すばらしきこのせかい Shibuya Survival   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

死神のゲームは最終日を迎える。
しかし、ビイトの命は尽きかけており、ビイトは何としてでも目的を達成しようとする。
ネクとビイトは渋谷川に向かうが、道中でコンポーザーになりたい南師と出会う。
当の虚西はビイトの影に隠れており、彼女は自分が指揮者になる事を条件に結界を解除する。
ネクとビイトはゲームマスター・虚西との戦いに挑むのだった。


67 虚西充妃

 ゲームマスター、氷の参謀・虚西充妃との戦いが始まった。

 

「うふふふ……」

「どうなってんだよ、攻撃が当たらねぇ!」

「常に白い闇に身を隠す……禁断ノイズを混沌の中心に投げ込め……」

 透明になっているコニシには、ビイトの攻撃が通じなかった。

 彼女の近くには白い渦があり、周囲にはたくさんのノイズがうろついていた。

「禁断ノイズ?」

 ビイトはネクのその呟きを聞いた。

 禁断ノイズは確か、体が黒いノイズだったはずだ。

「分かったぞ! 普通のノイズだけを倒せばいいんだ!」

 ビイトはスケボーに乗って、禁断ノイズを巻き込まないように攻撃した。

 障害物はどんどん渦の中に引き込まれていく。

 禁断ノイズが渦の中に入ると、急にコニシの動きが止まり、彼女の姿がはっきりと現れた。

「鉄仮面の姿が……!」

「よし、いくぞ!」

「あぁぁっ!」

 ネクは物体を動かすサイキックで、コニシに車をぶつける。

 その間に、ビイトは普通のノイズを攻撃し、コニシの姿が見えるようにする。

「フン……サルめ……」

 コニシはビイトに悪態をつきながら、黄色い翼をはばたかせる。

「ビイトを馬鹿にする奴は許さない!」

 ネクはビイトを馬鹿にしたコニシに怒りを覚え、彼女に攻撃しようとするが再び透明になった。

「どうしたの? 私を許さないんじゃなかった?」

「くそっ! ノイズは俺がやるから、おめぇはあいつをやっつけろ!」

「ああ!」

 ネクはビイトにノイズを任せて、コニシに狙いを定めた。

 ビイトはスケボーで普通のノイズだけを倒し、禁断ノイズを渦の中に入れていく。

「うあっ!」

 姿を現したコニシに、ネクが連続で攻撃する。

 何度も攻撃をし続けコニシの体力が減っていくと、突然、渋谷を俯瞰する風景になった。

 

「な、なんだこれは……?」

「さようなら」

 そう言うコニシの姿は、二体に分身していた。

 一方は真っ黒で、もう一方は黄色い。

「ネク、本物は黄色い方だ!」

「ああ!」

 ビイトの助言でネクは黄色いコニシに氷を放った。

「うぅっ! 忌々しい……」

 攻撃を食らったコニシは苦々しい表情になり、すぐに自身の分身と本体を切り替える。

 ネクは黄色いコニシを腕で薙ぎ払って攻撃するが、黒い分身がネクに突っ込んでいく。

「危ねぇ!」

 ネクに攻撃が当たる直前でビイトがネクを庇い、スケボーで反撃した後、ネクも攻撃する。

 コニシは分身と本体を切り替えながら、ネクとビイトを翻弄していく。

「あなたもサルも消えればいいわ」

「俺はまだ、消えるつもりはない!」

「コンポーザーになるのは俺だからな!」

 コニシの分身をかわしながら、ネクは黄色いコニシを攻撃する。

 ビイトもネクに続いてスケボーで攻撃していった。

 その後も黒い分身の攻撃と本体と分身の変化は続いていったが、ネクはある事に気づいた。

「もしかしてこいつ、横にしか攻撃しないんじゃ?」

「多分、そうかもな。だったらまた、見切ったぜ!」

 ネクとビイトはコニシの攻撃が届かない上に行き、彼女を上から攻撃していった。

「鉄仮面でも分からねぇのか? 俺達には負けられない理由があるんだぜ!」

「くっ、忌々しいサルめ……」

 ネクにもビイトにも負けられない理由があった。

 その思いが、二人を奮い立たせている事に、コニシはますます苛立った。

「ならば、次はどうかしら?」

 コニシはそう言って、ゆっくりと目を閉じた。

 

