水で征せよアカデミア 作:わこうど。
「なんというか……普通のホテルやね!」
「しゃーないやろ、そんなに金ないんだから」
ㅤいつの間にか寝ていたお茶子を叩き起して、新幹線を降りた俺たちは人生で初めての静岡にやってきていた。休む間もなく宿泊予定のビジネスホテルに向かうと、その建物を前にお茶子が不満そうにそう言う。
ㅤしかしそうは言うものの、三重から名古屋への電車代、そして名古屋から静岡までの新幹線代に加えてホテル代。往復することを考えると、結構な金額がかかるのだ。受験料も合わせれば、もう両親には頭を上げられないだろう。
ㅤだが、ホテル代に関してはお茶子と同じ部屋を取っているので、あちらの家と折半という形になっている。いくら幼なじみとはいえ年頃の男女が一つ屋根の下寝泊まりするのはいかがなものかと思わざるを得ない。
ㅤ家族同然の仲である彼女を異性として見たことがないので、間違いなんて絶対に起きやしないが。
「ほら、さっさとチェックインするぞ」
ㅤブーブーと不満を垂れるお茶子を引っ張って、ホテルの中に入った。今回泊まるホテルは至って平凡だが、ドアにはしっかりと電子ロックが備え付けられていて建物内部も清掃が行き届いていることから、泊まるにあたって不満はない。
ㅤあえて不満があるとするなら、雄英から少し離れた場所にあることくらいだ。
「部屋は……3階か」
ㅤカウンターで手早くチェックインを済まし、スタッフから鍵を貰う。だが、その際に隣でキョロキョロと見回るお茶子共々、やけに生暖かい目で見られたのはつまりそういう意味だろうか。
ㅤ正直やめて欲しかったが、お茶子は気付いていなかったので俺もシカトしておいた。
ㅤ古臭いエレベーターを使って3階に昇り、廊下を歩いて宿泊部屋の前に立った。
「うわ、普通」
「うん、普通やな」
ㅤ部屋の中を見た感想は、お茶子の言う通り普通の一言しか出てこない。
ㅤシングルベッドが二つ隣り合わせて設置されているこのツインルームは、お世辞にも広いとはいえなかったが、まあたかが一泊二日の予定なので過不足はないだろう。
ㅤ最初はダブルにするはずだった。母とお茶子の両親はそのつもりで色々考えていたらしいが、俺が嫌だと抗議した結果ツインになった。
ㅤダブルとはいえ、何が悲しくて幼なじみと同じ布団で寝ないといけないのか。お茶子は『別にええやん』と言っていたが、俺が良くないのである。
ㅤ同じ部屋で寝るくらいなら構わないが、親たちにはいい加減、俺が思春期の真っ只中にある健全な青少年ことを理解してもらいたい。朝の状態なんて見られた日には目も合わせられないだろう。
ㅤ親たちにお金を出してもらっている手前あまり文句は言いたくなかったが、流石にそこだけは譲らなかった。
「はぁぁ〜、フカフカやあ……」
ㅤ持っていたスーツケースを置き去りに、彼女はベッドに飛び込んだ。呆れたようにそれを見つつ、俺は変な場所に放置されたままのお茶子のスーツケースを引いた。自分の荷物をもう片方のベッドの横に置いて、着ていたコートを脱ぐ。
ㅤ備え付けのロッカーを開いてチープなハンガーを手に取り、変なシワがつかないように丁寧に掛けていると、ベッドに転がっていたお茶子が何かに気付いたように飛び上がった。
「あー! 歯ブラシ忘れた!」
「……いや、アメニティくらい置いてあるやろ。歯磨き粉は貸してやるから探して来いよ」
「あっ、そっか」
ㅤ朝は慌ただしかったし、そりゃあ忘れ物の一つや二つくらいあるだろうが、真っ先に思い出したのが歯ブラシな辺り、麗日お茶子は変な子である。
ㅤノソノソとシャワールームへ向かって行ったお茶子の背中から視線を逸らして、俺はベッドに腰掛けた。もうやることは特にない。静岡に無事に着いた時点で、あと俺たちがすべきことは受験だけだ。帰りはどうにでもなる。
ㅤ新幹線の中ではお茶子にああは言ったものの、眠気なんてとっくに覚めているので、明日の朝まで眠るなんて選択肢はない。かといって明日に備えて勉強をするのも、試験の難易度が分かっている以上は興が乗らない。
ㅤ要するに、手持ち沙汰。
