水で征せよアカデミア 作:わこうど。
話のペース遅くてすいません。次からはテンポよく進めたいと思います。
──雄英高校ヒーロー科の入試を終えてからの1週間は、長かったようにも短かったようにも思う。
ㅤまだ来ないと分かっていても、家のポストがついつい気になって覗いてしまう。郵便配達のカブの排気音が外から聞こえる度に、もしやと窓を見る。
ㅤふとした時にお茶子が家にやってくるものの、やはり彼女も俺と似たような雰囲気だった。
ㅤ明らかに常にソワソワしていたし、実際「まだかな〜、どうかな〜」と自信なさげに呟いていた。
ㅤこのままでは合否通知が来るまで身が持たん……ということで、俺たちはポップコーンやコークを片手に一緒に映画を見るようにした。
ㅤもちろん、こんな大事な時期に映画館に行くことは出来ないので、部屋を暗くしてプロジェクターで似た気分を味わうのが精一杯だ。
ㅤしかしそのおかけで俺たちは自身の合否通知から他に意識が逸れたので、とにかく映画を見まくるのはアリな選択だったのだろう。途中から受験合否のことは頭の隅っこに追いやられて、次の映画は何を見るかで喧嘩になっていたくらいだ。
ㅤそんなこんな暇を持て余している内に、入試からちょうど七日後──ようやく家のポストに雄英からの合否通知書が届いた。
「……」
ㅤ開けたい・見たいと思う気持ちがあるのと同時に、開けたくない・見たくないという気持ちも湧いていた。お茶子以外とはロクに話さず過ごしていたこの五年間は、全ては雄英に合格するため削った時間だ。それまで居た友達も、出来たはずの友達も何もかもを捨てて努力してきた。
ㅤそれがもしかしたら無駄になるかもしれないと思うと、形容し難い感情を抱いてしまう。
「っ、ええいままよ!」
ㅤ感触からして、封筒の中に入っているのは用紙ではなく何かの機械。力任せに破ると、机の上に中に入っていた機械が転がった。
ㅤなんだこれ、と思った矢先にその機械は勝手に起動して、電子音と共に淡い光を放つ。
『──私が投影された!!!』
ㅤ予想だにしない人物が機械から投影されて、衝撃のあまり吹き出した。この俺が見紛うはずもない。ヒーローを目指すきっかけを与えてくれた、憧れの男がそこに映されている。
ㅤ慌てて破り捨てた封筒を見ると、そこには確かに雄英高校と記されていた。
ㅤけど、オールマイトは雄英の人間ではないはずだ。いかに彼の出身校とはいえ、合否を伝えるためにこんなバラエティチックな映像に出演するのだろうか。
『なんで私が……って思っているかもしれないな。実を言うと今年度から雄英高校に勤めることになってね! 驚いたかい?』
「オールマイトが……雄英に」
ㅤそんな話、マスメディアには一切流れていない。
ㅤ流石に平和の象徴とまで謳われる彼がヒーローを辞することは無いだろうが、それにしてもとんでもないビッグサプライズ人事だ。
ㅤ今年の新一年生は運がいい。 なにせ、あのオールマイトの授業を受けれるのだから。次代のヒーローを養成するにあたって、これ以上の教育環境は日本にはないだろう。
『早速だが、キミに入試の結果を伝えよう。まだ後がつかえているのでね、パパっと終わらすよ! 』
「っ」
ㅤごくり、と唾を飲む。
ㅤ今日この瞬間が俺の人生の分水嶺だ。オールマイトが雄英に勤めるという言葉への驚きは一瞬で冷めて、ジィっとホログラム映像を見つめる。
ㅤ少しの間を置いて、オールマイトが口を開いた。
『筆記も面接もOK! そして肝心の実技試験も、
「……レスキュー?」
『うん! キミの反応は想像に難くない。実を言うと、我々雄英が先の入試で見ていたのは敵ポイントのみにあらず!! ヒーローとしての素養、基礎能力──ただ敵を倒すことだけがヒーローではないのさ!!』
