すばらしきこのせかい Shibuya Survival   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

死神の指揮者・北虹寵との最終決戦が始まった。
ネク、シキ、ビイトは大蛇の攻撃を避けつつ反撃するが、ネクは北虹の攻撃で重傷を負う。
その時、仲間達の励ましによりネクは立ち上がり、再び戦う決意を固める。
そして、再び立ち上がったネクは北虹を倒し、ミッションをクリアするのだった。


72 すばらしきこのせかい

 こうして、全ての戦いは終わった。

 シキ、ヨシュア、ビイトは黄金龍から解放され、三人の身体には傷一つついていなかった。

 

「フフフ……僕の勝ちみたいだね」

「くそおぉぉぉ!!」

 ヨシュアは普段通りの笑みを浮かべながら、キタニジに勝利を宣告する。

「これまでか。俺は渋谷を……守れないのか!!」

 ネク達に敗れたキタニジは、どこか諦めたような態度を取る。

 彼の手には黒いタイマーが浮かんでいて、残り時間は、2分17秒を刻んでいた。

「タイマー!? なんで!? なんでアイツの手に!?」

 キタニジもミッションをしていたのかと驚くネク。

 そんな彼を尻目に、キタニジが悔しそうに呟いた。

「このままじゃ渋谷が……」

 薄れゆく意識の中、キタニジに走馬灯が走る。

 

『渋谷を……終了させる? なぜですか!? コンポーザー!!』

 死神の指揮者である彼は、コンポーザーから「渋谷終了命令」を聞いていた。

 渋谷が終わる、つまり文字通り、東京から、日本から、世界から、渋谷が消えるという意味だ。

 キタニジは絶対に渋谷を存続させたいと、コンポーザーに必死で言う。

 それに対し、コンポーザーはやれやれといった態度でこう言った。

『渋谷に見切りをつけた……ってことさ。渋谷にはもう存続させる価値がないからね。

 だから、終了させることにするよ』

『お待ちください! 渋谷にはまだ多くの可能性があります』

『でも、それに気づけないほど渋谷の人達の感覚はくもってる。

 渋谷の状態はすぐに他にも波及しちゃうからね。取り返しがつかなくなる前に手を打たないと』

 コンポーザーは渋谷の現状を憂いていた。

 人々は腐り切った渋谷を直しもせず、最早再生する気はなくなったようだ。

 渋谷を見限ったコンポーザーは渋谷ごと人々を消し去ろうとしているのだ。

 これに対し、キタニジはコンポーザーにこんな提案をした。

『では、渋谷が……現状の渋谷の人間達が、

 より渋谷にふさわしい人間へと変化すれば良いのですね』

 この渋谷を存続させるには、「腐った」渋谷の人々を変える事。

 そのためにキタニジは、死神のトップになり、この渋谷を変えようとしているのだ。

『うん。だけど、今の状態じゃ無理でしょ?』

『でしたら、俺にチャンスをください! 必ず渋谷を更生してみせます』

 キタニジは渋谷を正しくしようとするが、反対にコンポーザーは彼を呆れるような目で見た。

 そして、しばらく考えた後、コンポーザーはこう言った。

『……じゃあ、ゲームをしよう』

『ゲーム……ですか?』

『うん、ルールは単純さ。渋谷を更生できればメグミ君の勝ち。渋谷は存続だよ』

『……できなければ……?』

『もちろん、メグミ君の負け。メグミ君も渋谷も消滅ね』

 渋谷の存続を賭けたゲームを、コンポーザーはキタニジに課した。

 彼としても、心の中では渋谷を消し去る気にはなれなかった。

 だから、キタニジにゲームという形で、渋谷を守れるかどうかを試したのだ。

『自分の存在を懸けて渋谷を守れるのであれば……それは本望です。

 ……ですが、コンポーザー。あなたが相手では……』

『そこは安心していいよ。君にはハンデをあげるから。

 僕はRGに行って、メグミ君にはいっさい手を出さない。

 そのかわり、君の対戦相手を用意させてもらうよ。

 君の言う「更生した渋谷」とやらにも少し興味があるからね。

 僕は傍観させてもらうことにするよ』

『……分かりました。ゲームにエントリーします』

『じゃあ、エントリー料は徴収しとくね』

 そう言って、コンポーザーはキタニジからエントリー料を徴収した。

 ゲームを始めると同時に、キタニジの手に「30:00:00:00」と書かれたタイマーが刻まれた。

『制限時間は一ヶ月。メグミ君の健闘を期待してるよ』

 