ㅤふと視界の隅に、やけに真新しいテレビが置いてあるのが見えた。まあいいかと電源を付けたはいいものの、平日の真昼間ゆえか面白そうな番組はやっていなかった。
「……オールマイト?」
ㅤ前言撤回。面白そうな番組を見つけた。
ㅤそれは先日、オールマイトが解決して話題となったマンション立てこもり事件についてのニュースを報じるワイドショーだった。
ㅤよく見慣れたコメンテーターや芸人たちが各々、事件現場の映像を見ながら神妙なコメントを口にしているが、その内容は俺の耳には入っていない。
ㅤ俺の目は、耳は、オールマイトの姿に釘付けとなっていた。
『もう観念しろ、ヴィラン。
なぜって?────私が来たッ!!』
ㅤ”あの日”と変わらぬ彼の姿に、笑みが零れた。
ㅤ俺の人生観を大きく転回させたオールマイトだが、おそらく彼は俺の事なんて覚えてすらいないだろう。
ㅤヴィランが街中で暴れるなんてことは日本全国よくあることで、オールマイトが片手間でそれらを解決することも、またよくあることだ。
ㅤ平和の象徴は、それくらい数え切れないほど多くの人の命を救ってきている。
ㅤ俺がヒーローを志したのは、なにも彼への憧れだけではない。かつてオールマイトが俺の命を救ってくれたように、今度は俺がオールマイトを助けれるくらいに強くなりたかったのだ。
ㅤ実際にオールマイトが誰かの助けを必要とする事態に直面するなんて考えてもいないし、そうならば文字通り日本が終わりへと向かうカウントダウンの始まりを知らせる合図になるだろうけど──もしもそうなった時に、俺は彼に必要とされる存在になりたいのだ。
ㅤ子供では無い。
ㅤひとりの、ヒーローとして。
「一水くん、歯ブラシあったわー……って、なんなんその凶悪な顔は」
「凶悪て」
ㅤ人の顔を見るなり失礼なことを宣う彼女だったが、俺の視線の先にあるテレビに写るオールマイトを見て、納得がいったようにポンと手を打った。
「ほんとオールマイト好きやねぇ」
「そりゃ、好きやろ。オールマイトを嫌いな奴なんてヴィランくらいじゃないか。……いや、エンデヴァーが居たか」
ㅤヒーロービルボードチャートjpにおいて、長らくNo.2の座を堅持しているフレイムヒーロー〈エンデヴァー〉が、オールマイトを毛嫌いしているのは世の誰もが知ることだ。
ㅤおそらくヒーローという区分の中では最もオールマイトを嫌っているであろう人物が彼である。
ㅤまあ、何年か前の『No.1とNo.2』の対談で語っている通り、当の本人はエンデヴァーを同業者として厚く信頼しているらしいので、その時の様子を見る限り彼が一方的に嫌っているだけのようだが。
「そういうお前は? オールマイト好きじゃないのか」
「ううん、好きだよ。でも他に目指しているヒーローが居るってだけ」
「ほー、初耳。誰やねん?」
「13号」
「可愛いよな」
「わかる」
ㅤ〈13号〉とは、災害救助を専門とするヒーローの名である。明日俺たちが受験する雄英高校に務める教職員の一人でもあり、世間では広く名の知られたヒーローだ。
ㅤ宇宙服のようなコスチュームが特徴的で、その格好も相まって子供たちからの人気がやけに高い。
ㅤまさかお茶子が13号のようなヒーローを目指していたとは初耳であるが、納得もいく。
ㅤ13号の個性は”ブラックホール”。
ㅤ指先からいかなるモノも吸い込み、分子レベルまで崩壊する能力を有する。災害時には無類の強さを誇り、瓦礫を吸い込んて被災者たちを助ける姿はテレビでよく見ていた。
ㅤ指先の肉球で触れたあらゆるモノを無重力状態にするというお茶子の個性”
ㅤそう考えると、彼女がオールマイトよりも13号のようなヒーローを目指すのはとても理にかなっている。
「……お前って意外とよく考えとるんやな」
「む、失敬な」
ㅤその後は、テレビを見ながら昼まで時間を潰すことにした。途中でオールマイトのニュースが終わったので飽きてスマートフォンで海外のホラー映画を一緒に見ていたが、やってることは変わらない。
ㅤまあ、まだ日中だと言うのにお茶子が「怖い怖い」と布団に顔を隠してしばらく出てこなくなったのは余談である。
──静岡に到着した翌朝。
