水で征せよアカデミア   作:わこうど。

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文章力の無さに打ちひしがれる今日この頃。誰かどうやったら文章力を上げれるのか教えてください……


Dead tired

 

 

 

 

 

「かかってこいよ、お茶子。どっちが強いか決めようや」

 

「……っ!」

 

 

ㅤと強がりつつも、『今のは本当に危なかった』と俺は心の中で一安心していた。背中には汗がびっしょりだ。

 

 

ㅤ自分が思っているよりも、意識外からの衝撃というのは動揺を招くものだったらしい。

 

ㅤ緑谷の階下からのアシストに畳み掛けるように仕掛けた”彗星ホームラン”なる瓦礫の弾丸を、お茶子は陽動に使った。俺を倒すよりも核兵器への接触を優先したのだ。

 

ㅤあの一瞬でこの判断を下したのなら、これからはお茶子への警戒度を上方修正しなくてはならないだろう。

 

 

ㅤ俺は緑谷の個性でこうなることは警戒していたが、お茶子自体への警戒度は低く見積っていた。『アイツにはどうも出来ないだろう』という身勝手な根拠もない先入観を抱いた結果、敗北を招きかけたのだ。

 

ㅤ同じ轍を踏むような愚かな真似はしない。

 

 

ㅤもしもあの瞬間、核兵器にお茶子が触れていたらその時点でヒーロー組の勝利が決していた。

 

ㅤだから俺は咄嗟に、向かってくる瓦礫に対処するよりも頭上を飛び越えようとするお茶子の足を掴んで投げたのだ。意識しての行動ではなくて、ほぼ無意識だったと思う。

 

 

ㅤ幸いにして敗北は避けられたが、真正面から彗星ホームランで飛んできた瓦礫が俺に直撃してしまった。

 

ㅤ左足首、右膝、左脇腹、左肩、右腕、頬──コスチュームのおかげで比較的防御力の高い上半身はともかく、肌の露出している顔や素材の薄い脚部の怪我が酷い。

 

ㅤこれが終わったらリカバリーガールの所へ行こう。ちょっと……というか、かなり痛い。

 

 

「なん、で…っ!? もしかして、分かってたん?」

 

「あ?何がだよ」

 

「私が、一水くんじゃなくて核兵器を狙ってたこと」

 

 

ㅤ呆然とした様子で訊ねてくるお茶子であるが、俺の方こそ、あそこでコイツを捕まえることを無意識に選んだ自分自身に驚いているのだ。

 

 

「……いや、直前になるまで分かんなかったわ。さっきのは反射的に掴んだだけやし」

 

 

ㅤ嘘ではない。お茶子のあの猛攻に対して、てっきり体に触れようと画策しているのだと俺は考えていた。しかしそれは実はブラフで、まさか核がお茶子の本命だとは思わなかった。

 

ㅤ予想を超えた緑谷のアシストに興奮したまま、その勢いでお茶子の足を掴んで壁に投げただけだ。意識的に反応できるかと言われたら否と答える。あの瞬間は、自分自身も何が何だか分からないまま身体が勝手に動いていた。

 

 

「まあでも、正面から来たのはお前のミスやな。死角から飛び出して核の回収してたら間違いなく負けてた」

 

 

ㅤ瓦礫を陽動に使うのなら彼女は俺の頭上を飛び越えるのではなく、俺の死角から核兵器に向かって飛び出すべきだった。

ㅤもしそうしていたら俺はお茶子に反応することも出来ないまま、ただ目の前に迫る瓦礫の対処に回っていたはずだ。

 

ㅤそう言うと悔しそうに唇を噛んだお茶子だったが、彼女に動く気配はない。

ㅤもう体力が尽きたか、あるいはこちらの様子を窺っているのかは分からないが、俺はお茶子から視線を逸らさずに耳元の通信機をオンにした。

 

 

「あー、あー、生きてっかー? 」

 

『……………………』

 

「もしもし、爆豪? 緑谷はどうなってんだよ、教えろや」

 

『……………………』

 

「シカトこいてんじゃねェよ、ヘドロ野郎」

 

 

ㅤうんともすんとも言わなかった。

ㅤイラッとするのも慣れてきたので、あえて聞こえるように文句を言いつつ無線機を切る。

 

ㅤしかし何だか彼の様子がおかしい。先程まではヘドロという単語にあれほどまでに強い反応を示していたのに、無言を貫き通すとは逆に気味が悪い。

 

 

ㅤいつの間にか、下のフロアから散発的に聞こえてきていた爆発音は聞こえなくなっていた。

 

ㅤということは緑谷か爆豪のどちらかが負けたということになるが、当の爆豪からの返事はない。荒い息遣いは聞こえてきたので、別に気を失っているということはなさそうだった。

 

 

ㅤもしかして緑谷が勝ったのだろうか。

 

ㅤあれだけ潰すと息巻いていておいて負けるなんて──とは思わない。私怨丸出しだったとはいえ爆豪は真剣にやっていただろうし、それに緑谷も応えたのはビルを縦に突き破った穴を見れば分かる。

 

ㅤまあ先ほどの爆豪の様子からして緑谷勝利の可能性が高いが、下に向かうよりもお茶子を無力化する方が先にすべきだろう。爆豪の確認はその後だ。

 

