「うーん……今日誰も捕まんなかったなー」
肩を落としため息を吐く。
「人がやる気あるときに限ってこれなんだもん、まあ仕方ないけどさー」
その日、私――
いつもは適当でやる気がないというわけではないが、その日は何となくバンドメンバー皆で練習をしたい気分だった。
定期的に集まって練習する日を設けてはいるけど、今日はそれとは別にふと思い立ってアポ無しでメンバーを募ってみた―――のだが。
「流石に一人くらいはノッテくれると思ったんだけどなー……」
こうして一人であてもなくブラブラしているのが答えというわけだ。
『普段からそれくらいのやる気を見せろ』と私の誘いを断ったバンドメンバーの一人の呆れ顔が浮かび、また一つため息が零れる。
別に一人で練習すればいいだけなんだけど、既にその熱量は最近の流行り廃りの様にすっと消え去ってしまっていた。
まあ気分でやる気があったのだから、気分でやる気がなくなるのもまた自然な流れだ。
「りっきーはバイトで、そよりんは吹部の付き合い、楽奈ちゃんは未読無視……まあこれはよくあることだけど」
とはいえ楽奈ちゃんが既読をつけてくれていたとて、練習に付き合ってくれたかどうかはだいぶ怪しい。
私なんかよりもはるかに気分屋だし。
「でもなんか一番意外だったのはともりんかも」
ともりん――
なんというか不思議ちゃんっていうか独特の世界観を持ってる子で、ちょっと変わってるところがあるけどそこも可愛いっていうか。
ともかく、そんなともりんが今日は妙にそわそわしてるっていうか上機嫌に見えた。
今日はなんかいいことあったのかなーとか思いながら、ホームルームが終わったら速攻誘ってみたけど
『ごめん今日は……行かなきゃだから』
と私と話している間さえも惜しいといわんばかりに足をパタパタと動かしながら、小走りで教室を出て行った。
今まで全然そんな姿を見たことがなかったから、その時は面食らってしまって理由も聞けずに見送ってしまった。
「今思うと、ちょっと気になる?多分上機嫌だった理由にも関係ありそうだし、一緒にお昼食べた時に聞けばよかったなー」
一応天文部の部室も覗いて見たけど居なかったし、部活動絡みでもないらしい。
となるほかの候補と言えば……水族館?なんかイベントやってたっけ?
その場でスマホを取り出してさらっと情報を漁ってみたけど、別に今日だけ特別何かをやっているわけではなさそうだった。
「他にともりんが興味のありそうな場所か~……なんだろ」
別に明日も学校はある。その時学校で聞けばいいだけの話だ。なんならスマホで『今日は何か用事あったの?』とでもメッセージを送れば答えてくれそうなものだ。
しかし私は娯楽に飢えていた。
その日思い描いていた予定は消し飛び、気分はがた落ち。むしろ今誰かに練習に誘われたら断ってしまいそうな程やる気は下降曲線を描いている。
なんか気分が上がることがしたいという漠然とした思いが、私を無用なお節介推理ゲームへと思考を動かしている。
「……なんか甘いもの食べたくなっちゃった」
が、スマホでSNSを覗いていれば情報の津波に思考も情緒も一瞬で押し流される。
既にともりんが行きそうな場所ではなく、この近くのカフェを探し始めている。
「あ、この近くじゃん。興味あったし丁度いいかも」
友達の興味がありそうな場所は他に全然浮かばなかったのに、自分が行きたいと思った場所の検索は早い女千早愛音だった。
まあそもそも持て余した時間を使い道の一つとして推理をしていただけで、躍起になって知ろうとしていたわけではない。
明日聞こうと即座に思考は切り替わり、何を食べよっかなーとSNSの投稿に上げられていた煌びやかな写真の数々に思いを馳せながら、スキップで目的地へと足を延ばす。
先ほどまでの落ち込みは消し飛び、すさまじい上昇曲線を見せる私の気分の変わり身の早さには我ながら感心だ。
「うわっ、結構混んでる?最近できたばっかだし、えー……また出直し?」
程なくして目的地のカフェに着いたまでは良かった。
しかし、そこは評判通りの盛況っぷりで外から見えるテラス席にもぱっと見空きがあるようには見えなかった。
評判がいいみたいだから行きたかったというのは確かだけど、その評判ゆえの状況を想像できていなかった自分の浅慮っぷりに再び肩を落とす。
とはいえ、行列ができているというわけではないので席に空きがあるかもというチャンスにかけて一応店員さんに聞いてみるかと周りを見渡す。
テラスも店の中も若い女性客が中心の客層。その中にちらほらと男性客もいるが大体がカップルだろうと容易に想像できる。
高校生の集団もいくつか見受けられる。そんな中で自然と自分と同じ羽丘の制服を着た人が目につく。
