水で征せよアカデミア   作:わこうど。

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久々にヒロアカ見たら面白過ぎたので、およそ一年振りの更新。
ちょっと過去のエピソード振り返ったら自分の文章力低すぎて悶絶していたので、適宜修正しつつ更新します。次回投稿は未定。


U.A. Sports Festival 2

 

 

 

 

「──それじゃあ、これから15分。チーム決めの交渉タイムスタートよ!」

 

 ミッドナイトの声が響くと同時に、競技場が一気にざわめき始める。

 

ㅤたった十五分──されど十五分。

 それだけの時間で、互いの個性の相性、立ち位置、攻撃と防御の分担、動き方のバランス、それらすべてを見極めてチームを組まなければならない。  ︎︎焦る気持ちを押し込め、俺はひとり思考を巡らせる。

 

「(……俺の持ちポイントと、仲間のポイントを合わせて試合終了まで維持できれば、通過は固い。けど──)」

 

 視線の先で、誰にも声をかけられず佇む緑谷の姿が目に留まる。自然と拳に力がこもった。

 

「(──1000万。ここで掴まなきゃ、男がすたるやろ)」

 

 障害物競走の悔しさを噛みしめながら、気持ちを切り替える。次の勝負に勝つ。その一点に全てを懸ける覚悟で、周囲を改めて見渡した。

 

 高ポイント保持者──轟、爆豪、そして緑谷。いずれも騎手となってチームを統率するだろう。4位の俺も同じ。ハチマキのポイントは195。1位の緑谷が持つ1000万を狙うつもりではあるが、仮に取れなかったことを考えれば、他の連中ともやり合う必要がある。ならば、その足を支えてくれる騎馬を慎重に選ぶ必要がある。

 

 B組の連中のことは正直よく知らない。相性を見極める時間もない今、選ぶべきはやはりA組の顔なじみだ。そう考えていると、何人かがこちらへと駆け寄ってきた。

 

「千重波、俺と組もうぜ!」

「うちもどう? 支援は任せてよ」

「ココは僕でしょ☆ エレガントな勝利を約束するよ♪」

 

 声をかけてきたのは、砂藤、耳郎、そして青山などのクラスメイトたち。これまでの実技演習で、彼らの個性や能力はおおよそ把握している。

ㅤチームを組むには十分な信頼と情報がある。バランスを考えてから、俺は頷いた。

 

「……んじゃ、砂藤・耳郎・青山の三人で」

「よっしゃ! やろう!」

「おし!」

「エレガントな勝利、見せてあげる☆」

 

 選ばれなかった奴が小さく「えー……」と不満げな声を漏らしたが、俺の判断に異論を唱える者はいなかった。

 

 他の奴らには悪いが──この三人が今の俺には最適な編成だと判断した。

 

 砂藤は、糖分摂取によって瞬時にパワーを引き出せる。もしいま甘味を携帯していなかったとしても、その筋骨隆々とした体格は前騎馬として申し分ない壁になる。

 

ㅤ耳郎のイヤホンジャックは、両耳から伸びるプラグを使って、自身の心音を増幅させて放つ音波攻撃が武器。敵の接近を音で探る索敵にも使えるだろうし、俺の死角の警戒にも期待できる。

 

ㅤそして青山──正直、腹を押さえて悶えている印象しかないが、障害物競走を突破してきた以上、その身体能力に疑いはない。レーザーを小出しにする技術さえあれば、彼もまた十分に戦力だ。仮にそれが出来なくとも、耳郎と合わせて後方左右のカバーは任せられる。

 

 そして、俺が騎手として彼ら三人を束ねる。

ㅤ〈大波〉ならばある程度の防御も、攻撃もできるだろうから、急造にしては良い布陣だろう。懸念すべきは機動力が皆無なことだが──地面に足さえつかなければ、個性を使って上からの襲撃を仕掛けることはルール上可能かもしれない。

 

 

ㅤ爆豪や轟の性格からして緑谷に集中するのは分かりきっている。俺もまた狙うはただ一つ──緑谷の1000万ポイント。しかし他の奴らがどう動くかを考えると、明らかに集中する緑谷チームよりも、着実にポイントを稼ぐ戦略もある。彼らにとって、俺の保有ポイント的にも比較的狙いやすい立ち位置になる。警戒は必要だ。

