水で征せよアカデミア   作:わこうど。

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Entrance Exam:2

 

 

 

 

 

ㅤお茶子と別れて、俺は指定された演習場に向かった。模擬市街地というだけあって、演習場ごとに区切る壁さえなければ一つの町がそこにあると錯覚してしまうだろう。

 

ㅤ俺はまず、雄英のクオリティの高さに度肝を抜かれた。

ㅤ演習場の様子を伺いながら、そういえば雄英にはあのヒーローが勤めていたな、と思い出す。

 

ㅤ自身が触れたコンクリートの粘度を自在に操るというヒーロー〈セメントス〉。

ㅤこと現代においては無類の強さを誇るであろうその個性の持ち主によって、この演習場は造られているのだろうか。

 

 

──と1人で推察していると、先程まで俺たち受験生が居た会場のテッペンにあのやかましいプレゼントマイクの姿が見えた。

 

 

ㅤおそらく、彼は試験開始の合図をするために見晴らしの良いあの場所へ立っているのだろう。

ㅤ一瞬たりとも遅れをとるわけにはいかない。

ㅤ受験生たちが待機する中、その最前列で俺はクラウチングスタートの体勢をとった。

 

ㅤ周りの受験生たちが俺に訝しげな目を向けるが、それは気にせず、プレゼントマイクの声を聞き逃さないように集中力を高める。

 

 

「……(来い、来いっ!)」

 

『──はいスタートぉ!!』

 

 

ㅤ塔の上に立つプレゼントマイクの、試験開始を知らせる号令一下が演習場に響いた。

ㅤ突然の合図に皆一様に驚いたようだったが、ライバル相手に気を使う必要は無い。

ㅤ俺は足に力を込めて、集団から飛び出した。

 

「(先手必勝やッ!!)」

 

ㅤそれから間もなく、目の前に仮想ヴィランが現れた。

ㅤあの姿はたしか1Pヴィランだ。装甲は脆いが、動きが早いのが特徴的なロボット。

 

 

ㅤ俺は利き手に意識を向けて、アッパーカットをするように振り上げた。

ㅤすると、1Pヴィランの足元から勢いよく水が吹き出て、ロボットが宙に舞う。

 

「これで1P……! 脆いなァ、ヴィラン!!」

 

ㅤ俺の個性で生み出した水によって上空に舞い上がった1Pが、背後にその勢いのまま自由落下し、鉄の筐体を地面に叩きつける。

 

ㅤもう動く気配はない。

ㅤロボットの起動が停止したのを確認して、俺は止めていた足を進めた。

 

『Hey! Hey! Hey! どうしたどうしたリスナーズ!? 実戦じゃあ合図なんてねぇぞ!』

 

ㅤプレゼントマイクの大きな声が聞こえてくる。

 

ㅤそういえばまだ周りに受験生の姿がなかった。

ㅤ再び現れた仮想ヴィランを相手にしながら、隙を見て入り口に目を向けると、プレゼントマイクの言葉に表情を変えた受験生たちが、焦ったように演習場のなかになだれ込んできているのが見える。

 

「(もうこちとら8ポイント、遅せぇよ)」

 

 

──〈大波(タイダルウェーヴ)〉。

 

ㅤそれが俺が四歳のときに発現した個性の名だ。

ㅤ半径3メートル高さ5メートルの有効範囲内ならば、自由自在に水を生み出すことが可能な能力。

 

ㅤ昔は有効範囲が1メートル程度しかなく、生成出来る水量もたかが知れていた。だがヒーローになることを心に決めた小学4年から今に至るまで、俺は毎日欠かさず家の庭などでこの個性の練習をしていた。

 

ㅤその甲斐あって、有効範囲は広がり威力も上がった。

ㅤ5年の鍛錬の成果を、雄英高校に見せつけてやる時が遂に来たのだ。

 

「オラァッ!!」

 

ㅤ空中を弾くように手を振る。

ㅤその刹那、現れたレーザーのように細い流水が、三体の仮装ヴィランを貫通していった。

 

ㅤこれはウォータージェットから着想を得たもので、俺が持ちうる技の中では最も速く、最も威力を発揮する。名前はまだ付けていないが、それは追々やればいいだろう。

 

ㅤ実技試験の制限時間はわずか10分。

ㅤ合格ラインは分からないが、一体でも多くのヴィランを倒して、他の受験生たちよりも多くのポイントを稼がなくてはならない。

 

