駆ける。
小さなデジモンが森を駆けていく。
「はぁ……ッ!」
表情に恐怖の感情を抱かせて、我武者羅に逃げるように駆け抜ける。
「どこ……!」
どこか遠くに感じるものに縋るようにデジモンはそれに向かって逃げる。逃げ続ける。
そして差し迫った気迫の状況で、後ろから感じる存在がただ迫ってくる。
遠くに感じる"淡い光"を。
走り抜けた視線の先にあったのは古びた大きな神殿だった。
きっとこの奥に存在すると理解してデジモンは神殿の中へ入っていった。
「シグ先輩、こっちでしたよね?」
ピクシスが区域の地図データを閲覧しながら、後ろにいるシグに問う。
「玄武様から戴いた地図によればそうだろうな」
「私、こんな奥のエリアにそんな遺物の神殿があるの知りませんでした」
「無理もないだろう。このエリアは本来、秘匿されている場所だからね」
「僕達もわざわざお偉い四聖獣のデジモンが管理している所に来る事はないからねぇ。
ちゃんと管理されているし、敵対したデジモンが来ればすぐに知らせも届くからあんまり僕達の出番がないから行く理由がないというか……」
「実際、私達もその神殿について赴いたことがないからね。未知な場所であるのは確かだろうね」
シグは歩きながら先程の事を思い出す。
神殿にいる異形とキメイラモンの確認をする為、
オメガモンのシグ、デュークモンのピクシス、ジエスモンのスピカの3人は玄武殿から神殿への道を辿っていた。
だが、この道を通る前に玄武がいる玄武殿に一度三人は訪れ、玄武と対面していたのだ。
「お久しぶりでございます、玄武様」
「連絡は来ておったぞ、あの子達に会いに来たんじゃろう?」
「はいそうです。 それでその異形とキメイラモン?というデジモンは?」
「それがの、実は連絡が来るタイミングが悪くてのぉ。
あの子達は昨日の昼頃にはあの神殿に戻ってしまっての、今はここにいないのじゃ」
「あちゃあ、すれ違いかぁ。 結構速度飛ばしたのになぁ、どうしようかシグ先輩」
「ふむ……玄武様、その神殿へのルートを教えていただけますか?
ルイン達から聞いているとは思いますが彼らのことを実際に目にして確認するのが、
私達の今の役目だと私は思っています。
それにイグドラシルが即排除ではなく様子見と言った所にも実は疑問がありますし……」
「あ、確かにそう言われてみればそうかも。
デジモンじゃない異形の存在なんて悪影響を及ぼす可能性があるのに、
普段のイグドラシルなら、悪!即!斬!っていうイメージだからなんか意外だなと思ってたけど」
「ピクシス先輩、イグドラシルにそんな事思ってたんですか……?」
「他の皆にはナイショにしておいてね?アトラスなんかに言ったら絶対ボコられるから」
「はは……、ん、ん゛っ。脱線してすみません、それで玄武様どうでしょうか?」
「うむ、まだ彼ら……特にあのデジモンではない異形の子の事は何も分かっておらん。
その調査をロイヤルナイツが助力してくれるのならばそれは儂も嬉しい限りじゃ。
ピクシス、君に地図データも送ろう。それで良いな?」
「はい、ありがとうございます!」
「幸いにも、ここと神殿での距離はそうでも遠くはないからの。
今は何も起こってはおらんが用心は越したことはない、気をつけて行ってくるのじゃぞ」
その見送りを受け、3人は出発し今に至っている。
ある程度距離を歩いている所で着信音が鳴った。
ロイヤルナイツ本部からの通信で、それをシグが開くと焦った表情のルインが表示されたのだ。
「おい、シグ先輩か!?そっちはもうついたのか!?」
「いや、既に玄武殿から神殿の方に戻ってしまったようで、
今私達も神殿に向かっている所だが、どうした?」
「緊急的なモンだ!今、ど直近でその神殿からかなり近い所にダークエリアからの転送が見られた!」
「なんだと!?」
その報告に、3人は目をまん丸くする。
「とにかく神殿に急げっ!ほぼ直接神殿に転送したってことは異形の事に目をつけてる可能性が高ぇ!」
「急ごう、二人共。 ルイン、連絡ありがとう」
「「はい!」」
そう答え、通信を閉じ三人は飛ぶように神殿へ急行していった。
神殿へと辿り着いた三人は無用で神殿へと入っていく。
内部は深々と静まり返っており、まるで中に誰もいないかのように感じる。
しかし、その空間に漂う空気の中には若干の闇の気配を感じていた。
神殿の奥へと進んでいき、その先にその存在は立っていた。
「貴様は……!」
「……」
「七大魔王の一人、憤怒の魔王"デーモン”……!」
ローブを纏いし大魔王"デーモン"――トラウムは片手に本を持ち、もの静かに壁に刻まれた何かを見ていたが目線をこちらに逸し、彼らを認識した。
「ロイヤルナイツ……そうか、貴様らも揺らぎについて認識していたか」
「デーモン、貴様何が目的でここへ来たのだ」
右腕のガルルキャノンを展開し静かな殺意を向けながらシグは問い、それに続いて他二人も臨戦体勢を取る。
その問いにトラウムは、受け流すかのように再び視線を目の前の壁に向け、彼は答えた。
「貴様らも同じ理由でここへ来たのであろう?