 

「俺が騎手、砂藤が前騎馬、耳郎が右で青山が左や。他の連中のポイントも狙いつつ、タイミングよく緑谷のハチマキを獲るって感じで行く」

「おっけー……でも大丈夫かな」

「何がや?」

「ほら、B組の人達。うちら全然他のクラスの個性わかんないじゃん。狙われたらまずくない?」

「確かに……」

「油断大敵☆」

「ああ、せやけどB組もそりゃ同じや。障害物競走で俺らの個性を多少は見ていたかもしれんけど、かといって全部を知ってる訳やない。周囲の警戒は任せるが、俺も可能な限り撃って守る。機動力はないが、迎撃ならウチは他チームに勝ってるからな。1位狙いで行く」

「おう!」

 

ㅤ砂藤の力強い返事に、耳郎と青山の静かな首肯。それを確認し、俺も両頬を叩いて気合を入れた。

 

ㅤUSJでの戦いを経て、A組の連中に対して強い仲間意識が芽生えたのは、きっと俺だけではないと思う。耳郎も青山も砂藤も、転移された場所は異なるが、五体満足であの現場を切り抜けた。 頼れるクラスメイトであり、強力なライバル。そんな彼らが、曲がりなりにも俺の力を見込んで誘ってくれたのだ。

ㅤその期待と信頼に背くことは絶対に出来ない。

ㅤバランスを取りながら砂藤の上に乗る。その足を耳郎と青山が支え、騎馬が完成した。

 

「──15分経ったわ。それじゃあ、いよいよ始めるわよ!」 『さあ起きろイレイザー! 15分のチーム決め兼作戦タイムを経て、フィールドに12組の騎馬が並び立ったぞ!』

『……なかなか、面白ぇ組が揃ったな』

 

ㅤプレゼントマイクの観客のアナウンスに合わせて、会場の熱気が徐々に高まっていくのを感じる。人数分のハチマキを力強く締めて、ふぅと息を吐く。

 

「なに、千重波。緊張してんの?」

「バーカ、武者震いや! さあ行くぞお前ら、気合い入れてけ!」

 

ㅤ揶揄うような耳郎の声に、笑って答える。

 

『さあ上げてけ鬨の声!! 血で血を洗う雄英大合戦が今、狼煙を上げる!!いくぜザンギャクバトロワ! カウントダウン! 3……2……1……START!!!!!』

 

ㅤ瞬間、一斉に騎馬が動いた。

ㅤ多くは緑谷目掛けて突っ込む。あれはB組の生徒だろう、どこかで見覚えのある奴が突っ込んでいく。

 

ㅤ俺たちの現在のチームポイントは450。

ㅤこれを如何に守りながら、奪っていくか。脳内でプランを構築しながら、緑谷の様子を窺う。アイツの騎馬の組み合わせは……お茶子と常闇、それにサポート科の女子のようだ。中々に面倒な相手が揃っている。

 

「どうする、千重波?」

「緑谷は後や。まずは他の奴らを剥がして、ポイントを稼ぐ」

「おっけー!……っ、千重波、右から!?」

「わーってる!」

 

ㅤ視界の端に捉えた、紫の塊──毎日教室で見ているものを、警戒しないはずもない。砂藤の足元に目掛けて飛んできた複数のそれを水で弾き、視線を動かした。

 

「うおっ、障子!? ひとり……じゃないよな!」

「青山、撃て。出力は最小に抑えろ、牽制だ」

「ウン!」

「砂藤。ゆっくりでいい、後退。こっちから行く必要はねぇ」

「おうよ!」

 

ㅤ青山のネビルレーザーが、突貫してくる障子に放たれた。それに合わせて騎馬を下げる。

ㅤ大波を発動し、水を蓄えた。生成と操作、その両方を一気にやるよりも、先に生成して蓄える方が消耗が少ない。そして水を浮かばせるくらい今更どうってこともなく、騎馬の周囲に漂わせて防壁を築く。

 

「よお千重波、此処で会ったが百年目!! そのハチマキ置いてけ! へへへへっ!」

「峰田ァ! ええ度胸や、来い!!」

 