ㅤ査定担当の教員たちによる審査によって、受験者一人一人に与えられるのが救助ポイント。それこそが、実技試験で見られていた対敵戦闘以外のもう一つの評価項目であるとオールマイトは続けた。
ㅤそこまで聞いて俺は、先日お茶子が試験終わりに言っていたことを思い出した。”ポイントを分けようとする必要は無い”……プレゼントマイクの言葉の意図がよく分からなかったが、なるほど、確かにその必要はないらしい。
ㅤ映像に映る
ㅤ悔しいが、それにしても救助ポイント0で首席って、一体どんなヤツなんだろうか。
『まさかあの0Pヴィランを倒す者が同じ日に二人も現れるとは予想だにしていなかったが────千重波 一水。文句なしの合格だっ!』
ㅤハーッハッハッハ、と高笑いするオールマイトはその後”お疲れ様!”と締めくくった。その姿を最後に映像は途切れ、部屋は一瞬にして静寂に包まれる。
「──」
ㅤ正直に言うと、まだ実感が湧かない。
ㅤオールマイトに名前を呼ばれた。
ㅤもうひとつの評価項目が実は隠されていた。
ㅤあの雄英のヒーロー科に2番目の成績で合格した。
──彼の言葉の内容を一つ一つ噛み砕いても、喜びや驚きよりもまず「俺受かったんや」と理解するのに時間がかかる。
ㅤきっと普段の俺なら大はしゃぎするはずなのに、合格の二文字をまだ頭が受け入れていない。
ㅤ数秒、あるいは数分。固まったまま真っ白な壁を呆然と眺めていた俺であったが、”Prrrrr”とポケットに入れていたスマホから大きな着信音が鳴り響いたことでハッと我に返る。
「もしもーし」
『一水くん! 結果どうやった!!?』
ㅤ掛けてきたのはお茶子だった。
ㅤあまりの大声に思わず顔を顰め、スマホから耳を離す。このテンションからして彼女も受かっていたらしい。
「受かったみたい」
『いや何でそんな他人事……?』
「だって受かったって言われてもまだ実感ねぇし」
ㅤ雄英高校の制服でも着れば合格の実感が湧くだろうが、まだ現実感がない。
ㅤ五年間、毎日欠かさず勉強とトレーニングを積んできた。その結果が目に見えて現れないと、受かったところで何とも言えない。もちろん喜ばしいことには変わりなかったが。
ㅤ俺がそう言うと、お茶子は呆れたようにため息をついた。
『はぁ……ん? どうしたん? ああ、一水くんも受かったって』
ㅤどうやら電話の向こうで、彼女は誰かと話しているらしい。聞き馴染みのある声から相手がお茶子の父親であることはすぐに分かった。
『一水くん、父ちゃんがうち来るかーって。合格祝いにご飯でもどう?』
「んー……とりあえずジジイと婆ちゃんに行っていいか聞いてみるわ。俺んとこはそういうのないだろうから、多分大丈夫だと思うけど」
ㅤそう、うちの祖父母は俺の合格祝いなんてやらない。二人とも変にお堅いところがあるので、九分九厘「合格した? ほーん、頑張りやぁ」で終わるはずだ。俺が小学校のときに初めてオール5の成績を取ったときも、そんな感じで話は流れた。
ㅤまあお小遣いは普段よりも多めにくれるので、俺としては変に祝われるよりも嬉しい。
ㅤというか祖父はともかく、あの般若の如き祖母が合格祝いだの何だの言い出したらそれはそれで逆に怖い。称賛が三割、説教が七割の地獄の祝賀会が始まるだろう。せっかく合格したというのにそんなの御免である。
『じゃあOKでたら連絡お願いね! 母ちゃんも来るの楽しみにしてるって〜!』
「……りょ」
『あっ、今照れた? 照れたやろ? もう、ほんとに一水くんって母ちゃん好──』
ㅤ即座に電話を切る。
ㅤおじさんも居るだろう場所で余計なことを言いやがって。顔を合わせたら絶対しばいてやる、と心に決めたところで、母と父にそれぞれ合格を伝えるメッセージを送った。
ㅤ父は既読がつかなかったが、母からは割と早く返信が来た。