ㅤスマホに設定したアラームの音で俺は目が覚めた。時刻は午前6時半。むくりと起き上がって真横のベッドを見るが、お茶子はまだグッスリ寝ているようだった。
ㅤまだ時間に余裕はあるし、少しくらい寝かせてやるか、と思って音を立てないように静かに立ち上がる。忍び足でそのままシャワールームへ向かって、洗面所で顔を洗う。
ㅤ冬の朝の水道水は、どんよりとした眠気を覚ますには十分すぎる効力を発揮した。
ㅤふう、と息をついて濡れた顔をタオルで吹いていると、洗面所のドアがガチャリと開いた。
「おはよ〜ぅ……」
「おは」
ㅤ重そうな瞼を擦りながら入ってきたのはお茶子だった。
ㅤ彼女は寒そうに腕を組みながらコチラに寄ってくる。俺はもう既に歯磨きも洗顔も終えているので、彼女のために半歩後退ってスペースを確保した。
ㅤか細い声でありがとう、と呟いた彼女の頬を引っ張った。
「ん……なんやあ?」
「ほら、さっさと顔洗って目を覚ませ」
ㅤまるで覇気のない彼女に呆れつつ、代わりに水を出した。まだ頭が回っていないのか、フラフラとしながらお茶子は洗顔を始める。
「うー、冷たいぃ!」
ㅤブルブルと冬の水道水の冷たさに震えるお茶子の後ろで、寝癖のついた髪をドライヤーで直していた。面接があるので身なりはしっかりと整えなくてはならない。
ㅤ適当に手櫛で前髪を弄っていると、お茶子が鏡を見ながらニヤニヤと笑っているのが見えた。
「なんじゃその顔は」
「いや、あんなに自分の髪型に無頓着だったのに、今日は整えるんやって思って」
ㅤそれを聞いて、俺は”ああ……”と以前の自分の姿を思い浮かべた。中学2年の頃、ランニング中に汗で髪が張り付くのが鬱陶しくて、俺は思い切って坊主にしていたのだ。
ㅤ我ながら似合っていないという自覚はあったが、お茶子や母に爆笑されたのは未だに根に持っている。無口な祖父ですら揶揄ってきやがったのだ。
ㅤなのでそれからは特に切ることもなく、ついこの間までは適当に伸ばしていた。バリカンで剃ったあとの片付けが面倒で、坊主にする前よりも伸びても放置である。
ㅤ結局、最終的に肩まで届くくらいには伸びたのでゴムで結んでまとめていたが、それに苦言を呈したのが祖母だった。
ㅤ休みの日、朝起きるなり突然万札を渡されて「髪を切ってこい」の一言。怒ると家の中で薙刀を振り回すような祖母に俺が逆らうはずもなく、言われた通りに近場のメンズ美容室とやらを予約して、翌日の午前中にカットした。
ㅤ学割のおかけでお釣りが来た上、俺を担当した美容師の腕が良かったのか、短髪かつセットが楽なヘアスタイルにしてくれたので、面倒くさくても行った甲斐はあっただろう。
ㅤ面接にあのボサボサの髪で行っていたら、明らかにあちらへ与える印象は悪い。
「まあ、そろそろ高校生やし」
「ふーん……やっぱり、か、かかかか彼女とか欲しいとか思うん?」
「そりゃあ思うけど、恋人探しに雄英行くんじゃないんやぞ。あと照れるなら言うなよ」
ㅤ初心なところのあるお茶子は、とにかく恋愛ということに関しては無縁の存在だ。同級生から告白された的な話は聞いたことあるが、それを受けたという話は聞いたことがない。
ㅤしかし人並みには恋愛に興味があるようで、「いつかうちにもそういう人が出来るのかな」なんてボヤいていたのを、この前お茶子の家に訪れた際に俺は偶然耳にした。
ㅤまさか聞いているとは思わなかったのか、アタフタと慌てていたのが面白かったので、勿論その後はからかい倒したが、最終的に”個性”で浮かされて部屋中に体の節々をぶつけて痛めた。
ㅤ
「じゃあ、好きな女の子のタイプは?」
「強いやつ」
「うわー、ワイルドぉ……」
ㅤ正確に言えば”包容力のある芯の強い年上の女性”だ。
ㅤだがこれをいえば脳内お花畑なお茶子は、自身の母親と結びつけてしまうので絶対に口にしない。そうなったら最後、雄英に着くまでネタにされ続けるだろう。
ㅤ小さい頃、おばさんにそういう意味での憧れを抱いていたことは確かにあるが、流石に中学3年生になってもそれを引き摺るほど女々しくはない。
「ていうか喋ってないでさっさと行こーや雄英。歩いて行けば丁度いい時間やろ」
ㅤスマホの時計を確認しつつ、お茶子に催促した。