 

「まぁ、今回は俺の勝ちや」

 

 

ㅤ壁にもたれかかって動かないお茶子に歩み寄って、彼女の周りを再度生み出した水で囲んだ。抜ける事が出来るような隙間は作らないように、今度は制御に意識をフォーカスしている。

 

ㅤ円柱状の水に囲まれて、天井から足元まで塞がったことで身動きが取れずにいたお茶子は、ついに諦めたようにため息をついた。

 

 

「……はぁ、悔しいけどもう身体動かん……っぷ!?」

 

 

ㅤ緊張が解けたことで、必死に押さえつけていた吐き気が限界を超え始めていた。

 

ㅤ慌てて口元を両手で閉じたお茶子だが、既に喉元を通り過ぎて口内に湧いてきているのか、「んー!んー!」と身振り手振りで水の檻から出すように涙目で懇願してくる。

 

 

「もうちょっと我慢しろよ。まだ話してもないクラスメイトにゲロ吐くところは見られたくはないやろ?」

 

「ん〜〜! んん、んんん!!!」

 

「え? 何だって?」

 

 

ㅤどうやら俺を騙すための演技とかそういうのではなくて、本気の本気で吐きそうらしい。表情を見れば嘘をついていないことはすぐに分かった。

ㅤだが、必死に口を抑える姿は相変わらず面白い。本人は面白くも何ともないだろうが……。

 

 

ㅤ今回ばかりはお茶子が勝手にキャパオーバーしたというよりも、腹を蹴ったり壁に投げつけたりした俺のせいでもあるので、肩を竦めながら個性を解いた。

 

 

「俺のコスチュームで隠すから、吐くならそこの隅で吐け」

 

「んぷ……おぇぇ〜!」

 

 

ㅤ俺の言う通りに部屋の隅までダッシュしたお茶子は、溜めていた吐瀉物を一気に吐き出した。カメラの位置がどこにあるかは分からないが、念の為にコスチュームのパーカーを脱いでお茶子に被せる。

 

 

『タイムアッーーープッ!! ヴィランチーム、WIN!!』

 

 

ㅤお茶子がゲロを吐いたのと同時に、オールマイトからの通信が入った。

 

ㅤこれで俺は核兵器の守備とヒーローの無力化、そのどちらも達成出来たことになるが、素直に喜べないのは何故だろう。

 

ㅤ多分、というか十中八九、今まさに苦しげな顔をしてゲロを吐いているお茶子のせいだ。こんな状態の幼なじみを放置して勝ったことを喜ぶほど、俺は冷酷な男では無い。

 

 

「次からは三半規管もっと鍛えるんやな」

 

「……一水くんが蹴ったんやんか……あれ食らったとき、我慢しなかったらこの辺りにまき散らしてたよ

 

「すまん、声カッサカサ過ぎて何言ってんのか分からんわ」

 

 

ㅤ個性を発動し、水を生成して両手の平に溜める。お茶子にそれをゆっくりと飲ませた。嘔吐後の喉の痛みは絶妙に苦しいので、早めに水分を取っておくに越したことはないだろう。

 

 

「千重波少年、麗日少女! お疲れ様!!……おっと、これから講評があるんだが、彼女は大丈夫そうかい?」

 

 

ㅤ背中をさすり続けていると、地下のモニタールームからオールマイトがやってきた。意気揚々と入ってきたが、お茶子の姿を見るなり眉尻を下げて心配そうに聞いてくる。

 

ㅤ過去一の動きだった。とっくの前にキャパオーバーしていただろうに、必死に我慢していたのだろう。正式な終了の合図が聞こえて全身の緊張が解けた分、一気にその押さえつけていた反動が来ている。

 

 

「緑谷はどうしたんですか?」

 

「ああ、緑谷少年なら爆豪少年との戦闘で負傷して保健室に運ばれていったよ。必要なら麗日少女の分の搬送ロボも呼ぶが、どうする?」

 

大丈夫です……

 

「Oh man ! 全然大丈夫そうじゃないな!?」

 

 

ㅤあまりにもか細い声で答えたので、オールマイトが思わず大声で突っ込んだ。その様子にあはは、と俺は苦笑いをするしかない。

 

ㅤまあ後の組も控えているし、ここにずっと居る訳にはいかないだろう。仕方ないので俺はお茶子の肩に腕を回した。弱りきった彼女の身体はとても軽く、戦えるような状態にないことは一目瞭然だ。

 

 

「オールマイト。俺が連れてくので気にしないでください」

 

「む、分かった。なら私は先に戻ってるよ」

 

「っす」

 

 

ㅤうへぇ、と死にそうな顔をして歩き出したお茶子を支えながら、五階から地下のモニタールームに向かう。

 

ㅤその道中に彼女との間にこれといった会話はなかったが、お茶子はしきりに”悔しい”と呟いていた。軽口を叩く余裕はなさそうなので、俺はそれに対して返事はしない。

 

ㅤまあ、あとほんの少しで勝てたのに反撃をくらったら悔しいだろう。それをやった俺がお茶子に何かを言うのも変だと思ったので黙っていたが。

 

 

 

