水で征せよアカデミア   作:わこうど。

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モンハンnowをやるために、学校終わったあと町を歩き回ったりして忙しかったので今回短い上に雑です。
昨日の夜なんて15000歩も歩いたよ、筋肉痛つらいよ……



Creeping malice

 

 

 

──目が覚めたとき、視界に広がっていたのは清潔感のある真っ白な天井だった。そして次に倦怠感を覚えて、起き上がろうと思っても身体が重くて起き上がれない。

 

 

「……?」

 

 

ㅤどこかと思えば保健室か。直前までの記憶がとんでいて、自分に何があったのか記憶には無い。身体にかけられていた白い布団をどかすと、カーテンが開いた。

 

 

「あっ、起きたんだね千重波くん」

 

「緑谷……? 足、大丈夫なん」

 

「うん、リカバリーガールが明日治してくれるって。明日は休校になったみたい」

 

「まぁあんな事があった後やし、休校は妥当か」

 

 

ㅤ隣のベッドに腰掛ける緑谷の手足には包帯がグルグルと巻かれていて、見ていて痛ましかった。

ㅤ俺の身体の方はというと、戦闘の際に出来た擦り傷などに絆創膏が貼ってあるくらいだ。あと背中に負った火傷の処置のためか、ベッドの上に氷嚢がいくつか敷かれていた。妙に冷たかったのはこれのせいらしい。

 

 

「みんなは? あの後どうなったんや?」

 

「相澤先生と13号先生と尾白くんが病院で、僕と千重波くんが保健室に運ばれたんだ。尾白くんは頭に異常ないか検査するだけだから明日退院するみたいだけど」

 

「そりゃあ良かった」

 

「うん。あと、他の皆は軽傷で済んだらしい。もちろん麗日さんも無事だよ」

 

「……まだ何も言ってないが」

 

「はははっ、顔に出てるよ。千重波くんって案外分かりやすいんだね」

 

 

ㅤそんな顔に出るタイプだったかな、俺って。

 

 

「そういやリカバリーガールは?」

 

「さっきオー……じゃなくて! 八木さんっていう事務員の人と出て行ったよ。すぐに戻ってくると思う……少し休んだら帰っててもいいって言われたけど、千重波くん一人残すのもなって思って待ってたんだ」

 

「お、おう、ありがとう」

 

 

ㅤていうか八木って誰やねん。初めて聞いたわそんな人。

ㅤリカバリーガールには一応お礼をしておきたかったが、居ないなら仕方ない。眠気が覚めるまであと少し休もう。

 

 

「ていうか緑谷お前さ、いきなり飛び出すのやめろよな。最後の心臓止まるかと思ったわマジ」

 

「ご、ごごごめん! あの時はもう他に気が回ってなくて……その、何とかオールマイトを助けなくちゃって思って、それで!」

 

「いや落ち着けって、別に責めてる訳やないし。むしろ──」

 

 

ㅤむしろカッコイイな、って思った。なぜならあの背中は俺が理想としている姿そのものだったからだ。オールマイトをも助けるヒーローになるという夢が、俺以外の誰かによって叶えられた瞬間を俺は確かに目にした。

 

ㅤその時抱いたのは悔しさでも戸惑いでもなくて、幼時にオールマイトに助けられた”あの日”に感じた憧憬だった。

 

ㅤしかしその言葉を緑谷に伝えようと思った途端、素直に心情を伝えることへの恥ずかしさが湧いてきて、俺の口は固まってしまった。

 

 

「千重波くん……?」

 

「何でもねぇ。長居するのもあれだし、さっさと帰るか」

 

「あっ、うん」

 

 

ㅤ戸惑いながらも慌てて自分の荷物をまとめる緑谷を横目に、俺もベッドからおりて、近くの椅子にかけて合ったコスチュームを手に取った。

 

ㅤあの時の炎のせいで、背中の部分が焼け落ちていた。ズボンの炎で破れていて、とてもじゃないが修繕しないと使える有様ではない。まだほとんど着ていないんだけどな、とボロボロになったコスチュームを見ていると、後ろから緑谷が覗き込んできた。

 

 

「コスチューム……もう使えなさそうだね」

 

「ああ、サポート会社に連絡しねぇとな。流石にこれじゃあみっともない……そうだ緑谷、少し相談に乗ってくれないか」

 

「相談?」

 

「おう。コスチュームの機能面なんやけど、もし改善した方がいい部分があったら申請する前に考えときたくてよ。緑谷ならそういうの詳しいやろ? よかったら一緒に考えてくれねえか」

