すばらしきこのせかい Shibuya Survival   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

ネクとビイトはゲームの六日目に目覚め、ゲームマスターのコニシを探す。
二人は羽狛の店に行くが、店は荒らされていた。
禁断化したミナミモトと戦い敗れるものの、ミナミモトは撤退し、二人は命拾いする。
ネクとビイトは渋谷川に行く事を決意する。
果たして彼らは、おかしくなった渋谷を救う事ができるだろうか。


66 ラストゲーム

 ネクの最後の死神のゲームは、いよいよ最終日を迎えた――

 

「ここは……」

 ネクとビイトはスクランブル交差点で目覚める。

 禁断化したミナミモトに敗れてしまい、そこから一日経過してしまったらしい。

「おい! おまえ! 手が!」

 ネクがビイトの手をよく見ると、透けていた。

 コニシの言う通り、ビイトの命が残り僅かになっている事の証明だった。

「く、くそっ! こんなの気合いでなんとかしてやる! 俺はまだ消えるわけにはいかねえ!!

 俺はライムを助け出すんだ! それまではぜってえ消えねぇぞ!」

 ビイトは何としてでも、消滅する前に目的を果たそうとしていた。

「おい、ネク……俺には……マジで時間がねえ……」

「分かってる。早く渋谷川に行こう」

 渋谷川に、コニシが待っているかもしれない。

 彼女を捕まえて倒せばミッションはクリアとなる。

「ああ、今日で全ての決着をつける!!」

 ネクとビイトはぐっと拳を握り締める。

 ビイトの手に触れる事はできなくなっていたが、確実にその闘志だけはネクは感じ取れていた。

 

「待ってろ鉄仮……なっ!?」

 ビイトが渋谷川に行こうとすると、壁が何者かに破壊されていた。

 きっとミナミモトが破壊したのだろう。

「アイツもコンポーザーの居場所を知ってやがったんだ。まずいぜ。先、越されちまう!」

「落ち着け。まずはゲームマスターが先だ。ライムを取り返してからじゃないと……」

 ゲームマスターを倒さなければ、ビイトが消滅してしまう。

 まずはそれを優先するとネクは言った。

「分かってる! 鉄仮面だ……鉄仮面を捜すぞ!」

 そう言って、ビイトはスケボーに乗っていった。

 渋谷川はヨシュアが行きたがっていた場所だった。

 彼と死神のゲームをした時は結局行けなかったが、この先にコンポーザーがいるはずだ。

 コンポーザーとは、誰なのだろうか。

「ほら! 早く行くぞ!!」

「ああ」

 考え事をしていたネクにビイトが大声を出す。

 ネクは頷いて渋谷川――罪深きものの道に向かうといきなり携帯電話が鳴った。

「なんだ? メールか!?」

 携帯電話に届いたメールを確認すると、ヒントらしき文章が書かれていた。

 

 虚西は影と幻覚を使う 目に見えるものは全て偽りだ

 虚西は常に白い闇に身を隠して戦っている

 まずは禁断ノイズを混沌の中心に投げ込め

 彼女の本当の居場所を捜し出すんだ

 そこから君達の本当の戦いが始まるだろう

 追伸 影に気をつけろ

 

「影……やっぱりゲームマスターが使うのか? なんだ、このメール……」

「鉄仮面からか!?」

「親切に自分の技を教えるヤツはいないだろ」

「そうだよな……じゃあ……誰からだ?」

「分からない……」

 二人称に「君」を使う人物は何人かいるが、ネクとビイトが知っている人物はいない。

 読者ならきっと知っているだろうが……。

「とにかく、先に進もうぜ」

「そうだな」

 