ㅤ俺はあと制服を着るだけだし、チェックアウトは受験が終わってからの予定なので雄英に持っていく荷物はさほど無い。財布やスマホ、筆記用具と運動着、あとは受験票くらいだ。
「あっ、私の制服こっちに持ってきてくれん?」
「ん」
ㅤ欠伸をしながらベッドの横で学ランに着替えていると、洗面所の扉の隙間から顔を出したお茶子がそう言ってきたので、俺は開きっぱなしになっているスーツケースから彼女のセーラー服を取り出す。
ㅤそれをお茶子の方に投げ飛ばすと、”ありがとー”と言いながら彼女はしっかり受け取った。
「先に外出てるぞー」
「待ってよー。あとリボンつけるだけだから」
ㅤリュックを背負い、靴を履きながらお茶子に声を掛けると、彼女はドタバタと音を立てながら洗面所から出てきた。先ほどまで来ていたパジャマを自身のベッドに投げ置いて、リュックとロッカーに掛けていたコートを持っている。
「よし、行こっか」
「忘れ物ないか?」
「ない」
「んじゃ出るぞ。20分くらい歩かないといかんみたいだし、早歩きで」
ㅤ扉を後ろ手で閉めて、俺たちはホテルを後にした。その際に昨日、チェックインのときに変な目を向けてきていたあのスタッフから、「受験頑張ってね」という有難い言葉を頂いたが、ニヤニヤとしていたのは何なんだろうか。
ㅤお茶子は頭にハテナマークを浮かべながら彼女に手を振っていた。
◆◆◆◆
「今日は俺のライブにようこそ!Everybody say ”Hey”!!! 」
ㅤ壇上に立つ男のハイテンションぶりとは対照的に、会場は静まり返っていた。自分のラジオ番組も持っているDJヒーロー『プレゼントマイク』の大きな声掛けに、受験生たちは冷ややかな対応をとっている。
ㅤシーンとなった試験説明の会場だったが、このような状況は慣れっこなのか、プレゼントマイクは「こいつぁシヴィー!」と叫んで笑っていた。
ㅤつつがなく筆記試験と面接を終えた俺たち受験生だが、すぐに別の場所に案内された。職員曰く、これから実技試験についての簡易的な説明会が行われるとのことだ。
「受験生のリスナーたち! 今から実技試験の概要をこの俺がサクッとプレゼンするぜ! Are you ready !?」
ㅤ俺たち含め受験生からの返答はない。ちら、と隣に座るお茶子を見ると初めて生で見る有名なヒーローの姿に興奮していた。
「要項通りリスナーたちにはこの後、10分間の”模擬市街地演習”を行ってもらう!! 持ち込みは自由だ、プレゼン後は各自指定された演習場に向かってくれェ!」
「……(さすが雄英。スケール半端ないな)」
ㅤ模擬市街地。その名の通り市街地を模したフィールドなのだろうが、それを複数個も用意しているとは流石に想像していなかった。プレゼントマイクの背後にあるモニターには、ABCDEFGの7つからなる演習場が表示されている。
ㅤ受験者ごとに渡されたプリントには、各々違う演習場が書いているのだろう。俺の場合はGで、お茶子は別の場所だった。受験番号は連番なのに違うということは、同じ学校の出身者同士の協力プレイを避けるための措置か。
ㅤ……というか、先程から近くの席に座る受験者がボソボソと呟いているのが聞こえてくるのだが、集中力が削がれるのでやめて欲しい。生憎、その人物が何処にいるのかは会場が暗くてよく見えなかったので、どうもこうも出来ないが。
「んで、実技試験の内容だが……リスナーたちには”コイツ”らの相手をしてもらう!」
ㅤバッ、とプレゼントマイクが手を広げたのと同時に背後のモニターの表示が切り替わった。そこにはやけにチープな外観をしたロボットが映っている。
ㅤ雄英高校ヒーロー科、その実技試験の形式は長らく変わっていない。これは事前に掲示板などで調べたから間違いない。
ㅤ三種類からなる仮想ヴィラン──端的に言ってしまえばロボットなのだが──はその”攻略難易度”に応じて仮装ヴィランにはそれぞれポイントが割り振られている。
ㅤ受験生たちには、各々の”個性”を用いてその仮想ヴィランを行動不能にし、ポイントを稼ぐことが求められている。もちろんヒーロー科の入試であるため、他人への攻撃を始めとするアンチヒーロー的な妨害行為は禁じられている。