ㅤネビルレーザーや耳郎のイヤホンジャックの攻撃を避け、接近してきた障子──彼がその複製腕で覆うように隠していたのは、やはり峰田だった。

 

ㅤ障子の体格と、何個も飛んでくる峰田のモギモギ。まるで戦車だ。良いアイディアを思いつくな、と感心しつつも、その腕の蓋に潜みなから気色の悪い笑みを浮かべる峰田に水を放つ。

 

ㅤその水と交差するように、俺の頬をナニカが掠めた──反射的に顔を逸らして避ける。

 

「蛙水もか!」

「梅雨ちゃんと呼んで。千重波ちゃん、そのポイント貰うわよ」

「渡すわけないやろ梅雨ちゃん!」

 

ㅤ障子と峰田に加えて彼女も居るとなれば、無闇に近付くのは愚策。俺は梅雨ちゃんの舌がどれだけの距離まで伸ばせるかまで知らないが、目を凝らして避けるしかない。

 

ㅤ障子の防御に峰田の拘束、そして梅雨ちゃんの舌よる中遠距離からのハチマキ奪取──彼らの戦略としてはこんな所だろう。再度とんできた梅雨ちゃんの舌を避けつつ、こちらからも攻撃を仕掛ける。

 

「濡れても文句言うなよ峰田!」

「オイラが濡らすのは女だけだ!」

「キモイ!」

 

ㅤ蓄えた水を用いて、あらゆる方向からのウォータージェットを放つ。小出しにするもの、そして持続して放射されるもの、その二種類を組み合わせて障子が覆い隠す峰田を狙う。太さも速度も一つずつ変えて、撹乱と攻撃を両立する。

 

「ギャァァァ! なんだこの弾幕!? 障子ぃ! オイラじゃ無理だ何とかしてくれ!」

「顔を出すな峰田!」

 

「合わせろ耳郎」

「言われなくとも!」

 

ㅤそして降り注ぐウォータージェットの雨の隙間を潜り抜けて、耳郎のイヤホンジャックが伸びた。

 

「ぐっ──!?」

 

ㅤ障子の目の前に現れたソレを、彼は複製腕でたたき落とした。しかし立ち止まったその隙をついて、もう一方のイヤホンジャックが複製腕の蓋の隙間に潜り込み、峰田の頭のハチマキに巻き付けて引っこ抜いた。このハチマキは、マジックテープで固定されている。見た目に反して取りやすいのだ。

 

「あ、やべ」

「っしゃあ! ナイスや耳郎! 終わったらアイス奢ったるわ!」

「トリプルで頼むよ!」

 

ㅤ攻撃の手は止めず、俺の意図を汲んで相手ハチマキの強奪に成功した耳郎に賛辞を送る。彼女のイヤホンジャックから渡されたそれを首に巻いて、俺は離脱を目論んだ。

 

「行かせないわ千重波ちゃん!」

「押し通る! 砂藤、突っ込め!」

 

ㅤこれ以上後退すると場外になる。砂藤に指示し、正面からハチマキを奪い返そうとる障子たちから離れるべく、他の騎馬も少ない右方向へ前進させる。

 

ㅤ障子と斜めに交差する瞬間、彼は仕掛けてきた。

 

「ウォォォォォ!!」

 

ㅤ複製腕──それも障子の力強い筋肉で鍛え上げられた腕が、行く手を阻まんと伸びてくるが、砂藤は雄叫びを上げながら進み続ける。

 

重水圧奔流(タイダルブラスト)!」

 

ㅤ障子の体ごとすっぽり覆い隠すような量の水が、指向性を持って放たれる。極太高速噴射──夜な夜な波動先輩と電話をしながら考えて名付けた、使い慣れた愛用のその技は、圧力を伴って障子の体を数メートル吹き飛ばした。

 

「抜けた! 次はどこだ、千重波!」

「速度を落とせ、俺らの個性的に迎撃が一番ハマる。俺が撹乱して、その隙をついての反撃からの急速離脱で行く。その為にはお前のスタミナが要る」

 

ㅤこのチームの問題点は機動力の無さ──先ほどの峰田達との交戦は咄嗟の判断だったが、峰田のモギモギという無条件の拘束を潜り抜けてハチマキを奪えたのなら、これが最適解。

 

「千重波くん! 左からB組!」

「っ!」

 

