水で征せよアカデミア 作:わこうど。
戦闘描写むずくない……?
ていうか今更だけど麗日の一人称って”うち”じゃなくて私なんですね。勘違いしてました。訂正しておきます。
あと誤字報告まじで助かります。
感謝感謝です。シェイシェイ。誤字報告はどんどん下さい、まあそもそも誤字らないように気をつけろって事なんですが。
「──おい爆豪、こっち向けや」
「…………」
「……ちっ、このヘドロ野郎が」
「ンだようっせェな殺すぞ!! あぁ!?」
「なんやおまえヴィラン志望か?」
ㅤオールマイトと他のクラスメイトたちは、このビルの地下にあるモニタールームでこちらの様子を見ているらしい。だが俺はトップバッターを努めることへの緊張よりも、話しかけても無視しやがる爆豪への苛立ちが勝っていた。
ㅤコイツと協力なんてハナからするつもりはないが、それでも核兵器を置く場所と役割分担については照らし合わせるべきだと思って、先程から懸命に話しかけていた。
ㅤ流石に我慢の限界だったので、舌打ち混じりにヘドロ野郎と呼べば爆豪は即座に反応してきた。どうやらあのヘドロ事件については触れられたくないようだ。
ㅤというか、その眼光だけで人を殺せそうな表情を俺に向けるのは、つられて反射的に睨み返しそうになるのでやめて欲しい。オールマイトやクラスメイトが見ているのに、訓練前からチーム同士で喧嘩なんてシャレにならないだろう。そんなことになれば俺のクラス内評価はダダ下がりである。
「お前、どう動くつもりだ? 作戦なんて大層なもんはねぇが、立ち位置の確認くらいはしておきたい」
ㅤ爆豪と組むことになった時点で、俺は細かな作戦立案は難しいだろうなと察していた。
ㅤそもそもごく普通のコミュニケーションがままならないのだ。爆豪と関わってまだそれほど時間は経っていないが、俺との相性がさほど良くないことは話しかけてすぐ分かった。爆豪と相性のいい人間なんてこの世にいるのだろうかと、思わず考えてしまうくらいには。
ㅤオールマイトから通信機を渡されたが、恐らく出番はない。
「デクは俺が潰すッッ……!!」
「オーケイ、予想通りやな。じゃあ俺はここで核兵器守ってっから、ヒーローの相手頼んだぞ」
ㅤいったい爆豪が緑谷の何に対して怒っているのか皆目見当もつかないが、彼に訊ねるのはやめた。地雷原にダイビングするような自殺願望は俺にはない。
ㅤ作戦──というのも烏滸がましいが、不機嫌極まりない爆豪を相手に立ち位置のすり合わせを出来たのは不幸中の幸いだ。
ㅤオールマイトたちにこちらの会話内容が届いているかは聞き忘れていたが、爆豪への1-Aに共通する不良然とした第一印象もあって、対照的に俺の冷静さが際立つことだろう。利用できるものは何でも利用するのが俺のポリシーである。
ㅤ核兵器の防衛は自分がするので、お前は適当に動いてろ。俺がそう言うと爆豪は「けっ」と顔を背けて、何やら考え込むような素振りを見せた。
ㅤオールマイトからの訓練開始の合図はまだない。これからに備えて準備運動をしていると、それまで黙っていた爆豪が突然口を開いた。
「おい水野郎。デクは”個性”があるんだよな……?」
「はぁ? お前も一般入試組やろ。あの
ㅤ会場が違ったので俺はその場面は見ていないが、お茶子がそう言っていたので間違いない。それに、無個性の人間がソフトボール投げで約700メートルも飛ばせるならば、体力テストの全国記録は毎年塗り替えられていることだろう。
ㅤ故に緑谷が個性を持っていることに疑いはない。
ㅤというか顔馴染みだろうに、彼が個性を持っていることを爆豪が知らないというのも驚きである。
「……の……か」
「あ? なんやって?」
ㅤボソボソと何か呟いていたので聞き返すが、もはや爆豪の意識に俺の存在など消え去っているらしい。
「あのクソナード、この俺を騙してやがったのか……!!?」
「うわこわ」
ㅤ背中越しでも分かるくらい怒りに震える爆豪に、俺の言葉は届いていない。どす黒いオーラが見えた。隠してやがったというか、あんな強力で派手な個性なんて日常的に使えるものでもないだろうに。
ㅤ”ほらやっぱりこうなる”とため息をついた途端、耳元の無線機からオールマイトの声が聞こえてきた。
『屋内対人戦闘訓練、開始だ!』
ㅤということは、ヒーロー組がビルに入ったということだろう。爆豪はそれを聞いて、瞬く間に核兵器の置いてある部屋から飛び出していった。せっかちな男である。
ㅤ俺は俺でやることをやろう。
ㅤ俺の個性〈大波〉の現在の有効範囲は、半径3メートル縦5メートルの空間だ。この部屋の大きさからすると、多少動くことになるものの部屋のほぼ全ての場所から水を生み出し操ることが可能だ。
ㅤ布石を打つために、部屋の扉付近、核兵器、俺の周囲以外は腰が浸かるほどの量の水を出しておく。これは侵入者の機動力を削ぐ障害であるだけではなく、侵入者を近付けさせない武器にも転じる。
ㅤ水を生み出すだけならさほど体力は消費しない。
ㅤ俺がこの個性を扱う上で最も体力を消費するのは、制御に集中しているときだ。正直、特定の場所以外を水で埋めつくすという行為には割と集中力がいるので長期戦には弱いが、たかが十五分の制限時間内なら問題ない。
ㅤ無重力で武器になりそうな物は沈めてあるし、仮にお茶子が自分の身体を浮かせたとしても、部屋一面に広がる水を操って彼女に攻撃出来る。
ㅤこの防衛策に問題があるとするならば──、
「やっぱり緑谷だよなぁ」
ㅤそう、防御と攻撃も兼ねるこの大量の水。お茶子だけを警戒するなら事足りるだろうが、緑谷のあのバカみたいな力の個性で吹き飛ばされたら流石に維持できない。
ㅤまあそこは爆豪が何とかアイツを倒してくれることに期待しよう。
──BOOOOOM!!!
