すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
ネクとシキは渋谷駅でモヤイ像を見つけ、その周囲にノイズがいる事に気づく。
彼らはノイズを倒し、見えない壁を解除が、ミッションのタイマーはまだ消えていなかった。
ネクはハチ公像がミッションの本当の目的だると理解し、シキと共にハチ公像を探しに行く。
しかし、ネクは他人との関わりを拒否し続け、シキは彼の行動に困惑するのだった。
「……」
とある場所。
ドレッドヘアーとオッドアイを持つ、ペンダントを首にかけた大柄な青年がいた。
「あのおじょうちゃん……なかなかいいものをもってるな……」
青年はシキが持つ「何か」を見抜いていた。
見た目とは裏腹に、観察力に秀でているという事が分かる。
「無事に到着! 時間もまだ大丈夫!」
そして、ネクとシキは忠犬ハチ公像の前に着く。
ここは昨日、ネクがシキと出会い、契約してノイズを撃退したところだ。
「さぁ! ハチ公の呪いを解かなくちゃ」
「どうやって呪いを解くつもりだ……?」
「えっと……きっと……さっきみたいについてるノイズを倒す……とか?」
モヤイ像にとりついたノイズを撃退した事で、忠犬ハチ公像に行くための道が開いた。
ならば、この像にも、同じ「呪い」がかかっているはずだ。
全く計画性がないシキに対し、ネクは「足手まといで当てにならない」と思った。
確かにスキャンしても、ノイズは全く見えない。
別の呪いがかかっているのだろうか。
「スキャンしても、ノイズが見えないの? じゃあ、ハチ公は呪われてないってこと……?」
いや、これは偽物の像なのかもしれない。
残り時間でまた像を探すのは難しく、一体どんな呪いがかかっているのか、
ネクはもう一度像を調べようとした。
「ねぇ、ネクってば!」
「なんだよ!」
「ハチ公が……なんかヘン」
「ヘンってどこが?」
ネクはシキに言われ、忠犬ハチ公像をじっと見る。
おかしなところは見えないし、スキャンしてもノイズは無かった。
もちろん、言った本人も、分からなかった。
「う~ん……分からない……。でも、前にハチフェスで見た時と違う気がする……」
「近くで調べてみるか……」
ハチフェスとは、ハチ公を触って幸せになろう! というイベントの事である。
正しい触り方で正しいところを触ると、願いが叶う、と言われている。
イベントは毎年やっており、毎年、触り方と触る場所が変わるという。
もしも、間違えたら呪われてしまうとか……。
「呪いか……」
「う~ん、確かに何か違う気がするんだけど……」
「情報収集しよう」
ネクは精神を集中し、人の心をスキャンした。
すると、モヤイ像の近くにいた男が、ある言葉を呟いていた。
「……なぁ。……最近さ、ハチ公のヤツも……元気がないと思わないか?」
(コイツ……像マニアか?)
