二人は同じ血を流す。私はその間に挟まる。   作:愛宕饅頭

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13,特別な人

 

あの子は、私の物心ついた時からずっと傍にいた。

どこに居ても、何をしていても、ずっとずっと私の傍に居てくれた。

 

周りから浮いて馴染めない私と違って、あの子の周りにはいつもたくさんの人が居た。

明るくて、優しくて、綺麗で。あの子は私の持ってないものをたくさん持っていた。

まるで真夏の向日葵のような存在感で周りを照らす、華やかに笑う子だった。

 

何でも一人で出来て、何でも自分で決められて、いつも誰かに褒められていた。

きっと、どんな場所にいても誰かに必要とされる、そんな才能を持っていた。

 

そんな特別な子なのに、どうしてか私の傍にいつも居てくれた。

周りにどんなに友達が居ても、私を見つけると嬉しそうに笑って駆け寄ってきた。

 

それがすごく嬉しくって……少し苦しかった。

私があの子にしてあげられるものなんて何もないと思っていたから。

あの子がただ優しいから、一人ぼっちの子を放っておけない性格だから、そんな理由で私が独り占めしちゃいけないと思ってた。

でも、全部違った。

 

あの子はただ、私のことが大好きなだけだったんだ。

あんなにも眩しい才能を持った特別なあの子の、一番大切な人が私だった。

 

それを理解した時からずっと、その想いは私にとって何よりも特別な宝物になった。

 

この世でたった一人、私と同じ血が流れる弟。

他の何にも代えることなんてできない、私にとっても大切で大好きな人。

どんなに離れ離れになっても、どれだけあの子が大人になってしまっても、その想いだけは変わることはない。

 

――――そう、思っていた。

 

もしかしたら、私がそう思いたかっただけなのかもしれない。

私にとって一番大切な人だから、あの子にとっても一番大切に思われている。そう信じたかっただけなのかもしれない。

何度も、何度も、過去のどんな思い出も関係なく、変わってしまったものをいくつも見てきたのに。

 

『私と歩弥君、恋人同士なんだー』

 

その言葉は、まるで今日の天気の話をするくらいに気軽な様子で聞かされた。

きっと本当に、あのちゃんにとってはそれくらいに普通の話だったんだと思う。

私はその言葉の意味を飲み込めず、胸がざわつく自分の気持ちも理解できず。

 

「…………え?」

 

と、間抜けな音が喉を通して零れるだけだった。

 

ずっと見てきた。

君が変わっていく様を、どこか遠くへ行ってしまう様を。

私には何も言ってくれなくなった君のことを。

 

あらためて思い知る。

私は、こんなにも大切な人の事をまた何も知らないままなんだ。

 

あのちゃんが、二人で写った写真を見せてくれた。

そこには私の知らない、見たこともない君が映っていた。

もう何年も、私とはこんな風に一緒に居たという思い出も残っていないのに。

 

胸の奥底、自分でも自覚していなかった場所に暗い影が差しこんだ。

 

ずるい。

 

そんな言葉が、胸の内を搔き乱していた。

 

==============================================================================

 

 

「…………ふぅ」

 

ため息とともに、自己嫌悪が積み重なる。

あのちゃんに整理した自分の気持ちを伝えたばかりのその日の放課後。

今日は一人で歌の練習をしていた。誰かと一緒に居られる自信がなくて、一人で何かに夢中になっていたかった。

そのはずだったのに、私はアルに『会いたい』というメッセージを送ってしまっていた。

訳もなく、ただ無性に会って顔を見たいという衝動のままにそうしてしまった。

時折自分がそうなってしまう自覚はあった。だけど、その日はいつも以上に頭の奥が切なくなるような苦しみでいっぱいいっぱいだった。

 

アルからはすぐに返事が返ってきた。

『いま愛音さんと一緒に居るけど来る?』

その文面と、それに対して思ってしまった自分の感情が何より嫌になる。

 

二人きりで会いたい。

 