 また風景が変わり、今度は真っ白で何も見えない。

 見えるのは、後ろに見える「影」だけになった。

 コニシはネクに手を伸ばすと、彼から全てのバッジを奪った。

「バッジが……!」

「取り返せるかしら? うふふふ……」

「今度も黄色い方を攻撃すればいいのか? でも、バッジがないし……」

 そう、今のネクにはバッジがない。

 そのため、コニシを攻撃する手段がなかった。

 そんな彼のところに、ビイトがスケボーに乗ってやってきた。

「おいおい、どうしたんだよ、ネク」

「黄色い方に攻撃が届かないんだ」

「だったら黒い方をやればいいだけだろ?」

 そう言って、ビイトはスケボーで黒いコニシを攻撃したが、彼女は応える様子がない。

「な、何!?」

「うふふ……サルには分からないのね。この影が」

「影……そっか!」

 よく見ると、ネク達の足元には細長い影があり、それがくるくると回転しているように見える。

 もしかすると、コニシの影を追いかければ、彼女にダメージを与えられるかもしれない。

「死神あそび、影踏み鬼……なんてな」

「うあぁぁぁっ!」

 ネクとビイトは自身の影を踏まれないように、コニシの影を踏みつける。

 攻撃は命中したらしく、彼女の顔は苦痛に歪んだ。

「おし、そのまま一気に攻めるぞ!」

「ああ!」

 ネクとビイトは繰り返しコニシの影を踏み続ける。

 コニシの顔はみるみるうちに苦痛に歪んでいき、ついに彼女の手からバッジが離れた。

 

「よし、バッジは取り戻したぞ!」

 ネクはようやくコニシからバッジを取り返した。

 すると、彼の目の前に三体の黒いコニシと、一体の黄色いコニシが現れた。

 しかし黄色いコニシはすぐにネクの前から消える。

 

「……って、あれ……? どうすればいいんだ……? あいつが本体のはずなのに……ん……?」

 ネクがバッジを確認すると、いつの間にかネズミ型バッジが入っていた。

 恐らく、ビイトがよこしたライムのバッジが、自身のバッジの代わりに入ったのだろう。

 今はこのバッジだけが、彼を導いてくれるのだ。

「ライムか……? よし、力を貸してくれ」

「うぐっ!」

 ネクがライムのバッジを使うと、羽が生えたネズミが現れ、いきなりコニシの姿が現れた。

「おしっ、後は俺に任せろ!」

 どうやらライムがコニシの姿を捉えたらしい。

 ビイトはスケボーに乗りコニシに突っ込んでいく。

 ネクはコニシの分身攻撃をかわしながら、ライムのバッジでビイトを援護する。

「この戦いには、ライムもかかっているんだ」

「だから、おめぇは絶対に倒さなきゃいけねぇ」

 ライムを人質に取ったコニシを、ネクとビイトは許すわけにはいかなかった。

 だから、ネクとビイトは、コニシに対して全力で戦っているのだ。

 逆にコニシは闘志むき出しの二人を見て、さらに不快感に苛まれて歯を食いしばる。

「どこまでも忌々しいクソザル。そのクソザルと共にいる攪乱分子。全て消し去ってやる!!」

 そう言って再びコニシは姿を消し、三体の分身に攻撃を命じた。

 既にコニシには余裕がなく、ただただネクとビイトを消そうとしていた。

 その勢いに繊細さはなく、非常に荒々しく、今のネクとビイトでは簡単に見切れた。

「ライム!」

 ネクがライムのバッジを掲げると、羽が生えたネズミがコニシに突っ込んだ。

 瀕死のコニシの姿が現れると、ビイトは頷く。

 この一撃で、とどめを刺すために。

 

「バッジにされたライムの悲しみ……思い知れ!」

 そう言って、ビイトはスケボーに乗り、光の速さでコニシに突っ込んでいった。

 その速度から繰り出される破壊力のある一撃は、今のコニシには見切れなかった。

「そんな……馬鹿な……!」

 コニシの身体は、黒い光に包まれ……気が付くと、元の姿に戻っていた。

 そして、ネクの周りには、たくさんのバッジが散らばっていた。

 

「ありがとう、ライム」

 ネクがバッジにそう言うと、心なしか、バッジが喜んでいる気がした。

 