ㅤ青山の声に反応し、左側に水を放射する。振り向くとそこには女子生徒──その緑の髪が複数方向から伸びて、俺のハチマキを狙っていた。最初に放った水は防がれたようだ。

 

「やっばっ──左からも来てる! なんか白いヤツ!」

「っ! 白いのってなんやねん! 」

 

重水圧奔流(タイダルブラスト)を左右両方へ同時に放つ。右に緑髪、左には頭から白い液を放出する謎の男子──最悪だ、挟まれた。

 

「B組の連中、徒党組んでるぞ。挟まれた!」

「見りゃ分かる……青山、まだ行けるか?」

「う、うん! 心配ご無用さ☆ これくらいならまだ大丈夫だ!」

 

ㅤ青山のネビルレーザーは多用出来ない。正確には、まだ使い時ではない。途中で腹痛を起こされてもどうしようもないから、終盤に使ってもらう。

 

ㅤ絶え間なく水を放つ。先ほど障子にやったものと同密度の弾幕を左右両方向に続ける。耳郎がアシストしてくれているおかげで捌けているが、これ以上近寄られるのはマズイ。

 

ㅤ緑髪の女子は、おそらく髪を伸ばして拘束できるタイプの個性。その伸びた髪には棘のようなものも確認できた。重水圧奔流(タイダルブラスト)を防いだことから、防御面もある。

ㅤ白い液体を飛ばしてきた男の方も、おそらく拘束タイプ。水で弾き飛ばしたそれが、地面に落ちて急速に固まっている。ボンドのようなものか。

 

ㅤ峰田といい、続けざまに此方の機動力の無さを突くような相手が襲ってくることに甚だ不満だったが、深く考えている暇はない。

 

「三人とも、俺の体に捕まれ」

「えっ!? う、うん分かった!」

 

ㅤ三人は困惑しながらも俺の足を掴む。騎馬のバランスが崩れるが、なりふり構ってられない。

 

ㅤ先ほど、反対側の方で爆豪が跳んでいるのが見えた。観客の歓声と個性のぶつかり合いでミッドナイトの声は聞き取り辛かったが、地面に足がつかなければ問題がないのだろう。

 

重水圧奔流(タイダルブラスト)!!!」

 

ㅤ極細放射による水のレーザーの弾幕から、重水圧奔流(タイダルブラスト)に切り替える。

 

ㅤ障子達との競り合いを見られていたのか、緑髪の方は髪を盾のようにして防いでいたが、右側のボンドの方は直撃した。だが、かといって右へ進むのは愚策。なぜならば、見覚えのないB組の連中が絶賛A組のチームとやり合っていて、大混戦だ。向かうのは左、緑髪がいる方向。

 

ㅤしかし、あの髪の個性を突破するのは困難。ならば前か? いいや、このまま進んでも同じように囲まれて狙われるだけだ。

 

──ならば。

 

「人間ミサイルじゃあ!」

 

ㅤいつぞやのUSJでやったあの移動を使う。といっても、放物線を描いて着地したあの時とは違って、上空への退避だ。重水圧奔流(タイダルブラスト)の狙いを左右から地面に向けて動かし、地面との反発力が俺たちの身体をグッと浮かせた。

 

「ギャァァァァ! 葉隠が言ってたの、コレか──!?」

「離すなよ! 離したら骨折や!」

「うおぉぉぉお……!?」

 

『おおっと!? 千重波チームがフライハイ! 水で騎馬ごと持ち上げやがった! どんな勢いだよ!!?』

 

ㅤ足を掴んでいる砂藤が重たい。青山と耳郎が腰を掴んでいて、自由には動けない。滞空は難しいが、この高さなら騎馬戦範囲内の何処にでも着地できる。

 

ㅤ放出している力の加減を間違えないよう調整しつつ、地上を眺めた。観客の視線が鬱陶しいが、気にする余裕はない。緑谷は、爆豪は、轟はどこだ。

 

──居た!