 

『リスナーたち! 残り時間は5分だ!!』

「はッ、上等……っ!!」

 

ㅤ湧き上がる闘争心が、笑みを深くする。

ㅤおそらく今の俺の保有ポイントは、記憶が正しければ46だった。しかし安心は出来ない。

 

ㅤ両手を下に向け、高圧の流水を地面にぶつける。

ㅤ徐々に浮いてゆく身体を注意しながら制御し、適当な高さのビルの屋上にゆっくりと着地した。

 

ㅤここならば演習場が見渡せるだろう。

「おかしいな……0Pヴィラン出てこんやん」

 

ㅤ他の受験生たちが必死こいて仮想ヴィランと戦っているのを見つつ、試験は折り返したのに未だ現れない『おじゃま虫』を警戒する。

 

ㅤまさか雄英が俺たちの警戒心を煽るために嘘をつくはずもないし、実技試験の妨害ギミックとして確かに存在はしているのだろうが──とにかく不気味だ。

ㅤ見かけたらすぐ倒しに行くとは決めているが、絶対に来るとわかっている敵の正体がまだ分からないのは気味が悪い。

 

「さっさと来いやァ……ん?」

 

ㅤふと地面にを向けると、そこに居たのは一人の少年。

ㅤ仮想ヴィランが倒れた拍子にビルの一部が崩れたのか、瓦礫に足が挟まっていた。

 

ㅤまだ試験は終わっていないのに、動けずにいる彼は悔しそうに顔を歪めている。それを見て、俺はさてどうしようかと悩んだ。

 

ㅤ0Pヴィランが現れていない以上、ここに待機して周囲を警戒する方のが倒すためには一番いい。しかし、プレゼントマイクは先程の説明会でこう言っていた。『アンチヒーロー的な行為はご法度』だと。

 

ㅤ明らかに身動きが取れていない人物を見つけたのにも関わらず放置するのは、ヒーローとしてはどうなのだろうか。アンチヒーローとまではいかなくとも、その素質なしと判断されても文句は言えないだろう。

 

ㅤきっとオールマイトなら、要救助者を見捨てるはずはない。素早く助けた上で、素早くヴィランを倒すはずだ。

 

「よし、待ってろよ」

 

ㅤビルの屋上を駆けて、思い切り飛び降りた。さほど高くはなかったが、何もせずにただ落下していれば重い怪我は免れないだろう。

ㅤある程度落ちたのを確認したあと、地面に向かって強めに水を噴射した。その勢いで空中を一回転してしまったが、何とか着地には成功した。

 

ㅤジンジンと痛む足の裏。流石に20階建てのビルからの飛び降りは無茶だったか、と反省しつつ、瓦礫に下半身を埋める少年の方に駆け寄った。

 

「おい、大丈夫か」

「ぐ……何のつもりだっ」

「ああ? 助けに来たに決まってんだろうが。ほれ、どかずぞ」

 

ㅤなぜ睨まれるのか分からなくて反射的にイラッとしたが、いかんいかんと首を振って、瓦礫に流水を噴射した。さっきヴィランを貫通した技とは違って、今度は太めにしてある。

ㅤ勢いよく吹っ飛んでいった瓦礫を視界に入れ、立ち上がろうとして痛みに悶える少年に手を差しのべた。

「……悪い、助かった」

「気にすんな」

 

ㅤ捻挫したか、あるいは骨にヒビが入っているのか。服越しだった為よく分からないが、一人では歩けなさそうだったので肩に腕を回してサポートする。

 

「おまえ、試験は……? まだ終わってねぇだろ」

「ある程度のポイントは稼いだし、いい。怪我人放っておく方が問題やろ」

「……そうか」

 

ㅤとは言ったものの、もう少しヴィランは倒しておきたい。

ㅤまさか試験終了まで怪我人に肩を貸す訳にもいかないし、適当な場所に寝かせておこうか、とか考えていると彼がいきなり俺の腕を振り払った。

 

ㅤ途端にバランスを崩す少年だったが、何とか踏ん張った為倒れずには済んだ。

 

「いきなりどうした」

「っ、俺が……俺だけが落ちるならともかく、瓦礫から助けてくれたアンタに迷惑はかけたくない………自分で歩くから、アンタはさっさと行けよ」

「けどよぉ……──ッ!?」

 

