水で征せよアカデミア   作:わこうど。

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前途ーーー!?

多難ーーー!!
っつてね。今回も低クオリティでお送り致します。


Combat training

 

 

 

 

「一水くん、帰ろー」

 

「……いや、俺ちょっと職員室に用事あるで先帰っといて」

 

 

ㅤ雄英高校、入学初日。

ㅤ合理主義を標榜する担任の相澤によって、入学式もガイダンスもすっ飛ばして行われた個性把握テストや諸々のプリントの受け取りなどを済ませた俺たちは、ようやく下校時間を迎えていた。

ㅤ時刻は昼前、テストで動いた分だけ微妙に腹が空いている。

 

 

ㅤカバンを肩にかけたお茶子が俺の席に寄って声をかけてきたが、生憎、俺は職員室に用事があるので断った。

 

 

「なにしに行くん?」

 

「ちょっと野暮用。そんな時間かからんと思うけど」

 

「ふーん……まあええか。じゃあ先行ってるね!」

 

 

ㅤ首を傾げたお茶子だったが、俺の雰囲気を察したのかそれ以上は聞いてこなかった。手を振って走り去ってゆく彼女の背中を見送りつつ、俺も席から立ち上がって教室を後にする。

 

ㅤさて職員室はどこだったかな、と配られた校内のマップを手に廊下をひとり歩く。生徒たちの喧騒で賑やかな教室や階段を進み、しばらくしてようやく目的の場所にたどり着いた。

 

ㅤ俺は緊張を誤魔化すようにふう、と息をついて、ドアを3回ノックする。

 

 

「失礼します。1-Aの千重波です。相澤先生はいらっしゃいますか?」

 

 

ㅤやはりというか、職員室も中学と比べるとかなり広かった。中には入らず室内に顔をのぞき込むと、少し離れた場所に座っていた相澤が俺に訝しげな目を向けながら寄ってきた。

 

ㅤ新入生が初日に職員室に来るのは稀なようで、他の教師たちからもチラチラと見られていたが、気にせずこちらに向かってきた相澤に会釈をする。

 

 

「千重波か、どうした」

 

「オールマイトさんっていらっしゃいます? 少しだけでもいいので、お礼を言いたくて」

 

「お礼?」

 

「はい。昔、彼に助けられたことがあって……一言だけでも伝えたいんです。もちろん、多忙でいらっしゃるでしょうし不在ならば別の機会にしますが」

 

 

ㅤ俺の野暮用、というのはオールマイトに会うことだった。

 

ㅤヒーローを目指すきっかけとなった、あの日の事件。彼にとっては通りかかっただけかもしれないが、俺から見れば紛うことなき命の恩人である。

 

 

ㅤこれから様々な指導を受けるであろう前に、礼を伝えるということはしておきたかったのだ。通すべき筋を通さないのは俺のポリシーに反するし、祖母にドヤされてしまうだろう。

 

 

「……少し職員室の外で待て。呼んできてやる」

 

「! ありがとうございます」

 

 

ㅤ個性把握テストの前後には散々彼に悪態をついていたが、流石に面と向かって「なんやねん」とは言わない。そこまで礼儀知らずではないし、というかそんなことをして初日から目をつけられたくは無い。

 

ㅤ彼に向かって頭を下げて、俺は言われた通りに職員室の外に出た。パッと見オールマイトの姿は見えなかったが、すぐに呼べる位置には居たらしい。

 

ㅤ時おり出入りする教員たちにチラチラ見られながらも、俺は職員室前の廊下で佇んでいた。これまでとは別種の緊張感に胸が弾む。憧れてやまない人物が、もうすぐ俺の前に現れるのだと思うと指先が震えた。

 

 

ㅤ五分ほどすると相澤が出てきて、ちょいちょいと室内に招かれる。戸惑いながらも職員室に入ると、目に入ってきたのは筋骨隆々な男の厚い胸板。

 

 

──平和の象徴、オールマイトがそこに居た。

 

 

「HAHAHA! 私に用があるというのは君だね? 千重波少年」

 