「……きっと、おまえと同じで……何か心配事があるのかもな。
……あぁ、あいつの心を……俺が“みがいて”やれたら……ピッカピカにできるのにな」
(ハチ公の心を磨く……凄い発想だな)
どうやら忠犬ハチ公像は、汚れていたらしい。
そのせいで、忠犬ハチ公像は心が荒んでいたとか。
「心を磨く……そっか、ネク! ハチ公を磨いてみようよ」
「なんでだよ……」
「そういえば、ハチ公が少し汚れてたの。
ヘンな模様みたいなのついてて、なんか呪いっぽかったもん」
ミッションを達成するには、文字通り、像を「磨く」必要があるらしい。
シキの呪いの基準はともかく、ハチ公がいつもと違うところは、
変わった模様がついていたくらいだ。
「……よし、やってみるか」
「うん!」
「……ガルル」
ネクとシキは忠犬ハチ公像を磨いた。
茶褐色だった像は、灰色に戻り、さらに青い模様が現れる。
だが、像の中から、獣の鳴き声が聞こえてきた。
「ネク、なんか言った?」
「何も言ってない」
「っていうか……磨けば磨くほど、ハチ公じゃなくなっていくような……」
「ガルルルルルル」
「いいから黙って磨けよ!」
「私、何も言ってない……」
ハチ公像を磨いていくうちに、獣の鳴き声は、さらにはっきりと聞こえてきた。
犬というより、まるで狼のような鳴き声だった。
「……ってネク、ハチ公から何か出てきた!」
すると、狼のノイズが三体、姿を現した。
像の中から聞こえてきた鳴き声の正体は、ハチ公像にとりついていたノイズだったのだ。
狼のノイズとの戦いが始まる。
ネクはショックウェイヴのバッジを使い、狼のノイズの群れに突っ込んで連続攻撃を叩き込む。
その後ろからシキが黒猫のぬいぐるみで攻撃し、さらにネクがエネルギー弾で追撃する。
黒猫のぬいぐるみはドロップキックを繰り出し、ネクがパイロキネシスのバッジで燃やす。
獣は炎を恐れるとはよく言うが、狼のノイズもこのサイキックで簡単に倒せた。
ノイズを全て撃退すると同時に、ネクとシキの手にあったタイマーが消える。
ミッションを達成したのだ。
「ネク! タイマーが消えた! クリアできたみたい!
モヤイ像とハチ公像、両方にノイズがついてたのね」
「ミッションはその両方のノイズを倒すことだったのか」
シブヤにある像は、忠犬ハチ公像だけではない。
モヤイ像もまた、ミッションの対象だったのだ。
「ねえ、ネク」
「あ?」
「さっきさ、仲間なんていらないって言ってたよね」
「あ? ああ、それが?」
「このハチ公像の謎って、解けたの私のおかげじゃない?」
「はぁ? 何言ってんだ?」
「私がハチ公の模様に気づかなかったら、このゲーム、クリアできなかったかもしれないよ」
「おまえな……」
シキは、相変わらず他人嫌いなネクと仲良くなろうとした。
自分本位な考えだったが、どうしてもネクの心を開きたかったのだ。
「おまえに頼らなくたって俺一人で謎くらい解ける」
「ふ~ん。ほんとにそうかな~? だって……」
「あ~ムカつくわ~。すんごいムカつくわ~。なによ、またアンタ達?」
相変わらずつっけんどんな態度を取るネクを、シキがからかおうとした時。
彼女の後ろから、別の女の声が聞こえてきた。
「なに!?」
「この声!? 昨日、ミッションクリアした時に聞こえた声……」
「まさか、死神!?」
この声は、ネクとシキには聞き覚えがあった。
二人にミッションを出している、その人物は――
「なに? あたしが死神で文句あんの?」
「あなたが……死神?」
肩までの長さがある赤紫の髪を持ち、コルセットを身に着けた少女。
彼女こそが、ネク達にミッションを出している「死神」の一員、
「っていうか、アンタ達が昨日消えてくれなかったおかげで、
ラーメン1杯ソンしたんだけど……」
「……は? コイツ……本当に死神なのか?」
「あら? リアクション取れないくらいビビッちゃってんの?