「お、始まったな」
ㅤ階下から爆豪の個性と思わしき爆発音が聞こえてきた。突然の奇襲にさぞかし驚いていることだろう。
ㅤいや、爆豪と以前から関係のあるだろう緑谷ならば爆豪単騎の奇襲は予想していてもおかしくはないが……彼がそれに対応出来るかどうかは分からない。
「ヘイ爆豪。お茶子……丸顔の女だが、緑谷と離れたか?」
『──黙ってろ、話しかけんな。俺はデクを潰す』
「お前から潰してやろうかヘドロ野郎」
ㅤヒーロー側に寝返って三人で爆豪リンチするのも楽しそうだが、流石に怒られるか。彼からの返事は無いが、爆発音が連続して聞こえてきたのでヒーロー側との戦闘中であることは分かる。
ㅤ状況くらい教えて欲しいものだ。
ㅤそれにしても、緑谷はどう動くのだろうか。
ㅤお茶子を先に逃がして、あとから自分も爆豪から逃げてこちらに向かうという手は打たないと思う。
ㅤなぜならその時点で二対二の状況に変わってしまうからだ。水の障害で迎え撃つ俺と、緑谷を追いかける爆豪との間での挟み撃ちは彼らとて避けたいはず。
ㅤヘドロ野郎がお構い無しに突っ込んでいったからこそ、現在は爆豪と緑谷、俺とお茶子というそれぞれ一体一の状況が出来ている。傍から見たら二対二であることに変わりはないが、実際は同じ屋内で戦っているだけ。
ㅤ緑谷に爆豪から逃げる選択肢はない。お茶子が来たところで俺は彼女の動きを封じられるのだから、現状は俺たちが有利である──とも言いきれないのが嫌なところ。
ㅤ緑谷の個性という不確定要素、それに加えて俺たちヴィラン側は主に爆豪のせいで意思疎通が土台からして無理な状況。客観的に見たらヴィラン有利で進んでいるが、内情は五分五分といったところか。
ㅤこのままだと終わったあと、オールマイトから何を言われるか分かったもんじゃない。憧れの人が見ている前で、みっともない戦いは出来ない。
「来たか、お茶子……!」
ㅤ扉の向こう側で、こちらを覗いたお茶子の姿がチラッと見え。俺の読み通り、緑谷はお茶子だけを先に行かせたようだがこの水の障害の前では愚策だ。
ㅤお茶子が個性を水に使ったところで、この腰まで浸かるほどの量の水全てを浮かせることは出来ない。やったところでキャパシティオーバーに陥って、クラスメイトたちが見ているなかでゲロを吐くのがオチだ。
ㅤそして仮にアイツが多少の水を浮かせたとしても、水が有効範囲内にある以上、無重力で浮いた水も俺は操れる。そもそも俺が生み出したものだし。
ㅤ扉付近はお茶子を釘付けにするためにわざとスペースを開けてあるが、身動きが取れない以上、もはやお茶子に為す術はない。
「そんな所に隠れてないで出てこいやァ! ヒーロー!!」
「むっ……!」
ㅤさてお茶子はどう動く。
ㅤ期待を込めて扉の向こうから姿を現した彼女を見ると、お茶子はその手に何か持っていた。
ㅤ細長く、それでいて鋭利な鉄製の棒──先端がひしゃげた鉄パイプだ。おそらく、他の部屋に落ちてた物の一つ。
ㅤ俺が身振り手振りを使って彼女を煽るも効果はなく、お茶子は冷静に自分の身体を浮かせた。
ㅤ通路に水がいかないように開けていたスペースから彼女が出たのを確認し、俺はお茶子の下にある水を思い切り天井に向かって噴射した。
「そんなの当たらないよ!!」
「ちっ」
ㅤしかしその水の噴射が当たる直前に、お茶子は鉄パイプを杖のように使って移動していた。空振った流水はそのまま天井を突き破る。
ㅤ無重力で体を浮かせた彼女は厄介だ。
ㅤ鉄パイプを使って柱や壁を縦横無尽に動き回るお茶子に、次々と俺の操る流水が襲い掛かる。しかしそれも巧みに躱し続けるお茶子は、俺の身体に触れようと虎視眈々と狙っているようだった。
ㅤもっと水の量増やせばよかったか、と後悔する暇もなくお茶子が宙に浮いたまま俺の方に突進してくる。触れられたらその時点で俺は自由行動が出来ない。
ㅤそれはそれで水を噴射してお茶子のように動き回ればいいだけなので、俺たちの勝ちが潰れるわけではないが、核兵器を守らないといけない以上、少しでも核兵器の前から離れる訳にはいかない。
ㅤお茶子の手のひらが俺の胸に触れかけた瞬間、上体を逸らして彼女の腹部に蹴りを入れた。くの字に曲がって勢いのまま飛んでいくが、お茶子は自分が天井にぶつかる寸前に体勢を立て直し、俺から距離を取る。
ㅤこちらを睨みつけるお茶子に、俺は笑みを深くした。俺が手加減するつもりはないように、あいつもあいつなりに全力で俺に勝とうと考えているのが分かった。