 

「お前ら! あとで乾かしたるで服濡れてもええな!?」

「もうとっくにベチャベチャだよ! ひぃぃ高ぃぃ!!」

「緑谷を狙う! 着地したらすぐに騎馬を立て直せ!」

「まッ、任せろ!」

「ホントに大丈夫なんだよね千重波くん!?」

「俺を誰だと思ってる!」

 

ㅤ緑谷の姿を見つけた。轟と向かい合っている。その周りにも複数のチーム──乱戦になるか、あるいは轟の個性で封じられるか。一か八かの大博打。

 

ㅤ位置を調整しながら個性を解除し、俺たちの体は重力に従って自由落下する。しかしその場所は、狙った位置の通り。

 

『さあ残り時間、半分を切ったぞ! B組の猛攻にA組は押され気味だが! 1000万ポイントは依然として緑谷が保持! この1000万、誰に頭を垂れるのか!?』

 

ㅤ残り時間は6分強──緑谷と轟から、ハチマキを奪う!

 

「っらぁ!」

 

ㅤ体制を整え、着地の体制を取る。

ㅤ万が一にも青山たちに怪我をさせる訳にはいかない。他の妨害に気をつけながら、緑谷チームの背後──彼を轟と挟む位置に水を放射して減速して、地面に降り立つ。

 

ㅤ緑谷が驚いてこちらを振り向いた、その瞬間。彼の向こう側に居る轟と目が合った。

 

ㅤ冷静な眼──彼の下に居る八百万が何かを創造し、彼に手渡した。大きな布だ。自分と八百万と飯田をその布で覆い隠す──その一連の流れを目にし、俺は最悪のタイミングで選択を間違えたことに気がつく。

 

「マズっ──」

「無差別放電、130万Vぉっ!!!!!」

 

ㅤ上鳴が不敵な笑みを浮かべながら叫ぶ。そして、彼の体から放出された電気が、俺と同じように轟と緑谷を狙ってきた複数のチームを襲った。

 

ㅤピクピクと震える体、体内を駆け巡る痛み──轟が八百万と上鳴を選んだのは、そういうことかと納得する。

 

「上、鳴……!」

「悪いが我慢しろ。残り6分、後には引かねぇ」

 

ㅤ長時間の放電は出来ないと、上鳴は以前言っていた。すぐに終わる、だから大丈夫。そんな安心を覚えるほど、俺は轟という男を舐めてはいない。

 

重水圧奔流(タイダルブラスト)!!!!」

 

ㅤ人間ロケット、しかし先程とは異なり対空はしない。水の放射による跳躍。俺たちが地面から離れたその直後に、轟が上鳴の放電によって動きが止まっていた周囲のチームの足を凍らせた。

 

ㅤ地面に向かって放った重水圧奔流(タイダルブラスト)が、急速に凍結していく。手が凍るすんでの所で個性を解除し、結果的に生み出された氷の柱の上に立った。もちろん騎馬は何がなんでも崩していない。細かかに制御する間もなく極太サイズを放ったおかげで、足場が生まれている。

 

「っぶねぇなぁ! おい、大丈夫かお前ら!」

「た、大丈夫! まだ痺れるけど、動ける」

「あばばばば」

「青山、しっかりしろ!」

 

ㅤ砂藤と耳郎は無事で、青山がまだ放電の影響を受けている。元より白い肌が今は青白く見えた。個性を補助しているのであろう彼のベルトは、黒い煙を吹いている。

 

「おい、一応聞くがベルトがなくてもレーザーは撃てるか」

「はっ! ……う、撃つこと自体は出来るけど……」

「威力も制御も難しいか。悪い、判断を見誤った」

 

ㅤ緑谷に注視して、その奥に居る轟チームの警戒が疎かになっていた。判断を下したのは自分だ。しかし、さてどうするか。

 

「一旦、降りる。お前らは息を整えておけ」

「降りるって、騎馬を離れるの?」

「爆豪がさっき飛んでいたから、ルールには抵触しない……はず。とにかく、すぐ戻る! 轟に足止め食らってる連中のハチマキを取ってな!」

 

ㅤ彼らの支えを足場にジャンプし、氷の柱から飛び降りた。全員で降りるのはハイリスク。見たところ、上鳴はまだ放電が可能な状態。轟との連携で同じ目にあうのはごめんだ。

 

ㅤ絶賛やり合っている緑谷と轟たちを横目に、地面スレスレのタイミングで水を放出して足をつかないようにする。そしてそのまま、片方を地面に放ち高さを得て、そしてもう片方を斜め後ろにしてスピードを確保する。飛行姿勢を整えながら勢いを強めた。

