水で征せよアカデミア   作:わこうど。

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USJってどういう翻訳されてるのかなって、Fandomのヒロアカwiki見たらこんなのだったのでサブタイこうなりました。




Unforeseen Simulation Joint

 

 

 

「──さて、今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見ることになった」

 

 

ㅤ時刻は午後12:50分、昼食を終えて教室に集まった俺たちは、五限から始まるヒーロー基礎学について相澤からの説明を受けていた。

 

ㅤ見ることになった、という言い方は少し気になる。マスコミの不法侵入なんてことがつい昨日あったばかりだし、念の為の警戒態勢か……それともあるいは、今回の授業が複数の教師で見ないとダメな類のやつか。

 

ㅤ前者はともかく後者の場合、一体どんなことをするのだろうか。前回は屋内での対人戦闘訓練であったが──。

 

 

「今回は災害水難何でもござれ、人命救助(レスキュー)訓練だ」

 

「レスキュー……今回も大変そうだなぁ」

 

「ね!」

 

 

ㅤ上鳴がうへぇとしながらそう言って、芦戸がそれに同意した。たしかに彼の気持ちは俺も分かる。ただ相手を倒せばそれで終わりの戦闘訓練とは違って、人命救助は状況によっては非常に困難な作業なのだ。

 

ㅤたとえば水難現場からの救出なら、一刻も早く要救助者を引き上げなくてはならない。パニックになることも多いので、安心させるように声かけを続けたりして心身ともに救助をする事がヒーローには求められる。

 

ㅤつい最近まで中学生だった俺たちに、そこまで高度な訓練を最初からするということはまだ流石に無いだろうが、それでも大変な訓練であることには変わりない。

 

ㅤヒーローとはただヴィランを倒す者に非ず。

ㅤ人を救って初めてヒーローと呼べるのだ。

 

 

「バカかぁ! これこそヒーローの本分だぜ!? 腕が鳴るぜ俺は!」

 

「水難なら私の独壇場ケロケロ」

 

「おい、まだ途中」

 

 

ㅤギロ、と相澤に睨まれて皆は黙る。

ㅤそれはともかく、今日の授業ではコスチュームの着用は各々の判断に任せるという。

ㅤ中には活動を限定する類のものもあるだろうから、と言う相澤であったが、前回の戦闘訓練でボロボロにしてしまった緑谷以外は全員コスチュームを着ることになった。

 

ㅤ緑谷は体操服と、買い直したというプロテクターを着けた程度だったが、雄英の体操服は一般的な体操服と比べると頑丈なつくりをしているので問題ないだろう。

 

 

ㅤというか救助訓練を行うは良いが、どこでやると言うのか。まさかただのグラウンドで負傷者役と救助者役に分かれての三文芝居をする訳でもなかろう。

 

ㅤ俺たちが抱いたそんな疑問に相澤は、『離れたところにある訓練場でする』と端的に答えた。なんとバス移動らしい。一応学校の敷地内にあるらしいが、どんだけ雄英広いんだよ。

 

 

ㅤコスチュームに着替えて準備をぱぱっと済ませた俺たちは、校舎を出て既に下に停車してあったバスの前に集まった。

ㅤ名実ともに学級委員長へ就任した飯田が、ホイッスルを鳴らして『1-A集合!!』と俺たちに呼びかける。まるで水を得た魚のようだ、もう既にフルスロットルである。

 

 

「救助訓練か。お前の本領発揮やな」

 

「がんばるからちゃんと見といてな」

 

「はいはい」

 

 

ㅤこのクラスで最も救助に長けた個性の持ち主といえば、それはお茶子だ。無重力を使えば瓦礫の除去だって重機はいらないし、要救助者の搬送も容易い。前者は俺にも出来るが、搬送に関しては個性を使わず自力でやるしかないので、今回の授業はお茶子に分があるだろう。

 

ㅤ本人が1番それをわかっているので、お茶子はフンフンと意気込んでいる様子だった。

 

 

