すばらしきこのせかい Shibuya Survival   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

ネクとシキは死神のゲームに巻き込まれ、ノイズと戦いながらもミッションを達成する。
しかし、死神の一員である八代卯月が現れ、ネクに新たなゲームを提案する。
その内容は、ネクがシキを1分以内に消す事。
ネクはシキを手にかける事に躊躇いつつも、自身が消える事を恐れ、
シキを攻撃しようとするが……。


9 ハネコマ

「ううっ……」

 死神のゲームは三日目を迎える。

 ネクは夜のシブヤで、頭を抱えて苦しんでいた。

「ここは……どこだ!? 暗い……夜……? いや、どこかの建物の中か!?

 そうだ! アイツは……」

 昨日、ネクはヤシロに唆され、シキを手にかけた……はずだ。

 ネクは急いで、シキの安否を確認しようとするが、周りには自分以外、誰もいなかった。

「いない……」

 シキの姿は、どこにもなかった。

 そりゃそうだ、ネクはあの時、シキを手にかけたのだから。

 ネクはその時の事を思い出し嫌な感情が湧き出た。

「まず、ここから出ないとな。出口はどこだ……」

 ネクは建物から出ようと、出口を探そうとする。

 パイロキネシスのバッジを取り出し、明るくしようとしたが、何故か炎が出なかった。

 どうやら、この建物の中ではバッジが使えないようだ。

 仕方なく、ネクは手探りで出口を探す事にした。

 

「!」

 ネクがしばらく歩いていると、どこかから足音が聞こえてくる。

 足音はこちら側に近付いてくる。

「うぅ……。暗い……どこだろ……」

 声は小さく、弱々しかった。

 この人物も、ネクと同じ場所にいるようだ。

「誰だ!?」

「きゃっ!!」

「おまえは……」

 ネクの大声に、声の主は驚いた。

 もしかすると、この声は……とネクは思った。

「ネク!?」

 自分の名前をはっきりと呼んだ、少女の声。

 間違いない、この人物は、自分が手にかけたはずの……。

 

「ビックリした……もう……おどかさないでよ……」

 シキだった。

 二日目にネクの手にかかったはずなのだが、何故か彼女は、「生きて」いた。

「おまえこそ……どこ行ってたんだよ」

「ここ、真っ暗でどこか分からなかったから、出口探してたの!

 暗くて周りがよく見えないから、いろんなところぶつけちゃった」

 どうやら、シキもネクと同じく、真っ暗で視界が狭く、必死で出口を探していたようだ。

 ネクはパイロキネシスのバッジを取り出し、もう一度、火で明かりをつけようとした。

「ネク……バッジはノイズと戦う時しか使えないよ」

「そうなのか……」

 が、そこでシキがネクにバッジについて指摘する。

 バッジは戦闘以外には使えないようだ。

「中には、普通の時でも使えるのがあるみたいだけど……」

「そういえば、サイコキネシスは使えたな……」

 暗いため、下手に動き回らない方がよさそうだ。

 すると、シキが笑顔でネクにこう言った。

「大丈夫! あっちに出口見つけたの!」

「だったら外に出れば……」

「だって、ネクをおいて行けないでしょ?」

「……」

 シキとしては、ネクと離れたくないようだ。

 騙されたとはいえ殺されかけたというのに、シキは相変わらず明るく振る舞っていた。

「私もちょっとは役にたつでしょ?」

「……。勝手に歩きまわるなよ」

「あれあれ? 勝手なマネしてピンチになって怒られたのは誰だったっけ?」

「……」

 