 そして、現在の時間に移る。

 キタニジも渋谷を存続させるために、ネク達と戦った。

 彼もまた、彼なりの正義を持って、渋谷を守るゲームに挑んでいた。

 しかし、彼の望みはネクの望みと全く異なるものだった。

 全てが統一された渋谷を望むキタニジと、雑多な思考が混ざり合う渋谷を望むネク。

 お互いの望みがぶつかり合ったが、ゲームマスターや下っ端が次々と倒された以上、

 キタニジは既に一人で戦うようになった。

 それを、仲間(ともだち)と共に戦ったネクが上回った、というわけだ。

 

 キタニジに刻まれたタイマーは、残り15秒――彼がこれを覆す手段は、なかった。

「渋谷が……消える……。俺の渋谷が……終了してしまう……」

「ご苦労様、メグミ君。なかなか楽しいゲームだったよ」

「俺ができることは全てやりました。もう……悔いはありません」

 キタニジはコンポーザー――ヨシュアの姿を見て、そう呟いた。

 ゲームの勝敗より、やるべき事をやった事への、自分自身に感謝するように。

「いいアイディアだったけど、おしかったね。あともうひとひねり欲しかったかな」

「すばらしい機会をお与えくださり、ありがとうございました」

 キタニジはそう言って、ヨシュアにお辞儀した。

 そして、笑みを浮かべながら、自分を倒したネク達に振り返る。

「完全に俺の負けだ。君には俺のインプリントが効かなかったのだからな……」

「そうか……」

「な、何!?」

 キタニジが手を見ると、ネクの手にはあの参加者バッジが握られていた。

 破壊されたはずの参加者バッジが残っている事に、キタニジは最後に驚いてしまった。

「何故ふたつ持っている! 俺はひとつしか渡していない……」

(……参加者バッジが、二つ……。そういえば、あの時……)

 ネクは、初めてバッジを見た時の事を思い出す。

 ポケットに入っていたのは、炎を出すバッジ、雷を出すバッジ、弾丸を放つバッジ、

 斬撃を起こすバッジ、物を動かすバッジ、そして……。

 

「……そうか……。ネク君……次は君の番だな……」

「えっ……」

 そう言って、キタニジは消滅した――時間切れで。

 

「ヨシュア……どういうことだ……」

「まさか、あなたが……」

「この渋谷を……」

 死神のゲームは、コンポーザーのヨシュアが仕掛けたゲームだったのだ。

 その事実に、ネクも、シキも、ビイトも呆然としていた。

「そう、この二人が思った通り、全ては僕がしいたゲームだった……っていう事さ」

「何だって!? ゲーム……それっておまえ……」

「分かりやすく見せてあげるね。そうだな……彼らがちょうどいいかな」

 そう言って、ヨシュアは光を放ってシキとビイトを拘束した。

「な……なにこれ!」

「くっ……体が……動かねぇ……」

「シキ!? ビイト!?」

「フフフ……ネク君、僕なんだよ。僕がその渋谷のコンポーザーさ」

 渋谷のコンポーザーの正体は、ヨシュアだった。

 二回目のゲームで共にいた謎の少年が、渋谷を取り仕切っている人物だったなんて。

 ネクが受けた衝撃は、今まで以上に大きかった。

「……嘘……だろ……?」

「まあ、動揺するのも無理はないね。ずっと一緒に行動していたんだし。でもね、ネク君。

 目の前の真実は受けいれてもらわないとね」

 そう言って、ヨシュアはネクにこれまでの事情を話した。

 