ㅤ相澤に先導されてバスに乗り込む。バスの内部は、いわゆる市バスのような座席であったので、空いているところにそれぞれ適当に座った。飯田は高速バスのようなシートを想定していたようだが、スムーズに座れるように番号順に二列で並ぼうという彼の呼びかけは意味なかった。

 

 

「こういうタイプだった! くそっ!」

 

「イミなかったなー」

 

 

ㅤ悔しがる飯田をよそに、バスはゆっくりと発進する。

ㅤというか誰が運転しているのだろうか。まさか相澤ではないだろうな、と気になった俺は運転席を遠目から見た。そこに居たのはまさかのロボットである。やけにチープな外観のそいつは、しっかりとハンドルを握って運転していた。

 

ㅤロボットに運転させるくらいなら自動運転にしておけばいいのに、ほんと雄英は変なところで技術力を発揮する。

 

「なあなあ千重波」

 

「あん?」

 

ㅤ肘をついてボケーっとスマホをいじっていると、隣に座る瀬呂がコソコソと話しかけてきた。訝しげに彼を見ると、小さな声で耳打ちしてくる。

 

 

「このクラスの女子、可愛い子多くね。特に八百万とかさ、胸デカイし美人だし」

 

「……」

 

 

ㅤブルータスお前もか。峰田・上鳴マインドは感染するものなのだろうか。そんな下ネタには興味ありませんみたいな顔しておいて、サラッと会って間もないクラスメイトの胸に言及するあたり、こいつも年頃の男子というわけだ。

 

 

「それ本人には言うなよ」

 

「わかってるよ、峰田と一緒にするな。……で、お前は誰が可愛いと思う?」

 

ㅤせっかく話しかけてくれるのに”興味無い”と一蹴するのもどうかと思ったので、一応真面目に考える。

ㅤこのクラスの女子の顔面偏差値は高い。失礼ながら、中学の頃の同級生たちよりも遥かに整った顔立ちをしている。八百万、耳郎、葉隠、芦戸、お茶子、梅雨ちゃん──なお一名、顔面どころか体全体が透明で見えない奴もいるが。

 

ㅤ今は自分がより強くなることの方が大事なので、恋愛やら異性がどうのとか考えたこともなかった。

 

 

「んー……分からん。全員可愛いんじゃね」

 

「えぇー! それはねぇよ千重波! 優柔不断は男らしくねぇって切島に怒られるぜ?」

 

「んな事言われたってなぁ」

 

 

 

ㅤ瀬呂との雑談に花を咲かせて進むバスの中、緑谷の隣にちょこんと座っていた梅雨ちゃんが口を開いた。特徴的な声色なので、彼女の声は最後列に座る俺の方にも聞こえてくる。

 

 

「わたし、思ったことなんでも言っちゃうの。緑谷ちゃん」

 

「あっ、はい!あッ、蛙水さん」

 

「梅雨ちゃんと呼んで」

 

「は、はい! 梅雨ちゃん」

 

 

ㅤそれにしても、なぜ緑谷はあんなに女子耐性がないのだろうか。爆豪が事ある毎に「クソナード」と呼んでいることから何となく彼の中学時代の生活は察しがつくが、あいつの対女子メンタルからして手でも握られたらそのまま溶けて消滅しそうな気がしてくる。

 

 

「あなたの個性、オールマイトに似てる」

 

「──!!! そそそそそうかな、いやー、でも僕はその」

 

 

ㅤオールマイト、という単語に俺の前の席に座る轟がピクリと反応した。

 

ㅤそういえば今朝初めて知ったのだが、轟はあのナンバー2ヒーロー〈エンデヴァー〉の息子らしい。隣のクラスのやつがそう話しているのを偶然聞いた。

 

ㅤエンデヴァーがオールマイトを敵視していることは割と有名なので、彼の息子である轟も梅雨ちゃんの言葉には思うことがあるようだ。まるで興味無いみたいな雰囲気出しているが、真後ろにいる俺から見ると聞き耳立てているのが丸わかりである。

 

 