 場面は二日目に戻る。

 ヤシロがネクを唆しシキを手にかけようとした時。

「さあ、そろそろ答えを見せてもらおっかな~?」

「おい、そのへんでやめとけ」

「誰!?」

 ネクとシキを見ていたヤシロに、

 無精髭を生やし、サングラスをかけた黒のオールバックの男が注意した。

「ねぇちゃん……ルールは守らないとな。

 『パートナー消滅』をミッションにすんのは禁止されてるはずだぜ?」

「なんだって!?」

 男は軽い口調でそう言った。

 だが、男はゲームのルールを知っているため、ただものではない雰囲気だった。

 どうやら、参加者だけでなく、死神側にもある程度のルールがあるようだ。

「……言われなくても分かってるわ。ゲームの余韻を楽しんでただけなんだけど」

「それにミッションは1日につき、ひとつ。『ゲームマスター』しか出せないルールだろうが」

「もちろん知ってるわ。っていうかあたし、ゲームマスターじゃないし。

 今やってたのは当然、ミッションじゃなくてただの遊び。全然ルール違反じゃないんだけど」

 ヤシロはこの男の前ではちょっぴり態度が柔らかくなっている。

 ネク達の前では偉そうに振る舞っていたが、実際の階級は下っ端のようだった。

「だったら、今日の仕事は終わってんだろ。とっとと帰んな」

「……フン。どこの参加者か知らないけど……死神のルールに詳しいのね」

 男はパッとしない容姿だが、何故か死神のルールに詳しかった。

 

「おまえ……だましたのか!! ゲームから解放するっていうのも……ウソだったんだな!」

 騙されたと知ったネクが怒るが、ヤシロは態度をほとんど変えなかった。

「失礼ね! ウソなんてついてないわ。消えればゲームから解放されたも同じでしょ?

 あ~マジテンションガタ落ちだわ。今日はオヒラキよ。また今度遊んであげるわ」

 そう言って、ヤシロは去っていった。

 

「ありがとうございました。おかげで助かりました……えっと……」

「羽狛だ、羽狛(はねこま)早苗(さなえ)。ま、言うなればゲームの監視者ってところだ。

 今みたいに参加者をだましたり、ひきょうな手で自滅させるフトドキ者もいるんでね」

 シキは助けてくれた男にお礼を言い、男は自分の名――羽狛早苗を名乗る。

 地味な見た目とは裏腹に、女性のように爽やかな名前だ。

「俺達……アイツにダマされてたのか……」

「“俺達”じゃねぇ、おまえだけだろ?」

「……」

「じょーちゃんを無視して独断専行でゲームにのってこのザマだ。

 もう少しでじょーちゃんを消しちまうとこだったんだぞ」

 ハネコマは勝手な行動をした上に、シキを手にかけようとしたネクを説教した。

 軽い口調ではあるものの、その言葉には監視者らしい重みがあった。

「なんでもひとりでできると思いこんでると痛い目みるぜ。ホラ! じょーちゃんにあやまんな」

「は!?」

 ハネコマはネクに、シキへの謝罪を申した。

 ネクとしては、こんな事はしたくないが、ハネコマは軽く鋭い声でこう言った。

「わだかまりを少しでも残すと、だんだん大きくなってミッションに影響するぞ。ホラ!」

「……悪かった……」

 ハネコマの言葉は妙に説得力があった。

 渋々ながらも、ネクはシキに一言だけ謝罪した。

「ネク……。えっと……い、いいよ。もう気にしてないし、うん、うん。

 あ、ほら、あの場合、しょうがなかった、っていうか……ね?

 それにハッキリしなかった私も悪かったし……。だから、ネクももう気にしないで!」

 シキもあわあわとネクに返した。

 二人の仲が良くなった事を確認したハネコマは、嬉しそうな表情と声で言った。

「よぅし! これで問題解決だな! いいか、おまえらよく聞けよ。

 この渋谷で生き抜く術はただひとつ。パートナーを信頼しろ!

 とくに、そっちのヘッドフォン!!」

「ヘッドフォン!?」

 ハネコマはネクが他人嫌いである事を見抜いた。

 他人をいつまでも拒絶していては、死神のゲームを生き残る事はできない。

 それを、ハネコマはネクに改めて教えたのだ。

「信頼って意味、ちゃんと分かってるか? ゲームに勝ちのこるためにはパートナーは不可欠。

 自分の力だけじゃ、いつか必ず限界がくる。

 パートナーと力を合わせることで自分の限界をこえることができる。

 ノイズと戦う時もそうだ。ひとりで戦っていても、パートナーとはつながってる。

 お互いのエネルギーを感知して呼びあってるんだ。だから、パートナーと心を合わせろ」

「……」

「まずは、ちゃんとじょーちゃんと話をしろ! おまえが考えてることそのまんま言ってみろ!

 話さなきゃなんにも伝わんないだろ?」

「そうだよ、ネク! 私、分かってる。私がネクの足をひっぱってるって……。

 サイキックだってそんなにうまく使えないし……。

 でも、でもね……私、このゲームに勝ちたいから。ネクと協力してがんばりたい!