ㅤ踏ん張るのがやっと、といった雰囲気の彼を置いていくのは気が引けた。ハァハァと肩で荒い息をする少年に近付こうと俺が一歩進んだ瞬間、演習場全体にドドドドと轟音が鳴り響いた。

 

ㅤ俺も少年も、その大きな地響きにたたらを踏む。こんな時に地震か?──と舌打ちをするが、俺の目に入ってきた光景に言葉を失う。

 

ㅤ少年も、呆然と空を見上げていた。

 

「……おいおいおいおい、雄英マジかァ?」

 

ㅤ思わず、顔が引き攣る。

ㅤまるで戦隊モノのアニメに出てきそうな巨大なロボットが、辺りのビルを破壊しながら突然現れたのだ。

 

ㅤ何かあるとは思っていたが、まさかあれが妨害ギミックだとでも言うのか。いくらなんでも、これまで壊してきた仮想ヴィランとは大きさも与える威圧感もスケールが違いすぎる。

 

 

「俺はいいから逃げろ!」

「馬鹿野郎! あんなデカブツの進行方向に怪我人置いて行けるワケねぇやろがッ!」

 

ㅤこれお茶子は大丈夫か? と段々心配になってきた。この少年みたく瓦礫に埋もれていなければいいが──……、それはともかく今はこの危機的状況を打破しないとヤバいだろう。

 

ㅤアレが現れた時点で、俺にこの少年を置いて適当に行動するという選択肢は消えた。

ㅤ一先ず少年を横抱きにして、ヴィランから猛ダッシュで離れる。なにか耳の近くでギャーギャー騒いでいたが、それに返事をする心の余裕は俺にない。

 

ㅤ周りを見れば、仮装ヴィランと戦っていたであろう他の受験生たちも脱兎のごとく逃げ出していた。

 

「あんなものと戦えるかぁ!?」

「みんな逃げろーッ!!」

 

ㅤ口々に叫びながら走り去ってゆく受験生たちの必死な顔が、ちょっと面白くて吹き出した。少年から「マジかこいつ」みたいな目で見られたけど、咳払いして誤魔化す。

ㅤ目測だが、あの大型ヴィランとは百メートルくらいは離れたはずだ。逃げている他の受験生たちの邪魔にならないように、俺は道路の隅に優しく彼を置いた。

 

「……何をするつもりだ」

「アイツを倒しに」

 

ㅤニヤ、と笑ってそう言うと彼は驚いたように凝視した。彼を見捨てて動くという選択肢が消えたのと同時に、アレを倒さないという選択肢もまた俺の頭からは無くなっていた。

 

ㅤあの程度倒さなくては、ヒーローを目指す意味は無い。

 

「でも……おまえ、震えてるじゃないか」

「武者震いだよ、ばーか」

 

ㅤ何か言いたげな少年に背を向けて、俺はコチラに向かってきている大型ヴィランの方に走る。

 

ㅤまるでゴジラだ。

ㅤ町を破壊して回る大型ヴィランを見て、俺は改めてその巨大さに目を奪われる。

 

ㅤこれが天下の雄英。

ㅤ日本最高峰が受験生たちに仕掛けた受難。

 

 

ㅤたとえあれを倒しても、ポイントにはならないというのはわかっている。

 

ㅤそれでも俺は、オールマイトに憧れたから。

ㅤどんなに凶悪なヴィランでも、どんなに困難なシュチュエーションでも、そのトレードマークの笑顔を魅せて人々を救けるヒーローに憧れを抱いたから。

 

「逃げるわけには──いかねぇだろうがッッッ!!!」

 

ㅤ個性を発動し、手を水平に振り払う。極細の高圧水流が大型ヴィランの片足を斬り裂いた。

 

ㅤ武者震いだってのは、ただの見栄だ。

ㅤ虚勢を張っているに過ぎない。

 

ㅤけれど、どんなに怖くたって受難を乗り越えていくのが俺の憧れたヒーローなのだ。ならばこそ、見栄と虚勢を貼って受難に立ち向かわなければならない。

 

「かかってこいやァ、オンボロヴィラン!」

 

ㅤもう一度高圧の水流を放って、俺に拳を振るわんとする大型ヴィランの腕を正面から断ち切る。

ㅤこれで右足と、左腕が無効化された。

 