ㅤオールマイトと似ている、か。緑谷のあの超パワーはたしかに彼を彷彿とさせる。今日日、増強型個性は幾多とあるが一撃でビルを使えなくするほどの威力のものなんて、それこそオールマイトくらいしか俺は知らない。

 

ㅤだが──、

 

 

「待てよ梅雨ちゃん。オールマイトは怪我なんてしねぇし、似て非なるアレだぜ?」

 

 

ㅤ切島の言う通り、オールマイトはビルをパンチしたところで切り傷のひとつも出来やしない。実技試験然り、個性把握テスト然り、戦闘訓練然り、毎回体のどこかをぶっ壊している緑谷とは違う個性のように思える。

 

 

「しかし、増強型のシンプルな個性は派手でいいな! 出来ることが多い!!……俺の硬化は対人じゃあ強いけど地味だからなー」

 

「ううん、そんな事ないよ! 僕はすごいカッコイイと思うし、プロにも十分通用する個性だよ!」

 

「僕のネビルレーザーは派手さも強さもプロ並み」

 

 

ㅤ個性使って腹ぶっ壊すプロなんて見たことないが。

ㅤ同じことを芦戸に言われて、青山はズンと沈んだ。だがそういうデメリットを抱えつつも、雄英に合格した彼は何気に凄いと思う。

 

 

「まぁ、派手で強いっていったらやっぱり轟と爆豪、それと千重波だな!」

 

「おー、さんきゅ」

 

「ケッ」

 

「…………」

 

 

ㅤ切島の羨ましがるような褒め言葉に手を振って返す。爆豪は悪態をつき、轟はそもそも聞いているのかどうか分からなかった。二人とも俺より強いくせして協調性というのがまるで無い。あはは……と苦笑いをする緑谷たちだったが、そこに梅雨ちゃんがぶっ込んだ。

 

 

「爆豪ちゃんはキレてばっかりだから人気出なさそ」

 

「同意」

 

「ンだとコラ出すわ!!あとてめぇは黙ってろ水野郎!」

 

「ほら」

 

 

ㅤキレ散らかす爆豪を指さしてそう言う梅雨ちゃんの胆力は素晴らしい。俺でもちょっと怖いと思うのに、平然と彼を煽る梅雨ちゃんの精神性は俺も見習いたい。

 

 

「この付き合いの浅さでクソを下水で煮込んだような性格しているって認識されてるのがスゲェよ」

 

「テメェのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!」

 

「ボキャブラリーなんて難しい言葉よく知っとんな」

 

「アァ!?」

 

 

ㅤていうか耳郎はなんでそんな奴の隣に座ろうと思ったのだろうか。俺は爆豪がその席に座った時点で距離取ろうと思ったのに。

ㅤ立ち上がって怒鳴る爆豪を迷惑そうに避けている彼女の背中を見ながら爆豪を煽ると、矛先がこちらに向いた。ギリギリと睨み付けてくる彼に、隣の瀬呂が「顔ヤバ」とドン引きしながら呟く。

 

 

「もう着くぞ、いい加減にしろ」

 

「「「はい!」」」

 

 

ㅤそんな低俗な争いを繰り広げていると、先頭に居た相澤から注意された。それで溜飲が下がったのか、舌打ちをしながら爆豪は座り込んだ。

 

 

 

ㅤバスを降りると、そこにはドーム型の大きな建物があった。先を進む相澤の後ろに続いて中に入ると、目に広がったのはだだっ広い内部に点在する施設の数々。

ㅤてかあれウォータースライダーやん。間違えて俺たち遊園地来たんか?と思ったのは俺だけじゃないようで、「すげー!! USJかよ!?」と切島たちが騒いだ。

 

 

「水難事故、土砂災害、火災……あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場です」

 

 

ㅤ”その名も、ウソの災害や事故ルーム(U S J)”。

 

ㅤ中に入った俺たちを迎えたのは、宇宙服のようなコスチュームに身を包む一人の教師だ。誇らしげに施設を紹介するこの人に、緑谷とお茶子が興奮したように湧き上がった。

 

 

「スペースヒーロー〈13号〉だ! 災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーロー!!」

 

「わー!私好きなの13号!」

 

 

ㅤていうかUSJって、商標権とか大丈夫なのだろうか。一体いつから雄英は治外法権を与えられた?

