すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
ネクとビイトはゲームマスターである氷の参謀・虚西充妃と戦った。
影に隠れる彼女に通常の攻撃が通じなかったが、禁断ノイズを利用して虚西の防御を破る。
追い詰められた虚西は分身し、ネクとビイトは彼女の影を踏んで攻撃する。
そしてネクとビイトはライムのバッジを使い、虚西を倒すのだった。
「この先にコンポーザーがいるのか」
ビイトと共にコニシを倒したネクは、慎重に、境界の川の奥へと歩いていった。
「ライム……待ってろ……」
ビイトはネズミ型バッジを見ながら呟いている。
死神のトップを倒せば、きっとライムは元に戻る。
そんな思いを抱きながら、ビイトはネクと共に、白い橋を渡っていった。
「ここを越えたら、もう戻れない気がする……」
「ぐずぐずしてらんねぇ。覚悟はいいか?」
「……」
ネクは、まだ奥で踏みとどまっていた。
まだやり残した事があるかもしれないからだ。
「何、モタモタしてんだよ」
「シキ……ヨシュア……ビイト……ライム……羽狛さん……ソウタ……ナオ……シュウト……」
ネクは渋谷で出会った人々の名前を呟く。
最初のパートナーとして出会ったシキ、次のパートナーになったヨシュア、
最後のパートナーのビイト、自分を支えてくれたたくさんの参加者。
「狩谷……八代……東沢……南師……虚西……」
さらに、今まで戦った死神の名前も呟く。
参加者にとっては敵だが、それでもネクは決して忘れたくない存在だ。
「おいおい、どうしたんだよ。ネクが敵の名前を覚えるなんて」
「敵であっても、俺の中では印象に残った。奴らもきっと、思いを持っていたんだろう。
だから、俺はその思いを継ぎながら前に進む」
「……ネク……成長したじゃねぇか」
ビイトがネクの成長を喜んでいる。
まるで、進歩がなかった自分と、比べてしまうかのように。
「忘れたくない。逃げたくない。だから……俺は、コンポーザーを止める」
多くの出会いと別れを経験したネクの決意は固くなった。
大切なものをなくしてから、それがより一層大切だと分かった。
だから、なくした大切なものを取り戻すために、彼は死神のゲームに勝とうとしていた。
「パートナーを信頼しろ、だろ?
俺もおめぇのパートナーとして、おめぇと一緒にこのゲームを乗り切るぜ」
だが、それは決してネク一人だけではできない。
パートナーがいなければ、この過酷な死神のゲームには勝てない。
だから、ビイトはネクのパートナーになり、ネクを励ましてやろうと思ったのだ。
「ありがとう、ビイト。おまえがいなかったら、俺はダメだった」
ネクはそう言って、ビイトの手に自分の手を伸ばす。
彼が一緒にこのゲームに参加してくれたから、
ネクは自分を見失う事なく、ここまで生き残る事ができたのだ。
その彼には、感謝しきれそうにもしきれない。
それでも感謝したいという思いから、ネクはビイトにこう言った。
「ビイト、これからも、俺と一緒に渋谷を“生き抜いて”くれるか?」
「もちろんだぜ、ネク!」
ビイトは満面の笑みを浮かべて、ネクの手を握り返した。
今ここに、男の友情が成立したのだった。
こうしてネクとビイトは、存在しないものの道を歩いて行った。
ここには、自分達以外は誰もいないはずだった。
「待て!」
「どうした?」
しかし、ネクが何もないはずの道に、何かがある事に気づいた。
「後ろから何か来てる……」
ネクは背後に、何者かの気配を感じた。
コニシは既に倒したのでもう彼女ではないと思われるが、念のためにネクとビイトは身構えた。
「うぅ~。ここ、どこ……。暗いし……怖いし……っていうかクサイし……」
すると、少女の呻き声が聞こえた。
ゴミだらけの渋谷川の中なので臭いのは当然だがその少女はネクとビイトには見覚えがあった。
「シキ!?」
「わっ!?」
そう、最初のゲームで蘇生し、
二回目のゲームのエントリー料になったはずの……美咲四季である。
エントリー料は持ち越しとなったため、シキにはもう会えないはずだったが、
思わぬ再会にネクもシキも驚きを隠せない。
「ネク? それに、ビイトも!?」
「どうしてシキがこんなところに……」
ネクが事情を話そうとすると、シキが首を振った。
ここに来た覚えは、彼女にはないからだ。
「気づいたら、ここにひとりでいたんだけど……」
「えっとぉ……あれじゃねーか? 鉄仮面を倒してゲームクリアしたからじゃねーか?」
あまりに不可解だったため、ネクは唸った。
ゲームには勝ったはずだが、何故かシキは蘇生しなかったらしい。
最初のゲームも二回目のゲームもなかった事になったのかもしれない。
なので、再会はお互いに喜べなかった。
「って……ここってどこ? みんな生きかえれたの!?」
「いや、違う。そうじゃない。ここは渋谷川だ……UGの」
「UG!? どうして!? 私……生きかえったんじゃないの!?」
蘇生したはずなのに、またUGに現れた事で、シキはまだ混乱していた。
「……俺のせいなんだ。俺のエントリー料にシキが……」
そして、ネクは俯きながらシキにこう言った。
「……ごめん」
それは、たった一言の謝罪だった。
最も大切に思っているがために、
エントリー料にされてしまったシキに、ネクはただ謝罪するしかなかった。
「え……私がネクの……エントリー料? ってことは……え!? なんで!?