 

『轟の凍結を間一髪で避けた千重波! 再び上から乱入だ!』

「ちっ!」

 

ㅤプレゼントマイクの実況に合わせて、二人の視線がこちらに向いた。だが、残り時間的にこちらに構っていられる余裕も彼らにないだろう。

 

「悪いな葉隠! と知らねぇ女! こいつぁ貰ってくぞ!」

 

ㅤ立ち往生していた近場のチームの騎手を飛行して、頭に巻いていたハチマキを掻っ攫う。

 

「あー! ハチマキ!」

「千重波くん!?」

 

ㅤこれで合計四本! 上位通過は硬いだろうが、トータルポイントを確認する暇はない。そしてもう一人、別のハチマキを狙おうと方向転換──だが、目の前を轟の氷が遮った。

 

「轟ぃ!」

 

ㅤ常闇の攻撃を交わしながら、緑谷の個性を警戒しつつ、離れた俺にも妨害をする。一体どんなセンスを持っていれば、そんな芸当が出来るのか。

 

ㅤ睨みつけるも、慌てずに高さを保つ。

 

『残り時間約一分! 轟、フィールドをタイマン仕様にし、そしてあっちゅー間に1000万奪取──とか思ってたよ5分前までは! 緑谷なんと、この狭い空間を5分間逃げ切っている! 緑谷を囲んだ氷上を、千重波が飛び回り妨害を仕掛けるも、緑谷何とか凌いでいるぞ!』

 

ㅤちら、と十メートル近い高さになっている氷の柱を見る。砂藤たちは降りようとしていたが、残り時間的に加勢は難しい。戻るのも同様に無理。とすると、一人でこいつらを相手にハチマキを守り、ハチマキを奪うしかない。

 

ㅤ緑谷を狙う。そのたった一瞬の判断ミスで、追い込まれた。

 

「クソッたれ!」

「──1000万奪れよ、轟くん! トルクオーバー! レシプロ、バースト!!!」

 

ㅤこうなりゃ、早いところ轟を狙うしかない。そう思って近寄って手を伸ばした瞬間、轟チームの姿が一瞬消えた。

ㅤ何が起きた。

ㅤ困惑しながらも滞空すると、緑谷たちの呆けた顔が目に映る。弧を描いた黒煙を辿ると、背を向けた轟たちの姿──これだけ早く動けるとなると、飯田か。

 

「委員長、んな隠し球持ってやかったのか……!」

『な、何が起きた──!? 飯田、そんな超加速があるなら予選で見せろよー! ここで逆転、轟が1000万!! そして緑谷は急転直下の0ポイント!!』

 

ㅤ苛立ちが募る。何も出来ない。飛び回って、撃って、それでもあの2チームの争いに介入できない。

ㅤ決して驕っていた訳じゃない、決して舐めていた訳じゃない。ただただ純粋に、チームとしての戦略と自分個人の強さが、あまりにも足りなかった。

 

「──そこを退けぇ、水野郎!」

「んなっ!?」

 

ㅤ背後──馴染みのある爆発音と声が聞こえてきた瞬間、頭がグッと引っ張られる感覚がした。慌てて振り返るとそこには爆豪が、俺と同じように飛んでいる。その手には、ハチマキ。誰のだ、俺のだ!

 

『おーっと、ここで爆豪も参戦! B組物間に奪われたポイントを容赦なく奪い返した爆豪が、今度は千重波の背後を突いてハチマキを強奪! ここでA組のスリートップが揃ったが、千重波の通過は怪しいか?! 残り40秒しかねぇぞ?!』

「爆豪!!」

 

ㅤ取られたハチマキは奪ったものじゃなくて、俺のチームのもの。これでは残りのポイント的に上位通過に足りない。何がなんでも奪い返さなければ、耳郎たちの奮闘も無に帰す。

 

「テメェに構ってるヒマは──ねェ!」

「そいつはお互い様や!」

 

『千重波と爆豪、空中戦勃発! もうめちゃくちゃだ! まさにカオス! 地上では緑谷がポイントを奪い返すも、1000万は依然として轟が守る!』

 

ㅤ殴打や蹴りと共に起きる爆発に、水のレーザーが逸れる。かといって直撃は互いに無し。

 

『残り19秒!』

 

ㅤもう爆豪を地上に叩き落として脱落させた方が早い。そう決めて、彼の頭上に重水圧奔流(タイダルブラスト)を放つも、爆豪は直前に手をかざして大爆発を引き起こし、威力を相殺していた。

 

『そろそろ時間だ! カウント行くぜエヴィバディセイヘイ! 10! 9! 8! 7! 6!──』

 

ㅤもう爆豪はいい、構ってられない。

ㅤ轟だ、轟のポイントを取る!