 

「……はい。突然押しかけて申し訳ありません。どうしても貴方に感謝を伝えたくて」

 

「感謝? ……はて、なんの事かな?」

 

 

ㅤきょとん、としたオールマイトに俺は5年前の”あの日”の出来事のことを語った。

 

ㅤ巨大なヴィランが町で暴れ回っていて、偶然にも鉢合わせてしまって立ち往生していた当時小学生だった俺を、どこからともなく現れたオールマイトが颯爽と退治して助けてくれたこと。

 

ㅤそして、それをきっかけにヒーローを目指すようになったことと、将来は今度はあなたをも助けることの出来るくらいに強くなるという幼時の決意も加えた。

 

 

ㅤきっと、オールマイトは覚えていないだろう。

 

ㅤけれど俺は人生を大きく変えることとなったあの日の出来事を今でも鮮明に覚えているし、これからも忘れることは無いと確信している。

 

 

「──ありがとうございました。貴方のおかげで今俺はこの雄英に立っている。胸を張ってヒーローを目指せている。たとえ夢半ばで挫折しようとも、この大恩は生涯忘れません」

 

 

ㅤ紛れもない本心だった。

 

ㅤこれから先、もしかしたらヒーローになるという夢を挫折せざるを得ない事態に直面するかもしれない。ヒーロー活動とはそれくらい危険がまとわりつく仕事であるし、ヒーロー候補の学生だろうがヴィランとの戦闘で命を落とすことだってある。

 

ㅤだが俺がそうなってたとしても、オールマイトに命を救われたというこの事実だけは絶対に忘れやしない。

 

 

「千重波少年、感謝を言うのは私の方だよ。以前助けた相手にそこまで言われて嬉しく思わないヒーローなんて居ないさ!」

 

 

ㅤHAHAHA、とアメリカンに笑ったオールマイトは頭を下げたままの俺の身体を強く抱き締めた。ポンポンと背中を叩かれて、嬉しさと同時に気恥ずかしさが湧いてくる。というかここ一応、職員室の扉の前なんだけど。

 

 

「さあ、今日はもう帰りなさい。お昼もまだなんだろう?」

 

「っす。お時間頂いてありがとうございました。これから宜しくお願いします」

 

 

ㅤオールマイトにハグされるなんて、入学早々良い思い出が出来た。お茶子に言ったらきっと羨ましがられるだろうな、と思いつつ、名残惜しくも職員室を出た。

 

ㅤ明日、相澤に会ったら彼にも礼を伝えておこう。

 

 

 

 

 

 

 

「──ただいま」

 

「ん、おかえり〜」

 

 

ㅤ家に帰ると、部屋着に着替えたらしいお茶子が出迎えた。もうシャワーを浴びたようで、シャンプーの香りがほのかに匂ってきた。

 

ㅤネクタイを緩めながら座布団に腰掛ける。

 

 

「今日は色々あったね、初日なのに」

 

「な。さすが雄英やわ」

 

 

ㅤ対面で寛ぐお茶子が、頬杖ついてそう言ったので俺は頷き返した。まさか入学式も何もかもすっ飛ばしてテストを実施するとは予報だにしていなかったが、そんな悠長な時間はないという相澤の言葉は至極正しい。

 

ㅤブレザーを脱ぎ捨てて、俺は床に寝っ転がった。

 

 

「あ”あ”ぁ”……疲れた。精神的に」

 

「もー、制服シワついちゃうよ? 新品やん」

 

「んなもん気にせんわ 」

 

 

ㅤため息をつきながら、お茶子が俺の制服をハンガーにかけてくれた。さんきゅ、と言うとシカトされる。なんだろう、その残念な人を見るような目やめてもらってもいいですか。

 

ㅤとりあえず腹が減って仕方ないので、俺はキッチンの方に向かった。冷蔵庫を開けるも、カラッカラで中身はほとんど入っていない。精々が水や昨日の夕食の残り程度だ。

 