 

「! いいの!?」

 

「食いつき早」

 

 

ㅤお茶子は緑谷のことをヒーローオタクとか言っていた。

ㅤそれが本当なら俺以上に色んなヒーローのことを知っているだろうから、頼れるところは頼ろう。それに、メディア露出がほとんどない相澤を見てイレイザーヘッドと認識できるくらいには造詣が深いようだし。

 

ㅤどこから出したのか、やけに使い古された大学ノートをペラペラとめくって自分の世界に入ってしまった緑谷にデコピンをする。あぐ、と仰け反って彼は額を抑えた。

 

 

「はっ、ごめん! ついクセで……」

 

「良いよ。んじゃま帰るか。さっさと風呂入って寝てえし」

 

「あっ、でもリカバリーガールが今日はお風呂入っちゃダメだって言ってたよ。まだ火傷治してないからって」

 

「チッ……ん?」

 

 

ㅤPrrrrと携帯の着信音が鳴った。ポケットから取り出して画面を見ると、そこに表示されていたのは”母”の文字。一緒に保健室を出て隣を歩いていた緑谷に一言断って、俺はその電話をうけた。

 

 

「もしもし」

 

『あ! 良かった! ようやく繋がったわ〜もう! 雄英がヴィランに襲撃されたってニュースでやってたけど、アンタは大丈夫なん!? お茶子ちゃんからアンタ気絶して運ばれてったって聞いたんやけど』

 

「寝起きにうっせぇなぁ。ピンピンは……してないけど、別に病院運ばれるほどやないし、大丈夫やって」

 

『本当? 本当に何も無いん?』

 

「ないって。少し擦り傷がある程度や」

 

 

ㅤ自分の容態を伝えると、はぁぁぁと電話の向こうから母の大きなため息が聞こえてきた。

 

 

「なんやねん」

 

『あんまりウチらに心配かけさせんでや、ほんと。海外でも報道されてたみたいやし、お父さんしばらくしたら様子見に帰ってくるみたい』

 

「親父が? 外相会談で忙しくなるとか言っとらんかったっけ」

 

 

ㅤ外交官として欧州の在外公館に務めている俺の父親は、もうここ何年か日本に帰ってきていない。だからこれまでは二週間に一度、ビデオ通話で互いの近況報告をしていた。

 

ㅤやれ上司がウザイだの、超絶綺麗な白人美女とパブでクラフトビールをしこたま呑んだだのくだらない話題ばかりだったが、再来週あたりに控えている外相会談の準備で色々忙しいと聞いてからはメールでの報告に留めていた。

 

ㅤそんな親父が帰ってくる、と聞いても「ほーん」としか思えない。どうせすぐあっちに戻るし、そもそも日本に帰ってきたところで酒飲んでダラダラ過ごしているだけだろう。

 

 

『お休み貰えたみたいよ。まあとにかく、あんたに何も無いなら良かったわ』

 

「……切るぞ」

 

『あ、待って。ちゃんとお茶子ちゃんに電話返してやりな。さっきまで私と話してたんやけど、ずっと元気なさげやったから』

 

「ん、わかった。じゃまた」

 

 

ㅤ電話を切る。そこで画面を見て初めて気付いたのだが、色んなやつからめっちゃ通知が来ていた。

 

ㅤクラスメイトたちからは基本メールで、『起きたら連絡してくれー』とか『大丈夫?』みたいな有り難い内容が多かった。また、お茶子の両親からも来ていて、その文面からはやはり俺を心配してくれているのが伝わってくる。

 

ㅤいちばん怖いのはお茶子だ。

ㅤ数分前に来ていたらしい不在着信が数件と、端的に『起きたらかけて』とだけ送られてきたメッセージに、俺は電話をかけ直すのが億劫になった。十中八九、緑谷と一緒にオールマイトの所へ行った際のことを叱られるだろう。あの行動に後悔はないが、アイツは怒ると怖いので今あんまり話したくない。

 

 

「今のって千重波くんのお母さん?」

 

「そう。心配かけんなって怒られたわ」

 

「あはは……」

「緑谷は? 親になんか言われたか?」

 

「怒られはしなかったけど、僕も似たような感じだったよ。お母さんもう大泣きで大変だった」

 

「まあ泣くわな。息子がボロボロになって保健室運ばれたなんて聞いたら」

 

「そう、だね……あんまり心配はかけたくないんだけど」

 

 