ㅤモニタールームに着くと、クラスメイトたちが「おつかれ」と声をかけてきた。まだ名前と顔が一致しないどころか、そまそも名前をよく知らない連中だが、その様子を見る限り気のいい奴らが多いということは分かった。

 

ㅤさんきゅー、と彼らへ適当に返しながら俺はお茶子を座らせるために壁際に寄った。

 

ㅤその際に爆豪の姿が見えたが、俺とは違って怪我らしい怪我はしていないようだ。しかし無線で声をかけた時のおかしな様子は続いていて、訓練開始前なら想像もできないほど気が沈んでいる。

 

ㅤ緑谷との戦いで何かあったのだろうが、ここで声をかけたら特大の地雷が爆発すると察した俺は、彼の横を無言で通り過ぎた。

 

 

「ありがとう……少し楽になった」

 

「なら良い。ほら、講評聞こうぜ」

 

 

ㅤお茶子を座らせ、視線をモニターの前に立つオールマイトに向けた。

 

 

「さーて二人も来たことだし、講評の時間だ!!」

 

 

ㅤ訓練が終わるごとに、モニタールームでオールマイトによる講評を行うらしい。核兵器を隠しているという状況設定を踏まえて、ヒーローとヴィランに分かれた生徒のとった行動を正しく評価する時間だ。

 

ㅤオールマイトに、そしてクラスメイトたちにどのように評価されているのか気になるが、俺たちヴィラン組の評価はそこまで高くないだろう。

ㅤコンビだというのに連携は取れず、片方は独断専行、もう片方は軽くない負傷をした。もしもあの場面、俺がお茶子を止めていなかったら確実に負けていただろうし。

 

 

「んまぁ、今回のMVPは千重波少年だな! 何故だかわかる人!!?」

 

 

ㅤしかし、そんな自己評価とは反してオールマイトはMVPに俺の名を挙げた。

ㅤ何故だろう、と疑問に思ったことを代わりに答えたのは綺麗な挙手をしたポニーテールの女子生徒だった。個性把握テストのときに原付やら大砲やら出してたやつだ。名前はたしか、八百万なんちゃら……。

 

 

「それは千重波さんが一番状況設定に対応していたからです。爆豪さんは、戦闘を見る限り私怨丸出しの独断専行。屋内での大規模攻撃は愚策もいいところです。緑谷さんも同様の理由ですね。麗日さんは途中までは良かったのですが、如何せん最後の攻撃は乱暴過ぎました」

 

 

ㅤ核を本物として扱っていたら、あんな乱暴な真似は出来ない。八百万はそう締めくくり、最後に俺の行動について語った。

 

 

「千重波さんは、部屋に水を蓄えて相手への対策をこなしつつ、緑谷さんと麗日さんの攻撃にも瞬時に反応して核を奪われないように立ち回っていました。ヒーローチームに”これは訓練”という甘えが混じっていた一方で、千重波さんは明らかに実戦を想定していた。この意識の差が二組の勝敗を分けたのだと私は思います」

 

 

ㅤシーンと静まり返ったモニタールームに、八百万の声が凛と響く。これから言おうとしていたことを全部言われてしまったからなのか、プルプルと震えながらオールマイトが「せ、正解だよ……くぅ!」と彼女にサムズアップをした。

 

 

「八百万だっけ? そこまで見てたんか、凄いなお前」

 

「いえ、それほどでも。常に下学上達、一意専心に励まねばトップヒーローにはなれませんので!!」

 

 

ㅤ堂々とそう言い放った八百万の雰囲気に、俺とお茶子は圧倒された。たった数分程度の戦闘映像でそれほど詳細に見抜くなんてこと、俺には出来ない。除籍をかけた個性把握テストで楽々一位を取ったのは伊達では無いということか。

 

ㅤそんな彼女は一体どんな戦闘をするのだろうか。さっそく次の戦闘訓練に次第にワクワクと胸を踊らせるが、お茶子と爆豪の雰囲気は悪かった。

 

ㅤ酔って気分が悪いのと負けたことで落ち込んでいるお茶子はともかく、黙って俯いている爆豪のはなんなんだ。興味本位で聞いたとしたら被害を被るのはこちらなので、チラチラと彼を横目で見るに留める。

 

 

 

──場所を移して第二戦目。

 

ㅤあのとき爆豪も大規模な攻撃をしていたらしく、緑谷のもの合わせて崩落寸前になってしまったので、俺たちは近くのビルに向かうことになった。

 

ㅤあそこには一応お茶子の吐瀉物もあるので、彼女の名誉のためにも場所が変わったのは良いことだろう。文句があるなら爆豪と緑谷に言って欲しい。派手な個性を持っているなんて羨ましい限りである。

 

 

ㅤ第二戦目は、ヒーロー組が透明な女子と尻尾の生えた平凡な顔立ちの男子。ヴィラン組が握力測定のときに馬鹿力を出していた大柄な男子と、氷の個性の持ち主と思われる轟焦凍という組み合わせだった。

 

ㅤまだクラスメイトの大半は名前を覚えていないが、個性把握テストで俺よりも上だった八百万、轟、そして爆豪の名前くらいは分かる。特に轟に関しては個性の相性が最悪ということもあって、俺は密かに注目していた。

 

 