そう文字を打ち込んで、すぐに消して書き直した。

アルの傍に居てあげてと言ったのは私の方なのに、あの二人が一緒に居るところを想像するともやもやとした感情が胸の奥につっかえる。

 

ああ、やだな。

そう思ってしまう自分が何よりも嫌だった。

 

こんなにも自分の感情がコントロールできないのは初めてだった。

二人が恋人同士だって話を聞いたとき驚いたし、自分はどんな風に受け止めればいいのか分からなかった。

でも、一晩考えて出した自分の結論に嘘をついたつもりは無い。

私はアルとずっと一緒に居られるわけじゃない。人目を忍んで、周囲に家族にも秘密にして会わなくちゃいけない。その為に、アルにはいっぱい無理をさせてしまってる。

分かってる、写真のこともそうだ。私に意地悪をしてるわけじゃない。私たちが会っているっていう証拠はできる限り少ない方がいい、お互いの家族の為に必要なこと。……だけど、そんな風に気を遣わずに居られる相手が居るのならそれがいいに決まってる。

私には言えない事も、あのちゃんになら言えるかもしれない。私じゃ力になれない事でも、あのちゃんなら力になってくれると思う。

うん、だから……やっぱりこの気持ちも嘘じゃない。アルのことを好きでいてくれる人が、あのちゃんでよかったって本当に思ってる。

 

それなのに、今の自分はなんなんだろう?

その想いと真逆のことを思っている自分が確かにここにある。

あのちゃんと正面から向き合ったときには見えなかった自分がここに居る。

 

本当の私はどっち?

 

答えの出ない問いに頭を悩ませる。

自分に湧きあがった感情の理由が分からない。こんな経験、今までに一度も無かった。

誰かを好きになるのも、誰かに好きになってもらうことも、それはいいことの筈だ。そうして好き合った二人が恋人になるのも、きっと自然で普通のことの筈だ。

それなのにどうして私は、こんなにも……苦しいんだろうか?

 

「えっ……えっ……?」

 

手の平の中の振動に何気なくに目を向けると、アルから返信が返ってきていた。

 

『そっちに行くから場所教えて』

 

私は慌てて自分の送ったメッセージを見直す。

『なら、今日は大丈夫だから』

送信済みになっているのはそんな内容だ。万が一にも、書き直す前の方を送ったわけではない。

にも拘らず、アルから返ってきたのは私の方に向かっているという内容に読める。

予想外の事態に困惑しながらも、私の心はどうしてか……アルのその言葉に安心感を覚えていた。

 

 

==============================================================================

 

 

「燈!」

 

私の居る場所を伝えてからほどなくして、アルは本当に私のもとにやってきた。

呼吸は荒く、いつもきちっとしている制服が少し乱れていて、汗もかいている。

どうやらここまで走ってきたらしい。

 

「燈、大丈夫?何かあった?」

 

心配そうな眼差しで、私の肩を掴んでそう訊ねてくる。

こうやって突然会いたいと伝えた時は私が不安に思っていることが多いからか、心配させてしまったんだと思う。

今日ばっかりは、何の理由もなく会って顔を見たかっただけだから申し訳なく思ってしまう。

 

「どうもしないよ。その……何となく会いたかっただけだから」

「……本当にそれだけ?」

「うん、それだけ。ごめん、心配かけて」

「謝らなくていいって。何かあったら呼んでって言ったのは俺だから」

「……えと、あのちゃんは?」

 

私は気になっていたことを尋ねる。

もしかしたらあのちゃんもお一緒に来るのかもしれないと思っていたけれど、パッと見た様子だと見当たらない。

 

「ああ、置いてきた」

「えっ?……え?」

 

あっけらかんとそう言い放つアルに、思わず困惑してしまう。

 

「よ、よかったの?」

「大丈夫大丈夫。お金は先に払ってるし」

「そういうことじゃなくって……その、邪魔しちゃったら嫌だなって……二人は、恋人同士なんでしょ?」

「ああ……なるほど、燈は優しいね。でも大丈夫だよ、どうでもいい愚痴に付き合ってただけだから」

 