「もう終わりか?」
「まだや!」
ㅤまた同じように、お茶子が壁や柱を蹴って飛び回る。しかし先ほどまでとは違うのは、移動に使っていた鉄パイプをいつでも俺に振れるように構えていることだ。
ㅤまるでベースボールプレイヤーがバットを構えるように、お茶子は鉄パイプを思い切り振りかぶった。俺の側頭部を狙った彼女の攻撃は、ギリギリ避けたことで当たることは無かった。
「っぶな!? ドタマかち割る気かテメェ!!」
「身内だからって手加減しないからね! 」
「仰る通りィ! ならさっさと墜ちろや!!」
ㅤ宙を舞うお茶子に向かって、まるで津波のように部屋中の水が押し寄せる。天井への退路は絶つことが出来た。ちょこまか動いても、もう直撃は避けられない──俺はそう確信した。
「──うん!」
ㅤしかし、緑谷から来たであろう通信を聞いたお茶子が大きな声で返事したことで、その確信は揺らぐ。
ㅤ”何かをするつもりか”と警戒して身構えたのだ。唯一の不安定要素だった緑谷がついに動いた。思考の隅に置いていた彼への警戒心が一気に強まったが、あまりにも咄嗟のことだったので個性のコントロールが緩んでしまう。
「っ、えぇぇぇい!!」
──彼女がその綻びを見逃すことなく、押し寄せる水の中に出来たほんの小さな隙間に、お茶子は頭から突っ込んだ。
「うぉマジか!?」
ㅤするりと流水を避けたお茶子は、飛んできた水飛沫に目を擦りながら一本の柱にピシッと張り付いた。
ㅤまるでコアラのように柱をホールドしており、その顔色は悪かった。今にも吐きそうな表情である。
ㅤ今まで見たことがないくらい無重力状態でピョンピョンと動き回っていたし、とっくにキャパシティオーバーが来ていたのだろう。
ㅤチャンス! と思って俺は彼女に水を噴射したが────、
──突如として下から来た物凄い風圧が、床と天井を突き破ってビルに大穴を開けたことで遮られる。
ㅤせっかく溜めた水も、その風圧と共にビルを飛び出して空に散った。わずかに残った水も、床に空いた穴から流れ落ちっていく。
ㅤこれは爆豪の爆破……ではない。この威力の爆破を起こせるとしてもビルの側部を吹き飛ばすはずだし、緑谷との正面戦闘でわざわざ天井を爆破する意味は無い。
ㅤ当然、キャパシティオーバースレスレであろうお茶子にもこんな芸当は不可能だ……とするならば、これを仕掛けてきたのは消去法で一人しかいないだろう。
「──これ緑谷だなぁ!! はははっ、馬鹿みたいな破壊力じゃねぇかオイ!!」
ㅤこんな面白い訓練、終わらせたくない。
ㅤお茶子を追い詰めた瞬間、俺は完全に勝ったと思ったのに、まさかこのような荒業でこちらの防衛策を、文字通り全て吹き飛ばされるとは思ってもみなかった。
ㅤ折れた柱を構えたお茶子と目が合う。
ㅤ自分たちの勝利を信じて疑わない、どんな困難にも立ち向かう──そんなお茶子に、俺が憧れたヒーローのとても力強い眼差しが重なった。
ㅤ”これはヤバイ”と警鐘を促す脳内に、俺の身体は追いつかなかった。
「いくよ、一水くん!! 即興必殺──……彗星ホームラン!!」
ㅤ下からの風圧で吹き上がった瓦礫を、無重力状態にした柱で思い切り殴りつけた。
ㅤ俺に向かって、お茶子から無数のコンクリートの塊が飛んできた。
◆◆◆◆
ㅤ時は少し遡って、戦闘訓練開始の直前。
ㅤ既にビル内で待機している一水と爆豪の二人からなるヴィラン組に対して、ヒーロー組となった緑谷とお茶子は彼らへの警戒を高めていた。
ㅤ奇遇にも今回の訓練は、緑谷は爆豪と、お茶子は一水と幼なじみであるという組み合わせとなった。二人はそれぞれの相手を昔からよく知っているからこそ、油断は禁物であるという共通認識を抱いている。
「麗日さん、千重波くんの個性ってどういう能力なのか教えて貰ってもいいかな?」
「もちろん。〈
ㅤ多分、ビルの大きさからして一部屋くらいなら一水くんの有効範囲内だと思う──とお茶子は付け加える。
ㅤそれを聞いた緑谷は、即座に脳内で対抗策を考え始めた。
「水を生み出し操る……強力な個性だ。その能力なら先行するよりも核兵器の近くで僕たちを待ち構えていた方が発揮される。かっちゃんならまず間違いなく僕に向かってくるだろうし、それを踏まえて千重波くんも動くはず……。さっき二人を見た感じ仲良さそうにはしていなかったから、その隙を突いて麗日さんと僕で千重波くんに奇襲……はダメだ。それをやったらかっちゃんとの千重波くんとで挟み撃ちになる。とすると──」ㅤ
