ここはキヴォトス。
簡単に説明すれば学園都市。どこぞのとあるとかアスタリスクみたいに超能力とかあればファンタジーな世界みたいで興奮するし自分の人生にもう少し華も色もあったのだろうが現実は無情だし無常である。いや、無常なのはソレがあろうとなかろうとそうなのだろう。
自分の持ちうる最高の一張羅に身を包んで電車に揺られるのが俺。比企谷八幡だ。俺以外に誰もいない電車ってのはなんだか新鮮で窓の外から見るキヴォトスは今まで見た事がない位ハイテクで栄えていてこれから起きる事に少々胸が踊るのだが何故自分がここの取締役である連邦生徒会に呼ばれたのかイマイチ理解ができない。
心当たりを探るべく目を瞑って唸っていると日頃の疲れかいつの間にか意識は闇の中に落ちていった。
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⋯我々は望む、七つの嘆きを。
⋯⋯我々は覚えている、ジェリコの古則を。
接続パスワード 承認。
「シッテムの箱」へようこそ、比企谷先生。
「⋯私のミスでした」
「私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況」
「結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて⋯」
「⋯今更図々しいですが、お願いします」
目の前に座るのは白い制服に目立つ赤色の血を流した少々。
「比企谷先生、きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません」
「何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから⋯」
「ですから⋯大事なのは経験ではなく、選択」
「あなたにしかできない選択の数々」
目に映るのは日常、崇高、友情、孤高、平穏。そんな印象を受けるこうけいだった。
「責任を負う者について、話したことがありましたね」
「あの時の私には分かりませんでしたが⋯。今なら理解できます」
「大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択。それが意味する心延えも」
「⋯ですから先生。私が信じられる大人である、あなたになら、この捻れて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を⋯。そこへ繋がる選択肢は⋯きっと見つかるはずです」
「だから先生、どうか⋯」
あぁ、そうか⋯俺は、選択しにここに来たんだ。
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「戦闘終了、お疲れ様でした。先生」
選択の余地いりました?
平気で兵器はでてくるわ、銃弾が飛び交うわと、どうやら今のキヴォトスの治安は地の底にあるのだろう。
そんなキヴォトスの暴動を鎮圧するためにキヴォトスの行政を司る現在不稼動兼奪われたサンクトゥムタワーinシャーレに向かう事になったのだがどうやら【ワカモ】なるとんでも不良狐面少女が騒動の中心にいて一刻を争う状況だったのだが俺を護衛してくれた各校の生徒達護衛のもとなんとかたどり着くことができたという訳だ。
「比企谷先生?どうかしたんですか?もしかしてケガをしましたか!?」
そして俺の様子を尋ねてくるのは青髪でツイテールが特徴的な少女。確か名前は早瀬ユウカという。
「いや、お⋯私は平気なんだがキミ達は大丈夫なんだね⋯撃たれても」
「先生はキヴォトスではないところから来た方ですので⋯」
そう言いメガネクイッをするのは【風紀委員】の腕章を付けた火宮チナツ。そうだね、ホローポイント弾を撃たれても『イタタッ!』で済むんだから耐久力は俺とかと比べてダンチなのだろう。
「それでもこの戦闘での被弾は今までと比較して格段に少なかったので先生の指揮はお見事です」
「ありがとう、なんだかむず痒いな⋯」
生徒が被弾した事に渋い顔をしていたのをフォローしてくれるのは色々とデカい印象が強い黒セーラーの羽川ハスミ。翼と間違ってはいけない。
「先生は中に入って下さい。後続が来た場合の戦闘は任せてください」
「できるだけ早く済ませるから頼む」
