水で征せよアカデミア 作:わこうど。
The Beginning
──俺が”ヒーロー”を志したのは、ごく一般的な理由によるものだった。
ㅤヴィランに両親を殺された、とか。そんなコミックの主人公のようなバックストーリーがあるわけではない。
ㅤ両親は至って健康だし、親子関係も至って良好である。
ㅤ
ㅤそんな俺がなぜヒーローを志したのか。
ㅤただ単純に「憧れたから」といえば、ああなんだそんなことかと言われるかもしれない。
ㅤ『ヒーロー飽和社会』といわれるくらいには、世の中では沢山のヒーローたちが活動している。
ㅤ良い意味でも悪い意味でも外部からの影響を受けやすい幼少期に、”個性”を用いて悪者を退治するヒーローたちに何も感じないはずもなかった。
ㅤ小学校の頃に書いた『将来の夢』の作文は、その他大勢のクラスメイトたちと同じくヒーローを──……、
「……将来の夢は、警察官になることです」
ㅤということもなかった。
ㅤ
ㅤ今の時代、ヒーローを志す少年少女は日本のみならず全世界に掃いて捨てるほど居る。
ㅤそんな子供たちに対して多くの大人たちは皆一様に、ヒーローを夢見る彼らへ惜しみない賛辞を送り、『きっといいヒーローになるだろう』と容易く宣った。
ㅤかつての俺はそんな大人たちを見て、馬鹿じゃないのかと内心吐き捨てるような……どこか斜に構えた子供だった。
ㅤだってそうだろう。
ㅤいくら現代人の大半が”個性”を持て余しているとはいえ、その全てが夢を叶えれるわけではない。
ㅤそもそも、その大人たちだって自分たちが子供の頃はきっとヒーローになりたいと思っていたはずなのに、『ヒーローになれる』なんて子供たちに言う連中は決まってヒーローではなかった。
ㅤ少なくとも、俺の知る限りでは現役のヒーローに『ヒーローになれる』なんて言われたやつは周りにいなかった。
ㅤあの頃の俺の将来の夢は警察官。
ㅤ常に人のため、社会のために過酷な現場に身を投じるヒーローへの尊敬や憧憬も人並みにはあったが、実際それになろうとは一切思っていなかった。
ㅤヒーローへの憧れ以上に、俺以外の全員が『将来の夢はヒーロー』と各々の作文を発表しているあの光景への嫌悪感があったからだ。
ㅤヒーローを夢見るクラスメイトたちに対してというよりも、そんな彼らに同調して自分もヒーローになりたいと、教室で発表することへの嫌悪感──正確に言えば、”他人に合わせる”ことへの忌避感を抱いていた。
ㅤだから俺は周りが全員、将来はヒーローになりたいと発表する中で唯一違うことを書いた。
ㅤヒーローの陰に隠れがちだが、警察官も立派な治安維持組織の一つである。一瞬驚いていた担任やクラスメイトたちだったが、意外そうな表情で拍手をしていた。
ㅤそんな反応を見て、満足気に席に座ったのを覚えている。
──要するに、かつての俺は面倒な類のガキであったのだ。
ㅤまだロクにひとりで何にも出来やしないのに、周りと同調するのを嫌がって、常に単独行動を好むローンウルフ。協調性もなにもあったもんじゃなく、他人の夢を心の内で見下していたクソガキ。
ㅤもしも目の前に当時の俺が居たならば、容赦なく引っ叩いていたであろうくらいには性格の悪い子供であった。
ㅤ我がことながら妙に賢かったというのもあるのだろうが、周りの大人たちは俺の扱いに困っていたであろうことは容易に想像がつく。
「何でヒーローにならなくちゃいけないの?」
ㅤ返答に困るのはわかった上で、作文発表の日の帰りの会が終わったあとでそんなことを担任に聞いた。
ㅤこの時、さも”自分だけが違う夢を発表して悩む無邪気な子供”のように見えるようにあえて振る舞っていた。苦笑いを浮かべて帰宅を促す担任に、ほらみろ何も言えないと嘲る。
ㅤそんなクソガキだった俺にも、転機が訪れた。
「──Texas……SMASH!!!」