うそっ!? それって……ちょ、ヤダ……なんかテレるんだけど」
エントリー料の意味を分かっているシキは、ネクの謝罪の言葉を聞いて逆に驚いた。
つまり、ネクはシキを……おっと、ここから先は読者の想像に任せよう。
「っていうか……ネク……キャラちがくない!?」
「あれからもう2週間経ってるんだ。
いろいろ……あってさ……シキが消えてからほんとにいろいろ」
シキはネクの成長を直接見ていなかったためネクが他人を大事に思うようになった事に戸惑う。
それに対し、ネクは穏やかな口調でそう答えた。
「ええっと……あぁ、ホラ……。こうして会えたってコトは、ネクが勝ったってことでしょ?
だったら一緒に生きかえれるんだよね?」
「そうもいかないみたいだ」
シキの言葉に、ネクは首を横に振った。
「なんで!? どうして!?」
「ゲームマスターは倒した。でも、あの白い部屋に呼ばれない」
「俺ら、ルール違反しまくったからな」
「予想はしてたけど、ゲームは無効になってるんだろう」
ネク達は数々のルール違反をしたため、ペナルティを受けてしまった。
その事をシキに話すと、シキの顔が少し青くなる。
「ゲームが無効!? じゃあ私達、生きかえれないの?」
「方法はあるぜ。俺が新しいコンポーザーになる!」
「どうやって?」
「今のコンポーザーをぶっ倒すんだ」
「ふ~ん、そっか……」
コンポーザーを倒す、というビイトの言葉に、シキは大して希望を持たなかった。
「そっかって……驚かないのか?」
「ふたりとも、すっごくまじめな顔してるから。方法って、もうそれしかないんでしょ……」
ある幻想世界の賢者は、こんな言葉を言った。
あらゆる方法を考えた後、それしかやむを得ないと考える事は、
偽りの希望に縋る者には愚かに見えるが、これは賢さのなすところだと。
その思いがあったのかなかったのか、シキはネクとビイトを褒めているのだ。
「やってやる! 絶対に!!」
「うん、そうだよね。じゃあ、行こう!」
そう言って、シキとビイトは奥に向かっていった。
ネク達が蘇生するためには、コンポーザーを倒すしかないのだろうか。
絶望しようとするネクだったが、何とか踏みとどまっていた。
だがそれも、いつまで続くのだろうか。
「ネク! 行くよ」
「あっ……ああ」
ネク、ビイト、そしてシキは、存在しないものの道を歩いて行く。
「ねぇ! 何かあるよ」
シキが川で見つけたもの、それはスクラップの塔だった。
彼女は二回目のゲームの時はエントリー料になっていたので、この塔を見た事がなかった。
「あのオブジェは……」
「行ってみようぜ」
この塔を立てた人物は、たった一人しかいない。
三人が調べてみると、なんとミナミモトが車と自動販売機の下敷きになっていた。
自動販売機からはいくつか飲み物が飛び出しており激しい争いがあった事を物語る。
「きゃっ! 人が下敷きになってる!!」
「おいっ! こいつ……」
「オブジェ死神……やられてる」
どうやらミナミモトは、途中で誰かに倒されてしまったようだ。
幸い、まだ消滅していなかったので、果ててはいなかったようだが、
彼に戦う気力は残っていなかった。
「マジかよ……こいつ、ヤバイぐらい強かったんだぜ?
それがこんなにされちまってるって……」
ミナミモトを倒すほどの実力を持つ人物に、シキとビイトは身震いしてしまう。
「もしかして! グラサンか? あいつがやったのか!?」
「分からない……けど、コイツ以上の力を持った誰かだ……」
グラサン、つまり北虹寵が犯人なのか、とビイトが勘ぐっている。
残っている死神は彼しかいないが、ビイトの表情が複雑になる。
「でも……でもよ! ラッキーなんじゃねぇか!?」
「え!? どこが……」
「だってよ、こいつを倒す手間がはぶけたじゃねぇーか?」
「でも、それって……」
「まあ、細けぇことは気にすんなっ! 俺達がツイてるってことだよ!」
今のネクは死神であっても誰も忘れたくない。
ビイトはミナミモトを馬鹿にしているようで、ネクは彼に対し少しイラついていた。
シキはネクに感化されて、悲しげな表情になる。
「よしっ! 行くぞ!!」
「……これは……」
ネクは、ミナミモトが倒れている現場から、ボタンがついた黒い帽子を拾い上げた。
バイヤーが偶然見つけて入荷した帽子で、被れば計算能力がゼタ上がるという。
「……あいつの形見として、持って行こう」
そう言って、ネクは帽子を折らないように、丁寧にポケットの中にしまった。