ㅤ”おめてとう”と端的なメッセージだったが、その後に続いていた解読不可能な文字の羅列を見る限り、めちゃくちゃ動揺しているらしい。
ㅤまた連絡するわ、と返して携帯をポケットにしまった。
ㅤ階段を降りて、1階のリビングに入る。そこにはソファにもたれかかって、煎餅を片手に大相撲中継を見ていた祖母の姿があった。
ㅤ祖母は俺に一瞥すると、再びテレビに視線を戻す。その様子を見て「ああ、機嫌良さそうだな」と察した。
ㅤ機嫌が悪い時の祖母はテレビなんて見ないで、雑念を払うが如く家中を掃除しまくっている。こうしてリラックスしているということは、話しかけても問題は無い機嫌ということだ。
「婆ちゃん」
「……何や」
ㅤしゃがれた声で、こちらを見る祖母に「高校受かってた」と言うと、数秒おいて「良かったやん」とだけ返ってきた。別に祖母に変なリアクションは期待していないが、もうちょっとこうないのだろうか。
ㅤまあええか、と祖母に背を向けながらキッチンの冷蔵庫からサイダーを取りだした。
「お茶子のお父さんから夕食誘われてんやけど、行ってもいい?」
「好きにしや」
「じゃあ、用意したら行くわ」
「ん」
ㅤいつも通りの淡白な会話をパパっと済ませて、俺は飲み物を持って部屋に戻る。パジャマを投げ捨てて外行きの服に着替えると、再びお茶子に電話をかけた。
「オッケーだって。今からそっち行く」
『よし! じゃあ待ってるね』
ㅤおばさんに御守りのお礼もしたいし、おじさんにも自分の口から報告したかったので、夕食に誘われたのはちょうど良かったかもしれない。
ㅤ俺はそのまま車庫に保管してある自転車に跨り、お茶子の自宅へと向かった。
◆◆◆◆
「──一水くん! 雄英合格おめでとう!!」
ㅤお茶子の家に着くなり、玄関で待ち構えていたおじさんがクラッカーを鳴らした。突然のことに面食らって固まっていると、呆れたようにお茶子が「もういいってー」とおじさんの背中をグイグイと押した。
ㅤおじさんは相変わらずノリがいい。
ㅤリビングに押し込まれて行くおじさんの後を追って、お茶子と共に部屋の中に入った。
ㅤ途端に鼻腔をくすぐる、食べ物の香り。
ㅤテーブルの上にはいくつもの料理が並べられていて、夕食の準備は万端といったところだった。
ㅤ箸とコップを並べていたおばさんが、俺の姿を見るなり微笑みかけてきた。
「あら、いらっしゃい! 合格したんやってね。おめでとう」
「あざっす。おばさんのくれた御守りのおかげです」
ㅤ俺は頭を下げた。実際、筆記試験と面接の時に懐に入れていた御守りの存在はかなり心強かった。実技試験のときは紛失したりするのが嫌だったので、カバンの中にしまっていたけれど、あの御守りが合格に一役買ったのは間違いないだろう。
ㅤお礼をいうと、おばさんは嬉しそうにはにかんで洗面所を指指した。
「手洗っておいで。見ての通りもう出来てるから」
「っす」
「ほらお茶子も」
「はーい」
ㅤ言われた通りに、もはや慣れ親しんだお茶子の家の廊下を歩いた。もはや第二の家といっても過言では無いほど俺はここに訪れている。何処にどの部屋があるか、教えられなくともわかるくらいには。
ㅤ俺はパパっと手を洗って、リビングに戻った。おじさんとおばさんは既に席についていたので、お茶子の隣に腰掛ける。それぞれ目を見合わせてジュースの入ったコップを手に取り、おじさんの音頭で乾杯をした。
「試験オツカレサマー!!」
「いぇーい!!」
ㅤハイテンションな麗日父娘とは対照的に、静かに乾杯をした俺とおばさん。俺たちの合格祝いを兼ねた夕食会は和やかな雰囲気で始まった。
「いやぁ、まさか二人があの雄英に受かるとはね」
「ほんとほんと。いつの間にか立派になっちゃって」