でなければ、ここへ来ることはまず少ない。
それといちいちデーモンと呼ばれるのも癪なのでな。
今後は……トラウム、我が名で呼ぶと良い」
「トラウム……しかし私達と同じ理由、だと?」
それを聞き、ピクシスとスピカは目を合わせた。
目の前の大魔王も同じように異形とキメイラモンを狙っているのだ、とそう思ったのだ。
「一ヶ月前にあった謎の揺らぎがあった。
その震源がここであるが故に、貴様らもここへ来たのであろう。
我はそれを調べに来ただけだ」
「本当にそれだけ、か?」
「侵略目的であるならば、我一人でここに来る理由は無い。
集団を率いて攻めに行く方が我の勝利に近づくものだ。
それを捨ててでもここに来る理由は多くはなかろう?」
シグが一度、ピクシスに視線を向ける。ピクシスは返答するかのように縦に頷いた。
トラウムは何かを本に書き記し、本を閉じる。
そして、その瞳をロイヤルナイツに向ければ驚くべき行動へ移したのだ。
「………何のマネだ?」
「そのままの意味だ。 今の我に戦う意志、理由は無い」
両腕を上げ、戦う理由はないと意志を示したのだ。かの大魔王が。
「ここで戦えばこの神殿が壊れてしまうのは目に見えておる。
我はそのようなことをはっきり言えば好まない。
拘束したければするが良い」
ピクシスは目が点になったかのように呆然とし、
スピカは怪訝な顔でにらみつけていた。
シグはその腕を下ろし、再びピクシスに視線を向ける。
ピクシスが悩んだ表情をして、シグに向けて縦に頷いた。
それを確認すると、シグはそのまま無抵抗のトラウムを拘束することに成功したのだ。
「本当に無抵抗だったな……」
「そ、そうだね……」
そう言い、もの珍しそうにピクシスはトラウムを見るだろう。
「にしても、あの魔王がこんなにあっさりと……」
「我は調査をしにきただけだと言ったであろう?
拘束されることで調査ができるのであればその手段を取るのもやぶさかではない。
それに……こうすることで漸く顔を出せるであろう?」
その最後の言葉を皮切りに神殿の別の方面からゆっくりと出てきたのは……
「………こ、こんにちは」
「ドルモン?」
「何と……!?」
ビビりながらも前へと出てくるキメイラモンと、その後ろでガクガクと震え上がって頭を抑えるドルモン。
この二体が出てきたのだ。
話に聞いていたロイヤルナイツは後ろのドルモンに目が行き、
トラウムはその前にいるキメイラモンを見て、静かに驚いていた。
「なんだかとても凄い事になってるけれど、
えっと、この子が突然神殿へとやってきて、
怖い闇が来るとただただ怯えてたので一緒に隠れてました……。
だけど分かってたんですね、僕らの事……」
「初めからこの神殿に何体かのデジモンがいたのは分かっていたが、その予想を遥かに越えていたがな。
貴様、何者だ。そのようなデジモンは存在しないはずだ」
「ぼ、僕は……」
「キメイラモン。 この神殿で封印されていたキメラモンが外部によるモノで退化したデジモンだ。
トラウム、お前が言う通り存在しなかったデジモンだった、とシェンウーモンの玄武がそう答えていた」
「ぼ、僕のこと、玄武さんから聞いていたんですか!?」
「そうだよ、僕達ロイヤルナイツは粗方玄武様から話は通してもらってるよ」
立膝の姿勢で少し屈んで、ピクシスはキメイラモンに向けて答えていた。
その会話を聞いて、トラウムはギロッとロイヤルナイツに睨んだ。
「貴様ら、最初からある程度の情報を持っていたとは……して、キメイラモン、か。
それで外部によるモノとは何だ。貴様らは何を知っている」
「それは話すことは出来ないさ、拘束されてるとはいえまだお前は危険な存在なのは変わりないのだから」
「むっ……」
「それよりも、君の後ろにいるドルモンはどなた?」
「あっ、このドルモンの子の事ですよね。
……大丈夫?話せる?」
キメイラモンが後ろにいるドルモンに確認をとると、
おどおどとしながらも意を決したのか、前に出てその口を開いた。
「ぼ、僕はリズルタって言います。
あの、とてもおかしな事を言うかもしれないかもしれないんですけど……、
僕、デジモンが持つ光とか闇とかを酷いくらいに敏感に感じることが出来るんです」
このデジモン、ドルモン――リズルタが言葉に各々が様々な反応を見せその続きを話していく。
「こことは遠いけれど同じ北方の離れ村で僕は居たんです。
だけど、急に異常な程に強い闇の力を感じたんです。
僕、こんな強い闇の力を感じるの初めてで怖くて……!
