すばらしきこのせかい Shibuya Survival 作:アヤ・ノア
ネクとシキは死神のゲームに巻き込まれ、ノイズと戦いながらもミッションを達成する。
しかし、死神の一員である八代卯月が現れ、ネクに新たなゲームを提案する。
その内容は、ネクがシキを1分以内に消す事。
ネクはシキを手にかける事に躊躇いつつも、自身が消える事を恐れ、
シキを攻撃しようとするが……。
「ううっ……」
死神のゲームは三日目を迎える。
ネクは夜のシブヤで、頭を抱えて苦しんでいた。
「ここは……どこだ!? 暗い……夜……? いや、どこかの建物の中か!?
そうだ! アイツは……」
昨日、ネクはヤシロに唆され、シキを手にかけた……はずだ。
ネクは急いで、シキの安否を確認しようとするが、周りには自分以外、誰もいなかった。
「いない……」
シキの姿は、どこにもなかった。
そりゃそうだ、ネクはあの時、シキを手にかけたのだから。
ネクはその時の事を思い出し嫌な感情が湧き出た。
「まず、ここから出ないとな。出口はどこだ……」
ネクは建物から出ようと、出口を探そうとする。
パイロキネシスのバッジを取り出し、明るくしようとしたが、何故か炎が出なかった。
どうやら、この建物の中ではバッジが使えないようだ。
仕方なく、ネクは手探りで出口を探す事にした。
「!」
ネクがしばらく歩いていると、どこかから足音が聞こえてくる。
足音はこちら側に近付いてくる。
「うぅ……。暗い……どこだろ……」
声は小さく、弱々しかった。
この人物も、ネクと同じ場所にいるようだ。
「誰だ!?」
「きゃっ!!」
「おまえは……」
ネクの大声に、声の主は驚いた。
もしかすると、この声は……とネクは思った。
「ネク!?」
自分の名前をはっきりと呼んだ、少女の声。
間違いない、この人物は、自分が手にかけたはずの……。
「ビックリした……もう……おどかさないでよ……」
シキだった。
二日目にネクの手にかかったはずなのだが、何故か彼女は、「生きて」いた。
「おまえこそ……どこ行ってたんだよ」
「ここ、真っ暗でどこか分からなかったから、出口探してたの!
暗くて周りがよく見えないから、いろんなところぶつけちゃった」
どうやら、シキもネクと同じく、真っ暗で視界が狭く、必死で出口を探していたようだ。
ネクはパイロキネシスのバッジを取り出し、もう一度、火で明かりをつけようとした。
「ネク……バッジはノイズと戦う時しか使えないよ」
「そうなのか……」
が、そこでシキがネクにバッジについて指摘する。
バッジは戦闘以外には使えないようだ。
「中には、普通の時でも使えるのがあるみたいだけど……」
「そういえば、サイコキネシスは使えたな……」
暗いため、下手に動き回らない方がよさそうだ。
すると、シキが笑顔でネクにこう言った。
「大丈夫! あっちに出口見つけたの!」
「だったら外に出れば……」
「だって、ネクをおいて行けないでしょ?」
「……」
シキとしては、ネクと離れたくないようだ。
騙されたとはいえ殺されかけたというのに、シキは相変わらず明るく振る舞っていた。
「私もちょっとは役にたつでしょ?」
「……。勝手に歩きまわるなよ」
「あれあれ? 勝手なマネしてピンチになって怒られたのは誰だったっけ?」
「……」
場面は二日目に戻る。
ヤシロがネクを唆しシキを手にかけようとした時。
「さあ、そろそろ答えを見せてもらおっかな~?」
「おい、そのへんでやめとけ」
「誰!?」
ネクとシキを見ていたヤシロに、
無精髭を生やし、サングラスをかけた黒のオールバックの男が注意した。
「ねぇちゃん……ルールは守らないとな。
『パートナー消滅』をミッションにすんのは禁止されてるはずだぜ?」
「なんだって!?」
男は軽い口調でそう言った。
だが、男はゲームのルールを知っているため、ただものではない雰囲気だった。
どうやら、参加者だけでなく、死神側にもある程度のルールがあるようだ。
「……言われなくても分かってるわ。ゲームの余韻を楽しんでただけなんだけど」
「それにミッションは1日につき、ひとつ。『ゲームマスター』しか出せないルールだろうが」
「もちろん知ってるわ。っていうかあたし、ゲームマスターじゃないし。
今やってたのは当然、ミッションじゃなくてただの遊び。全然ルール違反じゃないんだけど」
ヤシロはこの男の前ではちょっぴり態度が柔らかくなっている。
ネク達の前では偉そうに振る舞っていたが、実際の階級は下っ端のようだった。
「だったら、今日の仕事は終わってんだろ。とっとと帰んな」
「……フン。どこの参加者か知らないけど……死神のルールに詳しいのね」
男はパッとしない容姿だが、何故か死神のルールに詳しかった。
「おまえ……だましたのか!! ゲームから解放するっていうのも……ウソだったんだな!」
騙されたと知ったネクが怒るが、ヤシロは態度をほとんど変えなかった。
「失礼ね! ウソなんてついてないわ。消えればゲームから解放されたも同じでしょ?