ㅤランドセルを背負いながら呆然とする俺の目の前で、金髪の巨漢が拳を振るった。
ㅤつい先程まで車やバイクをちぎっては投げ、白昼堂々と暴れ回っていたはずの大型ヴィランは、その猛烈なパンチを食らった勢いのまま近くの雑居ビルに吹き飛んでいく。
「HAHAHA!! もう大丈夫だ、少年たちよ……なぜって?」
ㅤその人は、この国の誰もが知るヒーローで。
ㅤ俺が生まれるずっと前からこの国の『平和の象徴』として君臨する、現代日本最高の英雄で。
「──私が来た!!」
ㅤNo.1ヒーロー〈オールマイト〉その人が、俺の……俺たちの命を救った。
ㅤ下校途中に絶賛暴れているヴィランと遭遇していてしまって立ち往生していた通学班だったが、突如として現れたオールマイトによって身の危険は回避される。
ㅤ市民の歓声に混じって、小学生たちの歓喜の声が沸き起こる。その渦中にあったオールマイトは満面の笑みで手を振り、それから間もなくしてヴィランを捕まえに飛び去って行った。
ㅤ俺の心中にあったのは、ヴィランの脅威が去ったことへの安心感ではなく、もっと幼い頃に抱いていたヒーローへの純粋な憧れの復活。
ㅤ大人がどうとか、クラスメイトがどうとかは最早頭になくて、圧倒的なパワーでヴィランをねじ伏せた平和の象徴を生で見たことで、自分の歪みきった精神性に変化が齎されたのだ。
「……ヒーロー、か」
ㅤ
ㅤ家に帰って、自分以外は誰もいない自室で呟く。
──その日から、俺は遅ばせながら”掃いて捨てるほど居る”子供たちの1人に加わった。
ㅤ俺の両親は共働きで、あまり家に居る時間は少ない。
ㅤ父親はヨーロッパの在外公館に駐在しているため、そもそも日本には居らず、ここ何年もビデオ通話くらいでしか顔を合わせていない。
ㅤ母親は地元ヒーローの事務所でサイドキックとして働いているが、なんてことない地方都市とはいえ、ヴィランはよく現れるので毎日忙しそうにしている。
ㅤ故に、俺の身の回りの世話は父方の祖父母に任されていた。
ㅤ多忙極まりない両親も、俺を育ててくれている祖父母も、俺が遠慮がちに将来はヒーローになりたいといえば、諸手を挙げて応援してくれた。
ㅤついこの間まで”ヒーローなんて”と穿った見方をしていた子供が突然そんなことを言うのだがら、両親たちの心中は察するに余りある。
ㅤ兎にも角にも、それからはどうやったらヒーローになれるかを俺は考えるようになった。
ㅤただ夢見るだけではダメだ。
ㅤ具体的な行動を伴って初めて夢は叶えられる、と誰かが言っていた。
ㅤまずは単純に、体力を増やすためのトレーニングを始めた。市内をランニングしたり、筋トレをしたり、健康的な食生活を心がけるようにした。
ㅤ成長期に入ってからは更に量を増やし、そのおかげで中学三年生となった今では服の上からでも分かるくらいには筋肉質な身体になった。
ㅤ”個性”に関しては家の敷地内でしか訓練ができなかったために十分とは言いきれないが、持て余している連中よりは扱えるようになっている。
ㅤそして次に、勉強を頑張った。
ㅤというのも俺が目指していたのは高校在学中でのヒーロー資格の取得であったため、そのカリキュラムがしっかりと整備されている学校を志望していたからだ。
ㅤその学校とは、倍率300倍・偏差値79という日本最高峰の学術機関たる〈国立雄英高校〉である。
ㅤこの偏差値からもわかる通り、たとえ運動が出来ていようが生半可な学力では筆記試験を突破することは出来ない。
ㅤトレーニングの傍ら、常に勉強に励んでいた。その甲斐あって中学の成績表は全ての項目で4以上の数値を獲得し、雄英の筆記試験の過去問もスラスラと解けるようになっている。
ㅤそのモチベーションとなったのは、テレビの向こうで”あの日”と変わらず人々を笑顔で助けるオールマイトの活躍だ。
ㅤいつか俺も、彼のようになりたい。