ㅤ彼の力量を確かめる良い機会だ。ジィっとモニターを眺めていると、オールマイトが訓練の開始を告げた。

 

 

ㅤしかし、第二戦目は一瞬で終わってしまった。

ㅤ意気揚々と迎え撃とうとしていたヒーロー組の二人を、轟がビルごと凍らせたのである。

 

ㅤそれにかかった時間は十秒もないだろう。

ㅤモニタールームで待機していた生徒たちは、俺も含めてそのあまりの呆気なさに瞠目した。

 

「仲間を巻き込まず、核兵器にダメージを与えず、尚且つ敵の弱体化もするとは……!」

 

「最強かよ!」

 

「……(相手が轟だったら初手で落ちてたな。爆豪は何とかあの氷抜け出せるかもしれんが)」

 

 

ㅤクラス内最強。

ㅤ悔しいが、今のところそれは轟に与えられるべき地位だろう。他三人の見せ場が皆無だったため、訓練としてはよろしくないだろうが、もしもこれが実戦なら轟の氷による初手完封は非の打ち所のない完璧な選択だった。

 

ㅤ白い息を吐きながら、轟はどうにかして氷から抜け出そうと藻掻くヒーローチームの横を通り過ぎ、彼らの背後に置かれていた核兵器に触れた。

 

 

ㅤ開始からわずか二分。

 

 

「ヒーローチーム、WIN!!!!」

 

 

ㅤ第二戦目は、轟の圧勝で終わった。だが彼はそれだけでは終わらず、なんと訓練の終了と共に個性を使って自らの氷を溶かした。

 

ㅤ氷、そして熱。

ㅤ相反する二つの性質を兼ね備えた複合系個性──なるほど、俺の個性とこれほどまでに相性が悪い奴も中々居ない。

 

 

ㅤ第一戦のとき俺は対お茶子用として部屋に水を貼ったが、轟にビルごと凍らせられたら意味は無いだろう。それを想定して核兵器と部屋を埋め尽くすくらいの水を生み出すのもアリだが、熱で溶かせるならどうにもならない。

 

 

ㅤ続いて始まった第三戦を見ながら俺は、彼との戦闘を脳内でシュミュレーションしてみた。しかし、どうやっても完封される未来しか見えない。

 

ㅤ個性での攻撃を捨てての肉弾戦を仕掛けても、轟は気にすることなく俺を氷漬けにするはずだ。かといって個性を使って攻撃しても、俺が生み出した水はあっという間に轟が凍らせてしまうだろう。

 

ㅤそれに、轟自身の身体能力も高そうに見えた。コスチュームの上からも分かるほどガッチリした身体で、爆豪のような直情的なタイプとは真反対の冷静沈着な性格。

 

 

──勝てる気がしない。

 

 

ㅤだが、負ける気もなかった。正直絶望的すぎる相性の悪さだが、プロヒーローだって個性相性の悪いヴィランと対峙することはあるだろう。そんなとき、「相性悪いから」と黙って負けるような奴はヒーローとは呼べない。

 

ㅤ相性の悪さも越えてこそ、俺の目指すヒーローだ。

 

 

ㅤまだ少し先のことだが、実力主義の雄英らしいビッグイベントを俺たちは控えている。

 

ㅤ〈雄英体育祭〉と呼ばれる、日本においてはかつてのオリンピックに取って代わったスポーツの祭典だ。経営科を除く全生徒が参加し、名実ともに学年最強を決める行事であるのと同時に、全国のプロヒーローが次世代の有望株を見定める場でもある。

 

ㅤそれまでに対抗策を練って、学年最強に上り詰める。

ㅤこの戦闘訓練でハッキリした。俺はまだまだ弱い。たまたま状況がこちらの都合よく運んだだけで、運が悪かったら負けていた。

 

 

ㅤもっと身体も個性も鍛えなくてはならないだろう。

ㅤ全ての組の訓練と講評が終わるまで、俺はモニターから目を離すことは無かった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「みんな凄かったな!!特に轟はやばかった!」

 

 

ㅤ授業が終わって、男子更衣室。ツンツン頭の赤髪の生徒が着替えながらそう叫んだ。それに同意するように頷くのは、たしか電気を纏っていた少年だ。

 

ㅤ俺はそんな事よりも、轟を倒すためには自分は何をしたらいいだろうかとずっと考え込んでいた。

ㅤ思わず上の空になってしまったことをお茶子に心配されたが、あんな強さを見せ付けられて冷静ではいられない。というかあいつは他人を心配するよりも自分の顔色を心配した方がいいと思う。

 

 

ㅤ隣のロッカーの前に立つ轟を、俺はチラッと見た。無言で早々に着替えを済ませていた彼は、コスチュームを自分の鞄にしまっているようだった。クラスメイトたちからの賞賛も耳には届いていないらしい。

 

 

ㅤテキパキと片付けた轟は、こちらを一瞥することもなく更衣室を出ていく。その後ろ姿を見ながら俺は”とんでもない強敵が現れたものだ”と嬉しく思った。

 

 

ㅤなにも轟だけじゃない、八百万もそうだった。

ㅤ個性の詳細は知らないが、何でも創り出していたあたり、汎用性に限っていえば間違いなく彼女がこのクラスで最も秀でている。講評のコメントもオールマイトを唸らせるほど的確で、鋭い洞察力は戦闘において大いに役立つことだろう。