ㅤとはいえ今からスーパーに買い物へ行くのも面倒くさいので、今日の昼はカップラーメンで済ませよう。夜は適当に昨日の残りと米を食えば良い。

 

ㅤ地元に居た頃は食生活には気を使っていたが、互いに金の余裕がある訳では無いので贅沢は言ってられなかった。数ヶ月前の生活水準と比較すると、なんともひもじい生活である。

 

 

「そういえば、今日新しい友達出来たよ」

 

「まじ? 早くね」

 

 

ㅤ電気ケトルでお湯を沸かしていると、リビングでテレビをボケーッと見ていたお茶子が藪から棒に言った。

 

 

「誰や、同じクラスのやつ?」

 

「うん。ほら、地味目の子とメガネの人」

 

「……ああ、緑谷と飯田か」

 

「うちてっきりデクって名前かと思ってたんやけど、全然違ってた。でもデクで良いって言われたからそう呼んでる」

 

「デクて」

 

 

ㅤそれはつまり蔑称なのでは、という疑問は正しかった。本名は緑谷出久で、その名前をもじってあの爆豪がデクと呼んでいたようだ。

ㅤ木偶の坊から取っているのだろうが、なんとも言えない。本人が良いなら赤の他人の俺がどうこう言うことではないが、それでいいのか緑谷。

 

 

ㅤどうやら俺が職員室でオールマイトと話している間に、お茶子はいつの間にかあの二人と仲良くなっていたみたいだ。俺は友達どころか話し相手もまだ出来ていないというのに。

 

 

ㅤ今日話した相手を数えてもお茶子、相澤、オールマイトの三人くらいである。

ㅤ何となく俺が気になっている緑谷とはまだ話せていないし、飯田に至っては50m走のときの記録が凄かったのでこちらが一方的に名前を知っているだけだ。

 

 

ㅤそれにしても、緑谷と飯田が一緒にいるとは意外である。実技試の験説明会のとき然り、割と飯田の方が彼にツンケンな態度をとっていたと思うのだが、やはり0Pヴィラン撃破の影響は大きいのか。

 

 

……よし、俺も明日からは話し相手くらい作ろう。

ㅤ幼なじみだからといって、そちらの仲良しグループに加わるのは何かお茶子に負けた気がして嫌だし。

 

 

「出来たぞ」

 

「わーい」

 

 

ㅤ二つ分のカップラーメンを持って机に運ぶ。割と大きめのやつを買ったので、五分くらいは待たないといけなかった。

 

ㅤその隙に自分の部屋に戻って、部屋着のタンクトップと短パンに着替える。風呂は後でいいだろう。個性把握テストが終わったあとにシーブリーズで身体を拭いたので、それほど臭わないはずだ。

 

 

「これうまぁ〜」

 

「食うの早ない?」

 

「うちカップ麺は固めが好き」

 

「まあ分からんでもない」

 

 

ㅤ割り箸をパキンと割って、麺をすする。美味くも不味くもない普通の味だ。

 

ㅤラーメンを食べながら二人でテレビを見ていると、ニュース番組に切り替わった。お馴染みのニュースキャスターが、オールマイトの雄英赴任について報道している。

 

 

「どこのニュースもみーんなオールマイトばっかりだね」

 

「そりゃそうやろ。こんな特ダネ騒がない方が無理ある」

 

 

ㅤ俺たち受験生の合否判定が送られた日の夕刻に、雄英高校はオールマイトが雄英高校の教師として赴任したことを世に発表した。

 

ㅤそれからもうしばらく経つが、未だマスコミの熱は冷めていない。むしろ本格的に授業が始まるこれから、オールマイト関連の報道は熱を帯びるだろう。

 

ㅤ場合によっては生徒たちにコメントを求めるかもしれないが、そうなったとしても俺は受けるつもりはなかった。というのも俺は元来、マスコミを苦手としているからだ。嫌いでは無いけど、進んで関わりたくは無い人種である。

 

 

「明日から授業か。早いな〜……」

 

「いいやん。プレゼントマイクの英語の授業、俺結構楽しみにしてるんやけど」

 

