ともりん誕生日おめでとう!の気持ちを込めて書きました。
前編というタイトル通り、中編と後編は明日と明後日に投稿します。
「そういえば、そろそろともりんの誕生日だよね」
11月某日、ライブハウス『RiNG』のカフェスペース。
すっかり定番になっているメンバーが集まるのを待つ間の暇つぶしに、歩弥君に雑談に付き合って貰っていた。
「プレゼントとかもう用意してる?」
「丁度明日休みなので、買いに行こうかと思っていたところです」
「えーほんとに?じゃあ折角だし、私もプレゼント選びについて行ってもいい?」
「まあ、別に構いませんよ」
「やった!」
あわよくばプレゼント選びに付き合ってくれない?という話に誘導しようとしていたのに、ラッキーだった。
いくつか候補は浮かんでいたものの、いまいち絞り切れておらず、誰かに相談したいと思っていたところだった。
その点で相談相手として歩弥君は百点満点だ。彼以上にともりんについて詳しい人なんてそうは居ないだろう。
「待ち合わせ時間は昼過ぎでいいですか?」
「おっけー、待ち合わせ場所はいつもの駅前でいい?」
「はい。じゃあそんな感じで」
とはいえ、あまりに話が上手くいきすぎるのも考え物かもしれない。
話そうと思っていたことがすんなりと収まりきってしまった。
「……そうだ、歩弥君に私の誕生日いつだったか言ったことあったっけ?」
「いえ、多分知らないです」
「私の誕生日は9月8日だから、ちゃ~んとメモっといてよね」
「ああ、じゃあ覚えておきます」
「なんか素っ気なくない?」
「だって来年の話じゃないですか」
「そうなんだよね~……惜しいなぁ」
折角歩弥君に祝ってもらえるチャンスだというのに、その機会は来年まで持ち越しだ。
今は11月で私はつい二か月前に祝ってもらったばかり。歩弥君と出会ったのがそもそも10月だったので、そういう面では少しタイミングが悪かったなと思ってしまう。
「それで、歩弥君の誕生日は?」
「11月22日です」
「えっ!もうすぐじゃん!何で言ってくんなかったの!?」
「いや、自分で祝って欲しいなんて言わないですよ普通は。愛音さんじゃあるまいし」
そう呆れたジト目を向けられる。
しかし、これは完全に予想外だった。
今年ももう残すところあと一か月と少し。歩弥君の誕生日を祝うとしたら来年のことになるだろうとなんとなく思ってしまっていた。
まさかともりんの誕生日というイベントを目前に控えた今、もう一つこんな大きなイベントが待っていたとは――
「っていうか、あれ?ともりんも22日じゃなかった?」
「はい。11月22日。世間一般的には『いい夫婦の日』なんて呼ばれてますね」
「歩弥君も22日なんだよね」
「そうですよ」
「えっ?つまり、ともりんと誕生日一緒の日なの!?」
「そういうことになりますね」
驚天動地。
歩弥君の誕生日が目前にまで迫っていると知ったことも驚きだったが、それ以上の衝撃が待ち受けていた。
まさか双子でもない姉弟が同じ誕生日なんていうのは万に一つも想像していなかった。
「ええ、やばぁ……」
「俺の数少ない自慢の一つです」
今まで一度も見せられたことの無かったドヤ顔を披露された。
とはいえ、実際珍しい気がする。
この姉弟には常々ただならぬ繋がりや絆を感じることがあったけれど、この共通点には少し怖さを感じるくらいだ。
血の繋がりといった自分の意志では介入できない、運命みたいなものに強い執着を持つ歩弥君からすれば、そのドヤ顔も納得だ。
「全然何にも準備してないんですけど……」
「今はじめて言いましたからね」
「そんな事ならもっと早く言ってよ!」
「同じこと言いますけど、自分で祝って欲しいなんて言えませんってば……」
再びの呆れ顔を向けられる。
歩弥君の言ってることはご尤もで、早く言ってほしかったという自分の想いこそが理不尽なんだけれども。
しかし、これは実際とても困ったことになってしまった。
随分前から知っていたともりんの誕生日プレゼントすら満足に決められてないのに、今この瞬間知った歩弥君のプレゼントまで決めなくてはいけなくなってしまった。
しかもともりんと違って、彼の好みなんて殆どといっていいほど把握できていない。知っていることといえばともりんが好きすぎることと、よくコーヒーを飲んでるなということくらいだ。
もっと言えば、私にとっての初めての異性の恋人に対するプレゼントになる。これはもう自分の見栄でしかないけど、気合を入れずにはいられない話だ。そして気合を入れる=ともりんへのプレゼントよりも頭を悩ませることになりそうだということでもある。