ㅤだだそれだけの想いのまま中学三年間を突き進んで、ようやく俺は夢を叶える為のスタートラインに立とうとしていた。
「──いよいよ、か」
ㅤ季節は冬。
ㅤ暁風に吹かれ、玄関先で佇む。念のために必要なものがしっかり入っているかカバンを確認しつつ、俺は興奮止まぬ胸の鼓動を感じていた。
ㅤ特に忘れ物はなかったので、その足で家の隣にある車庫に足を運ぶ。そこには既にエンジンをかけて俺を待っていた祖父が、やけに古臭い4ドアセダンの運転席に座っていた。
ㅤパワーウィンドウを下げて、祖父は車の窓から顔を出した。
「おう、準備は済んだんか」
「ん、大丈夫」
「そうか……ほら、さっさと乗りい」
ㅤ
ㅤ無愛想で寡黙な祖父は、孫がこれから人生の節目に立つというのに平然としている。それはいつもの事なので祖父の態度はこれといって気にせず、俺は後部座席に乗り込んだ。
ㅤふう、と息をついて柔らかなリアシートに身体を沈める。まだ眠気は取れていないが、乗っている内に目が覚めるだろうとポケットの中からキシリトールガムを取り出して口に放り込んだ。
ㅤ口の中にさっぱりとする清涼感が広がるのを感じながら、窓の外を眺めた。祖母への挨拶は起きた時に既に済ませているので、家に戻る必要はもうない。
ㅤ見慣れた閑静な住宅街を通り過ぎて、大通りに出る。向かうは、共に雄英高校ヒーロー科を受験する予定の幼なじみの家だ。体調は万全らしく、昨夜電話した時には興奮気味に「一緒にヒーローなろうや」と熱く語っていた。
ㅤ明け方にも関わらず車通りの多い幹線道路を逸れて、別の住宅街へと進む。
ㅤ幼なじみの家はこの幹線道路を挟んですぐ近くだ。
ㅤ”彼女”とは幼稚園から中学までずっと一緒で、何度同じクラスになったかも分からない。
ㅤ毎日のようにお互いの家を行き来して、時には寝泊まりもしていたくらいには仲が良く、性別こそ違えど歳や誕生日が一緒とあって実の双子のように育ってきた。
ㅤ今日は最寄りの駅まで祖父が送ってくれる予定なのだが、どうせ一緒のところに行くなら、と、その幼なじみも乗せていくことになっている。ㅤ
「あの家やっけ?」
「そうそう。軒先に止めて」
「ん」
ㅤ俺の言う通りに、幼なじみの家の前に祖父は停車した。そして後部座席から降りて、インターホンを鳴らす。ピンポーンという電子音が鳴ると共に、家の中からドタドタと慌ただしい足音が聞こえてきた。
ㅤ玄関が乱雑に開けられて、顔を覗き込んだのは幼なじみ。
「ほら行くぞー」
「ち、ちょっと待って! すぐ終わらせるから」
「なんやぁ、寝坊か?」
ㅤ揶揄い混じりにそう言うと、気まずそうな表情で目を逸らされた。どうやら図星だったらしい。
ㅤパジャマを着ていたわけではなかったが、その頭には寝癖がいくつか跳ねていた。つい先程まで寝ていたのが丸わかりの格好である。おそらく、俺が家を出る際に送ったメッセージに気付いて大慌てで支度をしていたのだろう。
「二分……いや三分で出るから!」
「わーったから、はよしい。置いてったりせんから」
「ひぃ、ごめんなさーい!!」
ㅤ呆れたように腕を組むと、彼女は青ざめた様子で家の中に戻っていった。筆記用具や運動服などは昨日寝る前に準備したと言っていたし、あとは本人の髪型くらいだろう。
ㅤ相も変わらずどこか抜けている幼なじみの名前は──〈麗日お茶子〉。もちろん血の繋がりは無いけれど、家族同然に思っている友人である。
ㅤハザードを焚いて待つ祖父に、もうちょっとだけ待つように伝えると「ええよ」とだけ返ってきた。淡白な反応だが、怒っている素振りは無い。
ㅤだが、この反応は祖父にとっては当然だ。実の孫である俺に対して以上に、彼女を可愛がっているのがこの男なのだから。曰く、「俺ぁ孫娘が欲しかったんや」とのことだった。
ㅤ昔からお年玉にしたって俺よりも彼女の方が多かったくらいだし、多少待たされるくらい屁でもないだろう。