ㅤガツガツと料理を頬張る俺とお茶子を眺めながら、おじさんとおばさんは顔を見合せて笑う。それにどう返せば正解なのか俺は分からなかったので、曖昧に笑いを返した。こうも真正面から褒められると流石に照れる。
「そういえば、一水くんは何位だったん? 順位出てたけど私よく見とらんかったわ」
「ん? ああ、1ポイント差で2位だった」
「マジ!?」
ㅤ何気に悔しいのがそこである。まさか救助Pなんていう隠し玉があるとは思わなかったが、それにしても救助Pがゼロで首席なんてヤツが居るとは想像もしていなかった。
ㅤ俺はどちらのポイントも多めに取っていたらしいが、それでもあと2ポイント取れていたら首席だったことを考えると、素直に喜べない。
ㅤしかしお茶子はそうではなかったようで、ジェスチャーも交えて仰天していた。
「なんでそんな成績で実感わかへんの。私、確か4位やったんだけど」
「さあ? 次寝て起きたら合格したんやって思うんじゃね」
ㅤまだ俺の脳内は通常運転である。つい最近まで勉強にトレーニングを詰めまくっていたせいか、受験生モードが抜け切っていないのだ。
ㅤだがお茶子は「くそー……負けた」と頭を抱えていた。2位だろうが4位だろうが、上位層なのには変わりないのだからそこまで変わらないと俺は思うが、どうやら彼女は違うらしい。顔を顰めてジュースを一気飲みしていた。
「次は負けないよ!」
「ほー、まあ次も俺が勝つけど」
「くぅ〜、悔しぃぃぃ」
「横っ腹つねるなや」
ㅤつねるような贅肉はないが、微妙に痛い。お茶子にデコピンをして話すと、クスクスとおばさんが笑った。俺たちは二人揃って訝しげな目を彼女に向ける。
「昔から変わらないわね、二人とも。いつもそうやってじゃれてばっかり」
「……まあ、妹みたいなもんですし」
ㅤ俺にとってお茶子はどういう存在か考えた時に、一番しっくりくるのが”双子の妹”である。最も仲の良い友達ではあるが、如何せん小さい頃からつるんでいるので身内感が強く、どちらかといえば友達というよりも双子と呼んだ方がいい。
ㅤもちろん血肉を分けた実の家族ではないが、お茶子はもおじさんもおばさんも、俺にとっては実の家族同然に親しんでいる相手である。今さら軽い喧嘩の一つや二つで仲違いするほど浅い関係ではない。
ㅤだが俺のそんな思いを他所に、お茶子はビシッと俺に指を指して異を唱えた。
「──双子だっていうなら、私が姉やけど?」
「…………あ?」
「学校で一水くんが不良だー、みたいな噂が立ってたのを無くしたのも私だし。修学旅行とかでも怖がられてぼっちだった一水くんを誘ったのも私やで。これまで私がどれだけ一水くんの面倒を見てきたことか」
「おいおい、越えちゃあかんライン越えたなテメェ」
ㅤその発言は流石に見過ごせない。
ㅤこんなヤツが俺の姉貴分とでも言うのか。冗談も大概にして欲しい。関西人のくせしてジョークとユーモアの才能がないのは明らかな致命的欠陥だ。
ㅤ怒りでヒクヒクと口角が引き攣った。
「お前のわがままにどれだけ俺が振り回されたと思ってんだ。やれ勉強教えてくれだの、やれショッピングに行こうだの、やれ寝落ち通話しようだの。面倒見てやってんのは俺の方やろ」
ㅤ勉強を教えるくらいはともかく、他二つに関してはほとほと困り果てていることだ。
ㅤろくに買い物もしないくせにショッピングモールに連れて行かれて、結局俺の奢りでスイーツだけ食べて一日が終わったり。怖い夢を見たとか言って夜中の2時3時に電話をかけてきて、苛立ちを抑えながらコイツが眠くなるまで会話相手をしてやってたり。
ㅤ昔からお茶子のわがままに何だかんだいって付き合ってきた俺の方が、どう考えても兄に相応しいだろう。なにが悲しくてこんな丸顔アホ女の弟分にならないといけないのか。
「なんやってぇ……!?」