 

ㅤ何気に楽しみにしているのが、プロヒーローたちによる通常授業である。普段テレビで目にする人達が教壇に立って国語や英語などを行うなんて、全国広しといえど数少ないだろう。

 

ㅤヒーロー科のカリキュラムは、基本的に午前中は五教科を始めとする必修科目の座学。そして昼を挟んで午後からは戦闘訓練や救助訓練などヒーローとしての素地を学ぶ科目で構成されている。

 

ㅤ明日もさっそく午後から”ヒーロー基礎学”がある。担当教員はあのオールマイト。時間割を目にしたクラスメイトたちがそれを見て色めき立ったのは言うに及ばないだろう。

 

 

「何やるんだろうね、ヒーロー基礎学って」

 

「さあ? 雄英のことだし、いきなり戦闘訓練なんてやってもおかしくないだろうけどな」

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

 

──とは言ったものの、まさか本当にいきなり戦闘訓練が始まるなんて誰が思うのか。

 

 

 

「わーたーしがー!!! 普通にドアから来た──!!!」

 

 

ㅤお決まりの口上と共に意気揚々と1-Aに入ってきたのはオールマイト。銀時代(シルバーエイジ)と呼ばれる時期に彼が着用していた戦闘服(コスチューム)に身を包む彼は、教壇に立つや否や、”BATTLE”と書かれたカードを全員に見せつけてきた。

 

 

ㅤヒーロー基礎学。

ㅤその名の通り、ヒーローとしての素地を学ぶための科目であり、雄英高校ヒーロー科のうち最も単位数の多い授業だ。

 

 

ㅤそれを実施するに伴って、生徒は入学前に”個性届”と要望を雄英に送った自分専用のコスチュームを用いることとなる。

ㅤこれは被服控除と呼ばれる独自のシステムで用意されたもので、学校専属のサポートアイテム製作会社が生徒の要望に沿って開発したものだ。

 

ㅤ更衣室でパパっと着替えて、もはや懐かしさすら感じる模擬市街地へと俺たちはやって来ていた。

 

 

「さァ、始めようか──有精卵ども!!」

 

 

ㅤオールマイトの前に、十人十色のコスチュームに身を包んだ1-A生徒たちが並んだ。事前に送った要望通り、俺のコスチュームは十分に納得がいくクオリティだった。

 

ㅤ外側が吸水に優れた素材で、内側が防水に優れた素材の二重構造となっているインナーに、耐久性抜群なオーバーサイズのパーカーを羽織り、また靴底に衝撃吸収材をはめ込んだ特殊なスニーカー。

 

ㅤこの3セットが現在の俺の基本的なコスチュームだ。

ㅤ他にも細かな機構やサポートアイテムなどはあるが、とりあえずこの3つが俺のヒーローとしての姿である。

 

ㅤオールマイトのようなコスチュームも格好いいが、やはり自分の個性に合ったモノの方が自分のためになるだろう。

 

 

「……うわ、お前パッツパツやん」

 

「言わんといてよ。あんま細かく要望出してなかったの!」

 

 

ㅤ女子たちも男子に続けて出てきたのでそちらを見れば、そこに居たお茶子のコスチュームはなんというか全身パツパツなスーツだった。機能面での要望は出したが、デザインに関してはあまり詳細なものを書いていなかったらしい。

 

 

「あっ!デクくん!」

 

「麗日さ──うおお!?」

 

 

ㅤ誰かと思ったら緑谷か。お茶子の姿を見て慌てて目を逸らしていた。別にこいつの局部を見てるわけじゃないんだから堂々としてればいいのに、とは思ったがきっと内気なんだろうと開けかけた口を閉じる。

 

ㅤ彼も中々特徴的なコスチュームだ。オールマイトをリスペクトしているのが丸わかりな格好である。

ㅤいい機会だし、俺も緑谷に自己紹介をしよう。

 

 

「よぉ、緑谷。カッコイイな、そのジャンプスーツ」

 

「あ、えっと、ありがとう! 君は昨日麗日さんと一緒に来ていた──」

 