じゃあ、気つけにコレをあげるわ」
ヤシロは狼のノイズ二体と、ヤマアラシのノイズを召喚した。
「このノイズ、強い!」
ヤマアラシのノイズは背中を逆立てた後、無数の針を山のように落とす。
地面にたくさんの針が落ちて、当たったら傷ついていたところだ。
狼のノイズにシキの黒猫のぬいぐるみが飛び掛かり爪で引っ掻いて攻撃する。
ネクはショックウェイヴで狼のノイズを攻撃し、シキも黒猫のぬいぐるみで追撃する。
ヤマアラシのノイズはまだ後ろを向いていて、こちらを攻撃しようとする気配はない。
その間に二人は狼のノイズを全て撃退する。
「よし、狼のノイズは倒したわ!」
「後はこいつだけか!」
ネクがヤマアラシのノイズに攻撃しようとすると、ヤマアラシのノイズは背中の針を伸ばす。
針は意外に長く、ネクは少し負傷する。
「私が足止めするから、ネクはその隙に攻撃を!」
「……」
ネクはシキの言う事を半分無視して、ショックウェイヴで突っ込んでいく。
シキが黒猫のぬいぐるみを使って攻撃する間、ネクはエネルギー弾を飛ばして攻撃する。
ヤマアラシのノイズに反撃の隙を与えないために、二人は連続でノイズを攻撃していく。
すると、ノイズの身体は光に包まれ、砂嵐になって完全に消滅した。
「はぁ……はぁ……」
ネクとシキは何とかノイズを全て撃退する。
ヤシロが召喚したヤマアラシのノイズは、今までのノイズよりも格段に強かった。
実際に死神が姿を現すと、ミッションはこんなにも難しくなるのか……と二人は思った。
「あら~、なかなかヤルわね……ちょっと意外。じゃあ、も~っと楽しんでもらおうかな。
次のノイズは……強いわよ」
ヤシロは顎に手を当てて笑みを浮かべながら、二体のノイズを召喚した。
(マズイ……)
今の状態で、またノイズと戦う事はできない。
今度こそ、ネクは戦闘不能になり、消えるだろう。
消されたくなければ、ヤシロを倒すしかない。
ネクは瀕死の身体を振り絞り、立ち上がったが、ヤシロは笑みを浮かべたままだった。
「あらぁ~。もしかして、あたしと戦うっていうの? はははははは!!
アンタ、ばっかじゃないの? 勝てるわけないじゃん。
でも、いいわ……。ちょっとタイクツしてたから、相手してあげる」
ヤシロはそう言うと、召喚したノイズを倒した。
「あたしがノイズを消してビックリ……って顔ね」
「ノイズはアンタらの仲間じゃないのか?」
「きもーい!! あんなのと一緒にしないでよ!!
ノイズはただの道具。ぶっちゃけ、捨てゴマね。
アンタ達、参加者も同じだけど~。ははは!!」
ヤシロは薄笑いを浮かべ、けらけらと笑った。
はっきり言って、彼女はネクにとって目障りで、倒すべき存在だった。
だが、ノイズを召喚し、そして消した彼女に勝てるのだろうか。
(……やるしかない!)
「ダメ! ネク!! コイツに逆らっちゃダメ! 逆らったら簡単に消されちゃうよ!
……ううっ……」
ネクがヤシロに挑もうとしたその時、シキがネクを止めた。
彼女も瀕死であり、下手に挑めば消される事を判断したからだ。
「うっ……」
ネクは仕方なく、シキに言われてヤシロから身を引いた。
一方、ヤシロは残念そうな表情をしていた。
「え? なに? やめるの? え~!! つまんな~い。せっかくワクワクしてきたのにぃ~。
すんごいテンション下がるぅ~。じゃあ……あたしから行っちゃおうかな!」
「くっ!」
「ま、けどそれは無理なのよね~」
「えっ?」
ヤシロがネクを攻撃しようとしたが、すぐに引く。
「じゃあ、どうしよっかな~。そうだ! 楽しいこと思いついた!!
アンタにスペシャルボーナスゲーム!!