「あぁ? やんのか? 表出ろや、水浸しにしてやらぁ」
「まあまあ、落ち着きや二人とも」
ㅤ互いに苛立ちがピークに達しようとしていたとき、俺たちの様子を見物していたおじさんが止めに入った。彼にそう言われて逆らうはずもなく、俺とお茶子はぐっと堪えて大人しく席に座った。怒りは絶賛継続中である。
「とにかく、父ちゃんは二人の制服姿が楽しみやなぁ。どっちも絶対似合ってるわ」
「そうね。届いたら写真撮りましょ?」
ㅤ名案だ、という風におばさんは手を叩いた。だが二人はそう言うものの、俺は俺自身が雄英の制服を着ている姿を想像しても”似合わない”の一言しか出てこない。
ㅤ学ランに慣れているからだろう。
ㅤブレザーの制服というのに縁がないので、どんな物なのか実際に着て鏡を見ない限りどうも言えないのだ。願わくば似合っていて欲しいが。
「似合いますかねぇ?」
「大丈夫やって! 一水くんはお父さんに似て高身長で男前やから、高校行ったら絶対モテる! 彼女ができたら是非紹介してくれよ?」
「今まで出来たことないんすけど……」
ㅤむしろ避けられていた。
ㅤお茶子が先ほど言った通り、俺が不良だとかいう根も葉もない噂のせいで、俺は女子どころか同じ男子からもあからさまに避けられていたのだ。色恋云々を語る以前の問題である。
「まあ、髪切ってからはカッコイイと私も思うよ。今までのは適当過ぎてどうかと思ってたけど」
「そうかぁ?」
ㅤ出来たての唐揚げを口に運びながら、お茶子がそう言った。たしかに髪をちゃんと美容院でカットしてもらってからは、町で見かける同級生たちの視線が少し変化していたが、おじさんの言うようなモテるといった状況には程遠い。
「え、一水くん彼女居たことなかったっけ?」
「まあ、はい」
ㅤなんだろう。事実なのに否定せざるを得ないこの悲しさは。考えれば考えるだけ気持ちが沈みそうになってきた。
ㅤ恋人どころか友人もお茶子以外はまともにいなかった奴に、おじさんは一体何を言っているんだろうか。
ㅤただ、これに関しては受験を見据えて友達作りに関心を向けなかった俺の自業自得である。高校に行ったら友達のひとりやふたり出来ているだろうと期待して、思考を無理やり切り替えた。
ㅤ
「──ならお茶子はどう? 一水くんなら私たちとしても凄く安心なんだけど……、」
「「あっ、無理です」」
ㅤ全く同時にそう答えた俺とお茶子に、おじさんは豪快に笑い、おばさんは残念そうに頬に手を添えた。
ㅤそれだけはありえない。もしもお茶子と仮にそういう仲になったとしても、ものの一時間くらいで喧嘩別れするだろう。
ㅤ俺と彼女の仲なんて所詮その程度で、幼なじみかつ身内だからこそ軽いいざこざで済ませていられるが、その枠を一歩でも飛び越えたが最後、二度と関わることはないだろうという確信に近いものを抱いている。
ㅤそもそも、こんなヤツを彼女にしたい物好きなんてこの世には居ないはずだ。そうに決まっている。
「私はもっと素直な人がいい。一水くんは嫌やわ」
「俺もお前は嫌や。今日初めて気があったな」
ㅤきっと、これから俺にもそういう意味で好きな相手が出来ることだろう。どんなやつを俺が好きになるかはまだ分からないが、少なくともその相手がお茶子以外の異性であることは断言出来る。
ㅤこいつとは、いつまでも双子のような幼なじみのままであって欲しい。普段から割とイラッとする時ばかりだが、今回は珍しく意見が合った。
ㅤ互いの意思を再確認するようにお茶子と硬い握手を交わすと、おばさんとおじさんが困ったように眉尻を下げた。
ㅤそんな顔をしても嫌なものは嫌なのである。
次回から遂に原作主要キャラが大量に出ます。
三重弁が分からないのでエセ関西弁喋らせてますが、どうか大目に見てください……