『残り1分だ、ベイベー!!』

「ウォォォォォォっ!!!」

 

ㅤ現状出せる──俺の最高出力。

 

ㅤ手を振りあげて、大型ヴィランの足元から大量の水を噴射した。片足を失って体勢を崩していた大型ヴィランは、容易く持ち上がる。

 

ㅤ試験開始直後に1Pヴィランを宙に吹き飛ばしたように、こいつも宙に飛ばして、地面落下の衝撃で行動不能にするのだ。

 

ㅤ今の俺の実力ではこんな勝ち方しか出来ない。けど、今はあの怪我を負った少年への危険を排除出来ればいい。

 

「プルス・ウルトラじゃぁぁぁぁ!!!」

 

──狙い通りに吹き飛んだ。

 

ㅤ数秒浮いたあと、大型ヴィランは地面に落ちた。

ㅤ流石に重すぎて思っていたよりも飛ばなかったが、もう片方の足が見る影もないほどひしゃげているのを見れば、そんな悔しさは水飛沫と共に俺の頭から流れて落ちた。

 

ㅤ落下の衝撃で内部の電子系がイカれたのか、大型ヴィランはピクリとも動かない。

 

『終了──!!!』

 

ㅤ今ので体力が全部もっていかれた。

ㅤけど、心の底から湧き上がってくる歓喜を言葉に変えたくて、全力疾走したあとのように痛む肺を我慢して、物言わぬ大型ヴィランの頭部に飛び乗った。

 

「どうや!──見たか雄英!見たか臆病者! 見たか怪我人野郎!!?」

 

ㅤビシッと、固まったままコチラを見ていた怪我人の少年に向かって指を指す。声は届いていないだろうが、俺の言わんとすることは伝わったらしい。

 

 

ㅤ彼は、なんだそりゃと言わんばかりに笑っていた。

 

 

 

 

──雄英高校ヒーロー科の入学試験は、最終的に0Pヴィランが2()()倒されるという例年稀に見る結果とともに、全ての過程を終えた。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

「──はぁ〜? 助けられたァ?」

 

ㅤ実技試験が終わったあと、看護用ロボットとやらに担架で運ばれて行ったあの怪我人野郎を見送って、俺はお茶子と合流しようと思ってその場をすぐに離れた。

 

ㅤ別に他の受験生たちからの視線が鬱陶しくて逃げた訳では無い。

 

 

ㅤしかし、いくら探せどもお茶子の姿は見えなかった。

ㅤもしやあの大型ヴィランのせいで怪我をしたのでは──と心配していると、彼女は何事も無かったかのように校舎から出てきたので、思わずズッコケてしまった。

ㅤ話を聞く限り、何事も無かったわけではないらしいが。

 

「そんで? 自分のせいでロスした分、ポイント分けれないかってプレゼントマイクに直談判したって? おまえアホか」

「ぐ……そこまで言わんくてもええやん」

 

ㅤお茶子曰く、あの大型ヴィランは俺が居た演習場と同じようにゴジラの如く暴れていたとのことだった。それに驚いていると、突如降ってきた瓦礫に埋められてしまったらしい。

 

ㅤすぐ後ろには大型ヴィラン。

ㅤもはや為す術なしか、と諦めかけたそのとき、とある少年が自分の元に走ってきた。

 

ㅤその少年は、物凄いスピードで地面を飛び跳ねると、あの大型ヴィランに向かってパンチを繰り出した。そこでお茶子は確かに見たのだという。

 

 

──たった一撃で、大型ヴィランがぶっ飛ばされる光景を。

 

ㅤそれを聞いた俺は唖然とした。

ㅤアレの巨大さは実際に対峙して否が応でも理解したし、アレの目の前で身動きが取れない危険性も分かる。

 

ㅤそんな状況下に陥ったお茶子の身体への心配よりも、大型ヴィランを文字通りワンパンで行動不能にしたという少年への驚愕が勝る。

 

ㅤ”個性”が制御出来ていなかったのか、地面に向かって落ちてきた少年を間一髪のところでお茶子が無重力を使って助けた。それで吐いてしまったらしいが、そのときお茶子は耳にしたらしい。

 

『せめて……1Pでも……!!!』

 