 罪深きものの道は、ゴミの山がいくつかあった。

 たくさんの円盤が、塔のように積まれている。

「これが……罪なのか……?」

「分からねぇ……」

 続いてネクとビイトは境界の川に足を踏み入れる。

 そこにも、たくさんの円盤が積まれていた。

 これが人の犯した罪ならば、ネクは手を合わせるしかないという。

 奥に進んでみると、ミナミモトがイライラしながら待っていた。

「ゼタ(おせ)ぇんだよ。待ちくたびれたぜ」

「ちっ! 禁断ヤローか!!」

「くそっ……時間がないのに……」

「どけ! おめぇに用はねぇ!」

 また襲い掛かるのかとネクとビイトは身構える。

 しかし、ミナミモトに戦意は見られなかった。

「ヒトヨヒトヨニヒトミゴロってね……。

 この先は進めねぇ。俺にも壊せねぇ結界がある。氷の参謀、鉄仮面の仕業だ」

 鉄仮面――虚西充妃が張った結界は、ミナミモトでも破壊できないという。

 つまり、この先にネクとビイトは進めないのか。

「鉄仮面だって!?」

「ちくしょう!! この先に鉄仮面がいるのか。

 くっ……やっぱり……いちばん安全な所に隠れてやがったか!」

「ヘクトパスカルが!」

 ビイトは強く拳を握り締めるが、ミナミモトはビイトに叫んで首を横に振る。

「この先にはいねぇよ」

「なに!? じゃあ、どこにいるんだ!!」

「おまえらってやっぱゼタマヌケ。気づかなかったか? ずっと一緒にいて」

 ミナミモトが言う「ずっと一緒」とは、何の事か、ネク達には分からなかった。

 その時……。

 

「ずっと一緒にいたのです」

 ネクとビイトの背後から女性の声が聞こえてきた。

 足の影がゆっくりと動き、その影がみるみるうちに金髪の女性の姿へと変わっていった。

 

「う、うしろ!?」

「おめぇは!? 俺の影に隠れてやがったのか!?」

 そう、本物の虚西充妃は、文字通りビイトの「影」に隠れていたのだ。

 手がかりが見つからなかったのはそのためだった。

「こんな形で出てくることになるのは想定外でした。

 昨日であなたは消滅する予想だったのですが……。それに、南師さん……あなたもです」

 眼鏡の奥から見える鋭い目で、コニシはミナミモトを睨みつけた。

「へっ! こんな所に邪魔な結界を作ったおまえのせいだろ」

「想定外の出来事が起こったとはいえ……私の計画は全て順調……のようですね。

 あなたのおかげで想定以上のいいデータがとれました」

 微笑みを浮かべるコニシだが、その目は相変わらず、全く笑っていない。

 ネクとビイトを嘲る彼女を見て、ビイトは彼女に拳を振るおうとした。

「おい! 鉄仮面!! ライムを返せ!!」

「ライムを返せ!!」

 コニシはビイトの発言を鏡のように返す。

「はっ!? なっなんだよ、マネすんなよ」

「いいデータが取れたと言ったでしょう? もうあなたの行動を読み違えることはありません」

「おい! そんなことはどうでもいい、さっさとここを開けろ。

 さもなきゃ渋谷川のヘドロにしてやる」

 ミナミモトが結界を開けるようにコニシに言った。

 コニシは眼鏡を直すと、冷たい表情で歩み出る。

「いいでしょう、結界を解除します。ただし……」

「なんだ? 何たくらんでやがる?」

「あなたがコンポーザーになったら……私を指揮者に任命すること。これが条件です」

「ヘッ! 寝返ったか?」

「私の分析では、渋谷は終止符に向かって動き始めています。

 近いうちに大きな変革が起きるでしょう。

 そして、この混乱を生き抜く確率が最も高いのは……独立精神の高いあなたです」

「ヒトナミニオゴレヤってね。情も迷いも全てゴミ。

 あんたも同じ考えみてぇだな、ゼタ気に入ったぜ!」

 ミナミモトは√3の覚え方を口ずさみ、コニシの性格を高く評価した。

 結局のところコニシは自分だけを大事にしていて、良い権力者がいればすぐにそちらに着く。

 冷酷非情、己の保身が第一……まさしく、付き合いたくない人物と言えるだろう。

「いいだろう! 取引成立だ」

「では結界を解除します」

 そう言って、コニシは結界を解除した。

 そして、ミナミモトは高らかにネクとビイトに告げた。

 

「UGにいる全てのロクデナシどもに告ぐ。新たなるコンポーザーは俺だ!!」

 そう言ってミナミモトは渋谷川の奥に進んだ。

 渋谷のコンポーザーを目指すようになった彼は、さらに高みへ進む事になるだろう。

 

