最古参の四聖獣であるシェンウーモンは、一人頭を悩ませていた。
その原因は目の前の二体である。
「―――♪」
「えっと……」
キメラモンの面影を残した幼いデジモンと、
そしてそれに懐く様子を見せる異形。
異形のほうが大きいので幼いキメラモンを抱えながら異形は座る体勢をしている。
この二体が居たときからは数日経ってはいるが、
未だに他の四聖獣にもこの事を伝えられていなかった。
その為にもシェンウーモンが在する神殿へこの二体を連れていき、
警戒している部下のデジモン達を絆しながら、
まずは意思疎通が図れそうな幼いキメラモンから話を聞くことにしたのだ。
退化した影響なのかこの幼いキメラモンからは、
明確な自我と言語化が出来る理性を持ち合わせていた。
シェンウーモンは優しく幼いキメラモンに問いた。
するとその相手の巨大さもあってかビクビクとしながらも、
今分かっていることを話してくれていた。
一つ、自らが『キメイラモン』というデジモンであり、キメラモンから退化した成熟期のデジモンだと言うこと。
一つ、退化した原因は目の前の異形の仕業であること。
一つ、あの神殿にいる前からの記憶を保持しており、その記憶のせいで目覚めた時に混乱していたということ。
「――最後の質問じゃ。この異形の子は何だと思う?」
「この子の事、ですよね。…………ずっと僕、夢を見ていたんです。
黒い海底に沈みながら苦しむ夢。ただ、そんな時に淡い光が差し込んできたんです。
その光に僕、死物狂いで掴みたくて足掻いて……。
気がついた時には目が覚めてこの子が撫でていたんです。
その時に感じたのはその淡い光と同じで、
だから……この子は悪い存在ではないと思いたい、です」
シュンとしながら、段々自信が無くなっていくキメイラモン。
そんなキメイラモンに話してくれた事にヨシヨシと宥めた。
「良く話してくれたのぉ、ありがとうのぉ……。
儂も同じ気持ちなんじゃ、どうも悪い子には見えんのじゃよ。
まるで純粋無垢な子供じゃなこの子は。
さて、キメイラモンと言ったかの。この後、君はどうするつもりじゃ?」
「えっ、それは……」
「こうして外部による意図としない退化とはいえ、
明確な意思疎通が図れ、なおかつ敵意が無いのであれば封印を再び施す理由は無い。
見たこと無いデジモンではあるから、少々監視はいるかもしれぬが動くことには自由であろう。
その上でじゃ、君はどうしたいのかな?」
「…………ここは僕が産まれたデジタルワールドじゃないんですよね。
そんな僕に帰る場所なんてないのなら、今はこの子と一緒にいたいです」
そういいキメイラモンが優しく異形の腕を掴む。
その行為に、嬉しそうに異形は唸った。
「そうかそうか、ならば君達に一つやることを授けよう。
あの神殿を定期的に見て回って何かしらの影響が無いかを見てほしいのじゃ。
その代わりにあの神殿にある空いたスペースを使っても良いぞ」
「そんな、いいんですか……?」
「うむ、ただし君も分かっていると思うが、あの神殿はかなり特殊な性質を内包しておる。
あの神殿は境界がかなり薄くての、他の次元……こことは別に存在する
デジタルワールドから粒子となったデータが集まりやすい。
キメイラモン、君が流れてきたようにの」
「そう、ですね……」
「ただし、今回のようにデジモンではないこの子にように突然と出現したという現象が起きてしまった今、
既にデジタルワールド以外の世界……異世界とも呼べる世界からも流れる可能性はあるのだから。
その為に君達に滞在してもらい異常が起こった時には儂らに知らせてほしい。
その間にこちらで出来うる事を調べてみよう」
「それは……! ぼ、僕はとてもありがたいです、ある意味身を寄せる場所も無いので……
でもこの子はどう思うんでしょうか」