ㅤ大阪人に文句言われそうな名前をこの施設につけた13号が、どうやら今回のヒーロー基礎学で同行する三人の教師の内の一人らしい。そう言った割にはオールマイトの姿が見えないが、彼はどこで何をしているのだろう。もう授業は始まるというのに。

 

 

「皆さん、始める前にお小言を一つ、二つ、三つ……いや四つ」

 

「増えとるやんけ」

 

「シッ!」

 

「皆さんご存知かと思われますが、僕の個性は〈ブラックホール〉。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまう個性です」

 

 

ㅤ昔からお茶子がよく話していたので当然知っている。13号が災害救助で高い評価を世間から得ているのは、その個性あってのものだ。どんな災害からも人を救い上げる個性──緑谷の言葉に、うんうんとお茶子が頷いた。

 

 

「──しかし、人を簡単に殺せる個性でもあります」

 

 

ㅤ人を殺せる個性。13号の放った強い言葉に、弛緩していた空気に緊張が走った。吸い込むだけで何でもチリにする。それは言ってしまえば人さえもその対象になるということ。もちろん、13号がやろうと思えばという枕詞がつくが。

 

 

ㅤ当然、俺の個性だってそうだ。

ㅤ〈大波〉は水を生み出す、そして操る個性だ。言葉にしてみればただそれで終わるが、操りようによっては容易く人を殺せる。たとえば入試の時にやったように、ウォータージェットカッターを模した極細での高速噴射はロボットの装甲やコンクリートだって簡単に貫ける威力がある。

 

ㅤそれを人に対して使うなんてあまり考えたくは無いが、そういう攻撃力があるという自覚はしっかりと持たなければならない。

 

ㅤこれはなにも俺だけじゃない。爆豪や轟、八百万、そして緑谷だって個性の扱いようによっては簡単に殺人ができてしまう。お茶子の無重力にしたって、何十メートルか空中に浮かせて解除してしまえばそいつはそのまま落下死してお陀仏だ。

 

 

ㅤ一人一人がそういう”行き過ぎた”危険な力を持っている時代が、いまの超人社会である。世界各国が無政府状態となった百数十年前の超常黎明期の惨禍を、二度と繰り返してはならない。世界終末時計が創設されて以来初めて10秒をきったあの日を、人類はまだ強く記憶している。

 

ㅤ日本を含めた多くの国の政府が個性の使用を資格制にし、個性の無許可使用を法で厳しく規制しているのはそういう理由があるからだ。

 

ㅤヨーロッパの個性学権威エラ・イヒトの『もしも超常黎明期がなかったら人類は今頃、恒星間旅行を楽しんでいただろう』という言葉が、文明を丸々一世紀停滞させたあの超常黎明期の凄まじさを物語っているだろう。

 

 

「皆さんは、相澤さんのテストで自分のポテンシャルを知り、オールマイトの戦闘訓練で個性(ソレ)を人に向ける危うさを体験したかと思います」

 

 

ㅤ今回の授業では心機一転し、人命の為に個性をどう活用するのかを学ぼう、ということらしい。

 

ㅤ13号は続けて俺たちに語りかける。

ㅤ”君たちの持つこの力は、人を傷付けるためにあるのではなく、助けるためにあるのだと心得て帰りなさい”と。

 

 

ㅤそう締めくくった13号に、盛大な拍手が送られる。ブラボーと叫ぶ飯田がうるさかったが、俺はこの教師に対して強い感銘を覚えていた。

 

ㅤ内心気付いていながらも、深く考えることのなかった事柄を突いてきた13号。日本最高峰たる雄英で教鞭を執るこの人もまたプロヒーローの一人であるのだと、再認識させられた。

 

 

「……カッコイイなぁ」

 