「……デクくんって色々考えてて凄いね!」
「って、ああ!! ごめんなさい一人でブツブツと!」
ㅤ苦笑いを浮かべてそう言ったお茶子に、我に返った緑谷は慌てて彼女に謝った。
ㅤ昔から緑谷出久という少年はそうだった。
ㅤ考えていることが口からそのまま出てしまう癖があるのだ。これは中学時代まで友人がほとんど居なく、一人で過ごす時間が多かったことに起因するものである。
ㅤ緑谷は自身のこれを気味の悪い悪癖だと認識していたが、傍でその内容を聞いていたお茶子はそうは思わなかった。必死に謝る緑谷に対して彼女は首を横に振る。
「ううん、私はそういうの苦手だもん。ペアがデクくんで良かった! ……それに、爆豪くんだっけ? あの人がペアだったらこうはいかないだろうし」
「あはは……たしかに」
ㅤ緑谷は返す言葉もなかった。
ㅤ爆豪はたとえ女子が相手だろうが相手が敵なら容赦がない。女子を殴れるかと問われれば緑谷は少し迷ってしまうが、爆豪は即断即決で行動に移すだろう。彼はそういう男であり、それを緑谷はよく知っている。
ㅤ敵は潰す、デクは特に徹底して潰す──なんてことを考えているだろうな、と緑谷は先程の彼の様子からして察していた。それに巻き込まれてしまったであろう千重波には少し同情する。
ㅤしかしお茶子曰く「一水くんも爆豪くんも多分似たような性格してるから心配ないよ」と笑っていたので、緑谷は思考を切り替え、気になっていたことを彼女に訊ねた。
「麗日さんと千重波くんって幼なじみ、なんだよね?」
「うん、保育園入る前からずっと一緒だよ。もう友達っていうよりも家族だね、もはや」
「その、どんな人なのか聞いてもいいかな?」
「一水くん?……んー」
ㅤ家族同然に過ごしてきた仲だ。彼の良いところも悪いところも、お茶子はよく知っている。ただそれを訓練開始までの少ない時間で伝えるには言葉が足りないし、さてどう答えたものかとお茶子は考え込んだ。
ㅤお茶子にとって一水という少年は、昔から密かに憧れを抱いてきた相手だ。
ㅤ保育園の頃から妙に頭が良く、漢字を書けるようになったのも当時の子供たちの中では最も早かった。
ㅤ格好つけたがりでプライドも高く、その尊大な態度から周囲に敵を作りやすかったが、それでも自分の手を引いて遊びに連れていってくれたあの頃のことは詳細に覚えている。
ㅤもしも双子だったならば自分が姉であるという自負は変わらないが、もしも自分たちが”きょうだい”だったなら、間違いなく彼は兄だっただろう。
ㅤ昔はヒーローに対してはどこか懐疑的なスタンスだったが、小学校高学年に上がってからは一変してヒーローを目指すようになり、これまで疎かにしていたはずの学業に真剣に取り組むようになり、成績はあっという間に追い越された。
ㅤその姿を間近で見ていたお茶子は、「やっぱり凄い!」と彼への憧れをますます強めたが、それに比例して焦燥感も強まっていた。
ㅤこのままでは幼なじみが手の届かないところに行ってしまうのではないか、という思いが生まれたのだ。
ㅤお茶子がヒーローを志したのは両親のためであるが、雄英を目指したのは一水が行くからであった。だから頭を下げて受験勉強を見てもらっていたし、日々のトレーニングにも参加していた。
ㅤ既にお茶子の遙か先を進む一水に、並び立ちたい。その一心で雄英合格をもぎ取り、なんの因果か運命か、今まさにお茶子は一水と敵として対峙しようとしていた。
ㅤ千重波一水がどんな人か。
ㅤお茶子は、その問いへの答えが思い浮かんだ。
「──絶対に置いていかれたくない人、かな」
「麗日さん……」
ㅤお茶子の先程までとは違う真剣な眼差しに、緑谷は思わず息を呑んだ。
ㅤプレゼントマイクにポイント譲渡を直談判してくれた良い人、という彼女への印象は改めなくてはならないだろう。
ㅤ麗日お茶子は強い人なんだ──と緑谷はそう再認識した。
「そういえばデクくん、さっきから震えているけど……やっぱり緊張してる?」
「正直に言うと、そうだね。千重波くんのことはまだよく知らないけど、あのかっちゃんが相手だから」
「そっか、爆豪くんってバカにしてくる人なんやったけ……?」
ㅤそうだ。
ㅤかつて”無個性”であった緑谷のことを、爆豪は常に見下していた。いや、今この瞬間も見下していることだろう。
ㅤお茶子は一水のことを爆豪と似たような人間、と言ったものの、フランクに自分と握手をしてくれた優しげな彼と爆豪は似ても似つかないだろうと緑谷は思った。
ㅤ爆豪勝己は嫌な奴だ。