ㅤ俺はどちらかといえば軽傷で済んだが、怪我の度合いでいえば緑谷の方が酷い。しかしこんな状態でもリカバリーガールの力なら1日あれば完治できるというのだから、やはり雄英の屋台骨はすごい。

 

ㅤさっさと風呂入りたいし、朝イチに学校来て彼女の治療受けようかなと決めていると、あっという間に俺と緑谷は昇降口についた。外を見れば日は既に沈みかけていて、空は綺麗なオレンジに染まっている。

 

ㅤ校門前にはパトカーが数台停まっていた。車内には誰もいなかったので、USJの現場検証と先生方からの事情聴取をしているのだろう。あんな事件があったばかりだというのに、彼らも大変だ。

 

 

「駅までは一緒だったな、そういや」

 

「うん。千重波くんってたしか麗日さんと家近いんだよね?」

 

「ん? ……そう、近い」

 

 

ㅤ近いというか同じ空間で生活しているのだが、それは言わない方がいいだろう。どこで誰が聞いているか分かったもんじゃないし。というか何気に緑谷と一緒に帰るの初めてなんだが、二人揃って保健室帰りとはなんとも締まらない。

 

 

ㅤ人気の少ない駅までの通学路を、緑谷と並んで歩く。

ㅤ彼との道中の会話はやはりUSJを襲撃したヴィランについての話題が占め、緑谷が”敵連合”と名乗った彼らの目的や今後の動向を推察しているのを俺は隣で聞いていた。

 

 

「これで一件落着って訳にはいかなさそうだよね。主犯の二人はまだ捕まってないし、スナイプ先生から受けた銃創と千重波くんが折った骨が治ったら、奴らまた雄英に何か仕掛けてくるかも……」

 

「やだなぁ、それ。当たって欲しくない予想や」

 

「で、でも、きっと先生たちなら何とかしてくれると思うよ! 今回だって僕たちはヴィランたちの奇襲を生き残ったんだ。間違いなくこの経験は今後の糧になるはずだ」

 

「……せやね。足りないことがあまりにも多かった。それをこんな早くに自覚出来たことだけはアイツらに感謝するか」

 

「足りないこと?」

 

「実力と経験。そのどっちも俺たちはヒヨっ子でしかなかったっつーこと」

 

 

ㅤヴィランの悪意をこんなに早い時期に経験したヒーロー候補生なんて、日本広しといえど俺たち雄英1-Aの連中くらいだろう。そのおかげと言うのもあれだが、今の自分にどんなものが欠けているのか理解出来たのは間違いなく僥倖だ。

 

ㅤ夢を叶えれる場所にいたのに、夢を叶えられなかった悔しさを絶対に忘れてはならない。今日俺は本当の意味で、ヒーローを目指すスタートラインに立てたのだろう。

 

 

「……うん、そうだね。千重波くんの言う通りだよ。僕たちはまだ未熟だった。でもきっと、これから強くなれるはずなんだ。今度はもっと強くなって、あのヴィランたちが来ても無傷で倒せるように、誰にも心配をかけないくらいにさ」

 

「そうやな。うん、俺たちならきっとそうなれる」

 

 

ㅤ決意を新たに、俺と緑谷は駅で分かれた。

 

ㅤ夕刻の電車の中は学校終わりの高校生やサラリーマンなどで多く、俺はドア近くにもたれかかってスマホを弄っていた。

 

ㅤクラスメイトたちからのメールに返信したり、USJ襲撃に関するネットニュースを見ていると、あっという間に時間は過ぎて俺は目的の駅に着いた。

 

ㅤ電車を降りて駅から出ると、外は既に暗くなり始めていた。ゆっくりと沈んでいく日がマンションの隙間から見えて、思わず写真を撮ってしまった。その画像を風景写真をまとめているフォルダに入れながら、自宅に向かって歩く。

 

 

ㅤ街頭が照らす住宅街の生活道路をしばらく進むと、愛しの我が家が見えてきた。帰宅時間は普段よりも少し遅い程度でしかないのに、やけに疲れを感じるのはやはりUSJでの戦闘の後だからだろうか。

 

ㅤとにかく背中と足がヒリヒリと痛む。氷嚢って置いてあったかな、と考えながらアパートのドアの前に立った。お茶子はもう帰っているらしいが、あんな事があったばかりだし、もう寝ていてもおかしくは無い。

 

ㅤ鍵をカバンから取り出して、ゆっくりとドアを開けた。ギィィと丁番が軋む音に顔を顰めつつも、靴を脱いでリビングに入ると、机に突っ伏しているお茶子の背中が目に入った。