とはいえ目当てはそれじゃない。店員と思しき人はエプロンをつけていたので直ぐに見分けがついた。
「あ、店員さ……えっ?」
手を挙げ店員に声をかけようとした。
ちょうどその瞬間、テラス席の一角で見覚えのある横顔が視界に映る。
凝視してみればそれは見間違いではないと確信する。しかし、その場にいることはかなり予想外の人物だった。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
「あ、すみません。友達見つけたんであの席いいですか?」
手を挙げていた私にすぐ気が付いて声をかけてくれた店員さんに、友達――高松燈の居る席を指さす。
「はい。水をお持ちしますので、ご注文がお決まり次第またお声がけください」
「ありがとうございまーす」
テンプレートな親切に感謝しつつ、ラッキーと内心思いながらともりんの居る席に近づいていく。
彼女は羽丘の制服を着ていたままだったので、別れた後すぐにここに来たんだろうなと予想がついた。あんなにそわそわしてたのはこれが理由だったのかと勝手に腑に落ちる。
しかし遠目では気づいていなかった事実が、近づいていくに連れて徐々に露わになる。
(ともりんめっちゃ笑顔じゃん……っていうかあれ?もしや一人じゃない?でもメンバーの誰かなわけないよね、それなら他の誰かが『一緒にどう?』って誘ってくれってもいいわけだし……えっ、私だけハブられてるとか?いやいやそんなまさか……)
丁度死角になっていて燈の対面に居る相手は見えていない。
ほんの少し背中に汗をかきながらも、手を振りながら近づくがともりんが気付く様子はない。
まあこの人の多さではちょっと声を掛けられたくらいじゃ気づきにくいのも無理はない。仕方なしに彼女の肩に手を置き声を掛ける。
「やっほーともりん!奇遇じゃん」
「ひゃあっ!!」
手を置いた瞬間、冷や水を掛けられた犬猫の様に髪の毛を逆立て肩を跳ね上げられる。
よほど集中していたのか本当に私の声には全く気付いていなかったらしい。……ちょっぴりショックを受けるがアポ無しは私の方だし仕方ない。
「もう水臭いなー、こういう場所来るなら私も誘ってよね」
「えっ、えっ!あのちゃん?なんで?」
「たまたま寄ってみたらともりん見つけたから。あ、相席いいです……か……?」
ともりんへの挨拶も程々に、相手の方へと顔を向けた。
その相手を見て、完全に思考が止まった。
まず一つ、相手は羽丘の人じゃなかった。
誰か同じ学校の友達とかに誘われていたわけではなかった。まあ別にそれはそんなに意外でもないかもしれない。
そしてもう一つ、相手は完全に私の知らない人。
正直これは予想外だった。ともりんはあんまり交友関係が広そうな子ではないし、中学時代の友達と頻繁に連絡を取り合って今でも遊んでいるっていう様子もなかった。だから、少なくとも私も顔くらいは知っている相手だろうと高を括っていた。
上記の二つにも正直驚かされた。しかし、もう一つの理由がはっきり言って今の全てだ。
「えっ、誰?燈の友達?」
見ず知らずの相手が突然馴れ馴れしく相席を求めてきたのだから、ごく当然の反応。
目を丸くし、予想外の事態にあっけにとられていますと言わんばかりの表情を見せるその相手。
ともりんと同席していた人物、それが
その事実に私は完全に言葉を失ってしまっていた。
我ながら初対面の相手に物怖じするような性格じゃないという自負はあるほうだったが、これにはもう開いた口は塞がらないし、鳩は豆鉄砲も食らうし、晴天には霹靂が描かれるというものだ。
これは完全に予想外で、頭の片隅にもその可能性を考えたことがなかった。まだりっきーの方が男いそう……いや、いい勝負か。
前髪は目にかからないくらいの長さで、はっきりとわかるくらいの黒色を主張するまつ毛が、赤みがかったイエローの瞳を際立たせる。
横髪も耳にかからない程度の長さで、毛先を遊ばせていたりパーマがかかった感じはない。清潔感のあるサラッとした灰色がかったくすんだ紫色の髪。
服装は羽丘のものではないが(羽丘は女子高なので当然)制服らしく、いわゆる学ランというやつだ。襟元はきちっとしまっていて、彼の性格を窺わせる。
靴も恐らく学校指定のローファー。目立った傷や埃もなく新品という感じもないし、ちゃんと磨いているということだろうか。それだけで綺麗好き?或いは几帳面?そんな予想を立てられる。
顔立ち服装的に学生であることは確定。
雰囲気的に同い年?あんまり年下には見えないけど、燈の性格を考えると年上にはもっと委縮した感じを見せる気がする。やっぱ同い年説が濃厚。
学ランだからどこの学校かの予想も立てにくい。でも制服のままでこのカフェにいることを考えれば、それほど遠くない学校かな?