 

ㅤ爆豪にしたって、今回は一応仲間ということになっていたが、敵として現れていたら俺が彼を倒すのは困難だった。水は爆破で跳ね返されるし、個性把握テストを思い返せば機動力も戦闘力も高いことが分かる。

 

 

ㅤ轟、八百万、爆豪。

ㅤこの三人を倒すハードルは高い──だが、体育祭では必ず彼らを超えてみせる。

 

 

「──千重波だっけ? お前も凄かったな、まさかあそこから巻き返すとは思わなかったぜ」

 

「……誰や」

 

「ああ、悪い! 俺は切島鋭児郎だ、よろしく」

 

「んで俺が上鳴電気。初っ端からあんな激闘を見せられたもんだから超気合い入ったわ〜、そのおかげで勝てたし。あんがとな!」

 

 

ㅤ先ほどからテンション高めに話していた二人組が、声をかけてきた。切島鋭児郎と上鳴電気と名乗った彼らに手を出して、それぞれと握手をする。

 

ㅤ第二戦のあとから俺は轟に意識が向いていたが、訓練自体はちゃんと見ていた。

 

ㅤ切島は自身を硬化させる個性を持っており、防御と攻撃を兼ねたスタイルが特徴的なインファイターだった。奇策を講じるよりも、どストレートに突っ込む姿が印象に残っている。

ㅤそして上鳴は帯電という個性の持ち主で、身体に電気を纏うことが出来るらしかった。ペアの女子生徒と慎重に進み、最後は放電してヴィラン組を無力化していたが、八百万やオールマイトから「核のある部屋での放電は気をつけて」という注意を受けていた。

 

 

ㅤ相性の悪さで言えば、硬化させるだけの切島はともかく上鳴の帯電は注意に値する。

ㅤ個性の関係上、屋内戦闘を始めとした局地戦で上鳴とはあまり当たりたくない。しかし放電に指向性はないようなので、彼には悪いが轟ほどの脅威は感じなかった。

 

 

「千重波一水や、よろしく」

 

「おう! そういや気になってたんだが、あの麗日って女子とは知り合いなのか?随分と仲が良さそうだったけどよ」

 

「幼なじみ」

 

「オサナナジミィー!?」

 

 

ㅤ更衣室に素っ頓狂な声が響いた。

ㅤ後ろを振り向くとそこには、特徴的な髪をした小柄な男が立っている。血眼になって俺を睨みつけてきたので、反射的に「ああ?」と返すと切島が慌てて間に入ってきた。

 

 

「ピチピチコスチュームのほんわか関西美少女と幼なじみだってぇッ!? イケメンで強個性で異性の幼なじみ持ちとか設定盛りすぎだろぉ!!」

 

「…………」

 

「おい落ち着けって千重波、顔やばいぞ。あとお前もいきなり訳わかんないこと言うなって」

 

 

ㅤ別に怒ってるのではなくて、意味不明過ぎてどんな反応を取ればいいのか分からないだけだ。キィィィ! とタオルを噛みながら睨むクラスメイトに何をどう言えば良いというのか。

 

ㅤ切島が代わりに注意をしてくれたが、我関せずと彼はぎゃあぎゃあと騒ぎ続ける。

 

 

「そもそも誰やねんお前」

 

「オイラは峰田実!おい千重波、あの女子とはどういう関係だ!もしかして毎日乳繰り合ってんのか!?クソ!羨ましい!」

 

「幼なじみだって言ってんだろ、ぶっ飛ばすぞ葡萄頭」

 

 

ㅤ峰田の顔に弱めに水をぶっかけると、ギャー!と悲鳴を上げて俺から距離を置いた。彼に予備のタオルを投げ渡して、コスチュームをカバンにしまう。ホームルームまで残り時間は少ないので、俺はいち早く戻りたかった。

ㅤ相澤にどやされるのは嫌だ。一応今朝会った時に昨日オールマイトと会わせてくれた事へのお礼を伝えたが、苦手なものは苦手である。

 

 

「お、おう……思ってたより冷静だな」

 

「有象無象の雑魚相手に構ってられるかよ。さっさと戻ろうぜ、二人とも」

 

「ざざざざ雑魚ォ!?」

 

「口悪っ……」

 

 

ㅤ峰田実か、一応マークしておこう。轟たち三人に対してのとは別種の警戒を抱く。家族的な意味ではあるが、コイツをお茶子には近付けさせたくはない。

 

ㅤ性に目覚めたばかりの男子中学生かってくらい、峰田という男は内に秘めるべき欲望がダダ漏れである。おそらくだが、学校にグラビア雑誌を持ってくるようなタイプだと思う。

 

ㅤ俺だって人並みに性欲はあるが、表にさらけ出すほどそれは強くない。というかさらけ出してはいけない類の欲望だ。モラル的に良くない。

 

ㅤなぜか固まったまま動かない峰田を他所に、俺は切島と上鳴と更衣室を後にした。少し話しただけだが、何となく友達になれそうな気がしたので教室に向かう廊下では二人と連絡先を交換し合った。

 