ㅤオールマイトへの憧れとは別で、13号を始めとしたプロヒーローそのものに対するリスペクトが増す。いつか俺もこうなりたいと思えるほどには、13号の語りには説得力があった。

 

 

ㅤそんな俺たちの様子を柵にもたれかかりながら見ていた相澤が、手を叩いて注目を集める。

 

 

「そんじゃあまずは…………?」

 

 

ㅤ合理主義を重んじる彼にしては珍しく、相澤は途中で言葉を止めた。綺麗な噴水のある広場を振り返って、そちらを見たまま固まって動かない。

 

 

ㅤ噴水の水が揺れた。ここは屋内で、風は吹いていないのに──それを見て妙な胸騒ぎがして、俺は反射的に近くにいた尾白と葉隠の二人の腕を引っ張った。

 

 

「? どうしたんだよ、いきなり」

 

「千重波くん……?」

 

「おいおい、マジかぁ……!?」

 

 

ㅤ訝しげに俺を見る二人に返事をする余裕はなかった。

ㅤなぜなら、噴水の前に突如として黒い霧のようなものが現れたからだ。

 

 

「ひとかたまりになって動くな!! 13号、生徒たちを守れ!!」

 

 

ㅤ黒い霧の中からゆっくりと出てきた、全身を手で覆ったような男と目があった俺は思わずその雰囲気に気圧された。ぎゅ、と尾白と葉隠の腕を掴んで無理やり背後に回す。

 

 

「な、なんだよアイツら!?」

 

「また入試の時みたいに始まってるパターン……だよね?」

 

「二人とも、俺から離れんなよ」

 

 

ㅤ俺は腰を落として、いつでも攻撃を仕掛けれるように腕を構えた。手の男を筆頭にぞろそろと現れたあの集団は、入試の時の仮想ヴィランとは違う。

 

ㅤあれは──、

 

 

「あれはヴィランだ!!」

 

 

ㅤ本物の悪意。

ㅤ今まさに人を救うための授業を受けようとしていた俺たちの前に、人を害する者たちが一斉に現れたのだ。

 

 

「13号に、イレイザーヘッドですか。先日頂いた教師側のカリキュラムではここにオールマイトが居るはずなのですが」

 

「やはり先日のクソ共はお前らの仕業だったか」

 

 

ㅤチッ、と憎々しげに舌打ちをした相澤の姿はこれまでとは違った。普段は首に落としているゴーグルをはめて、彼は捕縛布を力強く握る。

 

ㅤ相澤の苛立った様子からして、葉隠の言うような雄英側がセットアップした状況では無いことは火を見るより明らかだ。

ㅤ俺は背後の二人を庇うように手を広げた。額から冷や汗が地面に滴り落ちる。

 

 

「どこだよ……〈平和の象徴〉。せっかくこんな大衆引き連れてきたのにさぁ──」

 

 

ㅤ”子供を殺せば来るのかな?”。

 

ㅤその言葉に込められた途方もない悪意を感じ取った俺は、即座に個性を発動して水を放った。

 

 

「千重波!?」

 

 

ㅤ瞬時に出せる最高出力。レーザーの如く放たれた水の噴射は、突然の緊急事態への動揺から軌道が逸れてしまい、主犯格と思しきヴィランの足元に着弾した。

 

ㅤガン!という轟音と共に瓦礫と水が散る。

 

 

「っぶねぇ……いきなり攻撃かよ、ヴィランには話す暇も与えないってか?さすがヒーローの卵だな」

 

 

ㅤ少しよろめいたヴィランは首を掻きながら俺を睨みつける。彼我の距離も当たるであろう軌道も、今ので何となく分かった。次は必ず当てる。

 

ㅤそう考えて再度攻撃を加えようとしたところ、相澤から「やめろ、千重波!」と制止された。

 

 

「けど先生!」

 

「それをやるのは俺の仕事だ、勝手なことをするな。ったく……終わったら説教だからな」

 

「ぐ……」

 

 

ㅤジロ、と見られて俺はたじろいだ。

ㅤ戦闘の許可が降りていないにも関わらず個性を使っての攻撃なんて、説教されて当然の行動である。袖をバッと掴んだ尾白のおかげで、俺は一旦落ち着いた。

 

