ってたぞ……。
コンポーザーはアイツと同等……もしくはそれ以上……ってことだ」
「あんなに
禁断化してコンポーザーと互角に戦える、つまり素の能力はコンポーザーの方が上らしい。
ビイトは死神とコンポーザーの強さを、改めて思い知るのだった。
「俺達、勝てるのか……」
「だったらどうするんだ。あきらめるのか?」
「んなわけねぇだろ! ……行く……」
コンポーザーに殴り込もうとしたビイトだったが、
今までの戦いとネクによって少し迷いが生じた。
だが、すぐに首を振ってもう一度身構えた。
「俺は行くぜ!! うぉぉぉぉぉ!!」
そう言って、ビイトはスケボーに乗った。
渋谷川、コンポーザー、羽狛早苗の行動――ネクはもう、覚悟を決めるしかない。
彼は果たして、渋谷を救う事ができるだろうか。