ㅤ嫌な奴には変わりないが、オールマイトをも超えてトップヒーローになるという高い目標を掲げ、その自信を支えるに足るほどの”個性”と”体力”と”センス”を持ち合わせた人物である。
ㅤ気弱で軟弱だった”無個性”の緑谷の何倍も凄い人だった。
「──でも……今は負けたくないな、って思ったんだ」
「男のインネンってやつだね!」
「あ、いや、麗日さんには全然関係ないのにゴメン!」
「あるよ? コンビじゃん。一緒に頑張ろ」
「っ〜〜〜!」
──と、そんな会話がありつつ、ヴィラン組が待ち構えるビルへとヒーロー組の二人は潜入した。
ㅤ次いでオールマイトから訓練の開始を告げられて、緑谷たちは身を引き締める。
ㅤビルの内部は死角が多い。
ㅤどの瞬間に、どの通路から爆豪が攻撃を仕掛けてくるか分からない。警戒心を最大限高めてゆっくりと通路を進んでいると、視界の隅から人影が見えた。
ㅤ緑谷は咄嗟にそばに居たお茶子を庇って、床に倒れ込んだ。
「かすった……! 麗日さん大丈夫!?」
「うん! ありがと」
「デクこらてめぇ、避けてんじゃねぇよ!」
ㅤ怒りの形相を浮かべる爆豪にお茶子は物怖じしたが、彼のこの顔には慣れっこな緑谷は、すぐに立ち上がってファイティングポーズを取った。
──かっちゃんが敵なら、まず僕を殴りに来ると思った。
「中断されねェ程度にぶっ飛ばしてやらぁ!!」
「く……っ!」
ㅤ爆豪は右腕を振りかぶった。それに驚くことなく緑谷は彼に肉薄して、その腕をガシッと掴み取る。
ㅤ自分の動きを読んだことに対して驚く爆豪を、緑谷は力任せに背負い投げた。その勢いで地面に背中を強くぶつけてしまった爆豪は、「ガハッ」と苦しげに息を吐き出した。
ㅤ痛みを我慢しながらゆっくりと立ち上がった爆豪に、緑谷は緊張と興奮で息を切らして言った。
「はぁ、はぁ……! かっちゃんは大抵、最初は右の大振りなんだ! どれだけ見てきたと思ってる」
ㅤ将来の為のヒーロー分析ノート。
ㅤ緑谷は、自分が凄いと思ったヒーローの分析は全部大学ノートにまとめていた。その中には爆豪のこともしっかりと記されていることを、当の本人は知る由もないだろう。
「そう、あの日、キミが爆破して捨てたあのノートに……!」
ㅤギッとこちらを睨みつける爆豪に物怖じすることなく、緑谷は強く言い放った。
「いつまでも『雑魚で出来損ないのデク』じゃないぞ! ……かっちゃん、僕は──」
ㅤすっとそう呼ばれるのは嫌だった。けれどつい昨日、コペルニクス的転回といえるほど衝撃的な言葉をお茶子に言われたのだ。それは緑谷の奥底に根付いていたコンプレックスを吹っ飛ばし、その呼び方に対する価値観を大きく変えさせた。
「”頑張れ”って感じのデクだ!!」
ㅤお茶子の脳裏に、昨日の会話が思い起こされる。あの時は思ったままのことを何気なく言っただけだったが、自分が思っているよりも緑谷に影響を与えていたらしかった。
ㅤお茶子がそれを嬉しく思うとの同じくして立ち上がった爆豪が、緑谷に再度攻撃を仕掛ける。
「ビビりながらよぉ、そういうとこがムカつくなァァ!!」
ㅤそう叫ぶ爆豪の耳に、5階の核兵器保管部屋で待機していた一水からの通信が入った。当然それは爆豪の耳にしか聞こえなかったが、邪魔が入ったと言わんばかりに舌打ちをする。
『ヘイ爆豪。お茶子……丸顔の女だが、緑谷と離れたか?』
「──黙ってろ、話しかけんな。俺はデクを潰す」
ㅤそう吐き捨てて、爆豪は無線機を切った。
ㅤその様子を見ていた緑谷は「やっぱり」と、推測が正しかったことを確信した。
ㅤやはり爆豪と一水との間で連携は取れていない。
ㅤ一水が彼に何を言ったのかまでは分からなかったが、爆豪の乱雑な答えが二人の状況を端的に表している。
「(けどかっちゃんを何とかしないと、千重波くんの所へはいけない!!) 」
ㅤこのまま爆豪から逃げて、お茶子と二人で一水がいるであろう場所に突撃しても意味がない。後ろから追いかけてきた爆豪と一水との挟み撃ちになって、場合によっては即座に全滅する可能性がある。
ㅤ緑谷は先日の個性把握テストのとき、一水という生徒は他と比べても個性の制御が上手いという印象を受けた。派手な記録こそなかったが、それでもトータル成績は3位の爆豪に迫る4位にランクインしているほどだ。
ㅤお茶子を先に向かわせて、自分が爆豪との正面戦闘をするか。あるいは二対二でヴィラン組と対峙するか。その二つの選択肢を天秤に掛けた緑谷は、前者の勝率に賭けた。
「麗日さん行っ──!?」