 だから、ネクの考えてること知りたい! ネクのこと、もっと分かりたいよ!!」

 確かにシキの力はネクと比べて弱いかもしれない。

 だがシキは、それでもネクを信じて、ネクと共に歩んで、ネクと共に戦って、

 本当のパートナー同士になりたい。

 それが……シキの、何よりの願いだった。

 すると、シキの気持ちに応えるかのように、ネクの顔が、僅かに上がった。

「……ネク?」

「俺だって……分かりたい……。分からないんだ……自分のこと」

「えっ……」

「名前以外思い出せなくて、気づいたら交差点で倒れてて、どうしてこの街にいるのか、

 どうして死神のゲームに参加してるのか……何もかも……分からないんだ……」

 ネクは、シブヤで目覚めた時、名前以外の全ての記憶を失っていた。

 しつこく記して申し訳ないのだが、今のネクは、空っぽの状態なのだ。

「思い出せないんだ……全部……」

「思い出せない……って……それって……記憶……喪失……ってこと?」

 ようやくシキもネクが記憶喪失である事を知った。

 他人と話したがらないのも、自分の記憶を取り戻したいためであった。

「そうか……それは辛かったな」

 ハネコマもネクを心配して、優しく声をかけた。

 

 そして、場面は三日目に戻る。

「びっくりだよ、ネクが記憶喪失だったなんて……。もっと早く言ってくれればよかったのに」

「自分でも分からなかったんだ」

「確かに。ネク、渋谷のこともゲームのこともなんにも知らなかったもんね」

「仕方ないだろ。おまえだって知らないことたくさんあるくせに」

 記憶がなければ、他人との関わりを煩わしく思うはずだ、とシキは思った。

 そんなネクの事情を、シキは改めて知った。

「ま、まあ……そうだけど。でも、助かったよね。羽狛さんがイロイロ教えてくれて。

 羽狛さんのおかげでネクともちょっと話せるようになったし。

 それに、すごいバッジまで……きゃっ!」

 シキがネクと話そうとすると、突然、携帯電話が鳴り、シキは驚いて落とした。

「ビックリした……急に鳴りだすんだもん……」

「おい、ケータイ落ちたぞ」

「あっ! さわらないで! 自分で拾うから!!」

 シキは何故か、自分のピンク色の携帯電話をネクに触らせようとはしなかった。

 何故なら、待ち受け画面の写真には――シキと全く同じ容姿の少女と、

 丸眼鏡をかけた茶髪の少女が映っていたからだ。

「……見ちゃった?」

「……画面が上になってたから」

 ネクに待ち受け画面を見られてしまったシキは、小さい声でネクに事情を話した。

「……友達。同じクラスでイチバンの仲良しなの」

「もしかして……おまえ、いつも……」

「……うん、コレ見てたの……」

 シキがずっと携帯電話を触っていたのは、待ち受け画面を見ていたからなのだ。

「なんだよ……おまえだって、それならそうと早く言えばいいのに。

 そんなの、隠すことでもないだろ?」

「あっ、ほら、ネク! ミッションメール、届いてるよ」

 シキはネクに話を振って誤魔化していた。

 彼女もまた、何かしらの秘密を隠しているようだ。

 そして、改めて携帯電話を確認すると、こんなメールが届いていた。

 

 A-EASTの主を倒せ

 制限時間は360分 失敗したら消滅 死神より

 

「イタッ」

 ミッションを通達するメールが来るのと同時に、二人の手にタイマーが浮かび上がる。

 今回は360分と長いため、余裕はありそうだ。

「ミッション開始……ってわけか」

「うん、今日も頑張ろう! 今日のミッションはA-EASTに関係あるみたいだね」

「A-EAST?」

「ライヴハウスの名前よ。何回か行ったことあるから、場所なら私、知ってるわ!」

「そういえばおまえ、渋谷に詳しいな」

「まあね! よく遊びに来てるし、私に任せて!

 よし! A-EASTに行きましょう! 出口はあっちにあったよ」

 シブヤの案内は、シキに任せた方がよさそうだ。

 ネクはシキの案内で、出口を通り、A-EASTに向かうのであった。

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