「僕はメグミ君とゲームをしてたんだよ。この渋谷の存続をかけて、ね」

「じゃあ……俺が……俺がやっていたことは……」

「フフフ……そう、僕のお手伝い。

 本当にご苦労様、ネク君のおかげでゲームに勝つことができたよ」

 ヨシュアは微笑みながらネクに真実を話す。

 ネクは、知らず知らずのうちに渋谷のコンポーザーに手を貸していたのだ。

「そんな……俺……渋谷を……」

「このゲームで僕がしたことはたったひとつ。メグミ君の対戦相手を用意すること。

 RGからひとりだけ、ね」

「それが……俺……だっていうのか……」

 ネクはキタニジの言う通り、ヨシュアに「選ばれし者」だった。

 どちらが先に渋谷を更生できるか、という意味で。

 いや、むしろ自覚していない方が、勇者としては正解なのかもしれない。

「そのとおり、さすがはネク君、理解が早いね。僕が選んだだけのことはあるよ」

「……俺を殺したのはオブジェ死神じゃ……?」

「彼は僕を狙ってたのさ。彼は以前からコンポーザーの座を狙っていたからね」

 渋谷川でミナミモトは、コンポーザーになろうとしていた。

 ずっと前からコンポーザーを狙っていた執念に、ネクは感嘆するしかなかった。

「RGでなら僕を殺せると考えたみたいだけど……ちょっと計算が甘かったようだね。

 コンポーザーはね、死神と違ってRGでもある程度力が使えるんだよ。

 彼は目的を達成できずにUGへ逃げ帰った……でも僕、彼のことも気に入ってるよ。

 彼のおかげで一段とゲームが白熱したからね。

 でも、すこし熱くなりすぎちゃったみたいだから、彼にはさっきご退場いただいたよ。

 クライマックスには不要な存在だったからね」

「やっぱり……アイツを倒したのはお前だったのか」

「なぁんだ、気づいてたの? さすがネク君だね。

 ネク君とメグミ君の神聖なゲームが彼に邪魔されちゃいけないでしょ?

 僕がネク君を迎えに行った時も、RGまでついてきて邪魔してくれたしね」

「RGまでって……まさか!」

「フフフ……。それじゃ、僕が預かってた記憶を全部返してあげるよ」

 ヨシュアから事情を聴いてさらに驚くネクに、ヨシュアはネクに全ての記憶を返した。

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 たくさんの情報量に、ネクは頭を抱えてしまう。

 脳がパンクしそうになるも、何とかネクは自分を取り戻そうとした。

 

 そこは宇田川町裏路地。

 たくさんの壁に描かれた絵の前に、ネクはいた。

 無邪気に絵を見るネクの前に、拳銃を持ったヨシュアが走ってくる。

 二人の目が合って、ネクは立ち竦む。

 

―パン!

 

 そして銃声が鳴り、ネクはゆっくりと崩れ落ちる。

『しくじった……』

『何!?』

 ミナミモトは拳銃を構え、発砲する。

 しかし、彼が撃ったたくさんの弾は、全てヨシュアの目の前で止まった。

 弾は、カラン、カラン、と地面に落ち、ヨシュアは笑みを浮かべながら前に進む。

 ミナミモトは肩を押さえながら、その場を立ち去っていく。

 呆然としていたネクの前で、ヨシュアは彼に向けて発砲した。

 銃弾がネクの胸を貫くと、ヨシュアは不敵な笑みを浮かべながら、

 ネクの首元に参加者バッジを置いた。

 