「余所見とは余裕だなァおい!」
ㅤ爆発を起こして飛びかかってきた爆豪に、緑谷は言葉を遮られた。しかし彼が言わんとしたことは伝わったのか、背後を気にしながらもお茶子はその場から走り去る。
「(一水くんなら絶対分かりやすいところで待ってるはず!)」
ㅤ素早く階段を駆け上がったお茶子は、ヴィラン組……というよりも一水がもしも核兵器を置くならどこの部屋かを考えていた。
ㅤ彼の性格上、弱気な姿勢は取らない。
ㅤむしろ自分に向かってきた敵を積極的に倒して、核兵器も守るというパーフェクトな勝利を欲するだろうから、こちらが分からないであろう場所にはあえて置かないはずである。
ㅤ逆にその思考を読んで、盲点となりうる場所に核兵器を置くという手もあるが──おそらく、というか絶対に一水はその手は使わない。
ㅤ緑谷と爆豪の間に確執があるということは、付き合いのないクラスメイトたちですらすぐに分かったことだ。頭の回転の早い一水がそれを理解していないはずはない。
「私を待ってるってことね、上等!」
ㅤ消去法で、一水のもとに向かうのはお茶子であると彼は考えていることだろう。『どれだけ見てきたと思ってる』──お茶子は緑谷の言葉を思い返していた。
「デクくんが爆豪くんを見てたように、私だって……!」
ㅤ一水の両親と祖父母を除き、最も彼を理解しているのは自分だ。彼がお茶子のことを深く知っているように、また同じくお茶子も彼のことを深く知っている。
ㅤ5階へと上がったお茶子は、今度は音を立てないようにゆっくりと進んだ。一水の気配は昔から分かりやすいのだ。かくれんぼでは彼に負けたことがなかった。
ㅤやはりというか、5階の一番広い部屋に一水ば待ち構えているようだった。
ㅤ扉からチラッと部屋の中を覗き込むと、そこに広がっていたのは大量の水だ。お茶子の目測だが、自分の腰の辺りまでは浸かりそうなほどの量がそこにあった。
「(やられた……! これじゃあ入った瞬間に攻撃される)」
ㅤ個性で制御しているのだろう。部屋の入口と、パッと見だが一水と核兵器の周りには水が来てなかった。
ㅤ今までは主に屋外で個性のトレーニングをしていたため分からなかったが、彼の強さは狭い屋内でこそ発揮されるということに今更ながら気づく。
ㅤああやって先に水を生み出して武器を蓄えておけば、侵入者の撃退は容易い。普通に足を踏み入れば、部屋に溜まった水が津波のように押し寄せてくるだろう。お茶子は自身の身体を浮かせることが出来るが、浮いたところで床の水からの噴射で壁や天井に叩きつけられてしまう。
ㅤ『デクくんが爆豪相手にひとりで頑張っているのに、自分だけ弱気でいるなんて彼に申し訳が立たない』。そう心を奮い立たせて、お茶子はこの状況を前にしても決して諦めずに打開策を考える。
ㅤふと、向こう側の部屋に置いてある鉄パイプが目に入った。あれならば武器として使えるだろうか、と思って素早くそれを手に取る。
ㅤ重くもないが、軽くもない。
ㅤしかし無手で一水に挑むよりかはマシだと納得させて、お茶子は張り詰めた緊張を吐き出すように深呼吸をした。
「デクくん、核と一水くん見つけたよ」
『ほんと!? どこら辺?』
「えっと……5階の真ん中フロア。水張ってて近寄るの難しいけど、行ってみるね」
『ここの真上……! わかった、気を付けてね!』
ㅤ通信機を切った。
ㅤお茶子の体感だが、もう残り時間も少ないだろう。多く見積もっても5分程度。その数少ない時間で一水という強敵に挑まなくてはならないが、もうお茶子は緊張していなかった。
ㅤ今、彼女が抱いているのは闘争心。
ㅤ幼なじみに負けたくない。置いていかれたくない。その強い思いを彼に叩きつけてやる。
「そんな所で隠れてないで出て来いやぁ! ヒーロー!!」
「ふぅ……行くか!」
ㅤパンパンと顔を叩いて、気合を入れた。
ㅤ意を決して扉から飛び出すや否や、自分の体に個性を使って無重力状態にする。やはりというべきか、飛び出した途端に一水の操る水がお茶子に襲い掛かってきた。
ㅤ水の噴射──その威力は中学時代に知っている。
ㅤ公園に捨てられていたオンボロの自転車に向かって、一水がこの技を放ったのを間近で見ていたからだ。あっという間に自転車を粉砕した一水に、お茶子は大層驚いた。
ㅤ今回は事前に水を大量に蓄えている分、あの時よりも威力は増しているはず。鉄パイプを天井に突き、勢いをつけて瞬時に別の場所へ移動したお茶子は、その攻撃を冷静に避けることが出来た。