こともなげに、本当に気にする様子も惜しむ様子もなくアルはそう言った。

 

「そういうもの……なのかな?」

「少なくとも、俺と愛音さんはそういう感じだから。あっちも気にしてないって、そういうのは燈の方が付き合いが長いからわかるんじゃない?」

 

そう言われてしまえば、私もそれに納得するしかない。

確かに、あのちゃんだったらこういう時に根に持ったりしないと思う。寧ろ今のアルみたいに、私に何かあったのかもって心配してくれると思う。

……でも、今の会話の中ではっきりとアルはあのちゃんと恋人関係であることを否定しなかった。

疑っていたわけじゃないけれど、こうして二人の言葉を聞いて改めて本当の事なんだって実感してしまう。

 

ジクリ、と胸が痛みを伝えてくる。

まただ。また、嫌な自分が顔を出そうとしている。

 

「……どうして、あのちゃんとのこと内緒にしてたの?」

「ちょっと……色々あって言い辛くてさ、ごめんね」

 

分かってる。

きっとちゃんと話してくれないんだろうなって分かってて聞いた。

私に気遣っての事だって分かってる。いつもならそれで納得してたはずなのに、今だけはどうしてかもやもやしてしまう。

私はアルになんだって言えるのに……アルは、私には言ってくれない事ばかりだ。

 

私の両肩を掴む手を上から包み込むようにして触れる。

 

「……あれ?指、絆創膏してる?」

 

右手の人差し指、いつも触れ合う時と違う感触に気づく。

私は肩から手を引きはがし、その手を目の前まで持ってきた。

予想通りアルの人差し指には絆創膏が張られていた。私があげたジンベエザメの絆創膏に、赤黒く血が滲んでいる。

 

「っ……怪我してたの?」

「ああ、これ?何でもないよ、ちょっと切っただけ」

「何でもあるよ!」

 

びくりとアルの肩が震える。

自分でも驚くほどの大きな声が出てしまっていた。

 

「と、燈?」

「……ごめん、大きな声出して」

 

そんなことをするつもりじゃなかった。

これじゃあ逆に、私が心配させてしまう。

私は絆創膏をしたアルの手の平を、自分の頬に触れさせる。

 

「本当にさ、ただ割れた食器を片付けるときに誤って切っただけだから、心配しないで」

「…………うん」

「前の大怪我、思い出させちゃった?」

「……うん」

 

私は何もアルのことをわかってあげられていないのに、アルは私の考えてることなんてお見通しみたいだった。

そうだ、アルの言うとおりだ。

昔、今から4年くらい前だろうか?アルが顔から首にかけて包帯を巻いていたことがあった。

アルは、転んだだけだからそんなに心配しないでって言っていた。

私は、アルが死んじゃうんじゃないかと思って怖かった。

私の知らない場所で傷ついて、涙を流している姿を想像するだけで苦しかった。

本当に苦しいとき、辛いときに何も言えずに蹲ってしまう子だったから、私がすぐに見つけてあげられなかったことが歯痒かった。

私はそれが、何より嫌だった。こんなにも優しくて暖かいこの子が、一人で傷ついても傍に居てあげられなかったことが。

今も同じだ。アルは、ふと目を離したらどこかへ消えてしまいそうだって思う。こうして触れて温もりを感じていないと、ずっとずっと遠くに君が居るような気がしてしまう。

 

今回は、その人差し指以外に怪我をしている様子はない。

だから本当に割れた食器で指を切っただけなんだと思う。

それなのにこんなに取り乱して……かっこ悪いな。

 

「……燈、やっぱり何かあったんだよね?」

 

アルが不安そうに眉尻を下げる。

私がいつもと違うということは、簡単に伝わってしまうらしい。

 

「ううん」

「……またバンドで問題でもあった?」

「ううん、そうじゃない」

「あの時は俺、全然何もしてあげられなかったから……次同じようなことがあったら絶対俺が何とかする。だから、何かあったら言ってね」

「……うん」

 