「13号先生、対侵入者用のセンサーは!?」

 

「もちろんありますが……!」

 

「現れたのはここか、あるいは学校全体か……何にせよセンサーが反応しないなら、向こうにそういうこと出来る個性(ヤツ)が居るってことだ」

 

 

ㅤつい先程までヴィランが現れる予兆はなかった。もしもセンサーが反応していたら相澤や13号の反応もいくらか早かっただろう。にも関わらず、未だセンサーは反応していない。

 

 

ㅤ轟は冷静に俺たちの置かれた現状を推測する。

 

ㅤUSJという校舎と離れた隔離空間、そこに少人数(クラス)が入る時間帯。何らかの目的があって用意周到に準備された奇襲──バカだがアホじゃない、と轟は呟いた。

 

 

「避難開始!! 13号、学校に連絡!」

 

「分かりました!」

 

「センサーの対策も頭にあるヴィランだ。電波系のヤツが妨害している可能性があるな……上鳴、お前も個性使って連絡試せ」

 

「っす!」

 

 

ㅤそう命令して、相澤はただひとり前に進んだ。13号に俺たちの避難を任せたということは──。

 

 

「先生は!? ひとりで戦うんですか!? あの数じゃいくら個性を消すっていっても……!」

 

 

ㅤ相澤、いやイレイザーヘッドの戦闘スタイルは個性で個性を消してからの捕縛。正面戦闘は……、と言い淀む緑谷に対してイレイザーは『一芸だけじゃヒーローは務まらん』と返した。

 

 

「13号、任せたぞ!」

 

「先生!」

 

 

ㅤ布を解いて階段を一気に飛び降りたイレイザーは、ヴィランたちに単身突っ込んで行った。

 

ㅤ”大マヌケ!”と叫び個性を使って迎撃しようとしたヴィランたちだが、直後、個性を発動できないことに動揺を見せる。

ㅤその隙をついて、イレイザーは捕縛布でヴィランたちを思い切り持ち上げてぶつけた。大マヌケは奴らの方だったらしい。真っ先に無力化された奴らに、相手のヴィランが馬鹿野郎と叱責する。

 

 

「あれは見ただけで個性を消すイレイザーヘッドだ! 無闇矢鱈に突っ込むな!!」

 

「消すぅ……? 俺みたいな異形型も消せんのか?」

 

「いやムリだ、発動系や変形系に限る──が、お前らみたいなやつの旨みは近接戦闘で発揮される」

 

 

ㅤ嘲るように向かってきた異形型のヴィランを、イレイザーはものの一瞬で倒した。伸びた捕縛布に捕まった彼は、ドガァッと他のヴィランたちの方に叩き付けられる。

 

ㅤ一芸だけじゃヒーローは務まらない。その言葉通り、イレイザーはしっかりとその辺の対策も取っていたのだ。

 

 

「すごい……! 多対一こそ先生の得意分野だったんだ!」

 

「分析している場合じゃないぞ緑谷くん!早く避難を!!」

 

 

ㅤ13号に誘導されて、俺たちはドタバタと出口に駆け出した。こんなとき俺がもしもヒーローの資格を持っていたら、イレイザーを置いて避難するなんてことしなかったのに。そもそも最初の軌道ミスさえなければ、あの1番ヤバそうなヴィラン一人くらいは無力化出来たのに。

 

ㅤそんな歯痒い思いを抱きながらも、俺は先生からの命令には従わざるを得なかった。

 

 

「あと少しで出口ですっ!」

 

「──させませんよ」

 

 

ㅤゾワ、と現れたのはあの黒い霧だった。誰か転移系の個性を持っているとは思っていたが、まさかこの黒い霧そのものがヴィランだったとは予想外だ。

 

ㅤ立ち止まる俺たちを前に、黒い霧のヴィランは余裕の姿勢を崩さない。

 

 