 

「千重波危ない!」

「っ、マジで助かる!」

 

ㅤ地上から伸びてきたテープ──瀬呂の個性を、氷の柱を滑って途中まで降りてきていた耳郎のイヤホンジャックが弾いて防ぐ。

 

『5!4!3!2!』

「っ──!!!」

 

ㅤ爆豪と並んで轟目掛け飛ぶ。速度は同程度、あと少し、あと少しでハチマキに手が届く──!

 

「1! タイムアッープ!」

 

ㅤ一際大きなプレゼントマイクの声に、ズコーっと地面に頭から落ちた。

 

ㅤ痛みに悶えていると、駆け寄ってきた砂藤たちに起こされる。ゆっくりと立ち上がると、既に試合は終わっていた。

 

「……クソ!」

『さーて早速、上位4チーム見てみよか!』

 

ㅤ確認するまでもない。保有しているハチマキは合計3本、しかし最も多かったポイントのハチマキを爆豪に取られたせいで、足りていない。

 

『1位、轟チーム! 2位、爆豪チーム! 3位、千重波……いや、あれ!? おい、心操チーム!?』

「悪い、三人とも。……届かなかった」

「謝らないでよ、仕方ないでしょ……まぁ、悔しいけど」

 

ㅤ悔しい。足りなかった、届かなかった。

ㅤその事実がたまらなく悔しくて、轟の氷の破片を怒りのままに踏みつけた。

 

「チッ……」

『4位、緑谷チーム!! 以上4組が最終種目へ進出だぁ──!!!!』

 

ㅤ巻き上がる大歓声。喜びを露わにする緑谷たちを横目に、俺は三人に向き直った。

 

「俺とチームを組んだのに、上がれなかった。1000万を取る所か、上位進出も出来へんとか……マジで悪い。判断ミスだ」

「いやいや。上鳴の放電なら、別にうちらも予想できなかったって。むしろその後の轟の氷に捕まらなかったのは、千重波のおかげじゃん」

「けどよ……」

「そうだぜ千重波! お前の指示があったから、峰田達もB組に挟み撃ちされたときも何とかなったんだぞ」

 

ㅤため息をつきながら励ましてくれる耳郎の眼差しが直視できず、顔を落とすと、砂藤に背中を強めに叩かれる。彼の顔にもあと一歩のところで届かなかっだ悔しさがあったが、それでも不甲斐ない俺を励まそうと笑顔を浮かべていた。

 

「青山、ベルト壊れちゃったな」

「壊したの上鳴だけどね」

「ははっ! 僕の美しさは、ベルトが壊れたくらいじゃ損なわれないのサ!」

 

ㅤ青山も笑っていた。

ㅤけれど全員、悔しいのだろう。俺も悔しかった。

ㅤなにも、体育祭を利用してのプロヒーローへのアピールなんて今日は考えていなかった。波動先輩に付き合って貰った特訓の成果を出したくて、ただ1位になりたくて、緑谷たちに勝ちたくて──色々と考えて動いた結果がこの順位である。

 

ㅤ挙句の果てにはチームメイトにすら励まされる始末。

 

「……」

 

ㅤ泣いて喜ぶ緑谷の姿と、彼に寄るお茶子を見て、思わず舌打ちが零れた。別に彼に対してではなく、自分に対してだ。

 

ㅤ緑谷は全力で戦っていた。ポイントを奪われても、何とか取り返して4位に返り咲いた。その瞬間と奮闘を見ていたから、悪感情など抱くはずもない。

 

 

ㅤ徹頭徹尾、彼に対してあるのは一定のリスペクト──けれど、それ以上に自分の不甲斐なさに眉に力が籠った。

 

 

 

 

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