ㅤお茶子は彼がまだ0Pだと察したが、タイミング悪くプレゼントマイクが試験の終了を知らせた。

ㅤ悔しげに蹲る少年の姿に何を思ったのか、お茶子は試験終了後に校舎を訪れて、プレゼントマイクに「自分のポイントを分けれないか」と直談判したのだと。

 

ㅤそこまで聞いて、いやアホかと返してしまった俺はきっと悪くない。

 

 

「あのなぁ、ポイント分けてお前が落ちたらどうすんだよ。分けたところでソイツが0Pならどの道落ちるだろ。0Pくんと一緒に落ちたアホって言って欲しいのか?」

「む、そんなの分からないやん。マイク言ってたよ、『分ける必要ないと思うぜ』って」

「……?」

 

ㅤまるでその0Pくんが落ちることはない、とも取れる言い方に俺は眉をひそめた。プレゼントマイクの真似なのか、やけにテンション高めなお茶子のモノマネに関しては触れずに考え込む。

 

ㅤ……が、考えども彼のその言葉の意図がよく分からなかったので、『まあいいか』と思考を切り替えた。

 

「とりあえずホテル帰って荷物取りに行こう。疲れたわ」

「たしかに。私、今ベッドに少しでも触ったら一瞬で寝ちゃうかも」

 

ㅤ両親と祖父母にそれそれ「試験いま終わった」とのメッセージを送りながら、雄英高校の校門を出る。他の受験生たちもみんな疲れてるようで、今朝とは打って変わって校門辺りはかなり静かだった。

 

ㅤこの後は、ホテルにスーツケースなどを取りに戻ってそのまま駅に直行だ。また新幹線で名古屋に行き、そこからまた電車を乗り継いで地元に帰らなくてはならない。

 

ㅤきっと三重に着く頃には夜遅いだろうが、祖父が車で迎えに来てくれるそうなので自宅までの帰路は心配しなくても大丈夫そうだ。

「ていうか怪我は? どこか痛んだりしてねぇの」

 

ㅤグググ、と疲れきった腕を伸ばしながらお茶子に訊ねる。彼女と同じように瓦礫に挟まれていたあの怪我人野郎は、足を痛めて動けずにいた。しかし同じ状況にあったはずのお茶子は五体満足でしっかりと歩いている。

 

ㅤ足をチラと見ても目立った怪我はなさそうだし、もしや奇跡的に無傷で済んだのだろうか。

 

「ん? 大丈夫だよ。リカバリーガールが治してくれたし」

「えっ、チューされたん」

「なんなんその目……」

 

ㅤ〈リカバリーガール〉とは、雄英高校で看護教諭をしている人物だ。名は体をあらわすというが、彼女の個性”癒し”は対象の治癒力を活性化させる能力を持つ。

 

ㅤ雄英があんな無茶苦茶な実技試験を毎年敢行できるのも、偏に彼女の存在があるからだろう。

ㅤだがヒーロー好きの間では、彼女の治療がどのようにして行われるかというのは広く知られている。

 

ㅤ唇を突き出して、対象と接触するのだ。

ㅤ端的に言えば”キス”である。

 

ㅤもちろん唇と唇を合わせてということではないのだが、小柄なおばあちゃんにキスをされるのは、少なくとも俺は忌避感がある。別に潔癖なわけではなくて、ただ単に客観的に見て絵面が宜しくないためだ。

 

「まあ、無事ならええか」

「ん、心配してくれたん?」

「そりゃ身内の心配くらいするわ」

 

ㅤお茶子の頭をぐしゃぐしゃと乱雑に撫でると、”やめー”と軽く振り払われた。彼女との、この何ともいえない距離感が俺は好ましく思っているが、それを口にするのは憚られた。

 

ㅤ立ち止まって崩れた髪を直しているお茶子を置いて、先に進む。

 

「置いてかんといてやー!」

「うるさ」

 

ㅤ合格通知が来るまで、だいたい一週間程度。それまでは疲れたこの身体をしっかりと休めよう。

 

 

ㅤきっと受かっているはずだ。

ㅤそう信じながらも自分の中に微妙な不安が残っていることに気付き、俺はなんだか馬鹿らしくなって笑ってしまった。

 

 

 

 






個性の詳細含め、主人公のプロフィールはしばらくしたら投稿します。

ヒロインどうしよ……。
麗日以外なのは決まってるんすけどね……。
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