えっ?っていうか本当に男の人?
いや見た目は万が一があるかもだけど、声が完全に男の人だった。喉仏もうっすら見えるし。
……本当に男の人?まじ?ともりんが?
とてもじゃないが素直に現実を受け止められず『まさか』と『いやでも』という言葉で頭の中が堂々巡りしてしまっている。
この間、どれだけ時間がたったのだろう?
困ったような目線を向けるともりんと、気まずそうに眉を顰める名前も知らない男の人。
もしかして長時間この凍った空気のままだったのか、それともまだ先ほどの彼の問いから殆ど時間がたっていないのか。その判断もできないほど、私はこの一瞬で思考が完全に自分の世界へと引きずり込まれてしまっていた。
空気を変えるようにパンと軽く手をたたいて両手を合わせる。
とりあえずもう、次に言うべき言葉は決まっていた。
「ごめん、お邪魔だった?」
一瞬の間。
私の言葉、その意味を二人はゆっくりと咀嚼した様子を見せたあと。
燈はボッと湯気が出そうなほどに顔を赤くし、両手を突き出し全力で首を振っている。一方で男の人の方はというとクスクスと口元に拳を当てて笑っていた。
「んふ、ん゛ん゛。そういうんじゃないですよ」
笑いを無理にかみ殺した咳払いをし、朗らかな笑みで彼はそう言った。
初見のお堅そうな印象とは裏腹に、なんだか親しみやすさを感じる笑い方だった。
「俺は、あー……燈の弟なんですよ」
ともりんの方を見ながら言葉を選ぶような仕草を見せ、端的に分かりやすいこの場で最も必要な情報で自己紹介をされた。
「なるほどね~!!」
安堵の息と共に声を漏らし、思わず手を打った。
全ての疑問に答えが紐づく。言われてみれば髪も目も燈とそっくり……に見えてきた。
この異常事態とも思える光景全てに納得する答えを得た時人はこんなにスッキリするんだ。と、ある種の快感を得られるほどだった。
「いやーまさかと思って焦ったよー。あ、座ってもいいよね」
「えっ?あっと……いいんだよね燈?」
「う、うん。どうぞ」
ともりんも少しは落ち着いたようで自分の隣の椅子を引いてくれた。……顔はまだ赤いけど。
「私、千早愛音って言いまーす。名前聞いてもいい?」
「はい。俺は……
一瞬燈の方に目を向け、言葉を選ぶような仕草を見せてそう答える。
さっきもそんな風だったし彼の癖なのかもしれない。
「へー歩弥君かー、あ・る・や……なんか珍しい響きかも。ってそうだ注文決めなきゃ。もー普段だったら一番楽しい時間なのに今それどころじゃないなんてー!」
「ふふっ、忙しない人だね」
「うん。いっつも、こんな感じ」
メニュー表に目を走らせる私をしり目に、小声で二人の和やかなやり取りが聞こえる。
そのちょっとした声色だけでも二人のリラックスした感じは伝わってきて、仲が良いんだなってすぐに思えた。
BanG_Dream!_It's_MyGO!!!!!がマジ面白くてドはまりしたので、勢いで書き始めました。
アプリでの情報次第で書きなおすかもしれません。まずは実装楽しみですね。