「千重波 一水。コイツとは幼なじみなんだ、よろしくな」

 

 

ㅤ握手をしようと手を伸ばすと、嬉しそうにちゃんと握り返してくれた。俺との身長差も相まって小動物みたいに見える。傍から見ていて分かっていたが、気の良さそうな奴でよかった。

 

 

「よ、よろしくね、千重波くん!」

 

「おう」

 

 

ㅤ握手をした際、俺は緑谷の手の感触を確認していた。ゴツゴツとした強い拳の持ち主だが、あんな馬鹿げた力の個性を持っている割には脆く感じる。

ㅤどうにもチグハグだと思ったが、そりゃああんな個性は日常的に使えないか、とも納得して手を離す。

 

 

「さあさあ、待ちに待った戦闘訓練のお時間だ!」

 

 

ㅤパンパンと手を叩いて注目を集めたオールマイトが、高らかに授業の開始を宣言した。

 

 

「先生! ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか?」

 

 

ㅤなんやあのロボット、と少し気になっていたヤツの正体はなんと飯田であった。コスチュームを着ていても真面目さは変わらず、疑問に思ったことはすぐに聞くスタンスらしい。

 

 

ㅤだが、オールマイトは市街地演習をするのかという飯田の質問に対してNOと答えた。

 

 

「いや、もう二歩先に踏み込む! 屋内での対人戦闘訓練さ!!」

 

「……!」

 

 

ㅤオールマイトが言うには、統計的に見ると凶悪ヴィランの出現率は屋外よりも屋内の方が高いらしい。

 

ㅤ普段俺たちが目にするであろうヴィラン退治は主に屋内で行われることが多いが、人々が目にしていない所でヒーローたちは日々戦っていることの方が多いとのこと。

 

 

ㅤこのヒーロー飽和社会であっても、監禁や軟禁、危険ドラッグや違法アイテム等々の裏取引など、古くから社会の闇に潜む下賎な犯罪は根絶出来ていない。

 

ㅤ真に賢しいヴィランは、屋内やみに潜む。

 

 

「君らにはこれから、〈ヴィラン組〉と〈ヒーロー組〉に分かれて二対二の屋内戦闘を行ってもらう! 」

 

「基礎訓練もなしに?」

 

「その基礎を知るための実戦さ!」

 

 

ㅤあのカエルっぽい女の子が疑問を呈したが、オールマイトはサムズアップしてそう言った。

 

ㅤたしかに、俺たちは誰がどの個性を持っているか昨日の個性把握テストで何となく分かっているが、戦闘においてどれだけ強いのかはまだ分かっていない。

 

ㅤ俺たちにとってこの屋内戦闘訓練はクラスメイトの情報を集める時間であるのと同時に、オールマイトにとっては一人一人の現状を確認してこれからの指導を考える機会ということ。

 

ㅤ基礎訓練をするための基礎を知る。

ㅤそれが今日のヒーロー基礎学の目的である。

 

 

「ただし今度は、ぶっ壊せばそれで終いのロボじゃないのがミソだ!」

 

「勝敗のシステムはどうなりますの?」

 

ぶっ飛ばしてもいいんスか

 

「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか……?」

 

「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいのでしょうか?」

 

「このマントやばくない?」

 

「んんん〜、聖徳太子ィ!」

 

 

ㅤ平和の象徴と謳われる傑物も、複数人の質問に同時に答えることは出来ない。オールマイトは独特なリアクションで悶えていた。

 

ㅤていうか一人だけ全く関係の無いことを言っていたが、一体なんなんだ。昨日のテストで腹部からレーザーを出していた彼はどうやらナルシストらしい。マントを翻してドヤ顔を披露していた。

 

 

「いいかい? 状況説明はこうだ」

 

 

ㅤ屋内のアジトにヴィランは核兵器を隠しており、対してヒーローはそれを処理しようとしている。

 

ㅤ〈ヒーロー組〉の勝利条件は制限時間内にヴィランを捕まえるか、核兵器を回収すること。

ㅤ〈ヴィラン組〉の勝利条件は制限時間まで核兵器を守るか、ヒーローを捕まえること。

 