「はぁ……はぁ……。俺を……殺したのは……」

 そう、本当にネクを撃ったのは、目の前にいるヨシュアだったのだ。

 全ての真実が分かって、ネクは混乱する。

「……せっかく、分かりあえる友達ができたと思ったのに……。

 おまえだったんだな! 俺を殺したのは!」

「フフフ……さぁ、ネク君。僕とゲームしよう」

 だが、ネクを撃ったヨシュアは平然とネクにゲームを仕掛けた。

 地面には、二丁の拳銃が置かれている。

「ダマしたな……」

「勝者がコンポーザーになるゲームだよ。勝者は渋谷を好きにできる。

 ネク君が勝ったらネク君の好きな渋谷、

 僕が勝ったら僕の好きな渋谷……って言ったら、どういうことか分かるよね?」

「おまえ……」

「ほら、ネク君。その銃を早く拾ってよ。僕とネク君で撃ちあいのゲームなんだから。

 ルールはいたってシンプルだよ。今から10数えて、カウント0で撃つ。

 ただそれだけ。簡単でしょ?」

 つまり、殺し合いをしろとでも言うのだろうか。

 楽しそうに言うヨシュアに、ネクの思いはついに頂点に達した。

「ふざけるな……」

「ふざけてなんかいないよ。人生の分岐点なんて案外こんな単純なものさ」

「……」

「ネク君……。フフフ……変な顔……羽狛さんに言われたこと、もう忘れちゃったの?」

「俺は……」

「そうそう、エントリー料はもうもらっておいたよ。それじゃ、ゲームスタート」

 ここまで来たからには、もう後戻りはできない。

 ヨシュアはネクに銃を向け、ネクは涙を流しながら動かないままだった。

 最初は信頼できなかった、しかし最後に自分を庇う活躍を見せ、そして共にキタニジを倒した。

 そんな彼を、ネクは撃てるわけがなかった。

 

 ネクは大粒の涙を流しながらも、拳銃を構える。

 だが、やはりネクにヨシュアを撃てるわけがなく、

 ネクは目を閉じて、震える手で拳銃を下ろした。

 そして、ヨシュアは拳銃を発砲し――ネクは、ばたりと倒れた。

 

「フフフ……」

 薄れゆく意識の中、ネクはあるものを見ていた。

 それは、並んで立ち、自分に向けて微笑んだ、ヨシュアとハネコマの姿だった。

 

「……今まで本当にありがとう、ネク君。僕は、この渋谷を――」

 ヨシュアの最後の言葉を聞こうとした瞬間、ネクの意識はぷつりと途絶えた。

 

 104と書かれた建物。

 人々がたくさんいる、スクランブル交差点――そこはありふれた、渋谷の光景。

 信号機のランプが赤から青になると共に、人々がスクランブル交差点を歩き出す。

 ネクは、その雑踏の中で目覚めた。

 

 しかし、人々の心の声は、聞こえなかった。

 その代わり、スピーカーから流れる放送、実演販売をしている店員、渋谷を歩き回る人々。

 それらが全て、実際にネクの耳に届いている。

 つまり、ここは――「現実の」渋谷だった。

 

「何だよ……何だよ、これ!!」

 ネクの叫び声が、スクランブル交差点に響いた。

 

 それから、一週間が経過した。

 ネクは、雑多な声が交差する渋谷の中で呟いた。

 

「いつもと同じような街並み。いつもと同じような人ごみ。

 ここは、あの時と全く変わらない渋谷。だけど、俺やっぱり、お前の事は許せない」

 ネクは、あの絵が描かれた壁の前――宇田川町裏路地にいる。

 ここは、かつて自分が過ごしていた場所だった。

 

「あの数日間の出来事。あり得ないほど辛かった」

 ネクの頭の中には、今までに体験した死神のゲームの思い出が残っていた。

 謎の赤と黒の光に消される人々、シキを手にかけようとした自分、

 ノイズからビイトを庇って消滅したライム、拳銃を持っていて自分を今まさに撃ったヨシュア、

 キタニジが変身した黄金龍に取り込まれていく仲間達。

 確かに、死神のゲームでは辛い事ばかりが起きて、ネクの心も折れそうになっていた。

 