アルの言うあの時っていうのはきっと『CRYCHIC』のことだ。

中学の時にやっていたバンドで、色々あって解散してしまった。

あの頃はずっと自分のせいでって落ち込んでた。その時のことを、アルはずっと気に病んでくれている。

今から一年半くらい前、アルは今以上にずっと忙しそうにしていて、月に一度会うことすらできない日が続いていた。あの時傍に居られなかったから、アルはそれを気にしているらしい。

今やってるバンドの『MyGO!!!!!』の事だって、また同じようにならないかずっと心配してくれていた。

 

でも、今回ばかりは全然違う話だ。

バンドのことは本当に関係ない。

自分すら上手く説明できない、自分の気持ちの問題だった。

 

「……ねえアル」

「なに?」

「あのちゃんとは……どんなこと話すの?」

「え?う~ん……普通だよ?普通の友人みたいに、その日学校であったこととか、ギターの話とか。今日は愚痴だったけど」

「……恋人同士ってどんなことをするの?」

「どんなって……そうだな……」

 

話し上手のアルにしては珍しく、言葉に詰まっている様子だった。

 

「まあ……一回だけ、デートはしたかな」

「……楽しかった?」

「まあ……ね、いい映画だったよ」

「……あのちゃんとも、その……したの?」

「したって……何を?」

「私と一緒に出掛けた時は、別れるときに……えっと……ここに、してくれるでしょ?」

 

そう言いながら、私は自分の頬を指さす。

 

「え、あー……いやいやいや!!しないって!」

 

アルは顔を赤くして否定する。

すごく恥ずかしそうにしていて、そんな様子を私は初めて見たような気がする。

 

「もう、いきなり何聞いてるのさ」

 

そう、照れくさそうに顔を背ける。

アルの言うとおりだ。私は何を聞いてるんだろう?

そんなことを聞いて、どうしようっていうんだろう?

していても、していなくても、私にはそれを咎める権利も喜ぶ理由もない。二人の関係は、二人だけのものだ。私には何も関係がない。

……それなのにどうして、今こんなにもほっとした気持ちになったんだろう?

 

「……あのちゃんの、どういうところが好き?」

「ま、まだ聞きたいの?えっと……まあ、そうだね―――」

 

顔を背けたまま、アルは答える。

 

「嫌だって言っても、手を掴んで引っ張り回してくれるところ……かな」

 

私に見せないようにしているその顔は、きっと私の知らない表情をしているんだろうなって分かる。

私はそんな風にはできないし、アルも私には嫌だなんて絶対に言わないだろう。

 

少しだけ、自分の気持ちが分かった気がする。

私はあのちゃんと自分を比べてしまっているんだ。

助けられてばかりで何もしてあげられない自分と、恋人として傍に居られるあのちゃんのことを。

 

でも、本当のことだ。

私に何ができるっていうんだろう?

人の気持ちを上手く分かってあげられないから、悩んでいるときに励ますことだってうまくできない。

年上のお姉ちゃんなのに、勉強を教えてあげることもできない。

辛いとき、苦しいとき、ただ傍にいることさえ簡単じゃない自分が、この子に何をしてあげられる?

 

「…………」

 

私はアルの手を取って、そっと自分の胸の押し当てる。

 

「っ……燈?」

 

私の行動に、アルは少し引きつった顔をする。

 

「わ、私は嫌じゃないから。アルになら、何をされても嫌じゃない……から」

 

声が上ずる。

私は何を言っているんだろう?

 

「あのちゃんにできない事でも、私だったら……平気」

「この世でたった一人だけの、血の繋がった姉弟だから」

 

ああ、最低だ。

二人にとって一番大切な繫がりを、言い訳に使ってしまっている。

私はこんなことを言って、何がしたいんだろう?