「初めまして、13号とヒーローの卵。我々は敵連合……僭越ながら、この度ヒーローの巣窟”雄英高校”に入らせて頂いたのは平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでしてね」

 

「……は?」

 

 

ㅤ轟はバカだがアホじゃねぇと言ったが、それは間違いだ。オールマイトに息絶えて頂く、ということは彼らの目的はオールマイトの殺害。

 

ㅤそんな飛び抜けて馬鹿なことをしでかす奴らをアホと言わずになんと言うのか。あっけにとられる俺たちをよそに、慇懃無礼なそのヴィランの身体が揺らめいた。

 

 

「本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるはずですが、何か変更でもあったのでしょうか? ……まあ、それとは関係なく私の役目はコレ」

 

 

ㅤ転移させる気か──そう思って個性を使おうと思った矢先に、ヴィランの前に爆豪と切島が飛び出した。ふたりは爆破と硬化による拳を同時に黒い霧のヴィランに食らわせた。

 

ㅤそして直ぐに距離を取った切島たちは、『その前に俺たちにやられることを考えなかったか!?』とヴィランに問いかける。

 

ㅤしかし、その位置はダメだ。

ㅤなぜなら二人が動いたのとほぼ同時に、13号が黒い霧のヴィランに向かってブラックホールを発動しようとしていたからである。だがその射線上に切島たちがいるせいで、13号は個性を発動出来なかった。

 

ㅤ黒い霧が広がる。

 

 

「危ない危ない……生徒といえど、優秀な金の卵。予定通り、散らして嬲り殺しましょうか」

 

 

「──尾白! 葉隠! 俺に捕まれ!!」

 

「!? わかった!」

 

「うん!」

 

 

ㅤ最も俺のそばに居た尾白と葉隠にそう叫ぶと、ヴィランの口ぶりからヤツの次の行動を悟ったらしい二人は、言う通りに俺の服に捕まった。

 

 

──その次の瞬間、視界が暗転する。

 

 

 

「ここは……くそ、あの野郎空中に放り出しやがったなクソワープがァ!!」

 

「どどどどうしよう!?」

 

「落ち着いて葉隠さん! 千重波、なんとか着地出来るか!?」

 

「任せろ! 二人とも絶対その手ェ離すなよ!!」

 

 

ㅤ為す術なく強制的に転移させられた俺たちが送られた場所は、模擬市街地のあちこちで轟々と火が燃え盛るエリアだった。そんな場所に空中から放り出されたことに、あの転移系個性のヴィランへの怒りが募る。

 

ㅤしかしそれよりも先に着地を何とかしないといけない。この高さだと間違いなく重傷になる。葉隠の個性は透明化、尾白は尻尾──この命をかけた危機的状況に対処できるのは俺しかいない。

 

 

ㅤまさに地面に衝突しようとした寸前に、水を思い切り噴射する。その勢いで一回転してしまったが、尾白が尻尾で葉隠ごと俺を掴んでいたおかげで怪我はなかった。

 

 

「……火災エリアってかぁ?」

 

 

ㅤ何とか着地には成功したが、このエリアに飛ばされたのは俺にとっては非常にマズイ。本物の火を使っているのか、空気が乾燥しきっている。ヒリヒリと肌がカサつくのを感じた。

 

ㅤこの環境では”大波”はまともに使えないだろう。俺は大気中に漂う水分をかき集めてから、有効範囲内で水を生み出し操っているのだ。しかしこのエリアは空気が乾燥してしまっている。これでは生み出せる水の量はたかがしれているだろう。

 

ㅤ着地しようとした時にはまだ落下中だったので、なんとか空中の水分を集めて水を生み出せた。だが今は、少なくともエリア外に出るまではあの程度の水も出せないはずだ。

 

「ガキが二人来たぞぉ!」

 

「殺せ殺せ!」

 

ㅤキョロキョロと火災エリアを見渡していた俺たちの周囲を、どこからともなく現れたヴィランたちが取り囲んだ。葉隠を庇うようにして俺と尾白は即座に互いに背を向けた。

 