「なぜ……。私の分析に誤りなどないはず……」

 しばらくして、瀕死のコニシがゆっくりと立ち上がる。

 自分の分析通りなら、簡単にネクとビイトを倒せるはずだった。

 だが、結果はこの通りだった。

 策と分析がネクとビイトに通じず、コニシは悔しくてたまらなかった。

「残念だったな。お前が負けた理由は、俺達の想いに真っ向からぶつからなかったからだ」

 しかし、彼女はネクとビイトが抱く想いを認識していなかった。

 ネクは生き残って全てを終わらせるため、ビイトは妹のためにコンポーザーになるため。

 それは時に、想像以上の力を発揮する事があり、そこに分析などの論理は含まれない。

 ネクの成長とパートナーの想いによって、コニシの策略は打ち破られたのだ。

「まさか、あなたも私の予想を超えるとは……。

 死神でないあなたが、なぜノイズを召喚できるの!?」

「……知るか!」

 ネクとしてはただ、隠れたコニシを見つけるためにバッジを使っただけだった。

 なので当然、ネクには分からなかった。

「それに、あれはノイズじゃない。俺達の仲間……ライムだ!」

 最初は他人との関わりを拒んでいたネクだったが、

 今では全てを大切な存在だと思うようになった。

 ビイトも、ライムも、シキも、ヨシュアも、そして他の参加者も、彼にとっては仲間。

 そんな大切な存在を侮辱されては、怒りを隠せないのは当然だろう。

「くっ……やはり一番の敗因は、あのクソザル……。あいつさえ消滅していれば……」

 コニシは最後まで、ビイトに悪態をついていた。

 予測できない行動をするビイトは、コニシにとって気に食わない存在だったのだ。

「ビイトをそうカンタンに予想できるわけないだろ。

 だって、アイツは……そもそも予測すらできない奴だからな」

 ネクもビイトの行動を理解しての上で、コニシにそう言ったのだ。

 彼の後ろにいたビイトは、ネクが持っていたバッジを握り締めて、涙を流しながらこう言った。

「ライム……ライム……ライム! ごめんな……兄ちゃんが悪かった、もう離さねぇぞ!」

 バッジという形だが、ようやく再会した兄妹。

 ビイトはライムのために死神になり、ライムのためにネクを消し去ろうとした。

 それでも果たせなかった願いだったが、コニシを倒し、ついにその願いが叶ったのだ。

「もうちょっと待ってろよ。すぐに生きかえらせてやるからな」

 コンポーザーになり、ライムを復活させる。

 ビイトは改めて、そう決意するのだった。

 

「フフフ。感動の再会ってわけね……」

 しかし、コニシは瀕死ながらも、ビイトをなおも鋭い目で睨みつけていた。

「でも……兄妹の絆……本当にホンモノかしら? その絆ね……あなたのエントリー料よ……」

「どういうことだ!?」

「妹の兄の記憶は、あなたのエントリー料だったってことよ……」

 しつこいようだが、参加者は自分の大切なものをエントリー料としてゲームに参加している。

 ビイトの本当のエントリー料は「妹の兄の記憶」。

 最初に出会った時、ライムがビイトを実の兄だと認識しなかったのはそのせいだったのだ。

「妹のエントリー料は別のもの……。

 つまり……妹は兄のことなんてなんとも思ってなかったのよ……」

「えっ……」

 ライムはビイトを何も思っていない、つまり好きでも嫌いでもない。

 コニシからそんな事実を告げられたビイトは、どういう事なんだ、と怪訝な表情になる。

「フフフ……あなたのその顔……私の予想……ど……おり……」

 コニシはそう言い残した後、ネクとビイトの目の前で消滅した。

 

「ライムの記憶が俺のエントリー料? じゃあ……ライムのエントリー料は……」

 この瞬間、ネクはライムのエントリー料を知った。

 シキと共に死神のゲームに参加した時、

 ライムが「夢が分からない」と言っていたのは、そのためだったらしい。

「って、今はそれどころじゃねぇ! 時間がねぇ! 先に進むぞ」

「ああ、そうだな」

 先に進もうとした時、ネクの携帯電話にメールが届いた。

「なんだ!? メールか?」

「誰からだ?」

 メールには、コンポーザーの部屋で待っている、とだけ書かれてあった。

 コンポーザーという言葉を見たビイトが汗をかく。

「おい……これは……」

 いよいよコンポーザーの正体が明らかになろうとしていた。

 コンポーザーの正体はハネコマだろうか、それとも別の誰かだろうか。

 ネクはその人物がコンポーザーだとは思いたくなかったので、俯いていた。

 そんな彼の肩に、ビイトが手を置いた。

 たとえ誰であろうと、コンポーザーを倒すのがビイトの今の目的だからだ。

「おい、ネク! 先に進むぞ」

「……ああ」

 ネクはそう言って、ビイトと共に歩いて行った。

 

 この先に死神の指揮者(トップ)とコンポーザーが待ち受けている。

 彼らを倒せば、ネクの死神のゲームが終わる。

 その先に何が待ち受けているのか、是非見守ってほしい。

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