「ごめんなさいね、うちのお茶子が」
「あっ、おばさん。おはようございます」
ㅤふらっ、と現れたのは幼なじみの母親。幼少期から変にひねくれていた俺を気にかけてくれて、家を空けることの多い俺の母に変わって色々な世話をしてくれた人だ。
ㅤ困ったように苦笑いを浮かべるおばさんに、俺はいいえと首を横に振る。
「全然ええですよ、俺だってアラームかけ忘れて慌てて出てきましたし。やっぱり高校受験って緊張しちゃうもんですね」
「ふふ、それならいいけど。……あっそうだ、貴方に渡すものがあったんだった」
「? なんすか」
ㅤ家の中に戻って行ったおばさんを訝しげに見る。しかし彼女はすぐに戻ってきて、俺の方へ駆け寄ってきた。
「はいこれ」
「これは……」
ㅤおばさんから手渡されたものは、ひとつの小さな御守りであった。そこには”合格祈願”との刺繍がされていて、俺は目を見開いた。
「私たちはこんなものでしか応援できないけど、悔いのないように頑張ってね。雄英の制服姿、楽しみに待っているから」
ㅤそう朗らかに笑うおばさんの姿に、思わず感極まった。多分俺が小さい頃なら泣いていただろう。
「おばさん……! ありがとうございます」
ㅤ頭を下げる。
ㅤいいのよ、と俺の頭を優しく撫でるその手は正しく母親の手で、久しく感じていなかった感触に多幸感が広がった。
「──ごめんごめん! 準備終わったから行こう……って、あれ? 何で母ちゃんに撫でられてるん?」
ㅤそんなことをしているうちに、髪を整え終えたらしいお茶子が玄関から飛び出してきた。
ㅤやべ、と思ったのもつかの間、彼女は俺とおばさんの姿を見るなりニヤリと笑う。
「……いいから乗れよ」
「ん〜? まあ、そっか。一水くん、昔から母ちゃんのこと好──」
「だぁぁぁっ!! おら行くぞ丸顔っ!」
「誰が丸顔じゃ!」
ㅤ余計なことを口走りそうになったお茶子の腕を引っ張って、車の傍に連れていった。抗議の声は無視をする。そんな俺たちの様子におばさんは微笑ましいものを見るかのような視線を向けていて、余計に恥ずかしくなる。
ㅤ尚、祖父は我関せずと家から持ってきたらしい新聞を読んでいたが、お茶子の姿を見るなり明らかに雰囲気が変わった。
ㅤ分かりやすすぎて逆に笑えてくる。
「おー、お茶子ちゃん。おはような」
「あっ!おじいちゃん、おはようございます!! 今日はよろしくお願いします」
ㅤ不満げに頬を膨らませていたお茶子だったが、祖父にしっかりと頭を下げて挨拶を返した。こういう所はキチンとしているのに、普段はそうでもないのは何なんだろうか。
「んなもんいいから、はよ乗れ」
「もー、挨拶は大事やろ」
ㅤプンスカと怒る彼女を無視して、後部座席のドアを開けた。お茶子を先に乗らせて、その後に俺も乗り込む。何だか上機嫌な祖父が面白くないので、フンと窓の外を見やる。
「おじさん、お茶子のことよろしくお願いします」
「しっかり駅まで送るからな」
ㅤおばさんが話しかけてるのになんだその態度、と言いそうになったがお茶子の手前また揶揄れるのは目に見えていたため、すんでのところで抑える。
ㅤいつか絶対吠え面かかせてやる、と心に決めたところで隣に座っていたお茶子が身を乗り出しておばさんの方に顔を出した。
「母ちゃん! うちら絶対雄英受かるから、期待して待っといて!」
「うん。待ってる。無事に帰ってきてね、二人とも」
「……っ、はい」
ㅤ彼女の暖かな眼差しに、俺は身が震えた。おばさんもそうだが、お茶子の父親も俺の祖父母も両親も、みんなが俺たちに強い期待を向けてくれている。雄英合格を信じて疑わず、夢を叶えるために足を進めるガキンチョ共をまるで眩しいものを見るかのように応援してくれている。
ㅤその期待を裏切るようなことはあってはならないと、俺は改めて胸に刻んだ。
ㅤばいばい、とおばさんに手を振るお茶子を横目に拳に力を込める。