ㅤ要するに、ヒーローとして相応しい行動を取れということだ。その上でポイントを集め、俺たちは実技試験に挑まなくてはならない。
「(こりゃあ、戦闘に不向きな”個性”の持ち主には不利な内容だな)」
ㅤ向き不向きでいえば、俺の”個性’は前者にあたる。元から向いていた訳ではなくて、そうなるように身体を含めて鍛えてきたから問題は無い。
ㅤ単に行動不能にすればいいのだから、この分だとお茶子の方も大丈夫そうだ。”無重力”でタッチして浮かせてしまえば、ロボットたちは身動きが取れない。これまでに何度も彼女の個性は身をもって体感しているし、余計な心配は必要なさそうだ。
「……ん?」
ㅤふとプリントから壇上に目を向けると、一人の受験生がピシッと手を挙げているのが見えた。
ㅤ首を傾げていると、その男は「質問よろしいでしょうか!?」とプレゼントマイクに勝るとも劣らない声量で彼は立ち上がる。
「──プリントには”四種”の仮想ヴィランが記載されております!誤載であれば日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態! 我々受験者は規範となるヒーローのご指導を求めて、この場に座しているのです!!」
「(うわー……真面目タイプ)」
ㅤ何を言うのかと思えば、たしかに俺も気になっていた部分についてだったが、やけに格式ばった物言いだ。言っていることは間違っていないけど、天下一の高校の受験生ともなれば皆ああいう意識高い系ばかりなのだろうかと不安になってきた。
「ついでにそこの縮毛のキミ! 先ほどからボソボソと……気が散る。物見遊山のつもりなら即刻
ㅤ後ろを振り返って指を指した彼は、他の受験生に向かって怒鳴った。俺はその指先を見やると、そこに居たのは見覚えのある少年だ。
ㅤアイツどこかで見たような、と考えていると合点がいった。
ㅤあの縮毛の彼は今朝、雄英高校の校門前で転びかけていたところをお茶子に助けられていた少年だ。道路に顔面をぶつける前に駆け寄っていたお茶子が”無重力”を使って浮かせていた。
ㅤ俺は彼と特に会話はしていないが、女子に不慣れなのかお茶子相手に挙動不審だったのが面白くて印象に残っている。
ㅤさっきからうるさかったのはアイツか。しかし『すいません……』とか細い声で周囲に謝る彼に、俺はなんとも言えない気持ちになった。
「オーケイ! 受験番号7111くん、ナイスなお便りサンキューな!──その四種目のヴィランは”
ㅤ所狭しと暴れている”ギミック”。
ㅤプレゼントマイクはそう続けた。それを聞いた俺は既にその0Pヴィランを倒すことを決めていた。試験の邪魔になるなら早いうちに倒した方が自分のためになるだろう。
ㅤただ、そんな俺の思惑とは裏腹に、受験生たちの反応は真反対だった。
「なるほど、避けて通るステージギミックか」
「まんまゲームみたいな話だぜ」
「(別に0ポイントを狙う必要はない、けど。……逃げる訳にはいかない、な)」
ㅤ仮にオールマイトなら、逃げの選択肢は取らないだろう。
ㅤあの平和の象徴なら、どんな困難が待ち受けていようとも真正面からねじ伏せるはずだ。
ㅤ俺の目指すヒーロー像はそういうものである。
「──最後に! リスナーには我が校の”校訓”をプレゼントしよう!!」
ㅤ打って変わって騒がしくなってしまった会場の雰囲気を割くように、プレゼントマイクが今日一番の大声を出した。受験生たちの注目が壇上へと集まる。
ㅤその反応に満足気に頷いたプレゼントマイクは、両手を広げて続けた。
「かの英雄、ナポレオン・ボナパルトは言った。『真の英雄とは、人生の不幸を乗り越えていく者』と!」
ㅤ受験生の顔が引き締まる。
ㅤ俺も拳を握りしめて、今か今かと実技試験の開始を待ちわびた。
「──更に向こうへ! ”Plus ultra”!!」
ㅤそれでは皆、良い受難を。
ㅤそう締めくくったプレゼントマイクのプレゼンは、会場に集った受験生たちに確かな熱意を与えていた。
ルーキーの日間ランキングに載ったやったー
まだ透明だけど……