どこでもいいからって逃げたくてその村から逃げてきたんです。
彷徨ってでも逃げて……もう場所がどこだかわからなくなって……
その時、闇とは別になんか淡い光も感じてきて……
それを追ってきたら訳のわからないまま、ここまでやって来たんです」
ずっと怖がっていた様子だが話す内に落ち着いてきたようで、
リズルタは冷静さを少しずつ取り戻していた。
最後まで話を聞いたのを確認したのかトラウムが口を開く。
「話を聞いて分かった事がある。
貴様が感じたその闇の力というのは、
恐らくであるならばダークエリアにいた我の事であろう」
「何だって!?」
その言葉を聞き、シグは驚愕する。
「北方の外れにある村の事であれば知っている。
我もあの座標のダークエリアの道を辿り、ここまでやって来ているのは事実。
故にこのリズルタという子の異質な力は真、本物だろうな」
視線を向けるとヒッとまた怖がってキメイラモンの後ろに下がるだろう。
「それにだ、そこのデュークモン。貴様も同様に異質の力を持っているのであろう?」
その言葉にピクッと身体を硬直させたかのようにピクシスの動きが止まった。
「そこのオメガモンが逐一、貴様に視線を送り何かを確認していたのは分かっている。
複数の回答があるがさしずめ我の言ノ葉の真偽を測っていた、というのがこの中ではしっくりくる」
「………」
「図星か」
「うぐぅ」
「……余計な詮索をしたな。我が言いたいのは、
異質なデジモンというのはこのデジタルワールドに点在している。
元々、このデジタルワールドはOutsideとInsideという二つのレイヤーが重なるようにあるデジタルワールドで且つ、遺物の影響により他のデジタルワールドと繋がりやすい曰くつきな世界だと我は認識している」
「どうしてそこまで知ってるんです、貴方……」
「全て我の足で調べたモノだ。
それに我自身もその通常種では本来ありえない異質なデジモンだと思っている。
でなければ、今にでも我は怒りに飲まれて貴様らロイヤルナイツを襲っているぞ」
その言葉にギョッとするキメイラモンやドルモン、そしてハッとするロイヤルナイツ。
ロイヤルナイツの三人が抱いていた違和感。
目の前のデジモンから怒りという感情を何一つ感じていないこと、それが違和感だったのだ。
「故にだ、我は今ここにいる者全員を襲うつもりは毛頭ないのだ。
危害は加えない。そこのデジモン達にもだ、それだけは約束しよう」
「シグ先輩、どうしますか……?」
「……この状況において、危害が無いこと自体が証明になりえるのが目の前にいるデジモンだ。
少しは信じるに値はするだろう。だが拘束は解かないぞ」
「それで良い。
それとリズルタという子よ、すまぬな。
我の闇の力はお前にとって苦痛だろうが、もう少し耐えて欲しい」
「ひっ、は、はい……!(この魔王の人、優しい?)」
今一度、その確認をした後再びトラウムが口を開いた。
「さて、ロイヤルナイツよ。取引をしたい」
「取引だと?」
「そうだ、貴様らが持つシェンウーモンから聞いた情報を我にも共有してほしい。
その代わり、我が調べた遺物の情報を提供する。それでどうだ?」
「情報交換……ですが憤怒の魔王と……?」
「でも、この魔王すごい博識だよ見た目以上に。
情報照らし合わせたら、新しい事も分かりそう……」
「見た目以上とは何だ、見た目以上とは
我はただ知りたいのだ。
そこのキメイラモンの事も、あの揺らぎの原因も……。
この世界の理に近づける新たな欠片なのだ、その情報は」
「……どうしてそこまでお前は知りたがるんだ?」
単純な疑問を浮かべたシグがトラウムに問う。
「単純な事だ、確かに我は憤怒の魔王"デーモン"である。