ㅤ俺のスマホに新しい連絡先が追加されるなんて、一体何時ぶりだろう。ニヤニヤとしそうになる口角を必死に抑えて、談笑しながら1-Aの教室に戻った。

 

 

ㅤ教室には既に女子たちが居て、先に戻った轟や他の男子の姿もチラホラ見える。保健室に搬送されたという緑谷はまだ居なかったが、後で話しかけようと決めて自分の席に戻る。

 

ㅤその時に気付いたのだが、俺の前に座っていたのは切島だった。上鳴は切島の前の席で、新しく出来た会話相手たち二人は偶然にも俺の座る列に重なっていたようだ。

ㅤ座席表は初日に自分の場所を確認するのにチラッと見ただけだったので、こうして三人並んで座るまで気付かなかった。

 

 

「なあなあ。結局、千重波の個性って何なん?」

 

「水を出して操る。そんだけや」

 

「雑ぅ!でもそれだけであんなに戦えるなんてスゲェよ。最後、相手の足を掴んで投げ飛ばしたところなんて思わず叫んじまったし……女子相手にえげつねぇとは思ったけど」

 

「逆に俺は感心したな。敵が女子だろうが手加減せず真正面から戦うなんて漢らしいぜ、千重波!」

 

「手加減して負けるほどダセェ負け方はないだろ」

 

 

ㅤ切島を挟んで座ったまま三人で喋っていると、「ねぇねぇ、私も混ぜて!」とクラスメイトの女子が声をかけてきた。横を向くと、そこには物珍しいピンク色の肌に触覚、天真爛漫な雰囲気をした少女が居る。

 

ㅤ彼女の名前はたしか──。

 

 

「おう、いいぜ! 千重波、上鳴、こいつは俺の中学のダチで芦戸三奈っつうんだ。良い奴だよ」

 

「ヨロシク!」

 

 

ㅤニコ、と笑った彼女を見て上鳴がニヤついた。

ㅤその隠しきれない感情の発露に、俺は”お前も峰田と同類なのね……”と察する。あいつほど露骨じゃないだけマシかも知れないが、芦戸はそんな上鳴に気にした素振りもなく、フレンドリーに話しかけてくる。

 

 

「一戦目から凄かったねー! 下も上もドンパチやってて私、全然目が追いつかなかったよ……」

 

「そういうお前こそ相手チーム速攻で倒してたし、かなり運動神経良いだろ。今度は俺と戦ってくれや」

 

「えぇ〜、千重波なんか怖いしヤダ」

 

「は?キレそう」

 

「もうキレてるじゃん」

 

 

ㅤ教室の中心でワイワイと騒いでいると、俺も私もと次々にクラスメイトたちがやってきた。あっという間に周りを囲われて驚くも、お互いの自己紹介祭りが始まってしまったので立ち上がることも出来ない。

 

ㅤ保健室で怪我治して欲しかったんだが、まあホームルームが終わってからでも良いかと諦める。

 

 

ㅤ透明化という個性の持ち主で、傍目には制服が浮いているようにしか見えない女子が”葉隠 透”。

ㅤ一昔前の漫画に出てきそうな風貌をした男子が”砂藤力道”で、カエルっぽいことは何でも出来るらしいのが”蛙吹梅雨”。梅雨ちゃんと呼んでと言われたので、恥ずかしいが梅雨ちゃんと呼ぶことにした。

 

ㅤプラグのような耳たぶが特徴的な”耳郎響香”に、尻尾の生えた”尾白猿尾”、肘からテープを発射できる”瀬呂範太”──そして最後にあの峰田実が乱入してきた。

 

ㅤ最初は追っ払おうとしたのだが、あっけらかんと「タオルありがとよ」と丁寧に畳んだ上で返してくれたので、邪険にすることなく彼とも話す。

 

ㅤ話した結果分かったのは、峰田実は下心が丸出しなことを除けば案外普通のやつだったということ。

ㅤ少なくとも俺が毛嫌いするようなタイプではなかったので、彼とも連絡先を交換した。

 

 

ㅤ顔と名前が一致するまでに時間はかかりそうだが、小学校辺りからまともに友人が出来なかったことを考えると、そのような些細な不安はすぐに消える。

 

ㅤ他の奴らとも連絡先を教え合ったりしていると、教室がガララと開いた。相澤だ。あのもはや見慣れてきた黄色い寝袋を抱えて、彼は眠そうに教壇に上がった。

 

 

ㅤ昨日の個性把握テストで、俺たちを除籍しようとしてきたことは記憶に新しい。下手に騒いで目を付けられたくないと思っているのか、集まっていた奴らはすぐに席に戻っていった。

 

ㅤ全員が着席するのと同時に、チャイムが校内に鳴り響く。

 

 

「はい、お疲れさま。君たちには今日ヒーロー基礎学という授業を受けてもらった訳だが……初めて本格的な戦闘訓練をしたことで、自分に今足りないものを理解出来た者もいることだろう。その足りないものを補って、今後は更に発展させていくつもりだから気を引き締めて授業に臨むように」

 

 

ㅤ映像は後で俺も見させてもらう、という相澤に数名がドキリと身体を跳ねさせた。尾白や葉隠を始めとする何人かは相手方に瞬殺されていたし、昨日の除籍云々もあって恐れ戦いているのかもしれない。

 