「そんなの当たらないよ!」
ㅤとはいいつつも、お茶子は冷や汗をかいていた。威力はもちろん、スピードも以前見た時よりも随分と上がっていたからだ。当たったらとんでもなく痛いだろうな、と想像したが、それでも避けれないほどでもない。
ㅤ今回のヒーロー組の勝利条件は、ヴィランを倒すことでは無く、あくまでも捕まえることである。
ㅤハンドカフをかけるということではなく、オールマイトから配られた”確保証明テープ”を何らかの方法でヴィランに巻き付ければ良いのだ。
ㅤお茶子が勝つ方法は二つある。
ㅤ一つは隙をついて彼に触れて無重力状態し、確保証明テープを巻き付けること。しかしお茶子の今の実力では、まだ一水にダメージを与えようとするのが精一杯だ。たまらなく悔しいが、彼我の力量を誤って負けるよりはいい。
ㅤ残るもう一つの勝つ方法は、すなわち、核を無力化することである。オールマイト曰く、核のハリボテにヒーロー側が触れた時点で訓練は終了となるらしい。
ㅤ要するに、一水を核から離せばいい。だがそれを成し遂げる難しさを、お茶子は数回攻撃を仕掛けて実感していた。
「(尽く避けられる! 蹴りもパイプも、本気で当てにいってるのに!)」
ㅤ一水の反射神経を過小評価していた。自分のキャパシティオーバーは刻一刻と迫っており、それに加えて腹部を容赦なく蹴られたことで、お茶子の吐き気は刻々と限界に近づいていた。
ㅤだが負けたくない一心でなんとかそれを押さえつけ、彼女は果敢に一水へと攻撃を仕掛ける。
ㅤ鉄パイプ、蹴り、パンチ──今おそらくお茶子は、現状で出せる最大限の力を発揮していた。過去を振り返っても、無重力状態でここまで機敏に動いたことは無い。
ㅤお茶子のコスチュームには、酔い止めのために首や手首にツボ押し機能が備わっている。しかし個性を使っての高速機動戦闘が短時間で繰り広げられたことで、ツボ押しによる酔い止めが追いついていなかった。
ㅤ少し気を抜けば絶対に吐く。しかし真剣勝負の最中にそんなことになって負けるなんて、一生の恥である。
ㅤそうなったらもう二度と一水の横には並び立てない気がしたお茶子は、湧き上がってきた吐き気を抑えるために、移動のさなかに部屋の水をすくって飲んだ。
ㅤ戦闘訓練を行うようなビルの床に張られた以上、決して清潔ではないだろうが、なりふり構っていられない。
ㅤ何度か当てて避けてを繰り返していると、一際大きな爆発音がビルの下層から轟く。ビル全体が揺れたが、よほど自分との戦いに集中しているのだろう一水は、それに気付いた様子はなかった。
「デクくん……!」
ㅤ今のは間違いなく爆豪だ。最上階に居ても分かるほどの規模の爆発を起こすなんて正気を疑うが、緑谷の状態を案ずる余裕はあまりない。
ㅤ絶え間なく噴射される流水を避けるのに精一杯、隙をついて攻撃をするので手一杯だ。このまま膠着状態が続くと、先に限界が来るのは自分の方。
「っぶな!? ドタマかち割る気かテメェ!!」
ㅤお茶子は一水の肩付近を狙って鉄パイプを振るった。しかし体勢を誤ったせいで、彼の側頭部があった場所を空振りする。
「(気をつけないと頭に当たる! )」
ㅤ今のは危なかった、とお茶子の心臓が跳ねる。割と本気で振るったので、もしも当たっていたらと思うと冷や汗ものである。しかしオールマイトから注意の無線はなかったので、お茶子は気を改めて一水に向かい直った。
「身内だからって手加減しないからね! 」
「仰る通りィ! ならさっさと墜ちろや!!」
ㅤ散発的だった水の噴射をやめて、彼は別の行動を取った。部屋中の水を一気にお茶子へ差し向けたのだ。
ㅤ水の壁が目前に迫る──だが彼女はまだ、一水に勝つことを諦めていなかった。
『行くぞ!麗日さん!!』
「!──はい!!」
ㅤ緑谷が何かをするつもりだと気付いたお茶子は、押し寄せる水の壁を血眼になって観察した。物凄い勢いで水の壁は迫ってきていたが、通り抜けられそうな隙間を何とか見つけられた彼女は、考える間もなくその場所へ突っ込んだ。
ㅤ避けられないと確信していたであろう一水の、驚いた顔がお茶子の目に映る。
「(あんな驚いた顔、初めて見た)」
ㅤそう思いながらピタ、と柱に張り付く。この突飛な行動に訝しげに見ていた一水が攻撃のモーションへ移るが、その直後、爆豪と緑谷が交戦していた地上階からの強烈な風圧が一水の攻撃を中断させた。
「(デクくんの”個性”……! この瓦礫、使えるっ)」
──即興必殺、彗星ホームラン!!
