new world players   作:狂睡 文歌

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プロローグ

 吹き荒れる風が、空気に舞う砂塵を纏い、砂嵐となり砂漠の中を駆け巡る。

 プレイヤーたちが自分の無力さを痛感し立ち尽くす地獄のような風景の中、二つの影は衝突し合う。

 

 一つは怪獣と呼ぶにはふさわしく。四本の脚を地につけ堂々とこの地の主を名乗らんとする世界獣と呼ばれる巨大な獣、もう一つは光のごとき速さで砂漠を駆け巡る少女だった。

 

 赤くつややかな髪をポニーテールにし、双剣を握りしめながら駆け巡るのその姿を横目に、その戦いに胸を張って出た他のプレイヤーは自分の非力さに痛感する。

 

 立ち尽くすプレイヤーたちは次々と自分の手に腕時計のようにつけられたスマホのようなデバイス《ラプラスギア》にカードを押し込み、静かにリタイアのカードを切った。

 

 空気に溶け堕ちるように人々が現実へと戻る中、そんなことは知らず、双剣の使い手はただ目の前に現れた獣を狩ることだけを考えていた。 

 

―—どうやったら勝てるかな、いつもみたいにどうせ私以外みんなリタイアだろうし……

 

―—あーもう、魔力もそろそろこの速さの維持は無理そうだし……さっさとスキル使って終わらせますか。

 

 少女は空を舞いながら頭の中で次の行動を考えると、正面から獣のほうへと近づいた。

 両手に構えた短剣を顔の前で回しながら、獣の口から放出される炎を掻き消す。

 

 渦巻く炎の中、自分の動く空間だけを確保し、少女は呟きながら腰に巻いたホルダーからカードを一枚取り出す。

 

「さーてとっと、お手並み拝見ね、《スキル・破弾》」

 そう言うと、腕につけられた《ラプラスギア》をかざし、一枚のカードを切る。

 

 瞬間、手に握っていた短剣から漆黒のまとわりついた小さな渦が、放出される。

 放出された渦は獣の口の中へと潜り込み、内部で巨大な爆発を起こした。

 

 その勢いは《破弾》を撃ち、その場から離れようとした少女の追い風となるほどのものだった。

 が、しかし、依然として獣は炎の咆哮は止めたものの、よろけるそぶり全くない。

 

 ―—さすがレイドボスって感じ、やっぱり一人だと倒せそうにないわ。

 

 ―—内部爆発であれなら、多分《破弾》で弾幕作って外から攻撃しても、スキル上限が来て終わりかな

 

 依然として砂漠を踏み荒らし、雄たけびを上げる獣を横目に、獣への対策に思考を駆け巡らせる。

 

 ―—この感じだと重ね掛けの魔法でごり押してそこに《破弾》と《再撃》使ってギリギリね。

 

 少女はそう思うと、自分に重ね掛けしていた自身の速度を強化する《魔法装甲・青》を解き、一枚のカードを使った。

 

「《スキル・再現》」

 

 カードが《ラプラスギア》に切られた瞬間、さきほど解いたはずの魔法が再度少女の身を覆う。

  

「さぁーて、制限時間は甘く見積もって3分ってところね。じゃあぱっぱとやっちゃいますか」

 

 そうひとりでに呟いて、光のごとき速さで獣に近づき、その周りを舞う。

 

 獣の周りを舞うように空を駆け回り、手に握った短剣から斬撃を繰り返すが、やはり効いている雰囲気もなく、獣は咆哮を繰り返す。

 

 斬撃が効かないと判断した少女は、手段を変えて獣の咆哮に合わせて獣の口内に《破弾》を何発か撃ち込む。

 瞬間、その爆発とともに獣が一瞬よろける。

 

 その隙を逃さず少女は獣の懐《ふところ》に潜り込み、魔法を発動する。

 

「第一魔法 《身体制限解除》

 第二・三魔法 《魔法装甲・青》

 第四・五魔法 《魔法装甲・赤》

 第六魔法 《魔法影装・剣》

 第七・八魔法 《魔剣装甲・赤》

 第九魔法 《魔剣装甲・白》

 第十魔法 《魔剣装甲・黒》」

 

 無詠唱による五つの魔法による身体への重ね掛け。それに加え自分が手にする剣への5つの魔法の重ね掛け。

 

 それを少女は空を駆けながらあっけなくやってのけたが、先ほどリタイアを選んだプレイヤーには、詠唱有りの2つの同じ魔法によるそれぞれの重ね掛けであっても難しいものだろう。

 

 が、息を吐くようにそれをこなす少女は、魔法の重ね掛けと同時に、スキルカードを3枚腰から選び取る。そのうち一枚を《ラプラスギア》に切り、その能力を行使する。

 

「《スキル・インパクト強化》」

 

 能力の発動とともに、《魔法影装》により巨大な影を纏い、《魔剣装甲・赤》によりその力を引き上げた剣に、さらに対象と接触時のインパクトの強化が上乗せされる。

 

 懐に潜り込んで数秒の間に行われる神業、そこに《再現》により加速された攻撃が獣の身に降りかかる。

 

 攻撃のダメージは自分自身についた《魔法装甲》の能力、種類に加えて数、そこに攻撃時に使う武器への《魔法装甲》の能力と数により計算される。

 

 そこにさらに《魔剣装甲・白・黒》の能力である、実態の消失と、事象の強化が織り交ざる。

 

 実態の消失により、剣の重さによる減速がなくなった速さを纏ったその一撃はまさに閃光。

 