ㅤ俺はその心配はしていないが、相澤に見られるといわれると妙に緊張するのはなんなのだろうか。

 

ㅤその後は各種プリント配布や明日の時間割についての軽い説明があっただけで、割と早くホームルームは終わった。

ㅤさよならー、と元気よく挨拶をして帰りの支度を始める。

 

 

「なあ皆! ちょっといいか?」

 

 

ㅤすると当然、切島が声をあげた。何事かと彼にクラス中からの視線が集まり、教室は一瞬静まり返った。

 

 

「この後さ、今日の訓練の反省会しないか! 」

 

 

ㅤ少し間を置いてガヤガヤと騒がしくなった。聞こえてくる会話に耳をすませば、どうやら大半のクラスメイトたちが行く気になっているらしい。

 

 

「いいねー! やろやろ」

 

「そうだね、戦っている本人しか分からないことだってある。それを皆で共有するのは自分のためにもなるか……」

 

「尾白くんって真面目だね」

 

「え、うん、ありがとう……? 葉隠さんはどうするの?」

 

「当然! 私も参加するよ!! 轟くん強すぎてなんも出来なかったしね」

 

「反省会とは素晴らしい心掛けだ! ぼ、俺も参加してもいいだろうか?」

 

「あの、私も参加させて頂いてもよろしいでしょうか……?」

 

「飯田と、八百万だっけ? おう! もちろんだ!断る理由なんてねぇよ」

 

 

ㅤいかにエリートと呼ばれる雄英生であっても、遊び盛りの高校生であることには変わりない。反省会といつつ、どちらかといえば会話の機会を増やすための親睦会も兼ねているだろう。切島のこれは、いつまでも絶妙な距離感が続くのを嫌がっての提案だ。

 

ㅤ今日の訓練だって俺と爆豪が仲良くやれていたらもっと──と思ったが、俺たちが仲良くしている光景が全然想像できなかったのでやめた。

 

 

「お、爆豪。お前もやるか?」

 

「…………」

 

 

ㅤ爆豪は、切島の誘いをガン無視して帰って行った。ああいう類の人間は、狭からず遠からずの関係性でいた方が互いに都合がいいのだ。誘う方が間違っている。

 

ㅤまた、こういった催し物には興味が無いのか、その爆豪に続いて轟も教室から出ていってしまった。

 

ㅤツートップがシカトして帰って行ったせいで微妙な空気になったものの、上鳴や芦戸、葉隠などが持ち前の明るさを発揮して空気を変えた。

 

 

「訓練見た時からクレイジーなやつだとは思ってたが、予想以上に素っ気ねぇ……」

 

「あれを素っ気ないで済ますお前凄いよ」

 

 

ㅤ苦笑いする切島に、俺は後ろからつっこんだ。あれは素っ気ないとかそういう次元じゃないだろう。素っ気ないというよりも、人間の精神の根っこの部分が何かの拍子でひん曲がってしまったような感じだ。

 

 

「そうだ。千重波、お前はどうする?」

 

「……んー、どうしよっかね」

 

 

ㅤ正直迷っている。今日は精神的に疲れたし、早いとこ帰ってベッドに飛び込みたい気分だ。

ㅤだが爆豪と轟が先に帰って行ってしまった手前、ここで断って空気を悪くするのは避けたかった。せっかく仲良くなれそうなのに、明日顔を合わせて気まずい思いをするのは御免である。

 

ㅤどうしようと悩んでいると、俺の声が聞こえていたらしい芦戸と飯田が寄ってきた。

 

 

「ええー、千重波残らないのぉ!?」

 

「用事があるというのなら仕方ないが……」

 

「いや特に用はないけど」

 

 

ㅤただ単に、死ぬほど疲れた(Dead tired)だけである。不満げに頬を膨らませる芦戸を退かすと、微妙な顔をした切島と目が合った。

 

 

「もしかして迷惑だったか? わりぃ」

 

 

ㅤ……その言い方はズルいだろう。どんなことを返しても角が立ってしまう。

 

ㅤこうなってしまったら俺は参加しても良かったが、気がかりなのはお茶子である。訓練終了直後よりも顔色は良くなっているが、まだ本調子ではなさそうだ。

 

ㅤ俺は斜め後ろの席に居る彼女に顔を向けた。

 

 

「お茶子、お前はどうすんの」

 

「私も参加しようって思ってるけど。 なに、一水くん先帰るん?」

 

「ほー……切島、やっぱり俺も残るわ」

 

 

ㅤお茶子の体調に問題がないなら気にする必要は無い。俺も残る、と参加することを切島に伝えると、彼はこちらを見てなにか言いだげな表情をしていた。

 

 

「お前らって……いや、まあいいか! お前ら、千重波もやるってよ!これでA組メンバーほとんど参加だぜ」

 

「やったー!」

 

「そう来なくっちゃ! あっ、そういえば緑谷はどうする?アイツにも一応聞くか?」

 

「そうだなぁ……でもあの怪我だし戻ってくるか?」

 

 

ㅤ噂をすれば何とやら、緑谷が教室に入ってきた。それを見るなり切島たちはドタバタと彼に詰め寄って、口々に緑谷の訓練で見せた動きを褒め讃える。

 

 