 

 

「お茶子?」

 

「…………」

 

 

ㅤ声をかけても返事がなかったので近付いて覗き込むと、どうやら彼女は寝ているらしかった。画面のついたままのスマホを片手に、お茶子は寝息を立てている。

 

ㅤ網戸が空いていて、部屋の中には日の入り後の冷たい春風が通り抜けている。いくら春とはいえ、このまま風に当たり続けていたら風邪を引いてしまうかもしれない。お茶子を起こさないように横抱きにして、そのまま彼女の部屋のベッドに降ろす。

 

ㅤよほど疲れているのか、多少動いても目を覚ます気配はない。布団を掛けてやると、彼女はぐうすかとよだれを垂らして熟睡を始めた。

 

 

「ったく……寝るなら寝ればいいのに」

 

 

ㅤこの分だと飯も食べていないだろう。明日の朝食は多めに作ってやるか、と決めてリビングに戻る。

 

ㅤたしか餅がいくつか残っていたはずだ。お茶子のものだが、まあ二つ三つ食べても文句は言われないだろう。トースターに突っ込んで、スマホを弄りながら焼けるのを待つ。

 

ㅤあれだけ動いた後だというのに、あまり腹は空いていない。きっと気疲れの方が多いのだろう。食欲よりも眠気が勝るが、なんも腹に入れないで寝てしまうと真夜中に目が覚める。

 

 

──速報:雄英高校にヴィランが襲撃!? 73名の大量検挙も主犯は逃亡か?

 

 

ㅤどこもかしこもネットニュースは今日のUSJ襲撃事件ばかり取り上げている。学校にヴィランが現れるだけでもセンセーショナルな内容だというのに、その場所が全国的に知られている雄英高校であるから余計に世論は騒ぎ立てている。

 

ㅤオールマイトの雄英赴任のニュースが出回って時間も経っていないというのに、またマスコミ連中が校門に押しかけてくるのだろうと思うと憂鬱な気持ちになる。流石にあんなことがあったばかりだし、敷地外とはいえ何かしら報道陣に対する規制はかかるだろうけども。

 

 

ㅤ兎にも角にも、誰も死なずにヴィランの襲撃を乗り越えれたということに安心する。ジジイに拘束されて気絶した尾白も問題ないようだし、相澤や13号も命に別状は無いということらしいし、俺や緑谷も明日にはリカバリーガールによって全快出来るだろう。

 

ㅤ主犯格の2人は取り逃してしまったものの、73名ものヴィランを誰も欠けることなく検挙出来たのは、先生方やA組があの咄嗟の状況で最善策を取れたからだろう。これほど濃密な経験を早い時期に得たことは、これからヒーローを目指す上で必ず役に立つはずだ。

 

 

ㅤかくいう俺にしろ、多くの課題が見えてきた。

ㅤスタミナの無さ、肉弾戦の弱さ、そして何よりも火災エリアのような個性が十分に使えない状態で個性を扱えるようにするための、個性自体の強化──やるべきことは多い。

 

ㅤそれさえ克服すれば轟や爆豪にだって負けない、という確信がある。体育祭も控えているし、回復が終わり次第さっそくトレーニングに取り掛からなくては。

 

 

ㅤとりあえず今日は餅食って寝よう。

ㅤ何がともあれ疲れたし、何もやる気が起きない。明日のことは明日考えればいいし、まずはリカバリーガールの治療を受けるために体力回復に専念しよう。

 

 

「……うま」

 

 

 

ㅤ季節外れのただの安い餅なのに、中々どうして戦いの後に食べると非常に美味く感じた。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「──『死柄木』という名前や、触れたものを崩壊させる個性。2〜30代の個性登録データベースを洗ってみましたが、いずれも該当無し。『ワープゲート』の方も同様です。どちらも偽名かつ無登録の、いわゆる裏の人間であることに間違いはないでしょう」

 

「むぅ……」

 

 

ㅤ塚内直正刑事が読み上げた警察からの捜査報告書に、会議室に集まった雄英教師陣は揃って唸った。

ㅤ天下の雄英への堂々とした襲撃事件など前代未聞、ゆえに早急な真相究明と主犯格の逮捕が急がれているが、調べても何も分からないということだけが分かっただけだった。

 

 

「何も分かってねえってことか。死柄木とかいう主犯の銃創と千重波の折ったあばらが治ったら面倒だぞ」

 