 よって、少女の攻撃にかけられたスキルを合わせた合計15の魔法、それに加え《スキル・インパクト強化》通常一人で行うはずのない神業。

 それによって獣の腹は臓物を吐き出すに至る。

 

 臓物を吐き出す中、少女は獣の血を浴び、全身を赤く染めながら、そんなことは気にせず、選び取っていた2枚のカードを切る。

 

「《スキル・再撃》 《スキル・破弾》」

 

 《再撃》、その能力は発動10秒前以内にに対象に向かって与えられたすべての攻撃の再現。

 

 よって、獣の腹に与えられた二度目の衝撃は、その腹を真っ二つに切り裂くにいたるが、その断面に向かい少女は《破弾》を打ち込む。

 

「さーて、これでクリアってところかな」

 獣の断面で爆発が起き、少女が呟いたのと同時に少女の身に降りかかっていた魔法がすべて解かれれ、獣の体が砂漠の塵へとなり果てた。

 

『レイド・クリア』

 

 デバイスに移しだされたその文字を見て、少女は静かにその《イセカイ》をあとにした。

 

 

 ———《異界門《ラプラスゲート》》内部、ゲートホール前———

 

 白く塗りつぶされたような空間の内部にある巨大なモニター、そこには先ほどまで少女が獣と戦っていたレイドが映し出される。

 

 その映像を眺めながら、まるで陰陽師のような狩衣を身に着けた糸目の男が口を開く。

 

「やっぱり、いつ見てもええ動きするなぁ、舞離火《まりか》ちゃんは。傷のひとつもついてへんし、何より速い、あの動きにはさすがに僕でも追いつけへんわ。

 いっ君はできるか?あれ」

 

 糸目の男がそういうと、同じように狩衣を着た、いかにも真面目そうないっ君と呼びかけられた青少年が答える。

 

「いえ、自分にはまだできません」

 

「まだってことはいつかはできると思ってええんかな、ほな楽しみにしとくわ」

 

「あ、いえ、別にそういう意味で言ったわけでは…」

 

 糸目の男にそういわれて、焦りながら青少年は弁明をする。

 

「嘘や、冗談冗談、ほら、そろそろあの子のご帰還や、盛大に祝ったらんとな」

 

 少年の弁明を冗談だと笑いながら、糸目の男は、少女の帰還を待っていた。

 

 ものの数秒後、白いホールの中に、一つの黒い球体が現れると、その中から舞離火が顔を出す。

 

「げ、最悪。せっかく一人でレイドボス倒して気持ちがいいってのに、最初に会うのがあんただなんて」

 

 顔を出した舞離火が目の前に立つ糸目の男を見ると、そう言って嫌そうに表情を変える。

 

「その反応はないやろ、こっちはせっかく祝ったろ思ってるのに、3度目のソロレイド攻略おめでとう舞離火ちゃん、これで意味のない戦績がまた一つ増えたな」

 

 嫌な笑みを顔に浮かべながら、口を開いて皮肉を言う糸目の男に、またもや舞離火は嫌悪を顔に出す。

 

「っち、そういう嫌味はいらないのよ、そもそもあんただって5回もソロでレイド攻略してんじゃないの!!」

 

「ちゃうちゃう、僕のは式神との共同記録やから一人やない」

 

「あんたねぇ、式神も結局攻略したら消えるんだからおんなじよおんなじ。

 いいわ、今日こそあんたのことぼこぼこにしてあげる。」

 

 そういうと舞離火は自分のデバイスに映し出された機能の中から決闘を選び出そうとする。

 

「いまからすんの?どうせ負けるのに?しゃあないなぁ、今日は式神一体で相手したるわ」

 

「あんたねぇ……ホンっト、どこまで調子に乗るんだが、さっきから口を開いたらぺらぺらと…さっさと《ラプラスギア》つけなさいよ!!

 今すぐにでも私から…って、あ」

 

 そういってデバイスをのぞき込むと、何かに気づいたように声を出す。

 

「あ、そうだ!もう13時?あいつが来るじゃん!仕方ないわ堺、今日のところはのがしてあげるわ!!」

 

 そういうとさきほどまで戦う気満々だった舞離火は最後まで嫌な顔をして一目散にホールから抜け出して行った。

 

「あーあ、行ってもたやん、でもまぁ、《力借《りっしゃ》》使っても式神一匹で舞離火ちゃんに勝つんはきつかったかもな」

 

 去っていく少女を横目に、呆れた顔をしながら、堺は言葉を吐く。

 

「そんなこと言って、どうせ師匠なら勝つでしょう」

 

「まぁな。せや、次はいっ君戦ってみいや、結構いい経験なると思うで」

 

「どうでしょう……勝てるかどうか」

 

 少し焦った表情をし、額に汗を垂らしながら、少年は答える。

 

「別に勝て言うてへん、経験しとけ言う話や、まぁそろそろ話しとる暇もなくなる、僕らもちょっと異世界行こか」

 

 そういってモニターの前にいた狩衣を身にまとった二人の男もその場を去った。

 

 

 

東京—異界門《ラプラスゲート》—

 

 それは《イセカイ》へとつながる現実であり、《イセカイ》でもある異質な空間。あるものが夢を抱き、作り果てたその空間を、人が夢を馳せ装備を身に着けて戦いに向かうその門を、その先の未知なる世界への恐怖と畏怖、そして立ち向かう者の勇気と願いをたたえて、その空間はこう呼ばれる。《異界門《ラプラスゲート》》

 

 これは《異界門《ラプラスゲート》》の先で行われる、《イセカイ》をめぐる壮大な物語、そしてその門から突き放された。不適合者の物語である。

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