あ~マジテンションガタ落ちだわ。今日はオヒラキよ。また今度遊んであげるわ」
そう言って、ヤシロは去っていった。
「ありがとうございました。おかげで助かりました……えっと……」
「羽狛だ、
今みたいに参加者をだましたり、ひきょうな手で自滅させるフトドキ者もいるんでね」
シキは助けてくれた男にお礼を言い、男は自分の名――羽狛早苗を名乗る。
地味な見た目とは裏腹に、女性のように爽やかな名前だ。
「俺達……アイツにダマされてたのか……」
「“俺達”じゃねぇ、おまえだけだろ?」
「……」
「じょーちゃんを無視して独断専行でゲームにのってこのザマだ。
もう少しでじょーちゃんを消しちまうとこだったんだぞ」
ハネコマは勝手な行動をした上に、シキを手にかけようとしたネクを説教した。
軽い口調ではあるものの、その言葉には監視者らしい重みがあった。
「なんでもひとりでできると思いこんでると痛い目みるぜ。ホラ! じょーちゃんにあやまんな」
「は!?」
ハネコマはネクに、シキへの謝罪を申した。
ネクとしては、こんな事はしたくないが、ハネコマは軽く鋭い声でこう言った。
「わだかまりを少しでも残すと、だんだん大きくなってミッションに影響するぞ。ホラ!」
「……悪かった……」
ハネコマの言葉は妙に説得力があった。
渋々ながらも、ネクはシキに一言だけ謝罪した。
「ネク……。えっと……い、いいよ。もう気にしてないし、うん、うん。
あ、ほら、あの場合、しょうがなかった、っていうか……ね?
それにハッキリしなかった私も悪かったし……。だから、ネクももう気にしないで!」
シキもあわあわとネクに返した。
二人の仲が良くなった事を確認したハネコマは、嬉しそうな表情と声で言った。
「よぅし! これで問題解決だな! いいか、おまえらよく聞けよ。
この渋谷で生き抜く術はただひとつ。パートナーを信頼しろ!
とくに、そっちのヘッドフォン!!」
「ヘッドフォン!?」
ハネコマはネクが他人嫌いである事を見抜いた。
他人をいつまでも拒絶していては、死神のゲームを生き残る事はできない。
それを、ハネコマはネクに改めて教えたのだ。
「信頼って意味、ちゃんと分かってるか? ゲームに勝ちのこるためにはパートナーは不可欠。
自分の力だけじゃ、いつか必ず限界がくる。
パートナーと力を合わせることで自分の限界をこえることができる。
ノイズと戦う時もそうだ。ひとりで戦っていても、パートナーとはつながってる。
お互いのエネルギーを感知して呼びあってるんだ。だから、パートナーと心を合わせろ」
「……」
「まずは、ちゃんとじょーちゃんと話をしろ! おまえが考えてることそのまんま言ってみろ!
話さなきゃなんにも伝わんないだろ?」
「そうだよ、ネク! 私、分かってる。私がネクの足をひっぱってるって……。
サイキックだってそんなにうまく使えないし……。
でも、でもね……私、このゲームに勝ちたいから。ネクと協力してがんばりたい!