ㅤこちらは三人、そして相手方はその倍の三十人以上はいるだろう。それに加えてこの過酷な環境も俺の敵となると、とてもじゃないが楽観視出来る状況ではない。

 

ㅤ戦闘訓練では轟に瞬殺されていたため葉隠に戦闘力があるかは分からないが、先ほど密着した時に感じた厚い胸板から察するに、尾白の方はかなり戦えるだろう。

 

ㅤそれならば心配はいらないか。

ㅤ雄英に入ってようやくスタートラインに立てたというのに、こんな所で嬲り殺されて終わるなんて死んでも死にきれない。

 

 

「尾白くん、千重波くん……わたし……!」

 

 

ㅤヴィランたちは葉隠のことは認識出来ていないようだった。あの黒い霧のヴィランは教師側のカリキュラムを盗んでいたらしいが、その様子からするに俺たちの個性までは知られていないのだろうか。

 

ㅤ葉隠は、か細い声で俺たちの名前を呼んだ。ヴィランから目を離す訳にはいかないのでよく分からなかったが、彼女は明らかに恐怖で震えている。

 

ㅤだが、それを責める理由は一切ない。葉隠もついこの間まで中学生だったのだ。むしろ彼女の方こそ正常な反応で、物怖じせず戦おうとする俺たちの方が異常である。

 

ㅤけど、目まぐるしく変化する状況にまだ理解が追い付いていないのは俺も尾白も同じ。

 

ㅤそれでも尚戦おうとしているのは、”こんな所で野垂れ死にたくはない”という決意──そして何よりも、本物の悪意をこちらに向けるヴィランを前に、震えるクラスメイトの女の子を傷付けさせたく無いというくだらない男の意地だ。

 

 

「心配しないで、葉隠さん。俺たちにはあの千重波がいるんだぞ? きっと大丈夫さ」

 

「で、でも……」

 

「ははっ、アホか。そこは”俺がいるから大丈夫”くらい言えや、平凡くん」

 

「平凡クン!? 」

 

 

ㅤどうせカッコつけるなら見栄を張ればいいのに。だから尾白だけこの個性的な人間の多いA組での印象がやけに薄いのだ。

 

ㅤ妙に自己評価が低いというかなんというか……火災エリアという環境要因により個性を満足に扱えない俺よりも、肉弾戦の強そうな尾白の方がよほど頼りになるというのに、そんな体たらくじゃ気合いが入らない。

 

 

「葉隠。あのハンマー持ったヴィランから武器を奪ったら路地裏に投げるから、あそこで隠れとけ。幸い、アイツらはお前のことに気づいていない」

 

「…………」

 

 

ㅤ何かを考え込んでいるのか、彼女は答えなかった。うんともすんとも葉隠は言わないが、ヴィランたちは今この瞬間もジリジリと包囲を狭めてきている。喜色に染った彼らの表情は、俺たちに話している余裕を与えてこない。

 

 

ㅤすう、と息を吸い込んで気合いを入れる。ここからは、ひとつのミスが命に直結する。負けるつもりはないし、死ぬつもりもない。絶対に三人で生きてこのエリアを脱出してやる。

 

ㅤそして、一刻も早く家族(お茶子)の──友達(クラスメイト)たちの元に向かうのだ。

 

 

 

「行くぞ、尾白。背中は任せた!」

 

「おう! 俺のこと平凡クンって呼んだこと後悔させてやるよ──!!」

 

 

 

ㅤヴィラン乱入という誰も予想だにしなかった波乱万丈なヒーロー基礎学の時間は、まだ始まったばかりであった。

 

 

 





はい、主人公君は尾白くん葉隠ちゃんと一緒に火災エリアにとばしました。個性の相性という課題をクリアするための今後の布石です。


そういえば、口田くんいないしと思って主人公の座席適当に口田くんのところに決めたんですが、検索してみたら普通に五十音順に並んでましたね。
五十音順に並ばせるということは主人公の席は常闇くんのところになりますが、座席関係の描写を訂正するの正直面倒くさいので、もうこのまま行きます……。
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