閃光弾を構える白髪の守月スズミとそれに吊られて銃を構える生徒達を尻目にシャーレの中に入り通信ホログラムで指示を出してくるリ⋯リ⋯リンちゃん?の指示通り地下に向かう。
警戒のつもりで上着の下に手を突っ込もうとするが中断してそのまま歩を進めていく。
「うーん⋯これが一体何なのか、まったく分かりませんね。これでは壊せそうにも⋯あら?」
地下にて派手な浴衣?を着てライフルを担いでいる狐面の生徒と出くわしてしまった。
「えと、どうも」
「あら、あららら⋯」
困惑しているようだが俺もだ。どうすればいいのか分からない⋯連邦生徒会のリンちゃんは危険人物とか言っていたがそういった雰囲気は身だしなみからしか伝わらずどっちかって言うと子犬みたいな感じだ。
「あ、ああ⋯///」
「し、し⋯失礼いたしましたー!」
そそくさと退散するワカモ(仮定)に再び困惑しながらも俺はそろそろこっちに来るであろうリンちゃんを待っていたこと数分。
「お待たせしました⋯?何かありましたか?」
「いんや、大丈夫(だと思う)」
「⋯そうですね。ここに連邦生徒会長の残したものが保管されています」
そう言い手渡して来たのはタブレット端末だ。曰く連邦生徒会長の残した『シッテムの箱』らしい。どこかで聞いたような名前だと思いながら電源を入れてみる。
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Connecting To Crate of Shittim
システム接続パスワードをご入力ください。
(パスワード?俺知らんぞ⋯リンちゃんたちは起動すらできなかったから知ってるわけないか⋯)
とりあえず適当に脳裏に浮かんだ文章を入力する、してみる。
⋯我々は望む、七つの嘆きを。
⋯⋯我々は覚えている、ジェリコの古則を。
接続パスワード承認。
現在の接続者情報は比企谷八幡、確認できました。
「シッテムの箱」へようこそ、比企谷先生。
生体認証及び認証書生成のため、メインオペレーションシステムA.R.O.N.Aに変換します。
画面を見ていたはずなのに意識はそこにダイブしたようでそこは見た事のない荒廃した教室で、ひとりの女の子が机の上にうつ伏せで居眠りしている光景。
「くううぅぅぅ⋯zzz⋯むにゃ、カステラにはぁ⋯いちごミルクより⋯バナナミルクのほうが⋯くううう⋯えへっ、まだ沢山ありますよぉ⋯」
そんな寝言を言っている女の子の近くに行き、軽く揺らしてみる。
「おーい、ちょっといいか?」
「うにゃ⋯まだですよぉ⋯しっかり噛まないと⋯」
寝ている女の子を起こすのは気が引けるが今は状況が状況なのだ。仕方ない、そう、仕方ない。
そう自分に言い訳をして女の子の頬を連打する。
「ううううん⋯ありゃ?ありゃ、ありゃりゃ?え?あれ?あれれ?せ、先生?この空間に入ってきたってことは、ま、ま、まさか比企谷先生⋯!?」
「はい、おはようございます」
先生っぽい挨拶をしてみる。
「えっと⋯その⋯落ち着いて、落ち着いて⋯あっ、そうだ!まず自己紹介から!私はアロナ!この「シッテムの箱」に常駐しているシステム管理者であり、メインOS、そしてこれから先生をアシストする秘書です!」
「秘書⋯?」
「はい!やっと会うことができました私はここで先生をずっと、ずーっと待っていました!」
どうやら長らく待たせてしまったようでここは格好よく『待たせたな(キリッ)』としたいが新米だし資格もないが先生としての威厳がそれを邪魔する。
「とりあえず、よろしく」
「はい!よろしくお願いします!」
その後はE.Tよろしく指と指を合わせて適当に見える生体認証をしたり、軽い雑談を挟み、そして今キヴォトスを震撼させようとしている俺の知りうる限りの真実を話した。
「なるほど、連邦生徒会長が行方不明になって、そのせいでキヴォトスのタワーを制御する手段がなくなった⋯サンクトゥムタワーの問題は私が何とか解決します!」
サンクトゥムタワーのアクセス権を取り戻しているアロナを見ながら考える。
つくづく連邦生徒会長ってのはキヴォトスにとって大切な役割を持っているんもんなんだなと思う。そしてそんな役割を持つってのはそれをこなす自信か責任を持っていたのだから生半可で投げ出すとは考えにくい。もっと別の理由があって行方不明になったのだろう。