もしクリア出来たら死神のゲームから解放してあげちゃう!」
ヤシロは楽しそうな様子で、ネクを挑発した。
なんと、彼女はある事をすれば、ネクを死神のゲームから解放するという。
「ゲームから……解放……本当か?」
「もっちろーん! ね、すごくない!? どうする? あたしとゲームする?」
半信半疑のネクだが、死神のゲームから解放されるのならば、乗りたかった。
こんな理不尽なゲームは、懲り懲りだからだ。
「ネク! ダメ! のっちゃダメ!!」
「アンタ、うるさいのよ。だまってな!」
シキは再びネクを止めるが、ヤシロは邪魔されて不快な表情をしていた。
「さ、やるの!? やらないの!?」
「……やる」
ネクはヤシロの提案に頷いた。
もう、死神のゲームをやりたくない……その思いが、ネクを動かしていた。
「ネク!?」
「ひゅ~!! さっすが男の子ね! さ、はじめよはじめよ! あ、言うの忘れてた。
もし、クリアできなかったら、アンタ消滅ね」
「なっ!」
嘘のミッションか、真実のミッションか。
どちらにしろ、達成できなければ消滅するのに変わりはないようだ。
「ゲームはね、ちょ~簡単! 1分以内に……あの娘を消す」
「えっ!? アイツを……消す……?」
ヤシロが出した「スペシャルボーナスゲーム」。
それは、1分以内にシキを消し去る事だった。
当初から歯車の合わなかったネクとシキを引き裂き、ポイントを稼ぐ、それがヤシロの目的。
シキはそれを知って、ネクに警告したのだが……。
「そう! ただ消すだけ! 超簡単でしょ?
サイキック使って、ノイズと同じようにすればいいのよ。うわ~、ちょっと楽勝すぎたわ~。
はい、じゃあスタート!」
ヤシロは微笑んだ後、一歩後ろに引いた。
「くそ……俺に人を殺せって言うのか……。
いくらなんでも、そんなことできるわけないだろ……。
けど、アイツを殺さないと俺が……消える……」
死神のゲームをやめるには、パートナーを手にかける事だった。
ネクはシキを信用できなかったが、それでもネクの最初のパートナーである。
彼女がいなかったら、ミッションをクリアできなかったかもしれない。
そのパートナーを、ネク自身が手にかけるため、流石のネクにも迷いが生じていた。
「ネク……」
シキはネクの手にかかって消えたくなかった。
せっかく初めてパートナー同士になれたのに、こんな形で別れるなんて、御免だからだ。
「残り30秒☆ あれ? もしかして迷ってる? じゃあ~、いいこと教えてあげちゃう。
あの娘ね……あたし達、死神のスパイなのよね~」
「何!? スパイ……!?」
「ちょっ……何言ってんのよ!?」
ヤシロは嘘をついてネクを惑わそうとした。
すぐにシキが止めに入ったが、ヤシロはまだ微笑みを浮かべている。
「定時連絡ありがとうね。おかげでスムーズに事を運べたわぁ」
「ウソよ! やめてよ!! ネク……コイツが言ってるのは全部……」
「ケータイ……。じゃあ……おまえケータイで何してた……?」
「えっ!? えっ……そ、それは……」
ネクは、シキが話をしている時に携帯電話を触っていた事を知っていた。
この時から、ネクとシキに亀裂が入っていた。
「答えられないってことは……やましいことがあるってことよね~?」
「ちがっ! ちがうわ!!」
「アンタはもう用済みだから消えちゃっていいわ」
ヤシロは既に、ゲームなど関係なく、シキを消し去ろうとしていた。
「はい、残り10秒。このゲームの主役はアンタよ。アンタの好きなようにすればいいだけ☆」
「……」
二人の仲に亀裂が生じながらも、ネクの中には、まだ迷いが生じていた。
いくらなんでも、シキを手にかけるなんて……と。
「迷うコトないじゃな~い。素直~に動けばいいだけ。誰の命がイチバン大切か……ってね」
「やめて、ネク……私を殺さないで……」
今、シキの“命”は、実質的にネクが握っている。
シキはネクの手にかかりたくないと、ネクに必死に頼み込んだ。
「お、俺は……」
「私を殺さないで」
「俺は――」
ネクはサイコキネシスを使い、シキを宙に浮かべ、首を締め上げる。
だが、それはネクの本意ではなく、ネク自身も必死で、
シキを手にかけようとする自分の手を止めようとしていた。
……ネクの意識は暗転し、二日目は終わった。