「待てっ! 行かせるか!」

「お待ちなさい」

 ミナミモトを追いかけようとしたビイトを、コニシは冷たい表情で制止する。

「あなたがたはここから先には進ませません」

「おまえもコンポーザーを裏切るのか!?」

「裏切る? 私は統治者に従属するだけです。

 その統治者が誰であるかはたいした問題ではありません」

「何だって……」

 コニシの本当の性格を知り、ネクは少し愕然する。

 といっても、彼女の性格自体は、大体は知っているのだが。

「コンポーザーなど誰でもよいのです。たとえ南師さんが謀反に失敗したとしても、

 コンポーザーを守護するために指揮者は相当の深手を負うでしょう……。

 それを私が仕留めるのは実にたやすい」

「同士うちさせる気か……」

「いずれにせよ、指揮者になるのはこの私です」

「コイツ……」

 どこまでも利己的なコニシに、ネクの中から怒りがにじみ出た。

「コンポーザーが開放バッジを義務付けた時には、すでにUGの変化は始まっていたのです」

「渋谷の異変はやっぱりコンポーザーの仕業……」

「コンポーザーの真意など想像に及びません。けれども、私はこの混乱を生きのびます」

 そう言って、コニシはレッドスカルバッジを懐から取り出し、投げ捨てた。

 やはり、渋谷の異変はこのバッジが原因だった。

「開放バッジ……このニセモノをつけたら最後……。

 それに、私はこのバッジさえあれば、あなたがたにたやすく勝てます」

 そう言って、コニシはネズミが描かれたバッジを懐から取り出した。

 間違いなく、ライムがバッジになったものだ。

「くそっ!」

「へっ! それはどうかな!」

「悪あがきですか? 見苦しいですよ。私の分析に誤りなど……」

 ここで、ビイトはコニシの言葉に気づいた。

 長々と話しているせいで見落としがちだったが、ビイトの勘は、いざという時は鋭かった。

「やいやい!

 そもそもてめぇ、想定外とか想定内とか言ってる時点で分析しきれてねーじゃねーか!」

「……」

「それと、いちばん肝心なこと見落としてるぜ」

「なんですって?」

「コンポーザーになるのはこの俺だ!」

 ビイトはコンポーザーになってライムを取り戻したかった。

 そのために彼女を倒すのが目的なのだ。

「俺はおめぇみてぇなヤツは絶対部下にしねぇ! ざまあみろ!!」

「私があなたの部下? フフフ……ハハハハハハ」

 コニシはひとしきり笑うが、流石に頭にきてしまったようだ。

 そして、コニシは強く、きつく、拳を握る。

 その表情に微笑みは全く見られず、完全にキレてしまった事の証明だ。

「いまいましいクソザル……私にはアンタを分析するのはたしかに無理だわ」

「へへ、まぁな!」

「おい、おまえ……今、バカにされてたんだぞ」

「なにー!?」

「アンタさえいなければ渋谷の変化にもっと早く気づけたはず」

「頭ばっか使うから簡単な事にも気づかねぇんだ! ハートで感じろよ! ハートでな!」

 今のコニシはビイトへの怒りでいっぱいだった。

 ただ、ビイトを怒りのままに倒したい……それが、コニシの中に宿る気持ちだった。

「サルのザレゴトなんてたくさんよ!! 攪乱分子は跡形もなく消し去ってやる!」

 そう言って、コニシは精神を集中した。

 

「おい……ネク……鉄仮面は俺狙いだ。だから俺がヤツのスキを作る。

 そのスキにおめぇがライムを拾ってくれ!

 どのみち、死神じゃない俺にはライムを呼びだせねぇ。

 けど……おめぇなら……。……で……もし俺が消えちまったら……そん時は……」

「おことわりだ」

 ビイトは自分を犠牲に使用としていたが、ネクは首を横に振った。

 これ以上、誰かが消えるのは耐えられないからだ。

「ライムを生きかえらせるのはお前しかいないだろ! 俺がライムを拾い上げる。

 だけど、その次は……お前の役目だ」

「へへ、たしかにそうだな」

 ライムという家族を本当に助けられるのは、この場ではビイトしかいなかった。

 だから、ネクはビイトにライム救出を託したのだ。

「それじゃ、頼んだぜ! いくぞ!」

 ネクとビイトはコニシへの戦いに臨んだ。

 コニシが眼鏡を外すと、その奥の目が緑色に光る。

 背中に大きな禍々しい黒い翼が現れると、さらに背に黄色い翼が生え、虎の姿になった。

 虎に翼、という言葉がまさしく似合う姿になった。

 

「絶対に勝つぞ!」

「おうっ! 任せとけ、ネク!!」

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