ㅤ雄英高校ヒーロー科の入試は、もう明日に迫っていた。
◆◆◆
「わー、新幹線って初めて!」
「はしゃぐなよ、恥ずかしい」
ㅤ早朝にも関わらず駅まで送ってくれた祖父に二人揃って感謝を伝えたあと、電車を乗り継いで隣県の愛知県は名古屋まで向かい、そこで事前に購入していた指定席券を手に俺たちは東海道新幹線へ乗り込んだ。なぜ我らが地元には未だ新幹線がないのか甚だ疑問である。
ㅤ雄英高校の所在地は静岡県の垢離里。その特殊なカリキュラム上、広大な敷地面積を必要とすることから東京にはないらしい。
ㅤここ名古屋から静岡までは新幹線だと割と早く到着するので、それまではのんびりと景色や駅弁を堪能しつつ待つだけだ。
ㅤ窓際がいい、と主張して譲らなかったお茶子は段々とスピードが早くなっていく新幹線に興奮気味の様子だった。彼女は目まぐるしく移り変わる窓の外の景色を、目を輝かせて眺めている。
ㅤだがそんなハイテンションぶりについていけるほど、俺の目はまだ覚めていなかった。
「ノリ悪いやん、どした」
「明日に備えてイメージトレーニング中や」
「ほー、なんかすごいね!」
ㅤ適当なことを言って誤魔化すと、疑うことを知らないアホの子は感心したようにこちらを見やる。はあ、と肩を竦めてリクライニングを少し倒した。後ろの席に誰も座っていないことは確認済みである。
「静岡ついたら何する?」
「まずはホテルのチェックインだろ。そんで寝るだろ。んで起きたら雄英直行」
「まさかの何もしない!? ついたら明日までずっと寝るつもりなん?」
「やれることはやったんだし、今さら予習したところで付け焼き刃もいいとこやん。まさかホテルで”個性”使う訳にも行かんしさ。参考書は少し見るけど」
「んー……まあ、そやけど」
「明日に備えて体力は温存しとくべきだと思う」
ㅤ俺がそう言うと、彼女は納得したように頷いた。
ㅤ明日の入試は3つの工程からなる。
ㅤまずは筆記試験。
ㅤこちらは問題ない。過去問を勉強していた感じだと、試験では国数英を始めとする一般科目の他にヒーロー関連の問題が出題される。
ㅤたとえば過去に起きた有名な事件は誰がどのように解決したか、とか。公共の場での個性使用に関する制限や罰則はどのようなものか、過去の事例や行政やヒーロー公安委員会の対処の記録とか。
ㅤヒーローを志す者ならば知っていて当然の問題ばかりなので、一般科目はもちろんのこと、筆記試験は余裕でクリア出来るだろう。
ㅤそして次に面接。
ㅤ雄英高校ヒーロー科に務める教職員はそのほとんどが経験豊富な現役ヒーローたちである。彼らとの面接は、やってみないと分からないというのが正直な感想だ。
ㅤ相手が地方のローカルヒーローくらいならともかく、大半が名の知れた実力派揃いの雄英教師陣に誤魔化しなど通用しない。正直に嘘偽りなく応答した方が安牌だろう。
ㅤ最後に実技試験。
ㅤ雄英敷地内にある模擬市街地にて実技演習を実施するとのことで、オンライン掲示板等々を見る限り、ヴィランを模したロボットと戦う形式らしい。実力主義の雄英らしく、実技試験の難易度は他のヒーロー科高校とは比べ物にならないだろう。
「……絶対に、受かろうな」
「うん。せやね」
ㅤこんなところで躓く訳には行かない。スタートラインにはまだ立っていない。武者震いで小刻みに揺れる手を誤魔化すように呟くと、お茶子は気付かないフリをして力強く肩を叩いてきた。
「明日のために頑張ってきたんだもん。果報を寝て待ってるわけにはいかない。でしょ?」
「……おう」
ㅤ雄英においては運次第なんて言葉は通じない。全てが自分の実力次第なのだ。個性の向き不向きも踏まえて、それでも受難に立ち向かうのがヒーローとしてのあるべき姿。
ㅤ俺──
前に似たようなの投稿したけど納得がいかなくて非公開にしたので、設定は流用して別の書きますた。