電車の中で見た夢のようなもの⋯そこにいた少女の顔はよく覚えてないがアロナを見ているとどことなくそれっぽさを感じるがこんなチンチクリンな外見をしていなかったのは確かだから気のせいだろう。うん。
(ウイィィィィィィィン━━)
肉体の耳がモーター音とかファンの排気音を確認する。どうやら上手くいったようだ。
「サンクトゥムタワーのadmin権限を取得完了⋯今サンクトゥムタワーは、私アロナの統制下にあります」
「流石高性能AI⋯超優秀じゃん」
「えへへ⋯そうですか?そうですよね〜」
二パーって笑顔と共に頭の輪っかが青い円からハートのような形になる。個人的に封筒を渡してくれる時にピンクの光が出てくれるとずっと嬉しいんだが⋯何の話だ?ってか生徒達とかリンちゃんとかも頭に輪っかあったよね、天使なの?天使級の可愛さではあるが。
なんて思いながらアロナの頭をワシャワシャと撫でている。
「えへへ〜⋯あっ!今のキヴォトスは、先生の支配下にあるも同然です!」
「そっか、とりあえず連邦生徒会に制御権譲渡しちゃおっか」
「⋯大丈夫ですか?連邦生徒会に権限を渡しても⋯」
「お⋯私にはノウハウがないからな⋯彼女達の方が適任だ」
「分かりました。これよりサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管します!」
「んじゃ、リンちゃんから話あると思うし戻るとするか」
「はい!またのお越しをお待ちしてます!」
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慣れない感覚に目をシパシパさせながらシャーレのエントランスに戻るとリンちゃん改めて七神リンは制御権を移管された事の連絡を受けていた。
「お疲れ様でした、先生。キヴォトスの混乱を防いでくれたことに、連邦生徒会を代表して深く感謝します」
「防いだ?もう起こってたんじゃないの?」
「いえ、あの位ならまだ混乱とは呼べませんね」
「マジか⋯アレレベルが日常茶飯事とは⋯つくづくと⋯いや、なんでもない」
「きっとこれから先生も慣れます。それでは、私の役目は終わったようなのでここで失礼致します」
今後怒るであろう混乱未満のゴタゴタに軽くため息を吐いてリンちゃんはシャーレを後にした。
「アロナ、いるか?」
「はい、先生の脇に抱えられてます!」
「とりあえずシャーレ捜査部の担当顧問になるのは分かったけど何かするの?」
「いえ、権限だけはありますが目標のない組織なので、特にそれといった仕事はありません。キヴォトスのどの学園にも自由に出入りでき、所属に関係なく、先生が希望する生徒たちを部員として加入させることも可能です!」
「うえ、仕事無いのは嬉しいが何もしないとなると反感を買われそうだな⋯それに所属学校関係なく入部って⋯それはそれで嫌だな⋯」
「先生は何をしてもいい権限がありますがしたいことはありますか?」
「連邦生徒会は会長を探すのに手一杯らしいから代わりにお⋯私がキヴォトスの問題に当たることになるな」
支援物資の要請、環境改善、落第生への特別授業、部の支援要請⋯やる事というかリンちゃんの苦労話を聞いた為無視もできないがなんだか上手く乗せられてる気もする。
「先生、私の前なら一人称を無理やり変えなくても大丈夫ですよ?」
「そうか?ありがとうな」
タブレットの画面が暗転し腐った目の男がそこに反射で写る。うえ、と声を漏らしてタブレット端末【シッテムの箱】を置いてリンちゃんの置き土産(山程積まれた資料の数々)に向き合う。
「暫くは使わなくて済むかな⋯」
一息吐きながら席について上着の下に着けていたホルスターから拳銃を取り出して引き出しの奥に入れる。これを使う時が来ないように、選択を間違えてはいけない。
そんなプレッシャーが伸し掛る。
「さて、シャーレ独立連邦捜査部。本格始動だ!」
「はい!先生!!」
俺達のオーバーワークはこれからだ!!
「先生、シャーレの行動記録や広報活動にモモッターの導入をオススメします!」
「モモッター?なんじゃそりゃ」
「SNSの一種でキヴォトスの住人たちはほとんど使用している為大変便利なんです!」
「モモッターねぇ⋯モモックスじゃないの?」
「先生!!」