だが、同時に我はこのデジタルワールドが遺した過去を探求する者なのだ。
それは魔王であろうとなかろうと関係ない、一人の生を巡する者としての信条だ」
「つまり、魔王だけど同時に……考古学者ってこと?」
「然りである」
「……トラウム、貴方が本当に私達に被害を加えないという確証をこちらが得られるのであれば、
その条件を飲んでもいいと私は思っている」
「シグ先輩……?」
「う~ん、僕もここまで言ってるなら信じてもいいと思うかな」
「ピクシス先輩まで!?」
「それにさ、まぁさっきバレたというか言い当てられたから言うけれど、
トラウムが言ってた僕の異質な力って相手の思ってることとか思考を読み取る奴なんだよね。
だからトラウムの思ってることも読み取れるんだけど……
これらの発言、嘘は言ってないんだよ全部。 本当に心から思って言ってる。
だから、信じてもいいと思うよ僕は。
他の皆にはあんまり言ってない事だからスピカちゃんナイショね?」
「……シグ先輩やピクシス先輩がそう言うなら、じゃあ私も二人を信じて貴方を信じます」
「うむ、ならば私から求める、被害を加えないという確証があればその取引に応じよう」
「そうか、ならばロイヤルナイツと憤怒の魔王は秘匿の停戦協定を結ぶ。 それで良いか?」
「え、そんな簡単に言えるものなの?」
「我の副官にも伝え、指示の内容を少々変更すれば配下のデジモンにも気づかれずに停戦は結べよう」
「ゆるくないですか?」
「気にするでない、大丈夫である」
と、キメイラモンとリズルタを置いてけぼりで会話していた究極体4体の話は漸く終わりを迎え、
後に、秘匿的ではあるが正式にロイヤルナイツと憤怒の魔王による停戦協定が結ばれる事となるのであった。
リズルタも含めキメイラモン、そしてその揺らぎの原因である異形について、シグは語った。
何故リズルタまでもがその会話を聞いていたのは、
異質の力を持つ者であるから聞いておいた方が良いだろうというトラウムからの提案があったからだった。
「で、その異形の子ってどこにいるの?」
「えっと、実はずっといました」
「えっ?」
キメイラモンが立ち上がり、神殿内部に良く落ちている岩の一つをトントンと叩く。
「もう元に戻っていいよ」
そう岩に返すと、その岩にブロックノイズが蔓延り岩の周囲を包んでいく。
その数十秒後、そこにいたのは三角座りをしていた例の異形だったのだ。
その姿に、キメイラモン以外のデジモンが驚愕の声を上げていた。
すぐにキメイラモンにべろべろに懐いて抱きついていた。
「わぁ、べたべた……。でも、確かにデジモンじゃないっていう確信が何故かあるね」
「はい……それに僕が言ってた淡い光の感覚、
やっぱりちょっと見た目は怖いけれど、うん、この人から感じます」
「うむ成程……先程の岩になっていたのは?」
「あの子曰く、"擬態"らしくて」
「擬態……そんな能力もあるのか」
「二人で色々やってて試してたこんなことができるんだと判明したんです」
「………あの、質問なんですけどそれでデジモンになったらどうなんでしょうか」
スピカのその質問に、どう?と表情で返してみるキメイラモン。
異形は一度、首を傾げるもやってみるかの精神で試してみることにしたようで、
再びその姿がブロックノイズに包まれ、その姿が変わっていく。
ピクシスとスピカ、リズルタはドキドキとした表情でそれを見つめ、
シグとトラウムは興味深そうにその様子を見ていた。
しばらくしてブロックノイズが晴れていく。
「………?」
そこには擬態に成功しデジモンへと化した異形、
首を傾げて不思議な表情をしたルガモンが立っていたのだった。