 

ㅤ設定がアメリカンなところには突っ込まない方がいいはずだ。そもそもオールマイトからして画風がコミックスタイルである。なので考えることもアメリカンなのだろうと、俺はこれに関して思考放棄した。

 

 

ㅤコンビと対戦相手はクジで決めるらしい。

ㅤ”Lots”と書かれたやけにチープな箱をどこからともなく取り出したオールマイトは、ほれ、と俺たちに突き出した。 

 

 

ㅤ適当かよ、と俺が言いかける前に飯田が同じことを叫ぶ。

 

ㅤしかし緑谷曰く”プロは他事務所のヒーローと現場で急造のチームアップをする例が多いし、クジで決めるという一見適当に見える事にも意味があるはずだ”とのこと。

 

ㅤなので、それを聞いていたクラスメイトたちの雰囲気も段々と変わってくる。

ㅤその後、ひとりひとり順番にクジを引いていった。

 

 

「……ん、Dか」

 

「あァ??」

 

 

──コンビ相手は爆豪だった。

 

ㅤ睨みつけるように俺の顔を見る彼に、負けじと睨み返す。今日初めて関わりを持ったのに、そんな態度を取られる謂れはないはずだ。

 

ㅤよりにもよって明らかな文字通りの地雷と組むことになるなんて、何とも幸先が悪い。

ㅤさっそくメンチの切り合いが始まって、周りのヤツらが離れていった。彼とのチームプレイには期待できそうにない。

 

 

「続いて最初の対戦相手は……こいつらだァ!」

 

 

ㅤHEROとVILLAN、二つの箱からオールマイトが勢いよくアルファベットの書かれたボールを取り出した。

 

ㅤ一発目、トップバッターの組み合わせは──、

 

 

「Aコンビが〈ヒーロー〉!! Dコンビが〈ヴィラン〉だ!」

 

「……A? それって」

 

 

ㅤちら、と横を見ると驚いたように目を見開く緑谷とお茶子の姿がある。俺たちの相手はあの二人のようだ。

 

 

ㅤ緑谷がどんな戦い方をするのか気になるところだが、昨日の爆豪の様子からして訓練開始と同時に緑谷目掛けて単騎で突っ走りそうな気もする。となれば、必然的に俺が相対するのはお茶子だ。

 

ㅤ勉強をしたり一緒に体力錬成のランニングをしたことはあるが、アイツと面と向かって戦ったことは無い。

 

 

「ぶっ潰してやる」

 

「ひぇっ」

 

 

ㅤ訓練とはいえヴィランとして振る舞うのは腹立たしい──が、ヒーローとヴィランはお互い不倶戴天の怨敵である。これまでの諸々の不満、この戦闘訓練でアイツにぶつけよう。

 

 

 

ㅤ幼なじみだから、異性だから……なんてふざけた理由で手加減なんてことはしない。

 

ㅤ今出せる全力を尽くして、核兵器の防衛とヒーローの捕縛、どちらの勝利条件も達成してやる。

ㅤ完膚無きまでの勝利をあのコンビに叩きつけるのだ。

 

 

ㅤまあ、爆豪に関しては居ないものとして扱おう。

ㅤ結果的にスタンドアローンとなってしまうが、彼のあの態度からして協力は無理がありそうだ。

 

 

ㅤ緑谷と爆豪の溝は思っていたよりも深そうだし、それならば俺は俺にやれることをやるまで。

 

ㅤ爆豪が緑谷を倒すならそれでよし。

ㅤもしも逆の結果──緑谷が爆豪を倒したならば、お茶子共々彼も倒すだけだ。

 

 

ㅤ戦闘訓練を実施するビルに向かってゾロゾロと歩き出す。

ㅤどこか緊張した面持ちで後ろを歩くヒーローコンビとは対照的に、俺と爆豪のヴィランコンビの間にその道中一切言葉は交わされなかった。

 

 

 

 







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