だから、ネクの考えてること知りたい! ネクのこと、もっと分かりたいよ!!」
確かにシキの力はネクと比べて弱いかもしれない。
だがシキは、それでもネクを信じて、ネクと共に歩んで、ネクと共に戦って、
本当のパートナー同士になりたい。
それが……シキの、何よりの願いだった。
すると、シキの気持ちに応えるかのように、ネクの顔が、僅かに上がった。
「……ネク?」
「俺だって……分かりたい……。分からないんだ……自分のこと」
「えっ……」
「名前以外思い出せなくて、気づいたら交差点で倒れてて、どうしてこの街にいるのか、
どうして死神のゲームに参加してるのか……何もかも……分からないんだ……」
ネクは、シブヤで目覚めた時、名前以外の全ての記憶を失っていた。
しつこく記して申し訳ないのだが、今のネクは、空っぽの状態なのだ。
「思い出せないんだ……全部……」
「思い出せない……って……それって……記憶……喪失……ってこと?」
ようやくシキもネクが記憶喪失である事を知った。
他人と話したがらないのも、自分の記憶を取り戻したいためであった。
「そうか……それは辛かったな」
ハネコマもネクを心配して、優しく声をかけた。
そして、場面は三日目に戻る。
「びっくりだよ、ネクが記憶喪失だったなんて……。もっと早く言ってくれればよかったのに」
「自分でも分からなかったんだ」
「確かに。ネク、渋谷のこともゲームのこともなんにも知らなかったもんね」
「仕方ないだろ。おまえだって知らないことたくさんあるくせに」
記憶がなければ、他人との関わりを煩わしく思うはずだ、とシキは思った。
そんなネクの事情を、シキは改めて知った。
「ま、まあ……そうだけど。でも、助かったよね。羽狛さんがイロイロ教えてくれて。
羽狛さんのおかげでネクともちょっと話せるようになったし。
それに、すごいバッジまで……きゃっ!」
シキがネクと話そうとすると、突然、携帯電話が鳴り、シキは驚いて落とした。
「ビックリした……急に鳴りだすんだもん……」
「おい、ケータイ落ちたぞ」
「あっ! さわらないで! 自分で拾うから!!」
シキは何故か、自分のピンク色の携帯電話をネクに触らせようとはしなかった。
何故なら、待ち受け画面の写真には――シキと全く同じ容姿の少女と、
丸眼鏡をかけた茶髪の少女が映っていたからだ。
「……見ちゃった?」
「……画面が上になってたから」
ネクに待ち受け画面を見られてしまったシキは、小さい声でネクに事情を話した。
「……友達。同じクラスでイチバンの仲良しなの」
「もしかして……おまえ、いつも……」
「……うん、コレ見てたの……」
シキがずっと携帯電話を触っていたのは、待ち受け画面を見ていたからなのだ。
「なんだよ……おまえだって、それならそうと早く言えばいいのに。
そんなの、隠すことでもないだろ?」
「あっ、ほら、ネク! ミッションメール、届いてるよ」
シキはネクに話を振って誤魔化していた。
彼女もまた、何かしらの秘密を隠しているようだ。
そして、改めて携帯電話を確認すると、こんなメールが届いていた。
A-EASTの主を倒せ
制限時間は360分 失敗したら消滅 死神より
「イタッ」
ミッションを通達するメールが来るのと同時に、二人の手にタイマーが浮かび上がる。
今回は360分と長いため、余裕はありそうだ。
「ミッション開始……ってわけか」
「うん、今日も頑張ろう! 今日のミッションはA-EASTに関係あるみたいだね」
「A-EAST?」
「ライヴハウスの名前よ。何回か行ったことあるから、場所なら私、知ってるわ!」
「そういえばおまえ、渋谷に詳しいな」
「まあね! よく遊びに来てるし、私に任せて!
よし! A-EASTに行きましょう! 出口はあっちにあったよ」
シブヤの案内は、シキに任せた方がよさそうだ。
ネクはシキの案内で、出口を通り、A-EASTに向かうのであった。