困った。
非常に困ってしまった。
まさかこんな予想外の難題が圧し掛かることになるなんて。
……とはいえ、見方によってはラッキーだったとも言えるかもしれない。こうして気まぐれで誕生日を聞いてみなければ、当日になって知り何も用意してない!なんて展開になるよりはずっとマシだ。
時間は多くないけれど、絶対間に合わないって程ではない。……もし問題があるとすれば、私の懐事情くらいだろう。バンド活動もあって、ただでさえ最近外でお茶をする機会とかが増えてしまっているのに……いや、もうこれは考えないことにしよう。ひもじい思いは未来の私に任せた。
「別に、俺に無理に用意してもらわなくていいですよ。特に欲しい物なんて無いので」
「ええー!何でそんなこと言うの!」
「俺よりも燈に対して気合い入れてプレゼント見繕ってあげてください。そうじゃなきゃ何か貰っても嬉しくないです」
私の心情を察してか、歩弥君はそんなことを言う。
とても彼らしい言葉だけれど、今回ばかりは気が利いてるとは言い難い。
「どうしてもっていうなら、適当にご飯でも奢ってくださいよ」
「やだやだやだ!ちゃんとプレゼント用意したい!」
「何であげる側が駄々っ子になってるんですか……」
自分の誕生日の事なのにどうでもよさそうに装う彼の姿に、一層ちゃんとプレゼントを渡したいという思いが強くなった。
これはもう意地だ。こんな何貰っても嬉しくありませんよなんて顔をしてるやつこそ、ぎゃふんと言わせたくなるのが乙女心というものだ。
何としてでもこの男を喜ばせてやりたいという気持ちがめらめらと燃えている。
ともりんにも喜んでもらう。
歩弥君にも喜んでもらう。
この二つを達成できて初めて、成功だと言えるだろう。
今こそ二人の恋人を持つ女の甲斐性を見せる時だ。
「なんか滅茶苦茶燃えてきた!」
「……なんで人の誕生日で燃えてるんだろ、この人」
いつになくやる気が漲る私と、いつも通り困惑気味の歩弥君。
ある意味でそれも、もう定番の光景だった。
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お風呂上り。自室のソファに座って髪の毛を乾かしながら思案にふける。
あれだけ気合を入れてプレゼントを贈ると決めたはいいものの、明確な候補はまだ何も定まっていない。
プレゼントと一口に言っても、いくつか傾向があると思う。
例えば相手が好きな物や、欲しがっていたものを事前にリサーチして贈るパターン。恐らくこれが一番一般的で、一番多いと思う。相手のことをよく見てるというアピールにもなるし、選ぶ側の気も楽だ。私としてもこれが一番無難だと思ってるんだけど、ここに一つ問題がある。私は歩弥君の好みを全く把握していないということだ。それだけならまだしも、彼は何も欲しいものがないとまで言いやがりやがった。こうなってくるとこの相手の好みに合わせるパターンは非常に難しい。
他にあるパターンとして、手作りした何かを送るというのもある。が、今回はこれは時間的に絶対無理。
あとはその場限りの体験を贈るというのもある、どこかに遊びに行ったりちょっと贅沢な物を食べに行ったりだとか。これもかなり無難な選択だと思うけど、今日私は思いっきりそれは嫌だって歩弥君に言ってしまった。自分の誕生日の事なのにどうでもよさそうな反応をしていた歩弥君に対しての意趣返し的なノリもあったものの、あんなことを言った手前もう引っ込みはつかない。というか私もそうするつもりは無い。
……改めて考えてみると、滅茶苦茶縛りがきつくない?後はもう、自分の好きな物を贈るという大博打パターンくらいしか思いつかないんだけど。
うんうんと唸りながら彼との思い出を振り返ってみるが、私の知る限り彼が一番嬉しそうにしてたのは、ともりんとの蟠りが解けた時だろうか。
「やっぱともりんに相談しよっかなー」
歯痒いけれど、どうしても私一人では歩弥君について知っていることに限界がある。
歩弥君にともりんへのプレゼントのことで相談したように、ともりんの力を借りるしかないかもしれない。きっとともりん以上に歩弥君のことを知ってる人なんていないだろうし。……ともりんと一緒に選んだと言えば喜んでくれそうだなっていう打算も一つまみあったりする。
「問題は時間だよねー。明日は歩弥君と買い物に行くとして、ともりんの予定大丈夫かな?また次の休みの日なんて、誕生日の前日になっちゃうんだよね」