「麗日今度メシ行かね?何好きなん?」

 

「おもち……」

 

 

ㅤ「え? え?」と疑問符を頭に浮かべる緑谷の姿は面白かったが、腕に包帯を巻いているのに気付いた。はて、保健室にはあのリカバリーガールが常駐しているはずだが、治しては貰えなかったのだろうか。

 

ㅤ上鳴からナンパされていたお茶子も同じことを思ったようで、「デクくん、怪我! 腕治して貰えなかったの?」と心配そうにして彼に訊ねていた。

 

ㅤ治して貰えなかったというよりも、どうやら緑谷自身の体力的なアレで治せなかったようだ。

 

ㅤリカバリーガールの個性は傷を治すのではなく、対象の治癒力を体力を消費して活性化させる個性。本人に体力がなかったら治癒は出来ない……らしい。

 

ㅤ緑谷の言う通りなら、訓練明けで疲れている今の状態で俺が行っても治療はされないかもしれないな、と気分が萎えた。

ㅤ擦り傷や打撲もいくつかあって割と痛いが、一晩休んで明日の朝イチで保健室に行った方が良さそうか。傷口が膿んでも嫌なので、帰ったら自分でしっかり処置しておこう。訓練が終わったあとに個性で出した水で洗い流しただけだし。

 

 

「あっ、そうだ。そんな事よりも麗日さん……かっちゃんって」

 

「爆豪くんならさっき黙って帰っちゃったよ。これから皆で反省会するって話になったから誘ったんやけど……」

 

「おおそうだ! 緑谷はどうする? 」

 

 

ㅤ切島はそう訊いたものの、緑谷は申し訳なさそうに首を横に振った。どうしても爆豪と話がしたいらしい。

ㅤ俺たちは『ごめんね! また誘って!』と、無事な方の手をこちらに振って走り去る緑谷の背を見送った。

 

 

「まあしょうがねぇよ、全員集まるなんて無理だ」

 

 

ㅤ爆豪に引き続き、緑谷からも断られて少ししょんぼりした様子の切島の肩を、上鳴が叩いて慰める。

 

 

「あんまり遅くなっても先生たちに怒られるし、さっさとやるかー」

 

 

ㅤまずは順番に第一戦目の振り返りが始まった。

ㅤ爆豪と緑谷が不在のため、どちらかというと俺とお茶子の戦いについての話題が占めている。

 

 

ㅤお茶子の腹に蹴りを入れたことについては上鳴が言っていたように、やや引き気味のやつが多かった。

 

ㅤだが当のお茶子本人が「実戦だったら当然や」とフォローしてくれたので、特に責められるような空気ではない。まあ、絵面が良くないというのは俺も分かっていたのでそれについては何とも思わなかった。

 

「っていうか、夏場は千重波が居たら水分補給が楽そうだな。訓練終わったあとも麗日に水飲ませてたし。あれ味どうなん、美味いの?」

 

「大気中の水分を吸い取って生み出してるから割と綺麗だぜ。なんならいま飲むか? 」

 

「要らん」

 

 

ㅤ瀬呂にすべなく断られる。そんな雑談もそこそこに、その後は『あの動きは凄かったけどこう動いた方が良かったんじゃないか』とか、『動揺を誘う会話術も覚えた方がいいかも』みたいに反省会らしく意見を出し合った。

 

 

 

ㅤ結局、この反省会が終わったのは最終下校時刻が迫った夜になってからだ。

 

ㅤガヤガヤと騒がしい教室に気が付いたらしい相澤に、強制的に解散させられてしまったのである。『自主的に反省会をするその心意気は結構だがルールはルールだ』と追い出されて、不完全燃焼のまま校門前で皆と分かれた。

 

ㅤまあ何はともあれ、この放課後反省会をキッカケにクラスメイトと仲良くなれたのは嬉しい。

 

 

 

「一水くんが私以外の誰かと楽しそうに話してるところなんて久しぶりに見た」

 

「俺をボッチみたいに言うんじゃねぇ」

 

 

ㅤ最寄りの駅を下りて、暗くなった住宅街を二人で歩く。初めての戦闘訓練をしたことに加えて、その後に長いこと反省点を話し合ったこともあって、お茶子はかなり疲れているようだったが、それでも雰囲気は明るい。

 

ㅤ新しい友達が大勢出来たからだろうか。連絡先の増えたスマホをニマニマと見ていた。

 

 

「えー、中学のときは怖がられて全然人寄らんかったやんか。A組のみんな、良い人そうでよかったね」

 

「……まあ、上鳴と切島は仲良くなれそうやな。あと瀬呂とか。他はどうだろ」

 

「まーたそんな後ろ向きなこと言う。大丈夫だって! だってみんな私たちと同じヒーロー志望なんだよ。きっと全員と仲良くなれる!」

 

「ごめん、その理屈は意味わからんわ」

 

 

ㅤ課題は多い。それに伴って、すべきことも増えた。けれど今日だけは普通の高校生らしいことをしても、きっと誰も咎めないだろう。

 

ㅤこれまでの俺なら「友達?ンなもん要らんわ」と一蹴していただろうに、たった短期間で変わったものだ。

ㅤ暖かく感じる心の内に、俺は不思議と悪い気はしなかった。

 

 

 

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