ㅤ何となく思いついた技名を叫んで、お茶子は風圧で根元からボッキリ折れた柱を野球バットの如く構えて、飛んできた瓦礫の数々を一水に向かって打った。
ㅤドドドド、とコンクリートの塊が一水に迫る。
ㅤ当たったかどうかを見て動く暇はもう無い。緑谷が作ってくれた千載一遇のチャンス、これをもしも逃せばもはや勝つ術はコチラにない。
ㅤそのままお茶子は、核兵器に向かって思い切り跳んだ。
「(───勝つ!! 一水くんに、勝つんだ!!)」
「…………」
ㅤモニタールームでその光景を見ていた1-Aの生徒たちや、オールマイトも、次の瞬間にヒーロー組の勝利が決まると確信した。
ㅤ爆豪の爆破をものともしない緑谷の捨て身の一撃。
ㅤそれに乗じたお茶子の瓦礫を使った攻撃。
ㅤ蓄えていた水が喪われ、加えて予想外のアシストに驚いていた一水は明らかに反応速度が落ちていた。
ㅤ
ㅤヒーロー組の勝利!──そう言おうと口を開いたオールマイトだったが、直後モニターに映し出された光景に思わず「
ㅤお茶子が彼の頭をひょいと飛び越えて、背後にある核兵器にダイブしようとした瞬間だ。
「───面白くなってきたなぁ、お茶子!!」
ㅤ緑谷に動揺してお茶子の動きについていけなかったはずの一水が、お茶子の両足を掴んで床に放り投げたのだ。
ㅤ無重力状態だったため、お茶子はグルグルと回転して壁に叩き付けられる。三半規管が刺激されたことへの吐き気よりも、背中を強く打ち付けた痛みに顔を歪めた。
「ぐっ、うぅ……!! はぁ、はぁ、はぁ……!」
ㅤ肩で息をしながら何とか立ち上がった彼女は、瓦礫を真正面から食らっても尚、核兵器を守備し続ける一水を睨みつける。頭からは血を流して、擦り傷や打撲の数は見るからに軽傷では無い。
ㅤけれど、軽傷ではないはずの一水の双眸はお茶子を捉えて離さなかった。少しの動きも見逃さないように、ジッとお茶子の姿を収めていた。
ㅤそんな彼とて、息は荒い。
ㅤ集中力の必要な水の生成・操作・維持を繰り返した挙句、コンクリートの塊をモロに食らったのだ。防御よりもお茶子を核兵器から引き離すことを優先したせいで怪我を負い、明らかに体力を消耗している。
ㅤ
──かの大英雄ナポレオン・ボナパルト曰く、〈最も大きな危険は勝利の瞬間にある〉のだという。
ㅤ一水がお茶子を追い詰めたと確信して、その直後に土台が崩れたように。お茶子もまた、彼に勝てると確信して最後の瞬間に油断してしまった。
ㅤつまるところ、お茶子は見誤っていたのだ。
ㅤあと少しで触れられたのに、あと少しで勝てたのに──千重波一水に備わる、爆豪に勝るとも劣らない圧倒的センスを見誤ったがあまりに、核兵器との距離が再び振り出しに戻る。
ㅤ
「痛てえなァおい……かかってこいよ、お茶子。どっちが強いか、そろそろ決めようや」
「……ッ!!」
ㅤ屋内戦闘訓練は、まだ終わらない。
ㅤ制限時間は残り約一分と五十秒──もはやモニタールームの者たちには、ヒーロー組の勝ち筋が全く見えなかった。
ヒロインみたいな扱いをしているけど、ヒロインが決まってないせいでヒロイン的な扱いになってしまっている麗日さん。
もうちょっと女子キャラの出番を増やせたらヒロインアンケートします。