 

ㅤスナイプの言葉に、主犯か……とそれまで黙って聞いていたオールマイトが意味深に呟いた。その隣に座るネズミ──もとい根津校長は険しい表情を浮かべるオールマイトに訊ねた。

 

 

「なんだい? オールマイト」

 

「思いついても普通、行動に移そうとは思わぬ大胆な襲撃……」

 

 

ㅤ続けてオールマイトは、自身が感じた手男ヴィランこと”死柄木 弔”への印象を語った。

 

ㅤヒーローとヴィラン、同じ暴力が善悪にカテゴライズされている等というそれっぽい暴論を突然まくし立てたり、死柄木自身の個性は明かさなかったくせに”脳無”の個性を自慢げに話したり、そして何よりも思い通りにことが運ばないとあからさまに機嫌が悪くなる。

 

ㅤ対ヒーロー戦において”個性不明”のアドバンテージをあえて捨てるなど愚行もいいとこだ。死柄木はヴィランとしては三流といってもいい。ただ、これに関してはオールマイトの行動を誘導するという意図があったかもしれないので一概には言えないが……。

 

 

ㅤもっともらしい稚拙な暴論や、脳無という所有物の自慢、何もかもが自分の思い通りになると勘違いしている幼稚な思考、これらを鑑みて見えてくる死柄木の人物像は『こども大人(Man-Child)』。

 

 

「力を持ったこどもって訳か!」

 

「小学時の一斉個性カウンセリング受けてないのかしら……」

 

 

ㅤ基本的に、そのような幼児的万能感は小学校において全生徒が受ける一斉個性カウンセリングで矯正される。USJにA組が着いた際に13号が言っていたように、今の時代は全員が”行き過ぎた力”を持っている。使い道を誤れば簡単に人を殺せる力を持っていることを少年少女に自覚させるのは、ひいては社会の安寧秩序を保つことに繋がるのだ。

 

ㅤゆえに一斉個性カウンセリングでは、児童一人一人ずつ専門の臨床心理や精神科医などが対談などして、幼い子供たちへ社会道徳を育成している。

ㅤこれを受けているのといないのでは、大人になってからの生き方が全く変わってくると言われている。

 

ㅤ幾多ものヴィランと相対してきた経験のあるオールマイトは、死柄木の言動からしておそらくカウンセリングを受けていないだろうと察していた。

 

 

「先日のUSJ襲撃で検挙したヴィランの数、73名。どれも路地裏に潜んでいるような小物ばかりでしたが、唯一裏社会では名の知れた大物が含まれてました」

 

「”マスキュラー”、か。まさかアイツが今になって出てくるとは」

 

「千重波くんの話では、マスキュラーの祖父であると言っていたようだけど……本人ではないんでしょう?」

 

「いいや、ミッドナイト。私世代ではマスキュラーといえば祖父の方を指す。もう何十年も行方を晦ましていたはずだが……孫の今筋強斗がマスキュラーと呼ばれるようになったものだから、てっきりもう死亡しているのかと思っていたよ」

 

 

ㅤそう語るオールマイトの脳裏には、若かりし頃に世間で騒がれていたニュースが過ぎった。

 

ㅤマスキュラーが暴れていた当時はオールマイトはアメリカ留学中であったため、ヒーローとして彼と戦ったことは無い。しかしその事件の凄惨さたるや、思わず記事を見る目を覆いたくなるほどであった。かつてのオールマイトは義憤に燃えたものだ。いつか必ず自分が捕まえてやる、と。

 

ㅤマスキュラーの悪行はオールマイトがプロヒーローになってからもしばらく続いたが、しかして彼は裏社会の闇に紛れた。

 

ㅤ全国指名手配を受けてフィリピンに逃亡したという情報が流れたが、もう何十年も表に出ていなかったため、先日のUSJ事件に現れるまで、当時を知る誰もがマスキュラーは死亡したと思っていた。

 

ㅤだが、彼は現れた。

ㅤ”古豪”とも呼ばれる裏社会の大物が、路地裏に潜むようなチンピラに混じって死柄木に従っていた。

 

ㅤこの事実が、警察やプロヒーローたちの死柄木というヴィランに対する評価を推し量れない要因となっていた。

 

 

「奴は移動式牢(メイデン)にてタルタロスへ護送される手筈となっています。両眼を負傷しているので、護送は治療が済んでからということになりますが、厳重な警備体制が敷かれているので問題は無いかと」

 

 