キメイラモンが異形の顔を見て、どうしたい? と視線を合わせる。
異形は何も答えないが、その後にキメイラモンがハッとした表情をする。
「あ、え……えっと、いいらしい……です」
「なんと?」
「何も言葉を発しなかったんですけど、それでもこの子の意志が伝わった気がするんです」
それに対し、玄武が異形に目を向けると、異形もコクコクと頷いた。
どうやら意志は確かに伝えたらしい。
「ふむ……君はこの子と意思疎通が図れている可能性があるというのか。
ならば、なおさら一緒にいる必要があるかもしれぬの」
「はい……なので、その、よろしくお願いします」
その言葉に、異形も片手を上げて喜ぶように意志を示した。
「失礼します」
厳粛な空間に、紅いマントを翻し入ってきたのは紅の騎士――デュークモン。
その視線先には、ロイヤルナイツ……デジタルワールドにおけるネットワークセキュリティの最高位である聖騎士達が集まっていた。
「ちょっと時間的には遅れたかな?」
「いや、ちょうどいい時間だ」
少々フランク気味に話すデュークモンに、白いマントを携える聖騎士――オメガモンが答えた。
「急な呼び出しで申し訳ないな、任務に出ている者もいる為全員とは言えないが、このメンバーで始めよう」
左から順にデュークモン、アルフォースブイドラモン、スレイプモン、クレニアムモン、ジエスモンといった彼らの事を一瞥する。
「詳細自体は教えてもらってはいませんでしたが、どのような要件で?」
「玄武さんから以前に自領土内に存在する遺物の神殿で発生した謎の揺らぎについての連絡が今さっき届いたんだ」
スレイプモンが要件を聞くとそのようにオメガモンは答える。
その事に一同は強く驚くことは無かったが、目を見合わせていた。
「こないだの奴だよな?」
「確か別世界との境界が薄い特殊な場所なんでしたっけ。
未だに信じられないような場所ですが」
「そっか、スピカはまだ行ったことがないんだったね。
遺物の中でもまだ動いてるっていう点で置いて危険だから、
玄武さん達の管轄で見てもらってる場所だから
あまり行く理由がないのか」
「はい、InsideWorldでもない別のデジタルワールドであれば、
ウィッチェルニーとかが該当しますので、
まだ何とか飲み込めますが異世界とまでいくなら……」
スピカと呼ばれたジエスモンが首を傾げるように少し困った顔をする。
「そのまさに、その異世界がどうやら関係しているようだよ」
そう答え、オメガモンーーシグは玄武から送られたその報告書のデータを読み上げていく。
その内容は、玄武が現場で二体と出会い、
一度キメイラモンと意思疎通を図ってから数日経ったまでの情報が乗っていた。
「…………との事だ。この事は先にゼーレに伝えておいてイグドラシルにも報告して貰っている」
「イグドラシルは何と?」
「要約した内容だと、"様子見、デジタルワールドに非常な悪影響を及ぼす存在だと判明した場合はデリート"との事だ」
「成程……」
その内容に各々が色々な反応を示していた。
しかめっ面で難色を示しているスピカ。
スレイプモンのノアとクレニアムモンのアイゼンは慎重にお互いの考察を交わし合っている。
「ねぇ、シグ先輩」
「何だい、ピクシス」
声を掛けられ振り向いたシグは、興味津々で目を輝かせているデュークモンーーピクシスがそこにいた。
「その異形とそのキメイラモン? っての見てみたい!」
「待て待て待て」
興奮しているピクシスを落ち着けせようとするシグを傍目に、
アルフォースブイドラモンであるルインもピクシスに乗っかっていく。
「俺も会いに行きたいのには賛成だ」
「ルイン」
「俺はピクシスみたいに興味100%で言ってるわけじゃねぇっつうの。
イグドラシルが様子見っつったんだら、俺達がそれを判別するしかねぇだろ?