 

……でも、これくらいしか思いつかなかった。

これくらいしか、アルにとって誰より特別で居られる理由が思い浮かばなかった。

この血だけが、私とアルを繋いでいる特別なんだ。

これだけは、あのちゃんには無い私だけのものだから。

 

不意に、顔が温もりで包まれる。

いつの間にか私は抱きしめられていた。

 

「……今日の燈は、やっぱり変だよ。いつもならこんなこと言わないよね?」

 

優しい声だった。

まるで小さい子供をあやしつける様に、安心させるように言う。

 

「何か嫌なことでもあった?それとも、ちょっと疲れてる?」

 

言えるわけがない、アルに恋人と一緒に居て欲しくないだなんて。

 

「大丈夫だよ、俺はここに居る。燈が望むなら、いつだって直ぐに駆けつけるよ」

 

今日は二人の邪魔をしてしまったと思っていたはずなのに、どうしてかその言葉が嬉しかった。

 

「俺にとって一番大切なのは燈だから。それだけは、何があっても絶対に変わらないって約束する」

 

もしかしたら、私はその言葉を望んでいたのかもしれない。

こうすれば、そう言って貰えるって分かっていたから、こんな変なことを口走ったのかもしれない。

 

「だから、そんなこと言わないで」

 

でも、違う。

それだけは違うんだ。

 

「いつも助けてもらっているのは俺の方。だから、無理に俺に何かしてあげたいなんて思わなくっていいよ」

 

違うよ、甘えてるのはいつだって私の方だ。

今だってそう。

 

「こうして一緒に居られるだけで、俺は幸せだから」

 

違う、一緒に居るだけじゃ満たされなくなったのは私の方だ。

ただ同じ時間を過ごしているだけじゃ焦れったくて、訳もなく触れ合っていたくなる。

恋人が居るって知っている今でさえ、理由を作って私は欲しくなったんだ。

 

「不安にさせてごめんね。燈は何も悪くないよ」

 

違う、悪いのは私だ。

君にこんなことを言わせてるのは私のせいなのに。

 

その胸の内の想いを言葉にすることもなく、私は強く抱きしめ返す。

 

脳裏にあのちゃんの姿が思い浮かぶ。

私がこんなことをしてるって知られたら、きっと幻滅されてしまうだろう。

 

やだな。

 

私は自分勝手だ。

アルにとって一番の特別で居たいと思いながらも、あのちゃんに嫌われたくないってずっと考えてしまっている。

 

 

=================================================================================

 

 

「ともりん、ちょっと来て!」

 

学校の教室に来て、あのちゃんは朝の挨拶よりも先に開口一番にそう言って私の手を掴んで歩き出す。

 

「話がしたいから天文部の部室借りてもいい?」

「いい、けど……どうしたの?」

「すっごく、真面目で大事な話だから」

 

いつになく真剣なあのちゃんの表情に、困惑よりも恐れを抱いてしまう。

つい昨日、二人の時間を邪魔してしまったばかりだから。

あのちゃんに嫌われたくない、仲違いなんてしたくない。そんな想像ばかりが頭の中を巡っていた。

 

「……よし、鍵も閉めた。これなら誰にも聞かれないよね」

 

あのちゃんは注意深く鍵を閉めて、壁の薄さをコンコンと叩いて確認していた。

多分今の時間は隣の部室も人が居ないと思うけれど、なんとなく口を挟めるような雰囲気じゃなかった。

 

「あの、話って……」

「いい、ともりん!今から私が話すこと、ふざけてるように聞こえるかもしれないけどすっごく真剣に考えてきたことだから、ちゃんと答えてね!」

 

がっしりと両肩を掴まれ、部室の隅に追いやられる。

その威圧感には、私はただうんうんと頷くことしかできない。

 

「歩弥君のことどんな風に思ってて、どれくらい好き?」

「えっ?」

「ゆっくりでいいから、ちゃんと教えて!」

「え、えと……」

 

あまりに突然の展開についていけないながらも、言われた通りにちゃんと答えを言葉にしていく。

 