「人を信頼する事。人に裏切られる事」

 それでもネクが折れなかったのは、

 自身が参加した三つのゲームの中で、色々な人と出会ったからだ。

 いきなりノイズをけしかけてきた死神の少女、八代卯月。

 何が起こったのか分からないまま最初のパートナーになった少女、美咲四季。

 父親のように自身を気にかけてくれた無精髭の男、羽狛早苗。

 飄々としていて余裕に溢れ、渋谷の謎も秘かに探っていた死神、狩谷拘輝。

 最初のゲームマスターとして戦った料理上手な死神、東沢洋大。

 一度は死神になりながらも改心し、最後には男の友情を築いた、尾藤大輔之丞。

 その尾藤大輔之丞の妹であるボーイッシュな少女、尾藤来夢。

 事あるごとに数学用語を口にしながらも確かな実力を持った死神の青年、南師猩。

 死神も参加者も影に隠れながら翻弄した鉄仮面の女性死神、虚西充妃。

 二度目の死神のゲームでパートナーになった渋谷のコンポーザー、桐生義弥。

 そして、渋谷を守ろうとしていた指揮者、北虹寵。

 

「俺が今まで思っていたこの街は、狭くて、息苦しい、退屈な街だった。でも、違った」

 ネクは、彼らとの出会いや交流を思い出す。

 

―ネクが何を考えているのか知りたい!

―他人とふれあうからこそ、今までとは違う自分を発見できる。

―ほんとは怖い。生きかえるのが怖いの!!

―おい、ヘッドフォン。一度しか言わねえぞ、よく聞け。……頼む、俺を……手伝ってくれ。

―ネク……初めて名前で呼んでくれたね。

―何言ってるの、ネク君は負けられないんでしょ?

 自分を諦めたら、世界を諦めるのと同じだよ。

―もう、おめぇは俺のパートナーなんかじゃねえ。俺の……俺の友達だ!

―本当の私に会っても、友達でいてくれる?

 

「みんなと出会えて、よかったと思ってる。

 今までは見えなかった何かが、見え始めたような気がするから。

 パートナーを信頼しろ――俺はお前を許さないけど、俺はお前を信じる。

 俺が今、この渋谷を歩いてるって事は、もう渋谷は、この世界は、大丈夫なんだよな」

 

 雑多な思考が飛び交う渋谷。

 人々の声が行き交う渋谷。

 これこそが、今のネクの望んだ渋谷。

 

「そうだ。俺、友達ができたんだ。

 今日は、一週間ぶりに、みんなで会う事になってる。お前も来るよな」

 

 ネクは、読者に語り掛けるような口調で言った。

 君は彼の言葉に答えてもいいし、答えなくてもいい。

 

「おーい!」

「こっちこっちー!」

 忠犬ハチ公像の前で、ネクを呼ぶ声が聞こえる。

 そこには、二人の友達――仲直りした兄妹、ビイトとライムがいた。

 

「ライム、生き返ったんだな」

「何言ってるの、ボクは元々元気だよ!」

 ネクとライムが笑顔で交流する中で、ビイトは「俺の妹に何するんだ」とネクをつねっていた。

 そのおかげで、ネクは今の光景が現実である事を知った。

 

「ネク」

「ん?」

 そんな兄妹の笑顔を見ているネクの肩を、一人の少女が叩いた。

 

「ただいま」

 ネクが振り返って顔を見ると、いつもと違う格好をした少女がいた。

 茶色のショートヘアーに丸眼鏡をかけた、地味で大人しいが裁縫が得意な少女――シキ。

 姿は違っても、彼女は目印の、あの猫のぬいぐるみを抱いていた。

 

「おかえり、シキ」

 ネクは本当のシキに向かって、微笑みながらそう言った。

 

(みんなの声が、渋谷に広がっている。俺の耳に、身体に、届いている。

 本当に……みんな、生き返ったんだな……)

 渋谷の存続を賭けたゲームが終わり、死んだネク達は元通りに蘇った。

 そして今、この渋谷の街で元気に過ごしている。

 行き交う声も、少しだけ明るくなった気がした。

 ネクは、そんな光景を見て、閉ざしていた心の扉を完全に開こうとした。

 

(今を楽しむためには、世界を広げる事。世界を広げるには、他人もよく見る事。

 他人の声も聞く事。他人と触れ合う事。

 羽狛さん、アンタの言葉の意味がやっと分かった。本当にありがとう、羽狛さん。

 世界を広げるために、今を楽しむために、俺自身が世界の中に飛び込めばいいんだ。

 だから、こんなもの――)