ㅤ千重波によって両眼を吹き飛ばされ、かつ最後の葉隠の奇襲によって頭蓋骨にヒビが入るという重傷を負ったあのヴィランは、死柄木ら主犯格の撤退後に、プロヒーローと警察によって火災エリアの模擬ビルに突き刺さっているところを発見された。

 

ㅤその後、警察病院に運ばれて現在は治療を受けている。逃亡の可能性があるため、警察による取り調べは一旦タルタロスに移送してから行われる予定となっている。

 

ㅤ他のチンピラたちとは違って、明らかにヴィランとしての別格だった彼が持つであろう情報は、死柄木ら主犯の所在や目的、計画を洗い出す重要情報となる──というのにまだ彼の意識が戻っていないので、中々捜査が進んでいなかった。

 

 

「そんな大物と対峙して、かつ倒すとは……千重波も葉隠も尾白もよくやったというべきか。この際、ヴィランを失明させたことについては仕方ないという他あるまい。戦わなければアイツらが殺されていただろうからな」

 

 

ㅤブラドキングが千重波たちを称賛した。

ㅤ何十年も前に姿を消した祖父の方はともかく、孫の方のマスキュラーは彼もよく知っている。直接戦ったことはないにしろ、ウォーターホースを始めとする何人かの同業者が殺害されているのだから知っていて当然だ。

 

ㅤそんな男と同じ個性を持ったヴィラン。

ㅤそれを入学間もない一年生が撃退し生還したとい聞いて、ブラドキングは一驚を喫した。

 

ㅤ当然、全盛期と比べれば格段と実力は落ちているだろう。かのオールマイトといえど加齢は馬鹿にならない。いくら増強系の個性であっても、70代ともなれば相応に力は衰える。

ㅤそれでもビルを容易く粉砕する膂力を維持していた彼に、新入生たちがどうやって勝てたというのか。

 

ㅤ現在知られているマスキュラーとは一応は別人だが、模擬市街地が瓦礫の山となった火災エリアの惨状を見れば、とんでもないヴィランだということはすぐに分かる。

 

ㅤそれを見事倒した三人──正確にいえば二人だが、生還したという意味では勝利といえるだろう──に、ブラドキングを始めとした雄英教師陣は称賛せざるを得ない。

 

ㅤもちろん、他の生徒たちに対してそうだ。

ㅤ身を呈して戦ったイレイザーヘッドと13号も、A組の生徒たちも、あの日あの場に居た全員が前代未聞の襲撃事件を生きて乗り越えた。

 

 

ㅤきっとA組は強いクラスになる。

ㅤそんな漠然とした確信が、教師たちの中にはあった。

 

 

「しかし往年の奴ならば、ワープしてきた時点で嬉々として生徒たちを殺し回っていただろうに……なぜ死柄木に従って一箇所に留まっていたのか理解に苦しむな」

 

「そう。問題はチンピラだけじゃなく、裏社会の大物と呼ばれるほどのヴィランまでもが、その”こども大人”に賛同して付いてきたということ──このヒーロー飽和社会、抑圧されてきた悪意はそういう無邪気な邪悪に惹かれるのかもしれない」

 

 

ㅤ”個性を持て余した人間なんていくらでもいる”。

ㅤオールマイトはいつか耳にした通行人の言葉を思い出して、眉間に皺を寄せた。

 

ㅤ溜まりに溜まった悪意は、最終的に無邪気な邪悪にたどり着いた。それがチンピラ程度ならばともかく、長年海外に逃亡していたといわれる祖父の方のマスキュラーのような、大物ヴィランまで引き寄せるのなら話は変わってくる。

 

ㅤ一種のカリスマというべきものが、死柄木に備わっている可能性が出てきた。あるいは、マスキュラーを呼び寄せるだけの優秀な指導者が裏に着いている可能性。

 

 

ㅤ”こども大人”とオールマイトは死柄木を称したが、逆説的に言えば生徒たちと同じで成長する余地があるということ。

ㅤもしも後者の可能性があるとしたら、死柄木というヴィランが今後どう成長してしまうのか──考えたくもないことだった。

 

 

 





変な終わり方しましたが、これにてプロローグ&USJ編やっと終了しました。次回からはいよいよ体育祭編です。

苦手な戦闘描写ばっかりなので投稿ペースは週一くらいになるかもなんですが、よろしくお願いします。

あと誤字報告ほんとに助かります。
投稿する前に一応ザラっと確認するようにはしてるんですが、結局誤字ばっかでぴえんぴえん。
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