そう問題はこれだ。
学校帰りに付き合ってもらうという手もあるけど、出来るならがっつり休みの日を使って吟味したいという思いもある。
一にも十にも時間が足りない。どうしてもスケジュールがキツキツだ。
どうしたもんかと思っていたところに、スマホの通知音が鳴る。
「ん、ともりんだ」
丁度歩弥君のことで相談しようと思っていた矢先。いいタイミングで連絡をくれた。
『あのちゃん、今ちょっといいかな?』
問題なしと親指を立てるスタンプを送る。
『アルに贈る誕生日プレゼント一緒に選んでほしくて』
「マジ!?」
思わず大きな声が出てしまう。
何という偶然だろうか。これ以上ないという完ぺきなタイミングで、もっとも欲していた救いの手が差し伸べられたのだ。
興奮気味に自分も一緒に選びたいという旨の返信を返す。
『じゃあ明日、時間あるかな?』
「う~ん……!」
ともりんから帰ってきたその言葉に、思わず悶絶。
そっか、そうだよね。この流れだと明日休みだしそうなるよね。
心の底から賛同の返事を送りたい思いはあったのだが、既に先約がある身としてはちょっと待っててと一時保留の返事をする。
なんてこったい。
まさかこんな板挟みになるなんて考えていなかった。
普通なら先約を優先するのが普通なんだろうけど、本音を言ってしまえばともりんの方について行きたいという思いが強い。
これは別にともりんへのプレゼントを蔑ろにする意味じゃない。元々、ともりんへのプレゼントはもう候補が絞り込めている。歩弥君がもし買い物に付き合ってくれなくても、候補にしていたプレゼントの写真を送ってどれがいいと思うか相談に乗ってもらうというプランも事前に考えていたからだ。
つまりどちらかと言えば、明日ともりんに付き合う方が色々と都合がよさそうではある。……のだが、自分から勝手について行きたいと言っておいてやっぱやめると歩弥君に言うのも、少々気が咎めるというのも事実だ。
……まあでも背に腹は代えられない。申し訳ないけど行けなくなったと歩弥君には伝えようかな。それと、また後日相談に乗って欲しいということも添えて。
そんな時だった。
再び手の平の中のスマホが震え、メッセージの通知を伝える。
またともりんかな?そう思っていたのだが――
『明日暇?』
意外にも、それはりっきーこと椎名立希からの連絡だった。
MyGO!!!!!のグループ内でやり取りをすることはあっても、個人でこうしてやり取りをするのはちょっと珍しい。何よりりっきーの方から私に用事があるみたいだというのが珍しいことだった。
しかし、その問いに対する答えは残念ながらもう一つしかない。
『ごめん!明日の予定埋まっちゃった』
『じゃあいい』
すさまじい速度で素っ気ない返事が返ってきた。ちょっとむかつく返しだ。
『どんな用だったの?』
あまり答えに期待せず一応聞いてみたが、既読はついたが暫くなにも返事は返ってこなかったものの、ちゃんと答えてくれた。
『お前、一緒の学校だから燈の欲しいものとか知ってるかなと思って』
『プレゼントの話』
なるほど、皆考えることは一緒らしい。
っていうか、皆私に聞きに来るじゃん。
自分の意外なほどの人望にちょっと嬉しくなってしまう。実際、ともりんとは同じ学校の同じクラスで席も近いことだし、私に相談しようとしたりっきーの気持ちはよくわかる。逆の立場だったら私もそうしてただろうし。
非常に珍しくりっきーが私を頼ってくれたことに、力になってあげたい気持ちはある。
しかし明日はともりんと一緒に、歩弥君のプレゼント選びに行こうと心に決めたばかりだった。流石に何の接点もないりっきーに、歩弥君のプレゼント選びに付き合わせるのは忍びない。りっきーも興味無いだろうし、歩弥君もそんな人から突然何か貰っても困ってしまうだろう。
「惜しいなー」
思わず声に出してしまう。
元々の予定の様に、歩弥君とともりんのプレゼントを選びに行く流れだったなら、りっきーも呼んで三人でっていう風にできたのかもしれないけど――――
「あ」
そこまで考えた時、ある天啓が私の頭に降りてきた。
一瞬、それはちょっと無茶ぶりじゃないか?という思いが脳裏によぎったものの、面白そうだという好奇心には逆らえない。
私はまず決めていたように、歩弥君に『ごめん、明日一緒に行きたかったけど行けなくなっちゃった』というメッセージを送った。
そしてそのあとに、ある提案を追記したのだった。