暫定異世界から来たデジモンじゃねぇ異形と、
その異形によって形が変わったキメラモン。
玄武のおっさんが居るなら暴れられるってこともねぇだろうし、
会うタイミングとしては十分だ」
色々と考えていたのか、そのような要点を並べてシグを説得しようとするルイン。
その様子にピクシスは、
「ルインってそこまで考えられるんだ」
「おい、めっちゃバカにしただろピクシス」
横からド突くかのような発言をぶちかまして、ルインの額に青筋を浮かばせた。
「ふむ、確かにそう言われてしまえば……だな。
だが、行くとしても精々3体ぐらいが限度だろう」
「はい! はい! 僕は立候補!」
「シグ先輩、ピクシスの抑え役で一緒に付いていって貰っていいスか」
「私もそう思ったところだ」
「えぇー!?」
「あと一人は……おいスピカ」
「……あ、はい! ルインさん」
少し一人で考えていたのが、突然声をかけられてビクッとした後に反応する。
「お前、シグとピクシスと一緒に異世界存在拝んでこいよ」
「えっ、私ですか!?」
「実際見てくれば、お前の価値観にも少しは広がりがあんだろ」
「そ、それは……」
「? 何が不安なんだよ」
「い、いえ……」
「何考えてんのかは知らんけど、
ロイヤルナイツの中でいまんとこ一番新人なのはお前だし、
究極体であれ何であれ色々経験しておけよ」
スピカの頭をポンポンと2度手を置いた。
「ノア、アイゼン、ちと付き合ってくんね?
シグ先輩とピクシス、スピカが玄武のおっさんとこ行くことにしたから、
その連絡と任務出てる面々に説明するデータ纏めておこうぜ」
「おや、私達が歓談している間にそんな展開に」
「ちょっとルイン、貴方もちゃんとやってよね?」
「わぁーってるよ、言い出しっぺだしちゃんとやるとこはやるっつうの」
「ふっ、私も手伝いますから」
ルインに対しノアが愚痴愚痴言っている後ろでアイゼンが笑う。
その後にシグ達に振り向き、
「私達の事は気にせずに、どうかその子達にお会いになってくださいね。
ファーストインプレッションは大事って言いますから」
「あぁ、そうさせてもらおうかね。行こうかピクシス、スピカ」
「はい!」
「はーい」
二人の返事を元に、3体の騎士はロイヤルナイツ達が拠点とする巨城を飛び出し、
玄武が居を構える神殿、"玄武殿"を目指していた。
「神殿から発生されていた謎の揺らぎについて判明したか?」
闇夜に紛れ、一体のデジモンが主であるデジモンに向け答える。
「申し訳ございません、全ては知ることは出来ませんでした。
場所につきましては、OutsideWorld北部から発生していたと判明しております」
「であるならば、シェンウーモンが管理している遺物の神殿だな。
ならば、実際に見にいくが手っ取り早いな」
「お待ち下さい、この事についてはロイヤルナイツも把握していると思われます。
もし、相対した場合こちらの戦闘の意志がなくとも戦闘が発生する場合も……」
「問題はない。我の実力についてはお前が一番知っておろう?」
「で、ですが……」
「我を信頼していないのか、貴様は」
「い、いえ、俺は貴方様が心配なだけですよ」
「……何、あくまで我は調べに行くだけだ。
個人的な趣味の一環として、だ。
過度な心配はいらぬよ」
「……トラウム様。
貴方の存在は思っている以上に強大なのですよ。
七大魔王の憤怒、デーモンであるという存在は」
その声を聞き、静かにデーモン――トラウムは静かに立ち上がる。
「重々承知の上だ、それでも抑えられぬのだよ。
魔王としてではなく、考古学者としての我のこの知的好奇心をな」
そのままその場を立ち去るように、歩んでいく。
「ヴェイバー、いつもながらではあるが後は頼むぞ」
「はぁ……いってらっしゃいませ。トラウム様」
己の知的好奇心の誘惑に勝てない主君を見て、
憤怒の魔王の副官であるグランディスクワガーモン――ヴェイバーからため息が溢れた。
それでも手慣れたかのように手を振り見送るだろう。
向かうは、遺物の神殿。
魔王の知的好奇心が牙を剥く時が一刻と近づいていることに、
異形達は知らないのであった。