「……誰よりも大切に思ってる弟で……もちろん、大好きで」

「うんうん」

「優し過ぎるくらいに優しくて……いつも私に気を遣ってくれてて……それが嬉しいけど、ちょっと苦しくて」

「どうして?」

「……私はいつも甘えちゃって、何も返せてないから……」

 

勢いに押されるままに、ずっと自分が本人に伝えられずにいたことを口にしてしまう。

 

「ともりんは、歩弥君にどうなって欲しい?」

「…………もっと、私にも甘えて欲しい。それと、自分のことをちゃんと教えて欲しい。知らないままで、何も言われないままで居るのは嫌だから」

「おっけー、そんな感じね。うんうん……」

 

あのちゃんは何かに納得するように頷いている。

てっきり、昨日のことで何か言われるんじゃないかと怯えていた私にとって、今の状況は何もよく分かっていない。

どうしてこんなことを聞かれているんだろうか?

これにはどんな意味があるんだろう?

分からないままに、あのちゃんがまた私に訊ねる。

 

「じゃあ次、私のことはどんな風に思ってて、どれくらい好き?」

「ええっ!?」

 

今のこの流れで、そんな質問が来ると思っていなかった。

まるで心の準備ができていなかった質問に、思わず声が大きくなってしまった。

 

「お願い!すっごく大事なことなの!」

「……え、えと……」

 

照れくささで、思わず顔を背けてしまう。

アルのことを話すのは、そういう話になるだろうと思っていたからある程度は覚悟ができていたけれど、これはさっきとはわけが違う。

何せ目の前に本人が居るのだから。

 

しかし、その本人は真剣な顔で私の次の言葉を待ってくれていた。

アルの事を話した時よりもたどたどしくなりながらも、頑張って気持ちを整理して話す。

 

「あのちゃんは……私がもう一度歌う、切っ掛けをくれた人で……」

「これからも一生、一緒にバンドをする……仲間で……」

「……学校でいつも話しかけてくれる……大事な友達で……」

「私の、憧れてる人」

 

自分の正直な思いを言葉にした。

本人を目の前にして少し恥ずかしかったけれど、それが嘘偽りのない自分の気持ちだった。

 

「私のことはどれくらい好き?」

「そ、それってどうしても言わなきゃダメ?」

「一番重要なのはこっちだから!」

「え、えと…………じゃあ……大好き、だよ」

「ともりーん!私も大好きだよー!!」

 

そう言ってあのちゃんにきつく抱きしめられる。

自分は何をさせられているんだろう?

 

「これが、その大事な話なの?」

「ううん、寧ろ本題はこれから!でも安心したよー、これなら自信をもって言えるから」

 

どうやら本題はここかららしい。

今の質問にはどんな意味があって、これから何の話をされるのか。もう何が何やら私はよくわかっていない。

取り合えずついていくので精いっぱいだ。

 

「私もね、ともりんのことすっごく大好き!」

「あ、ありがとう?」

「歩弥君のことも好きだけど、ともりんのことも同じくらい……ううん寧ろそれ以上に好きなの!」

「そ、それでいいの……?」

 

アルも恋人のあのちゃんに少し冷たくないかなと思っていたけど、あのちゃんもそれと同じくらいの温度感なような気がする。

もしかしたら、自分の中の恋人観の方が少し変だったのかもしれない。

 

「昨日、私に遠慮したよね」

「っ……うん」

 

突然、核心を突かれて動揺してしまう。

昨日結果的にはアルが私を優先したけれど、私はずっとあのちゃんが傍にいるほうがいいことなんだと思っていた。

……それは今でもそう思ってる。

 

「私ね、ともりんも好きだし歩弥君も好き。だから、二人には面倒くさい遠慮とかして欲しくないの!」

 

あのちゃんは真剣な表情で、私の手を取り真っすぐに私の目を見て言った。

 

「だから、ともりんも私の恋人になって!」

 

私はその言葉の意味を上手く飲み込めず

 

「…………え?」

 

と、間抜けな音が喉を通して零れるだけだった。

 

 

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