 そして、ネクは、自らヘッドフォンを外した。

 他人を拒絶する事は、もうしないと決めたのだ。

 

 選ばれし者、桜庭音操によって、消えようとした渋谷は救われた。

 穢れていた渋谷も、彼とその仲間のおかげで、ほんの少しだけだが良くなった。

 これから渋谷は彼ら素晴らしき人の手によって、素晴らしい街に生まれ変わっていくだろう。

 そして、素晴らしい街になった渋谷に影響され、他の街も同じように生まれ変わっていく。

 さらに良い影響が広まり、やがては世界に広がり、世界は素晴らしくなっていくのだ。

 

 素晴らしき人の手によって、この世界は作られる。

 一人一人は小さいが、たくさん集まればやがて大きくなっていく。

 そして、皆で手を手を取り合い、すばらしきこのせかいが生まれるのだ――




すばらしきこのせかいの二次創作長編
「すばらしきこのせかい Shibuya Survival」が無事完結いたしました。
私がこの小説を書くようになったきっかけは、
「たまにはオリキャラを出さない小説を書きたい」「できれば出来が良いものにしたい」
という、二つの思いがあったからでした。

一つ目は、私が書いていた二次創作長編にはたくさんのオリキャラを出していたので、
オリキャラを絶対に出さず、原作の登場人物だけで小説を書こう、と思いました。
原作には原作の良さがある、というものを、私の小説で証明したかったですしね。

二つ目は、そんなものはないだろうと思っていましたが、
ふと、私はとある雑誌に書いてあった「すばらしきこのせかい」というゲームを思い出しました。
少々マイナーでしたが、アニメ化されたと聞いて書かずにはいられないと思い、
実際にSwitch版を購入し、プレイしながらこの小説を書きました。
本編クリアはかなり遅くなりましたが、何とか終わらせる事ができました。

私の二次創作長編は負の感情から生まれる事がほとんどでした。
灯火の星二次創作長編もしかり、ぷよぷよ二次創作長編もしかり、
絶望鬼ごっこ二次創作長編もしかり。
オリキャラが生まれたのも、そういう理由があったからです。

そんな中、私はすばせかをプレイして、これならいいだろう、と思いました。
事前情報は知っていたのですが、それ以外はほぼ初見でした。
そのせいか私自身、プレイしていてここまで熱くなった事は今までありませんでした。
たくさんの伏線を終盤で見事に回収する鮮やかさ、
生き生きとしたキャラの信念、そして主人公ネクの成長。
オリキャラを出すまでもなく完成度が高い、と私が認めざるを得ないゲームでした。
前述した2つの条件に当てはまるゲームを、見事私は射止めたのです。

結果、私の中でこのゲームは印象に残りました。
今の世の中にもピッタリ当てはまっている名言がたくさんありますし、そのようにしていきたい。
ネクの成長や彼を取り巻く人々の思いなど、何もかもが混沌として、
それでいて真っ直ぐな、登場人物をしっかりと受け止めました。

というわけで、私もそれに恥じないようにこの小説をしっかり書こうと思いました。
原作にないシーンをいくつか入れたのは、原作の良さを残しつつも自分なりに書くためです。
ヨシュア編の最後におけるエレベーターの中でのネクとヨシュアの会話や、
ビイト編で橋を渡る時にネクとビイトが握手をするシーンは、自信作だと思っています。

こうしてみると、すばらしきこのせかいは少年漫画の王道だな、と私は思いました。
一度は裏切ってもまた友情を築いたり、大切なもののために頑張ったり……と。
私もこれを非常に参考にして、色々な作品に生かしたいなと思いました。
本当に、すばらしきこのせかいは私の中でとても印象に残ったゲームだと思いました。
2007年発売だというのに、まだ色あせていません。

そんなわけで、ここまで読んでくださった方々、本当に本当にありがとうございました。
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